そして、元英雄と英雄は向かい合う ~裏設定・プロット編~
こちらは短編『そして、元英雄と英雄は向かい合う』において、本編を周回される(された)方向けの蛇足です。
描写だけで読者に理解してもらえず、楽しませられないなど本来なら作者としては大恥+大失敗なわけですが、まあわかりやすさ重視ということで。(言い訳その1)
他にも、本編後書きで触れた『長編に書き直す』ことがもしあれば、個人的な補足プロットとして利用しようかと。せっかく作った設定の貧乏性ともいう。(言い訳その2)
まあ、短編で書いたので細かな設定は割とザルですけどね。魔物とか魔法(『身体強化』)とか文化レベルとか地理とか歴史とか世界情勢とか身分階級とか亜人などの他民族とかいろいろすっ飛ばして書きましたし。ファンタジー世界を描くのであれば、最低限必要な要素は考えないといけませんよね~。
では、興味のある方だけお進みください。ちなみに、結構長いです。
・冒頭
これはリリィちゃんが都を襲う魔物(ドラゴン?)を倒し、『英雄』と呼ばれるようになって割とすぐの出来事です。経緯はラストの方でざっくり書いてますかね。
この時、やたらおっさんが悪党っぽい感じだったのは、非常にタイミングが悪かったと言わざるを得ません。
実はおっさん、リリィちゃんの活躍を冒険者の伝聞で知って、キースさんとこの酒場で宴会開いてたんですよ。顔も知らないお客さんの会計全部払っちゃうくらい、浮かれまくりのどんちゃん騒ぎです。
で、お酒は好きだがそこまで強くないおっさんは翌朝完全に二日酔いとなり、そこへリリィちゃんの願いでおっさんを捜索していた兵士たちに連行された、と。
身なりがボロボロだったのは、リリィちゃんが出て行った後の生活が荒れてた影響も大きいですね。ずっと任せっきりだったおっさんの家事能力の低下に加え、リリィちゃんを思い出して落ち込んでました。
そのせいか、この時のおっさんはマジでリリィちゃんに殺されても仕方ないと思ってました。どれだけ大切に想ってたとしても、おっさんは一度もそれを表情や言葉に出そうとしませんでした。
親代わりなんて口が裂けてもいえない育て方(ほぼ虐待)を振り返り、リリィちゃんに恨まれて当然だと思う程度には、おっさんにも常識や自覚がありましたので。
だから、リリィちゃんの気が済むなら死んで詫びるのも構わないと覚悟を決めて、おとなしく兵士に捕まったわけですね。
ま、フタを開ければリリィちゃんはお父さんとの再会をめっちゃ喜び、きちんとした格好をしなきゃとばっちりおめかししてお出迎えしてくれたわけですが。
いざ会ってみると、なぜかめっちゃ憔悴しているお父さんの姿を見て、裏事情を把握するリリィちゃんは色々悪い想像をしちゃって、ちょっと泣きそうになるのをこらえて無表情になりました。
……しかし、落ちぶれたおっさんの正式な子どもにしてもらうためとはいえ、まるで花嫁衣装のような白無垢をチョイスするあたり、リリィちゃんもちょっと天然なのか?
・十年前
おっさんが酒浸りしていたのは、ドラゴンから都市を救った『英雄』と人々からもてはやされる一方、一番大切な家族を救えなかった自分を許せず自暴自棄になっていたためです。
おっさんとは同じ村出身の幼なじみで、長いことパーティーの一員として肩を並べていたキースさんも事情は知っており、同情もあってしばらく好きにさせていましたが、あの日限界がきました。
とはいえ、キースさんも完全におっさんを見放したわけではありません。『一生くるな!』ではなく『しばらくくるな!』と言ったあたり甘さがうかがえますね。おっさん同士の友情です。胸熱(?)です。
んで、追い出されたおっさんの足取りがしっかりしてたのは、連日連夜飲んでいたことでアルコールへの耐性がついていたからです。人のお酒の強さは生まれつきですが、耐性がつけば酔いにくくはなりますので。
帰り道に倒れていたリリィちゃんは、元々の公爵家から逃げて力つきた状態でした。
本当は体が弱く別荘で療養するという名目で、魔物がはびこる辺境の森に捨てられる寸前で隙を見て逃亡したのです。貴族あるあるの病死(家の汚点をごまかす暗殺)工作ですね。
あんまり触れなかったのですが、『赤目=忌子』みたいな因習が社会に根強く残る上、両親の瞳の色とはまったく違っていたから不義の子として見られていました。
瞳の色は単純に保有魔力量が大きすぎたという、ファンタジー的にはありがちな設定が原因だったのですが、魔力や魔法は結構感覚的なものが強い世界なので理解など得られず迫害されちゃいました。
そこを拾ったのがおっさんです。妊婦だった妻が出産してたらちょうど二人目の子と同じくらいの年齢だったこともあって、『たすけて』という声を無視できなかったのでしょう。
その際、荷物を運ぶように無関心な様子を出しながら、酒の影響でリリィちゃんを落とさないよう、また自分の腕力で潰さないようめっちゃ気を配ってたのはここだけの秘密。
・一ヶ月後
リリィちゃんをこき使う描写でさらっと流してましたが、道ばたで拾っただけの子どもを綺麗にしたり服を用意したりご飯を食べさせたりと、おっさんなかなかに世話焼いてます。
家事全般を任せていたのも大きく二つ理由があり、一つはリリィちゃんに体力を付けさせるため。逃げるのに必死でまともな食事もとれなかったリリィちゃんは、死ぬ一歩手前まで体力が落ちていました。
そのため、食事をとらせて回復した後は運動させようと考えて、家事を割り振ってみたわけです。毎日やると意外としんどいですが、適度な運動にはなりますからね。作者は家事が大っ嫌いです。(満面の笑み)
ちなみに、保存食用の壷はリリィちゃんの筋トレ用に買ったものです。掃除の時に動かさないと邪魔なところに置いとけば、自然と持ち上げようとしますからね。
重さ(負荷)はリリィちゃんが壊すか壊さないかで毎日微妙に変えてました。徐々に重さ(負荷)を上げていき、最終的には中身(芋とか?)も入れてガチ筋トレな感じになってました。
家事丸投げのもう一つの理由が、ある程度まで身の回りのことを自分でできるようにするためです。
リリィちゃんを拾ったとはいえ、おっさんは途中でリリィちゃんが逃げ出してもかまわないと思っていました。だって客観的に見たら児童虐待ですし、リリィちゃんへの愛着もまだ薄かったですしね。
それでもやらせたのは、早いうちから自立する能力を身につけさせれば、長い目で見ればリリィちゃんの助けにはなると考えたからです。なので、野営などのサバイバル的なことも理由付けてやらせてました。庭で。
冒険者の道具や武器を手入れさせたのもその一環です。職業選択の自由はリリィちゃんの意思を尊重するとして、おっさんが知っている仕事は冒険者だけですから、予備知識として教えとけってな感じです。
余談ですが、リリィちゃんの料理がまずかったのは本当です。イメージは雑に洗って皮むきした里芋を醤油少々で煮立ち、生茹でにして出されたものとお考えください。
それでもおっさんは食べようと思えば食べられましたが、リリィちゃんの食事量が少ないことを心配した配慮(?)です。それでも成人男性一人分を幼女に食べさせるのは無茶ですけれども。あとは、もっと料理を勉強しろ! という無言の圧力もありますね。
ただ、そのころのリリィちゃんはおっさんにすっかり怯えきっており、ご飯もおっさんの分しか作ってませんでした。無駄を出したら怒られたので、自分の分まで作ったら怒られる、と思ってました。
実際はリリィちゃんにご飯を食べさせる方便が半分、廃棄ロスを極力抑えさせることでリリィちゃんに平民一般の金銭感覚を身につけさせる目的が半分でした。実入りが少ない平民は基本ドケチです。
そして、リリィちゃんが入ったベッドは元々おっさんが利用していたものでした。おっさんは倉庫的な空き部屋で壁を背もたれにした野武士スタイルで就寝です。後日、不審に思われないよう寝具は買いましたがね。
一方、この頃のリリィちゃんは完全におっさんの奴隷気分になってました。赤い瞳が原因でまともな人間扱いされなかったので、自分が人間だという意識が低かったのですね。
そこから徐々に反抗的な態度をとってくるわけですが、それもおっさんの接し方のおかげ(?)です。
だって、おっさんはリリィちゃんの失敗や手際の悪さを叱っても、リリィちゃんの人格を否定したり無意味な暴力を振るったりは一度もないですから。
厳しい中でギリギリ思いやりをにじませていたおっさんの態度が、リリィちゃんにゆ~っくりと伝わって『少しなら反抗しても大丈夫』と甘えられる余裕が生まれたのですね……わかりにくすぎて一年かかりましたけど。
・一年後
だいぶリリィちゃんに体力が付いてきたところで、おっさんは幼女をボッコボコにしてストレス発散――ではなく、とっさに身を守るための技術を教えようとしていました。
実戦形式なのはおっさんが口下手なのと、痛みを伴った方が覚えがいいという脳筋理論が組み合わさった結果です。この点に関しては毒舌以外でおっさんに悪気はなく、リリィちゃんはとんだ災難かと。
シーンの映像的には、リリィちゃんが頭をかばうように棒を横に倒しておっさんの攻撃を防いでいましたが、途中でおっさんが金属仕込みブーツで蹴りを入れたため、思いっきり後ろへ吹っ飛んだ形になります。
おっさんは慌てて怪我の具合を確かめるため、憎まれ口とともに持ってた棒でリリィちゃんの胸を押してました(釘を金槌でうんぬんの描写)。そのとき、肋骨が折れてておっさんはめちゃめちゃ焦ります。
子どもの未発達な骨の堅さを過信していたのでしょう。大人よりも折れやすいのは当たり前ですが、おっさんは感覚で生きてきた人種のため、人に技術を教えるのも手探りな状態なのが災いしました。力加減はしたんですよ?
んで、おっさんはめっちゃ高い回復薬を上からぶっかけてリリィちゃんの傷を治しました。本当ならランクを一つ下げた回復薬一本でも十分治る設定の怪我でしたが、おっさんテンパってたので。
ちなみに、リリィちゃんが死にかけて聞こえなかったおっさんの台詞はこちら。
・「――、――――――? ――――!?」
→「おい、聞いてんのか? リリィッ!?」
・「 ! !!」
→「くそっ! 効果なかったらこの上級回復薬を買った店ぶっ壊してやる!!」
おっさん、自分で力加減ミスっといて回復薬の業者に逆恨みしかける。
そして、地味にリリィちゃんを名前で呼んでました。本当は最初から心の中で『リリィ』と呼んでたんですよ。中年のデレがわかりにくくて申し訳ない。
それから回復薬を使ったとバレないよう、カモフラージュでバケツの水をぶっかけてリリィちゃんの意識を覚醒させました。おっさんなりの照れ隠しという認識で問題ありません。隠すなよ。
最後に、リリィちゃんが踏んだのは上級回復薬が入っていた容器です。とっさにその辺に捨てたので、偶然踏んづけられちゃったんですね。ま~迂闊。
おっさんも音で気づき、『やべっ!』と思って猫扱いでごまかしたのでした。その後、スタッフがきちんと後かたづけしましたよ。イタズラの証拠を隠蔽する子どもみたいなおっさんです。
・二年後
おっさんは睡眠時無呼吸症候群。以上。……はい、ちゃんとやりますね。
ここはおっさんの仕打ちでたまったリリィちゃんの敵愾心が爆発しかけて鎮火した、という場面ですね。
まあ、毎日のようにボコられたら嫌いにもなるでしょう。女の子に痣残すなんて、どんだけ力加減が下手なおっさんなんだ! ――と憤った方はちょっと待ったげて。
実はもうこの頃になると、おっさんはリリィちゃん相手に手加減が難しくなってきてたんですよ。ちょいちょい見せる予想を上回る動きに驚き、おっさんから反射的に出た攻撃が痣になった、と。
リリィちゃんの成長スピードが異常ですが、無意識に膨大な魔力を『身体強化』に回していたためです。おっさん以上に天才肌かつ感覚派だったリリィちゃんにとって、実戦形式の鍛錬は相性がよかったのもあります。
何せ、おっさんの反射的な攻撃(=加減のない力)を幼女の未発達な柔肌で受けたのに、痣だけですんだんですよ? 普通なら一年前と同じく骨がバッキバキに折れてますって。
それにはおっさんもすぐ気づいて、徐々に訓練の手加減が意識的になくなっていきます。時には『身体強化』を足しつつ先生ポジをキープする、大人の意地的なものを長く守ろうとしていました。
そんな生活が続いたところで、リリィちゃん寝室間違えちゃった事件(事故?)が発生したわけです。
リリィちゃんが潜り込んだのは、おっさんが購入した比較的新しい方のベッドです。とはいっても、長年使い倒したボロボロのベッドか、数年前から使うボロのベッドかなので、そこまで上質ではないんですけど。
そして、ついにおっさんの加齢臭と睡眠時無呼吸症候群がリリィちゃんにバレるわけです!(ババーン!) ついでに寝言でこの世にいない実の娘とリリィちゃんを間違えるポカをやらかしました。
おっさんも『英雄』になる前は子煩悩だったんでしょうね、怖い夢を見た実の娘をあやしてあげてたんでしょう。
もちろん、今まで辛いことばかりだったリリィちゃんにもクリティカルヒットします。
次第に夢見心地になってはっきり覚えていないとはいえ、初めて他人から父親の愛情を向けられて泣いちゃった上、しがみついたまま寝落ちしちゃいます。
ここは仲直りイベントのチャンス! のはずでしたが、あろうことかリリィちゃんより先に起きたおっさんは、こっそりリリィちゃんを自室のベッドに戻してしまいます! こんのヘタレ!!
う~ん、ここはおっさんの複雑なおっさんゴコロもあるんです。リリィちゃんを娘のように想う以上に『英雄』事件のトラウマは強く、当時のおっさんに引き取る勇気と育てる自信がなかったんです。
だって、また似たようなことになったらおっさんの柔っこい心臓がぶっ壊れますから。吹っ切れる心の強さがあったら、知り合いの店に通って酒に逃げたりしませんよ。
というわけで、すっかりビビったおっさんは和解フラグをへし折り、リリィちゃんの敵愾心を下げただけで終わりましたが、これがあったおかげで徐々に敵愾心が下がっていきます。
リリィちゃんにとっては夢みたいな出来事とはいえ、『もしかしたらおっさんいい奴説』が浮上するきっかけになったんですね。
その後もおっさんと一緒に暮らすうちにリリィちゃんのトゲも抜け、反抗期から脱しかけていたところでまたしてもおっさんがやらかしちゃいました。
・五年後
執筆中、作者の涙腺までをも決壊させた実績のある勘当的なシーンです。(誤字にあらず)
おそらく、読者様のおっさんに対する殺意も極限に達した場面なのではないでしょうか?
これは仕方ありません。幼気なリリィちゃんをギャン泣きさせましたからね。控えめにいってクズでしょう(断言)。
で、この時点になるとおっさんとリリィちゃんの力関係は逆転しています。大差とまではいきませんが、実力的には確実にリリィちゃんの方が上ですね。若さって素晴らしい。
それでも体格差からくる重量と長年生きてきた経験則など、おっさんが優位なところもあります。手段を選ばない卑怯な戦い方などであれば、全く勝ち目がないことはありません。
とはいえ、毎日剣で殴り合ってきたおっさんは免許皆伝並に教えることがなくなり、今の生活を楽しむリリィちゃんが自分流の剣術へ発展させようとしていたなど、とっくに色々と気づいていました。
他にも、家事などの雑務を行わせていたリリィちゃんの生活能力も十分備わり、総合的に一人で生活できるレベルに達したとおっさんは判断します。
後はおっさんにとって『追い出すきっかけ』さえあればリリィちゃんを自由にしてやろう、とずっと考え続けたところであの売り言葉に買い言葉です。
やけにリリィちゃんがキッツい物言いだったのは、おっさんの口調や態度などの影響が強いです。五年で親に似ちゃったのもありますが、人となりを見極めた上での『気安いやり取り』だったのも大きいですね。
よく言えばリリィちゃんは本心からおっさんを信頼していて、悪く言えばこれくらいなら怒らないから平気という甘えがありました。それこそ、本当の家族へ向ける文句や軽口に近い感覚です。
で、リリィちゃんがボロを出すのを見計らって、おっさんは当面の生活資金とともに勘当を突きつけました。
その際、おっさん自身は口喧嘩の内容はさほど気にしていませんが、出て行け宣言でリリィちゃんがめちゃくちゃうろたえてたのは予想外でした。今までの生活で自分は嫌われてたと思っていましたので。
そのため、途中からほとんど泣き顔になっちゃったリリィちゃんを見ていられなくなったおっさんは、家の中に逃げたんですね。相変わらずのヘタレです。
それからのリリィちゃんごめんなさいシーンは、今まで隠していたおっさんへの本音を全部ぶつける形になります。
すなわち、『二年後』のベッドシーンよりも前までは望んでいた剣(=戦う力)も自由(=逃亡の意思)もお金(=主に大好きなお菓子代)も全部いらないから、家族(=娘)でいさせてくれと嘆願したのですね。
泣かせるじゃあありませんか。おっさんは実際にリリィちゃんを泣かせましたが。
ちなみに、『身体強化』で壊せる扉なのにリリィちゃんがドンドン殴るだけだったのは、扉を挟んだ向こう側におっさんがいるのをわかっていたからです。
『一年後』のラストでリリィちゃんが『家の外から扉を押し開いた』とさらっと描写したように、おっさんの家の扉は『内開き』です。
つまり、おっさんが家の内側から扉を押さえていたから開かなかったのですね。イメージは扉に背中をつけてもたれ掛かってる感じです。黄昏てんじゃねーぞ、おっさん。
なので、すでにお父さんっ子なリリィちゃんはおっさんに怪我をさせたくない+扉を壊して怒られたくないという理由で、泣きながら謝罪をしていたというわけです。
そのとき、おっさんもかなり良心が痛んで声を殺して男泣きしてました。五年間育ててきた少女が「お父さん」と言いながら泣いてすがるのを突っぱねてましたからね。罪悪感がハンパないんですよ。
それでも、おっさんは今までの扱いから自分がリリィちゃんの家族になる資格はない、と自分に言い聞かせて喧嘩したままお別れしようと決めてたので、拒絶し続けたのでした。
若い頃はこういう系も割と平気だったのですが、今は完全にダメっぽいですね。何せ自分で書いた作品でもウルッとくるくらいですから、私も年齢をとりました(しみじみ)。
まあその、私が趣味で書く小説は共通して『私が読みたい小説』を目指していますので、今回のように自分で自分の首を絞めるみたいな自爆もあるのでしょう。
なので、このシーンでウルッときちゃった読者様。あなたの心の琴線は作者と近い位置にある可能性が高いですよ。
……嬉しくない? でしょうね。
・別れから、しばらく
おっさん同士の麗しい友情を前面に押し出した酒場でのやりとりです。嘘です。
本当のところは、おっさんがリリィちゃんを拾う前までキースさんの店で毎晩のように行っていた愚痴りを再現したシーンになります。
リリィちゃんを預かっている間は断酒してたので、おっさんがキースさんの店にくるのは五年ぶりです。酒に逃げる暇があったら、リリィちゃんの面倒を少しでも見てやろうとしていたのですよ。
またおっさんの体臭が臭ったのは、リリィちゃんが結構粘ったからでした。おおよそ一ヶ月くらいでしょうか? 付近の魔物を食料におっさんの家の前で野営し、ずっとおっさんに謝罪と復縁を呼びかけていました。
しかし、おっさんが断固として無視し続けた結果、リリィちゃんはとうとうおっさんの家から旅立っていきます。この頃になるとリリィちゃんも涙が涸れかけていて、精神的にボロボロでしたが。
一方のおっさんはリリィちゃんと生活リズムをズラして食事やら睡眠やらをとっていましたが、リリィちゃんの気配がなくなってからは、万一の遭遇を避けようと引きこもって警戒していました。
引きこもり生活は寝食を最低限にして常に気を張り巡らせ、期間にしてだいたい数日ほど続けたでしょうか。娘から逃げるとか、本当ヘタレなおっさんです。
リリィちゃんがいなくなったとようやく確信を持てたのが夜で、おっさんは家を出たその足でキースさんところの酒場に向かいました。おっさんにとって、弱音を吐ける場所はここしかなかったので。
しかし、五年も顔を見せなかったおっさんが今さら来て何のようだと思ったキースさん、最初は追い返そうとしますがおっさんの疲れ切った雰囲気と持参したお金の少なさに色々察して酒を出します。
キースさんもおおよそのおっさん事情は知っており、十五年前(おっさんが英雄になった日=家族を失った日)から続くおっさんのやけ酒には耐性がありました。今回もその延長だと最初は思ったのです。
なお、おっさんから寄付された報奨金の半分でキースさんの酒場が開業しました。本当は家族のために使いたかったおっさんですが、『金が何の慰めになる!』と自棄になって金が欲しかったキースさんに押しつけたんですね。
そんなやけっぱちになるくらいおっさんは当時かなり情緒不安定で、閉店間際に現れては酔い潰れるを続けていました。幸せそうな他人を見れば、問答無用で喧嘩を売りそうだったためです。キースさんは気心が知れているので問題なし。
で、キースさんが出してあげたのがおっさんがずっと現実逃避のために飲んでいたお酒です。嫌みっぽくキースさんが見せたボトルが『前まで飲み慣れていたはずの酒(=酔うために飲んでいたアルコール度数が高い酒)』とわかったため、おっさんは顔を逸らします。
つまり、何杯も飲めたお酒が一口でキツくなるほど、酒を飲んでいなかった(=酒に弱くなった)とキースさんにバレて恥ずかしかったんですよ、このおっさん。
ちなみに、おっさんが持ってきたお金じゃコップ一杯分も飲めない金額のお酒でしたが、キースさんがサービスしてごちそうしました。資金面の世話になったのは事実だったので。
ただ、キースさんはおっさんが持っていた酒代(=十五年前に国からもらった報奨金)がいきなり消えたことを不審に思い、会話から探りを入れていきます。
雑談という名の事情聴取でキースさんがわかったのは、拾った子どもを鍛える過程でお金をバンバン使って金欠になった、ということでした。
おっさんの生活費と酒代(高すぎず安すぎない度数だけは高いお酒)に消えていた報奨金はまだ残っているはずでしたが、五年前からリリィちゃんの養育費にぶち込まれたため一気に消えていきます。
さらにこのおっさん、残る貯金全額リリィちゃんに渡してました。過保護か……過保護か? むしろ、今までの慰謝料とか考えたら妥当なのか?(作者が迷走)
ついでにキースさん、おっさんが逃げた(実際には追い出した)子どもに死なせた子どもを重ね合わせ、酒に逃げたくなったのだとも察します。軟弱な豆腐メンタルも幼なじみには筒抜けですよ。
おおかたの事情をつかんだキースさんは、前と同じようにおっさんの愚痴の聞き役になり、朝までお店に置いてあげました。そして、いつものように人目が少ない時間帯の早朝で追い出し、家に帰したと。
そう考えると、キースさんは十年くらいおっさんのウザいやけ酒に連日つき合ってたことになるのですから、かなり友達想いの優しい人ですよね。口は悪いですが。
・再会
とまあ、これでようやく冒頭に戻るわけです。時系列をイジるとお話がよくわからなくなりますが、短編だとこれが一番収まりがつくかなと思いまして。
冒頭でリリィちゃんがぶちかました一発は、おっさんを亡き者にするためではなく『私、こんなに大きくなりました!』という親への成長報告みたいなものです。……あれ、違う?
もう少し補足すると『これだけ強くなったから、あなたのそばにいても死なないよ』という、遠回しな『親子になろうよ』メッセージが込められています。
そう言えるまでの過程はいろいろありました。実力があるとはいえ推定10歳の子どもが冒険者として登録し、五年でここまで活躍するのは並大抵の道など進んでいなかったでしょうから。
当然、おっさんへの感謝を抱くまでの葛藤もいろいろありました。リリィちゃんはなんでもないように言いましたが、最後の別れはトラウマ級のストレスだったので、恨みから荒れた時期も当然ありました。
それはおっさんを(親子として)好きな気持ちの裏返しでしたが、リリィちゃん自身は気づかずたまったストレスは魔物にぶつけて解消して折り合いをつけていきました。実力も付いて一石二鳥。
一方で依頼のついでにおっさんのことも調べており、だいたいの事情がわかったのがおっさんと再会する数ヶ月前です。つまり、割と最近までおっさんから拒絶された本当の理由を知りませんでした。
で、リリィちゃんは確認の意味も込めておっさんに知っていることを話し、それでも自分はおっさんの娘になりたいとハグ攻撃をしかけます。
しかしここでもヘタレるおっさんはなかなか返事ができませんでしたが、結局リリィちゃんの『お父さん』で落ちました。こんなクズでも父と呼んでくれるのか、というある種おっさんを救う言葉だったのです。
で、ようやくおっさんはリリィちゃんの名前を呼びました。ついでに奥さんが身重だとカミングアウトし、リリィちゃんも知らなかった事実に驚きつつも嬉しくて涙を流しました。
だって、リリィちゃんはとっくにおっさんから『娘』と思われていたのだと感じることができたからです。おっさん、たまにはいいことする。
ちなみに以下は余談ですが、おっさんとリリィちゃんがいる王国は十数年に一回の頻度で王都に魔物が襲撃してくるように、国土が小さくて人よりも魔物の脅威が深刻な土地柄です。
詳しい設定はほぼありませんが、少なくとも飛べる系ドラゴンの出現で山脈が国境付近にありそうですし、おっさんがいた場所からして森からの侵略も多そうですね。
なお、リリィちゃんが討伐した魔物は最初ドラゴンでもいいかなと思ったのですが、短いスパンでドラゴンが襲うってどうよ? と思ったので曖昧な描写にしています。最悪、魔物の大群でもイイかなと思ったり。
他にもこの時、リリィちゃんの生家である公爵家当主が死んだはずの忌み子が『英雄』になったのは使えると、そのまま何事もなく家に迎えようとして無視されていました。
王族としても冒険者のまま野放しより貴族に引き込みたいという思惑から、褒美と称して貴族家の養子にでも出させようと思っていたのですが、まさかガン無視されるとは思わずフられます。
短編なので二人の世界だけ描写しましたが、外野の公爵はリリィちゃんの元々の名前を呼びながら『自分が父親だぞ!』的なことを叫んでいました。ちなみに『アレクシア』が公爵家での名前です。
まあ、その後『英雄』を不当にたぶらかした罪? としておっさんがガチで捕まろうとしたところ、親子二人三脚で王国の兵士を撃退し、辺境のおっさん家に帰ったのでした。
はい、いろいろ長いからカットした部分です。
・数ヶ月後
拙作なりの親子イチャイチャです。どうしてもリリィちゃんが甘えておっさんがデレる姿が思い浮かばなかったので、『喧嘩するほど仲がいい』スタンスになりました。
思春期とか反抗期とかを抜きにして、二人には『親子としての時間』が圧倒的に足りていませんからね。しばらくは正面から(物理的に)ぶつかるのではないでしょうか?
そして、おっさんにリリィちゃんを紹介されたキースさんは、すっかりこの親子のノリを理解しました。この数ヶ月でそれくらいの迷惑かけてますんで。
おっさんやキースさんが現在いる村は、彼らの故郷とは別の辺境の地ですが、世情に疎く『英雄』なんて知らないような人ばかりな寒村なので楽だったのです。
加えて、強力な魔物が侵攻する危険のある土地ですからおっさんが得意な荒事関係の仕事も多く、キースさんも冒険者相手の商売ができるので住みやすいという面もあります。
そこに国や血縁とのしがらみを捨てたいリリィちゃんも参入したわけですが、リリィちゃんはお酒よりスイーツ派なのでしょっちゅう隣国に行ってはお菓子屋さんを回ります。
家に買って帰るのはある程度保存が利いておいしいケーキですが、やけ酒を心配してリリィちゃんから節酒宣告を食らったおっさんはパクっと食べちゃうことが多々あります。
それが、もはや日課となった戦争シーンの原因ですね。
おっさんの家は村外れにありますが、離れすぎてはいないので騒音問題は結構深刻です。戦闘能力が高く知り合いだからと毎回キースさんが出張っており、親子ともども署名ビンタは三回ほど経験済みだったりします。
でもまあ、最後は依頼で魔物討伐数を競うという平和な解決法(?)を提示して終わるまでが一連のお約束なので、おっさんの家が崩壊することはギリないです。
ちなみに、完全に実力をリリィちゃんに追い抜かれたおっさんが、キースさんところで酒盛りをできた試しはありません。キースさんは徹夜がなくて嬉しい反面、お金が少なくて寂しい思いをしているのでした。
おしまい。
いかがでしたでしょうか? 本編でリリィちゃんの名前をほとんど出せなかったので、ここぞとばかりに出しまくってみました。ディクトさん? おっさんで十分でしょ?
前書きでも書いたように、本当なら作者がこれらの内容(裏設定をのぞく)を書かなくとも読者様に伝わる努力をしなければならないのですが、作品のプレゼン力が未熟な私の限界ですね。もっと精進せねば。
とはいえ、拙作における作者の蛇足&自己満足にまでつきあっていただき、ありがとうございました。
いや~、テンプレって本当に書くの難しいですね!
前に批判するような拙作を書いちゃってごめんなさい!!
※余談
拙作の執筆中、何気なくBGMとして音楽を聞いていた時の気づきです。
ゲーム原作アニメ・○イルズシリーズの○ビスED曲『冒○彗星』の歌詞が個人的に刺さりました。
作品全体のイメージと言うより、特におっさんから追い出された後のリリィちゃん視点で進む人生や心情に感情移入した結果です。
歌詞と重ね合わせたところ、かわいそうとか申し訳ないとかおっさぁーんっ!! とかなんかいろいろ感情が爆発し、気づけば涙腺堤防への破壊力が累乗しました。
ただし、これは作品で描写しなかった部分もある程度わかっている作者限定の効果です。
読者様にも同様かはわかりませんので、あくまで参考までに。