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プロローグ

虫の声だけが聞こえるはずの深夜にカタカタという音が静かな闇に吸い込まれていく。


子供はとっくに寝ているはずの時間に 1人の少年がキーボードに指を走らせていた。


彼のメガネがパソコンの光を反射して闇を切り裂いているようだった。



少年の名は白鳥明人。


こんな夜中に何をしているのか。


子供は早く寝ないといけない、が彼以上に子供という言葉が似合わない子供はいないだろう。


彼は1000年に1度しか現れないと言われている超・天才。


彼が頭を使えば政治を動かすなんて楽勝。


「これ、かわいい……!あっ、これもヤバい……‼︎」


そんなことは、真夜中に弟の写真を編集している彼からは全く感じられない。



さて、これから何が起こるでしょう。


それを知るのが待ち遠しいと言うかのように、太陽がゆっくりと顔を出した。







「フフフフ……」と言う、薄気味悪い声に起こされて目を思いっきり開くと、すぐ目の前に超高級デジタルカメラがあった。


そのカメラとカメラを構えているまさにあやしい変態ごと殴って、上半身を起こした。


粉々になった超高級デジタルカメラを見て心がいたんだが、あの変態から少しでも盗撮されずに済むと考えたら、後悔と言う気持ちはすっかり消えて、代わりに大きな安心感を感じた。


その変態こそ、あの天才少年白鳥明人である。


「怒った君も素敵だ。僕のキュートな妹ちゃん♡」


殴られたところをさすりながら気持ち悪いことを言ってくる兄貴を見て、朝から気分が悪くなった。


「俺は男だ、クソ兄貴。」


俺、白鳥吹雪この物語の主人公である。


特徴は、自分で言うのもなんだが、とにかく美少年である。


どのくらいかって?


毎日50件ぐらいスカウトが来る。


もちろん芸能界から。


すれ違った人は絶対振り向く。


酷い人は跪いてなぜか祈り始める。


「神様、私は今、天使を見ました。あんなに美しい天使に連れていかれるなら、喜んであの世でもどこへで も行きます‼︎」


とか何やらつぶやき始める。


これで自分の容姿は普通ではないと気づいほど、馬鹿ではないのだ。


何度女だと間違えられたことか……。


男だからな‼︎


「いや、こんなかわいい男なんていないよ」


お前は心が読めるのか、と思ったが言うとめんどくさそうなので、無視してクローゼットを開けた。


「......は?」


俺はギョッとした。


クローゼットの中にはいつもの着慣れたシンプルな服はなく、いかにも高そうな女装でいっぱいだった。


なぜ女装が⁈


俺ははっとした。


水色のフリルに白のドレスやワンピース。

ヒラヒラしてどこか少女の雰囲気を残し、切なさを感じるこの女装。


多分、いや間違いなく。


「お前の好みだろ......。」


さっきからずっとニヤニヤ笑っている兄貴を思いっきり睨みつけると、肩をすくめ怯えるふりをした。


それが俺の怒りのスイッチを押し、とうとう我慢できなくなった。


拳を握りしめ、にっこり笑って兄貴に近づく俺に、兄貴も笑いかけた。


それは決して友好の笑みではなく、よく見ればどちらも目がひきつっている。


「へへへ、吹雪ちゃんの愛のこぶー......」


いいかけた言葉は愛のこぶしによって制された。


それを顔面で受けた兄貴は幸せそうな顔をしていた。


その顔に鼻血が垂れた。


変態以上にこいつを修飾する言葉は俺には見つけられなかった。


いっぱつ殴って俺は重要なことに気がついた。


「制服は?」


今日は火曜日、学校ある。


だが、肝心の制服はどこにも見当たらなかった。


制服を着なければ、どの学校でも怒られる。


当然の話だ。


俺がないと一言いったら、自分が裸になってまで貸してくれる男子は大勢いるだろう。


そして学校を巻き込む戦争になる。


決して大げさではない。


重要な事は2度言う。


決して大げさではないのだ。


それに汗臭い男の服なんて想像するだけで鳥肌が立つ......ダメだ、女みたいなことを言ったら。


俺は途端、嫌な予感がした。


「どこ?」


兄貴は目を逸らした。


「もしかして、捨ててねぇよな……」


今度は口笛お吹き出す兄貴を見て、俺は笑った。


現実逃避の笑いだ。


「……俺の服は?」


制服を諦め、担任のクソ眼鏡に怒られる覚悟した。


だが、兄貴はあの女装を指差した。


もう一回殴ろうと言う衝動にあおられたが、冷静に俺は堪えた。


俺が求めるのはパーフェクトな男。


短気な男などパーフェクトからほど遠い。


だが俺の兄は人をイラつかせる天才でもあったようだ。


「もう…またかよ……。」


俺は頭を抱えた。


ホント困った兄だ。


もうこれで何回目だと思ってる。


「ーで、なんなの?今度は」


「うん、それがね……」


こいつが俺に女装を着せようとするときは、必ず重要な話がある。


何かの儀式なのか。


それはともかく、兄貴が珍しく言うのに躊躇している。


レアだ。


目に焼き付けよう。


「今までとは比べものにならないくらい、重要な話なんだよ〜」


きた‼︎


俺は心の中でガッツポーズした。


遡ること3年前、それは初めて兄貴のパソコンを見た。


別に好奇心旺盛な人ではないが、ないわけではない。


超・天才のパソコンの内容に興味を持った。


俺の盗撮が1,000枚を超えていたから消しておいた。


メモ帳を見たら一件だけメモされていた。


あの無限の記憶の収納場所に入らないことってなんだろうと思って クリックしたら、短く『 3年後、吹雪を連れて日本から出発』と書いてあった。


きっとどこかの国に行くのだろう。


事前に分かっているのなら、驚かないぞ!


いつも兄貴に驚かされてばっかだから、敗北感を感じていた。


その際戦争中の国でも、幻の国でも、オッケーする。


別に日本にもなんも未練ないし、そろそろ飽きてきた。


どうせ兄貴が守ってくれるんだし、やってやる!


3年前の俺はそう決意した。


「僕と……」


ついにこの時が来たのだ。この時を待っていた。


何度頭の中でこのシチュエーションをイメージしたことか!


「異世界に行こう‼︎」


「うん、いいよ……って、はあ⁈」


こいつ今なんて言った⁉︎


頭が真っ白になった。


驚いてしまった、でも当然だよね……。


こいつ異世界って言ったよね!


聞き間違いじゃないよね!


えっ、えっ、えっ、戸惑っている俺に兄貴は優しく笑った。


俺にはそれが悪魔の笑みに見えた。


「い…異世界ってあの…魔法とか…勇者とか…魔王とか…魔物とか…魔王とか…そういうやつ……?」


「まあ、そんな感じ」


魔王2回言っているよ、と言う兄貴の言葉は頭に入らなかった。


「……出来るの?」


「うん」


やめてくれ、お願いだから、何言ってんの、当たり前でしょって言う表情はやめてくれ‼︎


と言う俺の心の叫びは誰にも届くことがなかった。




ー 俺の意識をそこで途絶えた。























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