乙女ゲームに転生しました‼~イージーモード、謳歌します‼
超人気乙女ゲームアプリ『愛しの彼とのラビリンス』。
………実に何とも単純な名前である。
イケメンに囲まれ最愛の人を選ぶヒロイン、イリナ・トゥレッソン。
そして乙女ゲームに必ず存在する悪役公爵令嬢、エミリア・アルマーデン。
ヒロインに取っては最高のゲームで、悪役に取っては最悪のゲームである。
そして、このゲームに転生してしまった私は。
名前があるモブ、またの名を悪役令嬢の取り巻き、フレーニカ・シュベルツ侯爵令嬢であった。
「………お父様。
………………どうしても、ですか?」
「ああ。
………出来れば私もそんな場所に可愛いフレーニカを行かせたくないよ」
「………でしたら‼」
「すまないねフレーニカ。
これは避けられないんだよ。
他の貴族ならまだしも王家とアルマーデン公爵家のパーティーだからね」
申し訳なさそうにするお父様にこっちが申し訳なくなる。
「…分かりました。
あちらで、準備してきます」
萎れたまま私は部屋に戻る。
心配そうな侍女を追い出して、ベットにダイブする。
「どうして平民に生まれなかったのかしら………‼」
そう、今日のパーティーは私が悪役令嬢エミリアから声を掛けられる日であった。
………すなわち、私がエミリアの取り巻きになり、ヒロインの選択によって亡くなるきっかけを作る出来事である。
「ヒロインがエルリアを選びませんように………‼」
ちなみにエルリアというのはエミリアの弟で、黒髪に漆黒の瞳を持つかなりのイケメンである。
日頃は無口だがそのぶんヒロインへの愛情が深く、そのエルリアルートで私は様々な所で悪事をしていたエミリアの変わりに処罰されるというものである。
………姉弟愛は素晴らしいよ‼
でも、こっちに向けないでほしかったかな………。
また、私のオシはエルリアである。
「………こうなれば」
流石に今の今まで結末を知りながら怠けて過ごしてきた………わけではあるが、必要異常に近寄らない‼
そう心に決めた。
「ごきげんよう、シュベルツ侯爵令嬢」
………どうしてこうなった………ーーーーー‼
「ご、ごごごごきげんようエミリア様…」
私の目の前にいるのは、エミリア公爵令嬢。
銀髪がいろんな意味で眩い………‼
………そして、どうしてこうなった。
パーティーに参加した私はいち早く壁の花になったはずだった。
運よく攻略対象のクラリル王子と婚約者のエミリアが入場したことで私に注目する人はいなかったはずなのに。
おまけに、私はエミリアに話しかけていない。
………………そう、私は話しかけていないのだ。
ゲームではエミリアに近づこうとして話しかけるにも関わらず。
もしかして、私と同じ転生者………?
「本日は私と殿下の婚約パーティーに来ていただいてありがとう。
お相手の男性は見つけていらっしゃる?」
あ、ゲームキャラのエミリアだわ。
あのいや見たらしく殿下を強調しダンスの相手を値踏みする訪ね方。
間違いなくエミリアである。
ここでフレーニカはゲームでは相手がいないことをエミリアに言う。
するとエミリアはなんと弟のエルリアを寄越してきて………。
そして私がエルリアの目にとまり、エルリアルートでエミリアの変わりに死ぬのである。
「お父様と踊らせて頂きます」
ふ、私はここでお父様の名前を出すことでエルリアと踊るのを回避して見せる‼
「そうなんですの?
………エルリア、踊って差し上げなさい。
貴方もお相手がいないのだから」
「えっ………」
な、なんだと⁉
「姉上。
………それは気遣いですか」
「貴方にお相手がいないとなるとアルマーデン家の評価が下がるからよ。
………踊ってくれますわよね、フレーニカ嬢」
なんとー‼
「で、ですが私が次期公爵さまの相手というのは………」
「気にしないで頂戴。
ほら、シュベルツ侯爵も反対じゃないみたいだし」
お父様ー⁉
お母様をエスコートしながら嬉しそうである。
………私を公爵家に売ったなお父様よ‼
「私は殿下と踊ってきますわ」
豪奢なドレスを振り替えして去る悪役令嬢エミリア。
………私が考えていた以上にこのゲームの補正は凄いらしい。
「………フレーニカ嬢」
「え、はい………」
綺麗な声に魅了されて、私は差し出された手を握ってしまった。
………何やってんの私ぃ‼
こ、こうなったらダンスをさっさと終えて………‼
「ぃ………っ」
「………ァァァァァァ………っ」
やってしまった、やってしまった。
まさかの足踏みー‼
どんどん頭が白くなる。
処刑?処刑?処刑?処刑?処刑?処刑………………………
「………面白いね、あんた」
「は⁉」
「足は踏むし顔色はカメレオンみたいにころころ変わるし口空いてるし」
な、何⁉
こんなセリフはゲームに一度もー………………
「あんたなら退屈しないかもね」
ず、ずっきゅーん‼
可憐なエルリアの笑顔に心を撃ち抜かれた私は。
なんとも単純な人間であったらしい。
すっかりエルリアの虜になってしまったあの日から。
「イリナ様お綺麗ですねぇ」
ヒロインのイリナがクラリル王子を選んだことに安堵しつつ。
ウェディングドレスに見とれつつ。
「ふーん。
………………なら、あんたも着たら?」
「へ?」
「俺のとなりで着たらいいよ」
「も、ももももしかしてそれってプロポーズ………」
「さあね」
なんとも私のツボを撃ち抜く方である。
エルリアのプロポーズに号泣するのは遠くない未来の話。