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一章

思うままに書き連ねた作品ですので、読みにくかったり破綻している部分がありますが、徐々に直していこうと思いますので、宜しくお願い致します。

プロローグ〜


カキーンっ!

どかーーーんっ!!

「おー、ホームランだなぁ、160メートル弾か?」

悪女の持つ釘バット?みたいな棒で殴られたモンスターが勢いよくぶっ飛んで壁に激突した。

「ちょっと!アンタも手伝いなさいよね! ほんっとに使えないんだから!!」

「や、おれ戦いとかからっきしだし。そのために君達がいるわけで」

今まさにホームランを打った選手…じゃない、俺の心の中から擬人化した、銀髪ロングヘアのわがままボディな悪女が、露出度マックスのビキニなのか下着なのかわからない黒い衣装で鬼のようなポーズ。

「セシリア、そう怒らなくても良いじゃないですか。御主人も嘘は言ってないんです。御主人は〝本当に戦闘の役には立たない〟んですから。手を出されてもむしろ足手まといですよ」

あんぐり……。

まだ登場もしてない子に更に貶められらたよおい。

「いや、あの、ルシアさん? 俺だって流石にちょっと傷つくよ??」

後方からやってきた、これまた過剰に派手で露出度が高く、且つ下着が見えそうな丈の短い翡翠色のミニスカート+金髪碧眼の女の子に向かって、引きつった笑顔で抗議する。

「あのね二人とも……それ、言ってる事が二人して殆ど同じ意味だからね?? 分かって言ってる?」

ルシアとセシリアは互いに見つめあうと、鏡みたいに同じ角度へ首をかしげる。

だめだこれは……。


この真反対に見えて妙に息のあった二人は「聖女ルシア」と「悪女セシリア」。

ある日突然、いつも〝良い人で終わってた〟俺の心の中から出てきた「良い心と悪い心の結晶体」が具現化したものらしくて、一応は「すっごいレア。星でいうと6つくらい。普通は聖霊なんて具現化しないし、する奴はたぶん相当な強運か童貞(セシリア談)」な聖霊サマらしい。

最初は名前も無かったんだけど、それじゃ呼びにくいので勝手にルシアとセシリアって名付けたんだけどさ……どっちもクセが強くて扱いづらい聖霊って感じ。

ルシアが言うには、聖霊ってのは元々この世にいる四大元素のシルフとかウンディーネとか、そういう類いとは全然違うらしい。

もっと概念的で、本来はこの世界に存在もしてないらしくて、強さも能力も凄まじいけどまず現れないし、具現化した大元(この場合は俺)の精神性?によってチカラが変わるみたい。そういう意味でご主人って呼ばれてる。


極レア聖霊だけあってこの二人、相当「強い」。そりゃあもう、人間からしたらかなりのチート。

どんだけチートかっていえば、ルシアは両手と指と額と、あと何故か胸付近からなんかレーザーが出る。

指先のはホーミングレーザーと名付けてやったが、豊満な胸から出るときだけ俺はそれを「オメガスマッシャー」って呼んでる。ダサい? いいんだよ適当で。撃つ時に見えるおっぱいが正義なんだよ。

そんでもってセシリアはセシリアで、高さ20メートルくらいなら余裕でジャンプするわ、壁は壊すわ、いざって時は変身するわと、お前はどこぞのライダーかよっていう身体能力の持ち主。


ロングレンジのルシアとインファイトのセシリア。能力は全く違う二人の聖霊だけど、マトモな戦士も魔法使いもロクにいないこの世界じゃまさに無敵。

と言うわけでそんな二人を従えた俺は一躍有名人ってわけで、一介の宿屋の息子がある日突然、レア聖霊使いにジョブチェンジ。こうやってたまに現れたモンスターを退治してはお小遣いを稼ぎながら、二人の可愛い子と良い想いを……ゲフンゲフン。いや失敬、旅をしている。


「ちょっと主人あるじ、ブツブツ言ってないで、さっさと例のやつでボスを探しなさいよ」

「ねぇセシリアさん…いちおうは俺、マスターよね? ご主人様。その言葉遣いはないんじゃないかな?」

「い い か ら は や く し ろ」

「あ、はい」

逆らっても全く良いことがないので、俺はそそくさと腰のカバンから石版を取り出す。セシリアが怖いからじゃないぞ? そのほうが効率的だからだ。

「じゃ〜んっ!」

高々と誇らしげに掲げる、この弁当箱みたいな大きさの〝白い石版〟こそが俺の秘密!

「これをこうして…っとね」

ポチポチ

スッスッ……

器用に動かすと石版から光の矢が走り、前方を照らす。

「あっちみたいだよ」

「じゃあさっさと行くわよ」

「はい。夕食までには宿に戻りたいですからね」

そういう二人の後を無言で追う俺。これが流行りの主人あるじスタイルって奴だ(ニヤリ)


自慢じゃないが俺は無力だ。

それはもう清々しいほどに。


剣の修行をしたことはないし、その前に疲れることはしたくない。仮にしても続かない。

イケメンでもないし、言ったらフツメンより劣る平凡顔で身長も高くない。

実は別の世界から来たチートだったとか、そういう裏ワザ的なこともない。


取り柄といえば「ユキさんって良い人だよね」と言われるくらいだが、これは逆にいえば女の子からいつも「ユキさんって、すごく良い人なんだけど、そういうのじゃないの……」なんて言われるくらいには良い人なわけですよ。(そういうのってなんだよ、ってツッコミたいのはお約束)


さて、悲しくなる自分語りは良いとして……

この白い石版はルシアが具現化してきた時に本人からもらったんだけど、極レア聖霊を具現化できた者しか扱えない魔法の石版らしく、とにかく色々できる。

何ができるかは長くなるんでその時に言うとして、最大の機能がこの「画茶ガチャ」だ。

これは石版に絵が出てきてお助けアイテムとか聖霊とかが出てくる機能らしいんだけど、ガチャを引くには「青石せいせき」がないと引けないらしい(←ルシアから聞いた)

「ねえルシア。この青石っていうのはどこで集まるの?」

「そうですね……わからないですね☆」

ガクッ

お前が渡したんと違うんかーい!

ルシア曰く、ガチャから出てくる聖霊は(レアが当たれば)可愛いらしいので、是非とも引いてその子に彼女候補になって欲しい俺は、当面はこの青石を集めるのも旅の目的にしている。

因みに外れると「本当に要らないもの」が出るらしい……。なんだ「本当に要らないもの」って……。

「セシリアは青石について何か知らないの?」

「そうねぇ。〝石版の機能に関してだけは〟ルシアの方が知ってるから、ルシアが分からないことは私にも分からないわね」

「そうなんだ……」

そんなこんなで石版を頼りに進むと、いかにもボスの根城……っぽくない、くたびれた家屋が見えてきた。

「本当にここなの? あばら小屋にしか見えないんだけど……」

セシリアが怪訝な顔を浮かべる。

「とりあえず中を調べてみよう」

ギィィ……

俺はドアを開ける。

「すいませーん! 誰かいませんかぁー?」

シャアアアア!!!

「うわっ!やっぱりなんかいた!」

「下がってなさい主人あるじ!」

ドカン! ドゴッ! ガスッ!

バンッ!ゴスッ!グチャ!

襲ってきたゴブリンの群れはセシリアが一気に殴る蹴るの暴行?で瞬殺した。

ちなみに最後に嫌な音がしたので、敢えてそっちは見ないようにする俺。

「おや、あの人がボスではないですか?」

この子はこの子で全く意にも介してないな……。

そんなルシアの指差す先を見ると、佇まいだけはいっちょまえの人狼みたいなのが座っていた。

「ようこそ我が城へ……ずいぶんと部下を痛めつけてくれたようだが、私はそう簡単に……って!おい!おい!お前!そこの胸のデカい女!! オマエだオマエ!何しようとしてる!? 」

シュウウウウウウン

人狼が大仰な口上を語ってるあいだに、ルシアの両手の指先が全て光る。

「ちょっ!おまっ!最後まで聞けよせめて!」

人狼が慌てる。

あ。これヤバいやつだ。すぐわかった。その場にサッと伏せる俺。

「ほぉみんぐぅぅぅ、、、れえぇぇぇぇぇざあぁぁぁぁぁぁ〜!!!!!!」

シューン…………

シュバアアアアアアアアアアアン!

「いやああああ!まだ言い終わってないのぉぉぉぉ!!!」

10本の指から放たれた緑の閃光は、頭上に一度舞い上がり、人狼めがけて着弾した。

哀れ人狼は、結局なんだったのかわからないくらいには即死していた。残ったのは……うん、特にない。

まぁそりゃそうだろ。レーザーが10本も一気にやってきたらそら原子ごと消滅しますわ。

「ナイスキル!」

ウインクしながらグッと親指を立てる俺。

「いえーい!です!」

同じように真似するルシア。

「アホかアンタらは……」

呆れるセシリアを横目に、戦利品を探す俺たち。

「あ!御主人!青石です!青石がありますよ!」

「ホントだ。でもよくさっきのホーミングレーザーの猛火の中で壊れなかったね……」

「そういえばそうですね。まぁ結果ヨシということで」

多分それ言葉の使い方まちがってる……とは言えず。あんなもん見せられた後に口答えできるかバカ。

「さっそくガチャを引いてみなさいよ」

「うん、そうだね」

セシリアに促されて青石を石版にかざすと、スッと吸い込まれていき、版面に文字と絵が浮き上がってきた。絵の中には可愛い子がいっぱい映っている。

「おぉ…これがもしかして当たりなのか?」

期待に胸が膨らむ。すると急に石版から声が聞こえてきた。


「手前に指を引いてから上にスライドさせてね!」


ヤケに明るく甲高い声だな……どうやらそれがガチャの手順らしい。

「キエェェェェェ!!!」

俺はいう通りにすると、一気に奇声と共にガチャを引く。

シャアァァァン〜♪

光と共に出てきたのは………………




ーープロローグ終わりーー




一章 1


「ルシアー、そろそろいくよー?」

「アイツは支度長いからな。主人あるじ、ちょっと呼んで来てくれ」

そういうのは俺じゃなくてセシリアの仕事のような気が……。

と言いつつ俺は黙って宿の二階へ上がっていく。

「ルシアー? まだぁー? 開けるよー?」

バタン

「ん?」

「え?」

目の前に白い布と、健康的な小麦色の肌。そして片足を上げて前かがみのルシア。

うん、この白いのは間違いなくパンツだね。要するに着替え中だ。

「御主人、まだ着替えてませんよ?」

ルシアはさほど驚きもせず、動揺もしていない様子で、片足を下ろしてスカートを履く。

あれ……聖霊ってのはこういうの気にしないのかな?

「ねぇルシア。思いっきりその……パンツ、見えてたよ?」

「え? あぁ、下着のことですか。別に構いませんよ? ただの布ですし気にしませんから」

やっぱり気にならないらしい。

「御主人はこういうの好きなのですか? もし良かったらもっと近くで見ますか?」

ぐいっと、履いたスカートをわざわざたくし上げて下着を見せつけてくる。

「いや、流石にそれはどうなのかな〜」

じぃぃぃ……

言葉とは裏腹に直視してしまう。うーん、完璧なデルタゾーンと白の丘……趣きがあるよね。

何の趣きがあるかって? それは言えないですよ、全年齢なんでコレ。

「ま、まぁいいや。早く着替えてね。下で待ってるから」

「はぁい♪」

屈託のない笑顔だなぁ…。ドキドキしていいのかどうかもわからなくなるぞ。

トントン…

階段を降りていき、セシリアに話しかける。

「どうしたの主人? 顔が真っ赤よ」

「ねぇセシリア。もしも、もしもだけど、俺がセシリアの着替えを覗いたらどうする? あ、もちろん偶然の事故で、だよ?」

「殺すわね」

デスヨネー……

聖霊が気にしないんじゃなくて単なる個性のようだ。あぶないあぶない……セシリアだったら首が飛んでたな。

「ところでアンタ、そのガラクタどーすんのよ?」

セシリアが言うガラクタとは、この前のガチャで出てきて、俺の腰にキーホルダーみたいにくっ付いてる「猫耳のお人形」のことだろう。

「これね〜…なんだかよくわからないんだけどさ、一応、初ガチャで出てきたワケだし? 持っておこうかなって思って」

「バカなんじゃないのアンタ? どーーーーみたってなんの役にも立たないでしょそれ」

「いいのっ! 想い出とか記念に浸りたい系なのっ!」

「はぁ……そりゃモテないわアンタ……」

ほっとけ。


そうこうしている内に二階からトタトタと降りてきたルシアを連れ立って、俺たちは宿を出る。

「ねぇ主人あるじ、これからどこ行くのよ?」

「この街のマジックカンパニーに寄って、クエストついでに石のありかを聞こうかなと思って」

カンパニーっていうのは要するにギルドな訳だが、この国では農耕や商業以外の特殊な職業組織をカンパニーって呼んでる。

とりわけカンパニーには戦士だ盗賊だと物騒なものしかないんだけど、真面目に魔法を学べるカンパニーも一応ある。

俺みたいな聖霊使いは召喚士、つまり魔法使いに当たるらしく、所属は「マジックカンパニー」っていう事らしい。

「ふーん。まぁなんでもいいけど疲れるのはイヤよ私。アンタは何もしないんだし」

「セシリア……もうちょっとオブラートに包もうよ……言ってることはその通りなんだけどさ」

「ねぇアンタ、たまには火の魔法でも勉強してみたら? 一応は召喚士の端くれなんだしさ、初級魔法くらい使えないとカッコがつかないわよ?」

「はっはっは」

「なによ? バカみたいに笑って」

「バカは余計だ。それよりそんな事したらセシリアたちがいる意味がないじゃない。いーの俺は。頑張れない子だから」

なにそれって顔でセシリアが呆れる。

「でも御主人? 御主人は召喚士で身を立てたいとか、世界を救いたいとかは特にないんですよね? とすると石でガチャ引いて、仮にレアが出たとして、それに何か意味があるのですか?」

ルシアが不思議そうに尋ねる。

「意味? んー、いや特にはないんだけど、ガチャで出てきた子のだれか彼女になってくれたら人生楽しいじゃん?」

「うーん…そうなんでしょうか……聖霊の私にはよくわからないですが……人間の人生は伴侶がいないと不幸せなのですか?」

「え? 当たり前じゃない? だって普通そう言うものでしょ?」

ルシアはあまり納得いかないらしい。

「普通、ですか……では御主人はそのために何かされてるんでしょうか?」

「どういうこと?」

「いえ、仰る割には御主人はなんとなくで召喚士をして、なんとなく探されてる気がしたもので……」

随分と鋭いとこを突いてくるな……。

「そりゃ際立った努力とかはしてないけどさ、世の中みんなそういうもんなんじゃないの? 無理して努力しなくても彼女が居る人はいるし、居ない人は何しても出来ないから不幸っていう、不平等な世の中なんだしさ」

「はぁ。人間界が不平等かどうかは分からないですけど、では御主人は今不幸なのですか?」

「どうだろうなぁ……でも幸せではないんじゃない? 恋人がいないってそういうもんでしょ、寂しいし」

うーん、とルシアは首を傾げている。

「ばかねぇルシア、コイツはそんな深く考えてないわよ、頭悪いし。ヘタレだし。そもそも女だなんだって言うのも、ガキが人のモン欲しがってるのと一緒でさ、「周りがそうだからきっとそうだろう」みたいな論理よ」

ガキって……いや確かにまだ15だけど、一応は考えてるつもりなんだけどなぁ。

「御主人、私、人間の幸せが何なのかとかまでは分からないですが、御主人がいて、私やセシリアがいて、こうして旅をして、そういうものでは御主人は幸せになれないのでしょうか……?」

「どうだろうねぇ、たまたま召喚士になったけどそれも偶然だし、たまたまそれで食えるからやってるだけだし、これが幸せかって言われると、今の所は消化不良って感じはするね。感覚だけど」

「そうですか……」

あれ、悲しませちゃったかな……。でもまぁ、幸せのカタチなんてそれぞれで、俺にとってはそれが重要な感じがするってだけだし、他人が理解できないのも無理ないかもね。


そうこう雑談しているうちにカンパニーへ着く。ほかのカンパニーと比べるとマジックカンパニーは〝やさぐれ感〟がないので、場所も街の中心部に近くて助かるね。

バタン!

「こんにちはー」

「あ!召喚士さまだ!こんにちは召喚士さま!」

ドアを開けて中に入ると、カンパニーの生徒たちが元気よく俺に挨拶してくる。

「ねぇユキさま!また他の街の事とか教えてくださいね!」

「そだねー、また時間があったらねー」

「やったぁ!」

「召喚士さま!この前はお父ちゃんをモンスターから助けてくれてありがとう!」

「いいよ〜、別に大したことしてないからねー」

「お父ちゃん、すっごい喜んでた!わたしも召喚士になるって言ったらもっと喜んでたよ!」

「おー、よかったなぁ。がんばるんだぞ〜」

「しょーかんしさま!わたしやさしいしょーかんしさま大好き!」

「ありがとね。俺もきみのこと好きだよ〜」

数人の子がこちらにやってきては無邪気にワイワイとはしゃぐ。どうやらこの子達からすると聖霊を(それも超レアを二人も)召喚できた俺は、大召喚士クラスにすごい人みたいな感じなんだろうな。実際は偶然だし、俺自身は何もしてないんだけど。

「御主人」

「ん?」

「さっきの話ですが、私やっぱり人間の幸せの事はよくわからないです。分からないですが、こうやって慕われるのは御主人が御主人だからであって、誰もその代わりにならなくて。だから……そういうのに御主人が気がつくと良いなって思います」

「なんの話? 哲学?」

その後は何も言わず、ニコッと微笑むルシア。どういうこっちゃ……。

子供達と別れて奥へ進む。

「おや大召喚士。いらっしゃい。相変わらず人気モンだね」

カウンターの女マスターが俺たちを出迎える。

「どーも。石のありかとかそれ関連のクエスト、あります?」

マスターはメガネを直しながらペラペラと台帳をめくる。

このマスター、若い頃は相当なツワモノだったらしく、街でも唯一と言っていい魔法の使い手だったらしい。それ故にこのカンパニーへ舞い込んでくる依頼には珍しくて美味しいものが多く、石を探すには絶好というわけ。

「そうだねぇ、こういうのはどうだい?」

見せられたのは海に浮かぶ島国からの依頼だった。

「これは東の王様からの依頼だね。海の向こうのシャマって島国で、場所はここからだと船がある街まで出て、そこから更にひと月ってところだねぇ」

「けっこう遠いんだね、報酬はそれに見合うの?」

「見合った報酬だとは思うよ。 金20万と赤石せきせきだね」

赤石せきせき? 青石じゃなくて?」

「赤石というのはレア確定の石の事ですね」

ルシアが割り込んでくる。

「さすが聖霊だね、そのとおりだよ。赤石っていうのは青石と違って聖霊出現が確定している石の事だ」

と、マスターがいう。

「あれ? マスターは石版のガチャのこと知ってるの?」

「当たり前じゃないか。私は石版には選ばれなかったけど、存在くらいは知ってるよ」

ふーん。となると取りに行かないわけにはいかないな。

「マスター、それ受けるよ」

「そうかい? アンタがやってくれるなら大助かりだ」

依頼書を受け取り、カンパニーを出る。


「でもさー、どうやってシャマ?まで行こうか?」

ルシアとセシリアを左右において首をかしげる俺。

「それは問題ないと思うわよ?」

「そうなの?」

「えぇ、ねぇルシア?」

セシリアがルシアを見る。

「強制転移ですね。御主人、身体は丈夫な方ですか?」

「え? 強制?? 強制ってなに?? なんか嫌な予感しかしないんだけど??」

パァァァァァァァ

「ちょっと!もう始まってるのコレ!? なんでこの子はいつも唐突なの!?」

「あるじ〜、耳塞がないと鼓膜イカれるわよ〜?」

セシリアは既に耳を塞いでうずくまっている。

「…波が来ます……少し騒々しいのでこらえてくださいね」

「騒々しいってなにーーーー!?」

シュンシュンシュン……

両の手のひらを軽く合わせたルシアを中心にして、翡翠色の光が辺りを包み、そして……。

ブワアアアアアア!!

ギュンギュンギュン!

シューーーーーーン!!!!

ジャンジャンジャンジャン!!

バリバリバリバリバリバリ!!!

パラリラパラリラ!!!!!!!!

ワッサコ!ワッサコ!

ワッショイ!ワッショイ!

「なんだこりゃああああああーーーーー!うるせぇぇぇぇぇ!!!!」

シュンッ!!!

音は収束して、次にはもう、俺たちは元いた街から消えていた。



一章 二



「おーい、あるじー? いきてるー?」

「死んだ………」

「耳は無事みたいね」

ガバッと起きる。

「ななななななんだあれは! あんなの聞いてないぞ!耳がおかしくなるかと思ったよ!」

起き上がると同時に激しく抗議する。

「ごめんなさい☆ 急いでると思ったので♪」

ルシアは可愛くキャハ♪って顔してるけど、冗談じゃないよ全く……。耳が潰れるかと思った。

「ルシアの強制転移は便利なんだけどさー、いかんせん煩いのよね」

セシリアが耳をほじりながら言う。

「だいたいなんでテレポートするだけであんな音がするの…? あと最後のほうでなんかへんな音してなかった?」

「それは知らないです」

がくっ……

この子、基本的になんも知らんのではないだろうか?

山から辺りを見回す。

風景が海にあふれていて綺麗だなぁ。どうやらちゃんと東に来たようだ。海の周りには家屋が見えるけど、うちらの国とやけに作りが違うな…。

「アレが街かな?」

「あれは街ってより村ね、村」

確かに屋根はワラっぽいし、なんだか頼りない作りだな。材質も木材っぽいし、あんなんで雨風をしのげるんだろうか。

「とりあえず行ってみようか」

山を下り、海辺近くに見えていた村に向かう。近づいて見てみると木造の建築物は更に頼りなく眼に映る。

「なんだかシケたトコねぇ。東ってのはみんなこんななのかしら?」

セシリアは呆れた顔だ。

「でもなんだか……私たちの国にはない暖かみがあって、私は好きですよ」

セシリアとは正反対に、ルシアはこの国が気に入った様子だ。

「誰だお前ら……?」

この国の人かな? 服が独特だなぁ…。シュッとしてるというかなんというか、何かの儀式っぽい感じだ。

「ちょっとアンタ、この国の王はどこにいるの」

ぶっきらぼうにセシリアが問いかける。

どうしてこう、礼儀とかそう言うのがないんだろうこの子は……。

「な、なんだお前ら!へんな格好で…… 魍魎か!?」

魍魎? なんのことだ?

「この子が失礼しました。魍魎と言うのが何かは分からないですが、僕らはこの国の王様の依頼を受けて西からやってきたものです。ここはシャマ国ですよね?」

「確かにここはシャマだが……王様はここではなく御所だぞ」

「その御所は遠いのですか?」

「あの山を越えた先にある「右京」という街にあるが、そこそこ遠いとは思うぞ」

「ありがとうございます。じゃあそっちへ行ってみようか」

「お、お主たち、右京へ行くのか? やめておいたほうがいいぞ……」

村人が去ろうとする俺たちを引き止める。

「何か問題があるのですか?」

ルシアが村人に問いかけると、村人は怪訝な顔になった。

「右京の街には魍魎と呼ばれる化けもんがいるんだ……。今は王様直属の陰陽師が防いでいるらしいが、それもいつまで持つことか……」

なるほど……とするとこの依頼はその魍魎に関してか。

「教えてくれてありがとうございます。どっちにしても行ってみますね」

そこまで行って立ち去ろうとしたが、影から何かが村人に襲いかかってきた!

シャアアアア!!!

「うわあああ!」

モンスターに襲われて村人が悲鳴をあげる。

「チッ、モンスターか!主人、下がってなさい!」

あ、はい。下がってますね。そそくさ。

シュッ! ドサ。

シュッ! ドサ。

ビィィィィ〜、 ドサ。

ビィィィィ〜、ドサ。

ルシアのビームとセシリアの剣が次々とモンスターを倒していく。

と、一瞬、村人の横にモンスターが見えた。

「危ないっ!」

ザシュ! 咄嗟に村人を庇うと、モンスターの爪が俺の背中を抉ぐる。

「ぐあっ…!」

激しい痛みが背中を巡り、一気に傷口が熱くなってくる。

「御主人!」

ヒュン!

それに気づいたルシアは瞬間移動で俺たちの前に現われ、即座に額からビームを出しモンスターを焼く。

「な、ナイスキル……」

背中の傷を痛みながら親指を立てる。

「お、おいアンタ!大丈夫か!?」

村人がうずくまる俺を気遣う。

「はは……いや、まぁ大丈夫です……ちょっと身の程しらずなことしちゃっただけなんで……」

「御主人!お怪我は!?」

主人あるじ! 大丈夫!?」

二人が焦りながら駆け寄ってくる。

「ごめんなさい御主人……油断していました…」

ルシアは今にも泣きそうだ。

「ったく…なにしてんのよアンタは」

セシリアは言葉とは裏腹に焦りの顔を見せる。

「ごめんごめん……」

パアァっとルシアの手が光り、傷を癒して行き、みるみると傷が塞がった。

「ふぅ…ありがと。さすがなんでもできるねルシアは」

「この程度であれば問題なく治癒ヒールできますが、私の治癒ヒールはせいぜいDランクですので、深手は負わないように充分気をつけてくださいね?」

「うん、気をつけるよ。あなたも大丈夫でしたか?」

村人を気づかう。どうやら怪我はないようだ。

「す、すまねぇ……でも助かったよ……」

「よかった。でもこんなところでもモンスターが出るんですね。あ、これもし良ければ使ってください」

俺は石版を操作すると、「ツーハン」で買った魔除けの聖水を取り出す。そう、この石版はバッグみたいにも使えるのだ。

「これを掛けておくと弱いモンスターは襲ってこないので便利ですよ、はい」

いくつか取って、村人に手渡す。

「へぇ、そんなものがあるんだなぁ」

「一個で金1000くらいするのでこれだけしかないですけどね」

「え!? いやいや!そんな高いものをこんなには受け取れないぞ!」

「構いませんよ、右京の場所を教えてくれたお礼みたいなもんです。それに僕にはこの二人がいますので」

俺が振り返ると、二人はニコっと微笑む。

「アンタ、変な人だなぁ……」

「そうですか? まぁよく言われます」

そういうと今度こそ村人と別れ、俺たちは右京に向かうことにした。


教えてもらったとおりに山を越えて暫く歩くと、豪勢な塀に囲まれた金色の街が見えてきた。

「ほえ〜、すごい綺麗ですね〜」

ルシアがひょうきんな声を出す。

「なんか西の国とは随分違うよね。建物もそうだけど雰囲気というか。セシリアも見ればいいのに」

ここにくるまでにセシリアは「疲れた。だるい」といって石版の中に入ってしまった。

「セシリアはこういうのに興味なさそうですしね」

「まぁね」

ルシアと二人で少し歩くと、煌びやかな街の中央でひとりの女の子が取り抑えられていた。いくらなんでもこんな小さい子が取り抑えられている事に不憫になり、俺たちは話しかけてみた。

聞くところによると女の子は食い逃げを働いたらしく、今まさに取り抑えられたらしい。俺は役人風の男に代金を支払う事で女の子を見逃してもらう事にした。

目立たないように女の子を脇道に連れて行くと、そこで事情を聞いてみた。

「君ね、なんで食い逃げなんてしたの? お金ないの?」

女の子は黙っている。身なりはそこまで食に困っているようには見えないけど……。

「家はどこ? お父さんかお母さんは?」

「……いだろ…」

「?」

「関係ないだろ!」

ガッ!!

「あんぎゃあああ!!!!」

思いっきり股間を蹴られた。

「バーカ! お人好しが余計なことしやがって!礼なんて言わねーぞアホ!」

そういうとどこかへと駆けて行ってしまった。なんていう口の悪さだ……。

「ご、御主人! 大丈夫ですか!?」

「なんか今日、痛い目に遭いすぎじゃない? おれ……」

「そ、そうですね……治癒ヒールかけますか?」

「いや大丈夫……ルシアにここ触られると逆に悪化しそうだから……」

「??」

はぁ……人助けして股間蹴られるとか、どんなだよ全く……。

気を取り直して右京の街を歩き進むと、ひときわ目立つ屋敷が見えてきた。

屋敷の門の前には兵士が居て、仰々しく門を守っている。

「ここ…ですかね?」

ルシアが首を傾げつつ聞いてくる。

「多分ね。ひとまず聞いてみよう」

俺は門番に声をかけて聞いてみる事にした。

「すみません。僕ら王様の依頼で西の国からやってきた召喚士なんですが」

「なに!? 召喚士だと!? 何か証拠はあるのか!!」

俺はカンパニーマスターから預かった依頼書を見せた。すると兵士は突然に畏まった様子で、丁寧に中へと案内してくれた。

中に入ると金の屏風や金の壁など、全面金一色という趣きで、少し目が痛い。兵士に案内されて更に奥へと進むと、王様がいる謁見場へやってきた。

「よく来てくれた西の召喚士よ。私がこのシャマ国の王、斑鳩いかるがだ」

「はじめまして王様。召喚士のユキと申します。こちらは私の使役する聖霊のルシアです」

ルシアが深々と頭を下げる。

「うむ。長旅ご苦労である。よくぞ参ってくれた」

いやまぁ来るまでは一瞬だったんだけどね……。

「早速ですが王様。依頼のほうをお伺いしたいのですが」

「そうじゃな」

斑鳩王はこの国が今、「魍魎」と呼ばれる怪異に襲われて困っていること。それを陰陽師が防いでいること、そしてその陰陽師では事態を打開できないでいることを教えてくれた。

「当初は魍魎がどこからきているのか全くわからず頭を抱えていたのだが、先日、国付きの陰陽師が奴らが湧いてくる場所を発見した。そこで一気に兵を集めて一網打尽といきたかったのだが……」

王の顔が曇る。

「城の兵士1000人と陰陽師20人、総がかりで討伐に出かけたが結果は……」

「父上、そこから先は私が」

すると奥から白と赤の装束に身をまとった少女が出てきた。

「はじめましてユキ殿。私はこの国の姫で帰蝶きちょうと申します」

すらっと伸びた黒髪を横でテールにし、美しくたゆたわせる。羽織る赤と白の陣羽織は西の鎧や正装とは違い、洗練された出で立ちでむしろスマートさを感じた。そんな彼女が見せる前髪をかきあげる仕草と相まって、なんとも高貴な印象を与える女性だった。

「はわ〜……綺麗な人ですね〜」

またしてもルシアが素っ頓狂な声を出す。いやあなたの顔とお身体も相当な高レベルですよ……。

「娘の帰蝶は国付き陰陽師の筆頭師範代でな」

「父上、今それは無関係ですよ」

「そ、そうじゃな」

ビッと、親ばかの国王を制す。どうやら帰蝶さんはけっこう堅い人みたいだ。

「魍魎の湧き出す場所を見つけた私達は、そこにいくつかの異形はいたものの、順調に蹴散らしつつも洞窟の奥まで進むと、次に魍魎が湧き出す泉までたどり着きました。しかしそこは一切の力が封じられる邪気にあふれていて、式神しきがみ念理ねんりも使えず敗走せざるを得なかったのです……」

「あれ? 兵士さんたちは? 術が封じられても兵士さんは戦えますよね?」

ごく当たり前の疑問を投げかけてみた。

「それが……湧き出る魍魎に刀や弓、槍は一切通じず、殆どの攻撃は無力でした」

まぁ魍魎ってのが幽霊チックな奴ならそりゃそうか。

「それで召喚士が呼ばれたわけですね」

「はい。召喚士に使役される聖霊は式神とは異なり、なにやら不思議なチカラを持つと聞きました。そこで一縷の望みを掛け、召喚士に造詣が深いという西の国の「まじっくかんぱにー」へ嘆願を行ったのです」

姫の「マジックカンパニー」の発音が、妙に辿々しくて萌える……いや、今はそれはどうでもいい。

「実際どうなのルシア? なんとかなりそう?」

俺の横で珍しく真顔になって聞いていたルシアに尋ねる。

「んー、わかりませんね☆」

がくっ……

そうだった。この子はなんも知らんのだった。

「どうでしょうかユキ殿。討伐に向かっていただけますでしょうか?」

「勿論ですよ姫。そのためにここまで来たんですから。なんとかします」

「頼もしいです……是非とも宜しくお願い致します」

深々と頭を下げる姫。偉い人なのに初対面の相手でもちゃんと礼を尽くすなんて、すごく真面目な人なんだな。

「ところでユキ殿。なにやら妹が面倒をお掛けしたようで……茶々、出て参れ」

妹? 妹さんにはまだ会ってないような……。

トテトテ……

奥からゆっくりと、先ほどの食い逃げ少女がやってきた。

「あ!さっきの股間蹴った食い逃げの子!」

国王の御前ということも忘れて大声を張り上げる。

「ふん……」

無愛想にさっきの子が出てきて、鼻をひと鳴らしした。

「勝手に城を抜け出してイタズラを働いていたようでしたが……聞くとなにやら異国の者に助けられたと申しておりまして、ユキ殿にあったときにピンときたのです」

茶々と呼ばれた子の頭をグリグリと撫でる姫。

「妹に変わって謝罪致します。申し訳ありません」

またしても深々と礼。

「い、いえ!大丈夫ですよ!股間が痛かったくらいなので!」

「股間?」

姫が首を傾る。

「いえ、こちらの話です……」

「オホン。では召喚士殿、早速だが討伐に出かけてくれるか?」

斑鳩王が間を取って用件を告げる。

「あ、はい。それについては大丈夫ですので、場所だけ教えて頂けますか?」

「うむ、それについては帰蝶が共に行って案内するが故」

「え? 帰蝶さんも来るんですか?」

「はい。陰陽は通じませんが、あのままとするには私も納得が参りません故…」

まぁ帰蝶さん俺より全然強そうだし、大丈夫かな。

「ところで召喚士殿。報酬の件なのじゃが…」

王の顔がやや曇る。

「実は我が国はこう見えて財政難でな…先代が湯水のごとく使ってしまったが故に、払える金があまりないのじゃ……」

あー……まぁ城がこの作りだしなぁ…。よほど使ったんだろうなぁってのはわかる。

「構いませんよ。乗りかかった船ですし、このままお受けしますよ」

「かたじけない……。代わりと言ってはなんだが、見事討伐の暁には娘の帰蝶を嫁に差し出そうと思う」

「はっ!? いやいや! それはどーなんですかね〜……」

「良かったじゃないですか御主人! 御主人の言っていた〝幸せ〟が手に入りますよ!」

ルシアがお気楽そうに言う。そういう問題じゃないでしょこれ。

「私は構いません。妹を無償で助けてくれたところを見てもユキ殿は良いお方のようですし、政略結婚は我が国では当たり前のような事ですから」

うーん……そうは言ってもなぁ……

「とりあえず、そういうのは討伐した後ということで、今は良いです」

俺はひとまず断りを入れたが、今度は姫が食い下がってきた。

「ユキ殿は私が妻では不服ですか?」

「いえ、不服とかそういうことじゃなくて……」

「私はユキ殿の好みには合いませんか?」

「いえ……姫はお美しいですし、俺には勿体ないくらいだと思いますよ…?」

「ではなぜ……」

「そういう目的では来ていないですし、この国は魍魎に困ってるんですよね? なら今はとりあえずそれより討伐を優先したいだけなので」

そりゃあ、こんな可愛い子と結婚できるなら言うことないんだろうけど、でも俺のことを好きでもない子と結婚してもなぁ……。

「ひとまず準備してからまた明日来ますので、帰蝶さんには魍魎の場所まで案内してもらえると助かります」

そう告げると城を後にした。

その夜、王から指定された宿に止まっていると、御所から姫の従者という人が来て、姫が話をしたいということで、御所の脇にある離れ小屋へ案内された。

「なんの話だろ……」

暗がりの中、一人で待っていると奥から姫がやってきた。

「急にお呼びしてしまい、申し訳ありません」

そういう姫の格好は昼間とは違い、赤や桃、白が散りばめられた、見たこともない美しい服だった。

「いえ。それよりその服、綺麗ですね。そんなの見たことないです僕」

「あぁ、和服は初めてですか?」

和服、という衣装らしい。

「なんだか趣きがありますね」

「ありがとうございます」

と、そこまで言うと少し間が空いてしまい、ややむず痒くなる。

「あの、何かお話があるんですよね?」

俺はなんとか絞り出すと、姫に尋ねた。

「はい…昼間の婚姻の件で……」

あぁ、やっぱりそっちの話か。なんとなくは察してたけど。

「私も女ですので、理由なくお断りされるのは忍びなく……できれば理由をお伺いしたく思いまして…」

「理由、ですか」

「はい。昼間も申しましたが、この国ではこういった形での婚姻は珍しくはないのです。むしろそういった形の方が多いくらいで……ユキ殿は決まった方もいらっしゃらないのですよね? でしたら考え直して頂くことは出来ないでしょうか?」

「うーん……理由というか、ぶっちゃけて言いますけど、姫は別に俺のこと好きじゃないですよね? さっきお会いしたばかりですし……。そういう男女が付き合ったり結婚したりっていうのは、なんか物みたいで好きになれないんですよね……だから姫が嫌とかそういうのじゃないです」

「確かに今日、お会いしたばかりですが、私はユキ殿を憎からず思っております。それだけでは駄目なのでしょうか?」

「俺ももし姫がちゃんと俺の事を好きでいてくれてるのなら考えるんですが、多分そうじゃないし、となると今姫が言ってる好きは、俺の言う好きとはちょっと違ってるような気がして……俺は俺の事を好きになってくれている子と、そういうのをしたいので……ごめんなさい」

「そうですか……」

青い。我ながら実にケツが青い。

ここでOKと言えばこんなにも可愛い彼女ができて婚約まで確定するのに……はぁ…勿体ない。

「でも…」

「?」

「でも、駄目ということではないのですよね? 要は私がユキ殿を心からお慕いするようになれば良いわけですから」

「ま、まぁそうなんですけど……」

「わかりました。今日のところは引き下がりますわ。お時間を頂いてしまい、申し訳ありませんでした。明日は宜しくお願い致します」

最後の姫の言葉に、ちょっとドキっとしたまま、戻っていく姫を見送ると、俺も宿に戻ることにした。



一章 三



「おはようございますユキ殿」

宿に来た帰蝶さんが快活に挨拶する。

「おはようございます姫。準備はできていますのですぐに出られますよ」

「帰蝶で結構ですよ、ユキ殿」

「そうですか? では僕の事もユキと呼んでください姫」

「くすっ。姫って言ってますよユキ」

「あ……、すみません」

クスクスと笑う帰蝶。ルシアやセシリアとはまた違った可愛さがあるなぁ…。

昨日断ったのは早まったか?

「御主人、やはり婚姻をお受けした方が良かったのでは?」

後から来たルシアが眉をひそめながら言う。

「ユキ、私は構いませんよ? むしろ召喚士殿の妻となれるのであれば光栄です」

「まぁ、そういうのは終わった後にしましょ。ところでルシア。セシリアは?」

「セシリア?」

帰蝶が不思議そうな顔だ。

「あ、セシリアっていうのはもう一人の聖霊で、昨日は石版の中にいてさ」

「ユキは高位の聖霊を二体も使役しているのですね……流石です」

いやまぁただの偶然だし、当の聖霊からは「具現化させるくらいだし絶対童貞」って言われましたけどね……。

「セシリアは昨日のお夜食でお腹を壊したらしくて、今回のは任せるって言ってましたよ」

「お腹を壊したって……聖霊ってお腹壊すの…?」

「わからないです☆」

がくっ。

ハイお約束。聞いた俺がバカでした。

「ま、まぁいいや、行こうか」

気を取り直して魍魎退治に出かける事にした。

マジックアイテムは昨日のうちに石版のツーハンで買っておいた。前も使った「ツーハン」っていうのは石版の機能の一つで、きんを払う代わりに世界で流通しているものを買うことができる便利機能だ。商品はどこから来てるのかとか、どうやって出て来てるのかとかは全く知らない。昨日ルシアにも聞いたけど「わからないです☆」って言われた←懲りてない。


帰蝶に案内されて魍魎が湧き出す森の先までやってきた。鬱蒼とした森を抜けたその先は、なんだか悪寒がする嫌な感じの森だった。

「その先に、洞窟があります」

帰蝶が示した先を進んでいくと、洞窟が見えてきた。

「あれです。あれが魍魎の住処です」

「ルシア、何か感じる?」

「そうですね……」

あ、これいつものパターンか?

「霊力は感じますね…。魍魎がいるのは間違いないかと。でもそれよりもなんというか……哀しさを感じます……」

いつになく真面目。

「哀しさ? 怨念ってこと?」

「いえ、もっとこう…〝残念〟のような……」

残念? 悔いがある霊体みたいな事だろうか?

俺たちは中に進むと、前に帰蝶が言っていたようにいくつかのモンスターは居たものの、奥まで無難に進むことができた。

「御主人……ちょっと良くない〝気〟を感じます。気をつけてください」

「たしかになんか気持ち悪い温度だね…」

霊的なものを感じられない俺にすら、ここの空気は息苦しい。

「あれです。あれから魍魎が湧いてきてるんです」

その先を見るとひとつの剣が寂しそうに佇んでいる。

俺はそれを拾い上げる……が、そこから一気に悪い気が流れ出してきた!

「うわっ!」

「ユキ!」

帰蝶が出てきた霊気に向かって矢を射る。だが効果はない。それどころか不気味なモンスターが次々に生まれ出てくる。

「ユキ!下がって!」

シュ! ズバン!

シュシュ!ドス!ドス!

「おのれ異形!」

シュシュシュ!

ドスドスドス!

帰蝶が弓で次々とモンスターを倒していく。

途端、おかれていた剣からドクロのような顔をした雲が出てきた。

「はぁはぁ……あ、あれです……あれが魍魎を生み出している元凶です!」

帰蝶が早くも疲れている。どうやらここにいるだけで相当に体力を消費するようだ。

「ルシア!あのドクロ雲だ!」

「ハイ!」

シュッ…シュワアアアアアン!

ルシアは両手を広げて構えると、即座にホーミングレーザーを放つ。

シュウウウン…………スカ。

「え!?」

必殺のホーミングが事もなくすり抜けると、流石に驚きを隠せないルシア。

「ならこれで……」

ガバッ!

ルシアは胸元を両手で広げると、胸の谷間の中心から極太レーザーを放つ。

キュゥゥゥゥン………ブワアァァァァァ!!!!!

谷間に収束した翡翠色の光は、容赦なくドクロ雲と魍魎に襲いかかる。

ドゴオオオオオオン!!!! 爆音とともに辺りは煙に包まれる。

「やったか!??」

が……破壊されたのは洞窟の壁だけで、雲にはこれも効果がない。

「そ、そんな!?」

信じられないといった表情のルシア。刹那、ルシアの動きが止まり、そこへ魍魎が襲う!

「きゃあああ!!!」

「ルシアッ!!」

ルシアは雲に包まれて見えなくなってしまった。

次の瞬間、雲は帰蝶に襲いかかった。

しまった!疲れている帰蝶ではかわせない!! そう思った俺は咄嗟に帰蝶に覆いかぶさる。

「ユ、ユキ!?」

「くっ……どうとでもなれ!!!!」

ブワアアアアアアア!!!!

あ、これダメだ。チート聖霊の攻撃が効かない敵の一撃に耐えられるはずないわ……終わったわこれ。

スパーンッ!

「……え?」

覚悟を決めたはずだったが、俺はまだ生きているようだった。

主人あるじ〜、何してんのよアンタ……石版ごとアタシも一緒に殺す気?」

「セ、セシリア!」

どうやらセシリアが石版から出てきて、雲の一撃を斬り払ってくれたらしい。

「ん? ルシアは? あのコはどーしたの?」

「あ、あの雲の中に!」

「あのバカ……敵がどういうのかもちゃんと見ないで油断したわね」

「どういうこと???」

「あれは怨霊とか幽霊じゃないわ。ソウルよ」

「ソウル?」

「魂の塊よ。誰かの怨念とかじゃないわ。アレは〝ああいうモン〟なの。物理が効かないのは当然よ。目に見えてるだけであいつらの本体はこの次元とは別次元の異界に存在してる」

「い、異界? あの世ってこと!? つまりやっぱり幽霊!?」

「だから違うわよ!幽霊じゃなくてソウル!異界の住人!」

なんのことかサッパリ違いがわからない。

「る、ルシアは大丈夫なの!?」

「ヘーキよ、アタシが居るってことはあの子は消えてないわ」

そうか……そういう意味でも二人は一対なんだ……。

主人あるじ! 石版で私に変身許可を出しなさい!この姿のままじゃアタシの攻撃も当たらないわ!」

セシリアが叫ぶ。

「ゆ、ユキ!? この者はいったい…?」

あまりにも唐突な展開に帰蝶がついてこれていない。

「あ、これは朝に説明したもう一人の聖霊で……」

「バカなのアンタッ!? 後にしなさい後に!!」

バカって……これでも聖霊のマスターなのに……。

「サッサと許可を出せバカ!!! 死にたいの!??」

「は、はい!!!」

石版を操り、〝あぷり〟の中から変身アプリをタッチする。

「せ、セシリア!? どのタイプ???」

「ソウル相手なんだから〝青〟に決まってるでしょ!さっき言ったじゃない!」

聞いてない気もするが、俺は慌てて変身タイプの中から「青」を選択する。

キュイイイイイインンン!!!!

音と共にセシリアの服が変わっていく。黒と赤だった衣装(いや下着?)は黒と青に変わり、服がピチピチのスーツになったかと思うと、頭頂部にはアンテナのようなものが付いた。

結晶神変けっしょうしんへん!!!」

セシリアは変身するときに妙な掛け声を叫ぶ癖があり、ちょっとカッコ悪い……。

「行くわよソウル!!!」

ヒュン! ガスッ!

ドカドカドカ!

バキィィィィ!

セシリアの攻撃はドクロ雲にも有効なようだ。どんどんと雲が小さくなっていく。

「ユキ、あれは一体……?」

帰蝶がここでようやく口を開いた。

「あれがセシリアの能力で、敵に合わせて変身ができるんだ。セシリアは基本、武闘派の猪突猛進タイプだけど、ああなったらもう大丈夫だと思う」

「は、はぁ……聖霊というのはなんとも不思議なのですね……」

「オリャオリャアアアアアア!!!!!」

ガス!ドガッ!!バキィ!!!

セシリアの猛攻のせいか、ルシアが囚われていた雲も次第に小さくなり、中からルシアが出てきた。

「ルシア!!」

俺はルシアに駆け寄ると、身体を支えて安否を確かめる。

「ルシア!大丈夫!?」

「ご…御主人……すみません…守るべき御主人に助けられてしまいました……」

ルシアは相当に弱っているのか、か細い声を上げる。

「もう大丈夫だよ、セシリアが戦ってるから」

横を見る。

「コラアアアアアアア!!!おら!オラオラオラオラァァァァ!!!」

「あはは……セシリアらしい戦い方ですね……」

そういうルシアの笑顔には力がない。

「だ、大丈夫!? 石版の中で休む!?」

その姿は疲れているというより儚げで、なんだかこのままルシアが消えてしまいそうに見えて、俺は不安になった。

「す、すみません御主人……油断したみたいで……核を…霊核を少しやられました…休みます…」

そういうとルシアは死んだように目を瞑ってしまった。

「る、ルシア!?」

霊核が傷ついた? なんだ? どういうことだ?

「トドメだぁぁぁぁ!!!!」

セシリアの怒号が聞こえる。

「必殺! シャイニングキィーーーーーック!!!」

ドガアアアアアアアアアンン!!!!!

「見たか! ソウル風情が私に勝てるかっての!」

必殺の空中蹴りが決まったらしく、セシリアはガッツポーズする。

「セ、セシリア!! ルシアが…ルシアの霊核が!!!」

俺がそう叫ぶと、ガッツポーズ一転。ドクロ雲を倒したセシリアは血相を変えてこちらに駆け寄る。

主人あるじ、霊核がどうしたって?」

「ルシアが気を失う前に言ったんだ。「霊核が少し傷ついた」って……そのあとに気を失って…」

「……本当ね? ルシアは〝霊核〟と言ったのね?」

セシリアの表情が、いつになく険しくなる。

「う、うん……でも霊核ってなんのことだか俺わからなくて…」

「霊核ってのはアタシらの魂みたいなモンよ。もっと言うと具現化するときにアンタから受け継いだ命そのもの。霊核が聖霊のくらいを確定させて具現化させる。霊核が傷つけば聖霊はチカラを失うし、最悪の場合、存在そのものが消える」

「え……」

大した相手じゃないと思ってたクエストで、こんな事になるなんて……。

俺の腕の中で気を失っているルシアからは、いつもの快活さも聖霊の力も感じられず、抱きしめたら折れそうな、か弱い女の子みたいだった。

「バカが……あの程度の奴相手に霊核まで傷つけるとか、流石に油断しすぎでしょ」

「ど、どうしたらいいのっ!? どうしたらルシアを助けられるの!?」

焦りが全身を包む。嫌だ。こんなところでルシアを失いたくない。嫌だ。

「あわてるんじゃないわよ主人あるじ。大げさに言っただけでこれくらいなら大丈夫よ」

「ほ、ほんと!?」

「えぇ、アタシが居るってことはそこまで霊核は傷ついてないから消えたりはしないわ。けど油断したところをソウルに食われた事で、相当削られたのは間違いないわね。ということでアンタ、自分が使役してる聖霊の為にアンタ自身を削れる?」

「ど、どう言う事?」

「アタシらの核の源はアンタよ。だからそれを削って使えば傷んだ霊核は直せるし、むしろそれしか霊核は直せない」

「か、構わないよ! 俺はいつも何もできないから!ルシアが助かるならそれでいいよ!」

「ユキ殿……」

帰蝶が心配そうな顔で見つめる。

「わかった。じゃあアンタから少し削るわ」

ピタと、俺の額に手を置くと、なにやら呪文を唱え始める。

パァァァァァァァ……

徐々に俺のチカラが抜けると、それに比例してルシアの顔色が良くなる。

シュゥゥウウ……

「ふう……終わったわよ」

見ると、ルシアの顔色に生気が戻っていた。

「う、ううん……」

「ル、ルシア!」

「ご、御主人……あはは、もう目が覚めてしまいました…おはようございます……」

「うんうん……いいよ、目覚めていいんだよルシア……おはよう……」

泣きじゃくりながら、俺はずっとルシアを抱きしめていた……。



一章 エピローグ



「全く……アンタがあんなザコに油断なんかするから、コイツのを削っちゃったじゃない」

魍魎の討伐を終え、自分たちの国に戻ろうとする最中、セシリアが非難の声をあげる。

「すみません……今回に関してはセシリアの言う通りですね……」

元気なくルシアが俯く。

「良いんだよルシア。俺の命なんて削っても別に困らないし大丈夫だよ」

そうだよ、どうせ二人がいなければ俺なんてすぐ死んじゃうんだし、命くらいどうってことない。

「ん? 何言ってんのよアンタ。削ったのは命じゃなくて〝運〟よ。アンタの運」

「ん…? 運……?」

「そう、運」

シーン…………

「は!? 運!? 運って何!? こう言う場合って普通、寿命とか体力とかそういうのじゃないの!?」

「フツーとか知らないわよ……とにかく削ったのは運よ運。霊核の源になってるのは運なのよ。仕事運とか金運とか恋愛運とかそういうやつ。アンタが私たちみたいな高位のレアを引いたのも運だしね」

「なんだそれ……じゃあなんですか? 単に運が悪い男になったってこと? え? いやそれもっとまずくない? 恋愛運まで少なくなったの俺?」

「そーね。ますますモテなくなったわよきっと。よかったわね」

「よくねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

がぁーん……、ある意味で最もキッツイわそれ……。

まぁ、ルシアが元気になったんならいいか…いや良くはないんだけど……。

「御主人、帰蝶さんの事は良かったのですか? せっかく念願の恋人ができるチャンスでしたのに……」

「あぁその事? いいんだよ。俺のことを好きでもない子と無理やり結婚するとかそういうのはなんか違うしね」

「カッコつけちゃって。貰えるモンは貰っときなさいよバカ。だからアンタはいつまでも童貞なのよ」

セシリアが毒を吐く。

「まぁまぁ良いじゃないですか。そういうところも御主人らしくて、私は好きですよ」

ルシアが暖かい笑みを浮かべて俺を庇う。

「ところで、レア確定の赤石はもらったんでしょ? ガチャ引いてみなさいよ」

はぁ……まぁいいか…気を取り直して報酬で貰った石を取り出し、石版にセットする。

「手前に引いて、元気よくスライドさせてね!」

おなじみのアナウンスが聞こえてくる。

「今は特殊召喚チャンスアップ中だよ!」

特殊召喚? 更に高位のレアでも出るんだろうか。

俺は勢いよくスライドする。

パァァァァァァァ……

ボフン!

「……え?」

「あら……」

出てきたのは……帰蝶だった。それも下着姿で。

「ユ、ユキ殿?? え? って……きゃああああああ!!!!」

バチン!!!!

思いっきり頬を叩かれて、俺はどうして帰蝶が出てきたのかとか、なんでラッキースケベなんだよとか、そういうのよりも先に、確かに運が少なくなってるのを実感した気がした。



一章 終わり













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