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コキュートス  作者: 朧塚
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第一幕 極寒の刃が吹き荒れる地で。 3

-メアリーの回想。現実と過去の記憶の狭間。-


 メアリーは、記憶を振り返ってみる。

 本当は、もっと別の幸福を望めたのかもしれない。


 あのままの生き方で、ちゃんと生きる事を選択していれば、いつの間にか、それが幸せの形へと変わっていたのかもしれない。

 けれども、彼女は今の生き方を選択した。

 それは、もう、自分の衝動を抑え切れず、そうせざるを得なかった。

 決意した事を後悔する事なんて、出来はしない。

 それでも、自分が望んだものは変わらない。ただ、自分なりの幸福を模索しようとしただけなんじゃないのだろうかと。


「スフィア……何で、未だ貴方が憎くて堪らないのかしら? 憎んでいるのは、貴方の方がずっと上なんでしょうに」

 彼女は頭を掻き毟りたくなる。

「スフィア……、きっと、貴方はいつの日か。私を乗り越えて、私を忘れていくんでしょう。それがいいのでしょうね。それが、貴方の幸せなんだと思う……」

 多感な時期に受けた少女の傷は、塞がらないのではあるまいか。


 メアリーは、ぼうっと、虚空を眺めていた。

 自分は、弱いから、生きていた場所を抜け出した。

 弱いから、力を使わずにはいられずに、村の人々を虐殺した。

 少女に悪意という刻印を押したのだろう。

 弱いながらも、少しずつ前に進んでいくしかない。

 受け止めてやれなかったのは、何故なのだろう?

 嫉妬の焔が、胸を焼いて。自分ばかりが不幸なのだと思い続けてきた。

 今は、自分の弱さが齎した結末でしかない。


 それでも、後悔だけはしていない。

 後悔なんて、していない地点で生きなければならないし、戦わなければならない。


 憎悪を糧にして、自分はのし上がろうと願っている。


 どうしようもなく、それが安息に繋がるのだから。

 自分の未熟さは、何だったのだろう。

 まだ、答えは出ない。

 大いなるものに、縋りたい。

 きっと、それが自分にとっての希望になるのだろう。

 自分が、どうしようもなく、下らなく、つまらない人間でしかないのかもしれない。

 只の、世間知らずでしかないのかもしれない。

 それでも、今しかないと思った。

 二十になる前に、行動を起こそうと思った。

 けれども、二十を過ぎて、二年も経過してしまった。

 幼い頃からの望みは、もっと、広くて大きな世界を見る事だった。

 館の窓から見下ろしていた漆黒の大地は、自分の心を飲み込んでいきそうだった。

 自分は何の為に生きているのだと、強い懐疑心に襲われ続けた。

 みなには、死んで貰うしか無いのだろうと思った。

 自分の中にある怪物をコントロール出来そうにない。

 ある時、血塗れの雪兎を見つけた。

 その兎は、狩猟の弓矢の矢に当たって、怪我をしていた。


 矢が深々と刺さっていた、メアリーは、それを引き抜こうとする。

 すると、兎は徐々に、身体が動かなくなって、そのまま死んでしまった。

 その兎は、矢を引き抜いた事によって、余計に寿命を縮めてしまったのではないのだろうか。



 スフィアは、今も幸せにしているのだろう。

 それが、どうしようもなく、憎らしくて仕方が無い。


 あの無邪気な顔を見ていると、それが歪んでいく事を夢想している。


 どうしようも無い程の絶望を味わって欲しいと願っている。

 彼女はきっと、自分の誕生日を心から、愛しく思えて。自分が生まれてきた事に対して、祝福する事が出来るのだろう。けれども、自分には、それが出来ない。

 自分の人生は、呪われているのだと思ってしまう。

 自分の生は、悪夢のようなものなのだ。

 そうやったって、その観念から、抜け出せそうにない。

 自分が生きている事、自分が生まれてきた事を、喜ぶ事が出来ない。

 二十が近付くまで、ずっとそうだった。

 そして、二十を過ぎた後も、そうだ。

 メイド長の怒鳴り声、同僚達の忙しなさ、それが後、何十年も続くのかと思うと嫌で嫌で仕方が無い。そして、多分、結婚したとしても、幸福にはなれない。

 だからこそ、全員を殺害する以外に在り得ないのだと思い続けている。

 みなの死体を眼にすれば、否が応でも彼女は苦しみ続けるだろう。

 そして、ずっとどん底の下で生きればいい。

 どうすれば、スフィアを不幸にする事が出来るのだろうか。

 思い付く限りの思索を巡らせる。

 せめて、彼女が自分よりも遥かに不幸ならば、それでいい。それで、構わない。

 これから続くであろう、何十年もの下らない無為な人生も、スフィアが自分よりも不幸である事によって、自分の魂は救われる。


「私は権力を獲得する事なんて出来はしない。どうしようもない程に、その程度の人間なのだから。そういう程度に生まれ付いてしまったのだから」


 自分の夢が叶わないのならば、せめて、他人の夢も潰してしまいたい。

 スフィアは言っていた。

 素敵な理想の男の子に巡りあって、幸せになれればいいな……と。

 もう、数年も前に聞かされた、彼女の言葉だ。

 その言葉が、どうしようもなく、忌々しく思う。

 彼女の家庭は、貧乏だが、無数の可能性に恵まれている。

 それが、どうしようもない程に、赦せなく妬ましい。


 自分は日陰の人間のままで、せいぜい、後、数十年頑張って、領主辺りから認められて。どんなに頑張って生きたとしても、メイド長という地位で、後輩などを叱り付ける日々を続けて、そして、大して好きでも無い男性と、たまに出会って、下らない雑談を交わして。そうやって、生涯を終える事になるのだろう。


 けれども、スフィアは違う。

 彼女は、きっと何だって出来るのだろうから。

 まるで、翼を広げて、何処までも飛んでいける鳥のようなものなのだから。

 そして、自分よりも、数年も年下なのだ。

 だから、可能性は、更にその数年分、広がっている。

 もう、二度と会わない方がいいのかもしれない。

 顔を思い出すだけで、はらわたが煮えくり返ってくる。

 自分は何の為に、生きているのだろうと、空しく思わずにはいられない。

 衣食住が、こんなにも保障されているのにも関わらず、全然、幸せになれない。

 きっと、彼女はもう、好きな人に巡り合えて、幸せな恋をしているのかもしれない。

 そんな事を思い浮かべるだけで、掃除の最中など、憎しみが膨れ上がってくるのだ。


 自分と他人の差異が、何故、こんなにも自分を苦しめるのだろう?

 可能な限り、スフィアの不幸のヴィジョンを思い描いた。

 あんな風に、酷い目に合えばいいだとか。死ぬまで、ろくでもない一生を送ればいいだとか。

 スフィアに出会わなければ、自分は自分の人生を肯定出来たのだと思う。

 彼女の誕生日を思うと。とにかく、酷い災厄に合えばいいと願ってしまう。彼女の誕生日が来る度に、最大限の不幸に見舞われればいいと願っている。

 きっと、街の男達に囲まれて、わいわいとやっているんじゃないのだろうか?

 そんな風に、無邪気な顔の彼女をイメージしてしまう。

 どうしようも無い程に、憎くて、彼女の似顔絵を描いては、刃物で切り刻んでしまおうかと考えている。


 何故、自分は報われないのだろう。

 それが、どうしようもなく、納得がいかない。

 全部、自分の妄念が生み出した幻想なのだとしても。

 自分の力は、幻想を形に出来るものだったらいい。

 少しずつ、自分の力の輪郭が、はっきりしてきた。

 イメージを形にしたい。

 幻想を具現化させてしまいたい。

 メアリーは、自分の力が何であるのか、少しずつ、分かってきたような気がする。


「……スフィアも、きっと、私と同じような力に目覚めるのかしら?」


 そんな事を、ふと思う。

 考えたくない事実だ。

 自分よりも、優秀な力だったら、本当に最悪だと思う。

 時計の秒針の音が、酷く煩わしい。

 何故、時間は流れ続けるのだろうか。

 時間というものは、可能性を奪っていくものなのだろう。

 ちょうど、三年前に彼女にしてやった事を後悔している。

 その時の彼女は、とても嬉しそうだったのだが。今は、その時の彼女の笑顔を、ズタズタに引き裂いてしまいたくなる。

 自分の嫉妬の焔は、いつになれば消えるのだろうか。

 あの少女の殺害によって、それは為されるのではないのだろうか?

 どうしようもなく、幸福と不幸の量の差異に狂いそうだ。

 自分は、少なくとも、幸福を感じていない。

 そして、あの少女はとてつもなく、幸せそうに思えて仕方が無い。

 風の音が鳴っている。

 鼓膜の奥底に染み渡り、全身が震え出してくる。

 何か、遥か遠くの異界からの声が、聞こえてくるような気がした。

 自分は街中を徘徊して蔑まれるホームレスや、娼館の人間などよりは、遥かに恵まれている。それでも、自分は今の自分の生活を憎まずにはいられない。


 自分よりも、不幸な人間の存在が幾らいたとしても、自分が彼女よりも不幸なのは、屈辱以外の何物でもない。

 だから、今の地位を捨て去ろうと思った。

 彼女よりは、絶対に幸福になってみせる。

 それだけは、自分自身に強く誓っていた。

 ただ、どうしようもないくらいに、自由を欲しているのだと思う。

 この辺りに満ちている宗教観によると。

 神様は、与えられた今の自分の人生を大切にするべきだ、と問いている。

 そんなもの、苦痛でしかない。だから。

 信仰を捨て去ろう。

 自分は、神に背いて、今の自分から抜け出そうと思う。

 彼女は、右手を振り翳す。

 右手の中には、ぼうっと、漆黒の焔が燃え始めていた。

 これは、自分だけが見える幻覚だ。

 しかし、壁にそれを近付けると。壁が、じわっと、焦げ始めた。

 それから、物が焼かれた臭いが充満していく。

 メアリーは、この力に戦慄を覚えている。

 どうしようもなく、溢れ返ってくる弱さが、自分の心を絶望の底へと突き落としていく。

 一体、自分の人生は何なのかと思ってしまう。

 たとえ、たった数キロ先の地区に、どうしようもないくらいに、飢えによって苦しむ者達が何名いようとも、自分の幸福や不幸とは関係が無い。


 邪悪な儀式を始めよう。

 それには、無数の生贄が必要なのだ。

 スフィアが、自分よりも、ほんの少しだけでも、ずっと不幸であればいい。

 それだけで、自分が生まれてきた意味があるような気がするのだ。

 他人の不幸を願う事で、自分が幸せになれる。

 それを信じて、生きていくしかない。

 信仰という名前の、巨大な建造物は、みな、形にして残したがる。

 自分には、権利がある筈なのだ。

 幸福になる権利がだ。

 メアリーは、ふと、この世界そのものが幻覚で出来ているんじゃないのかと思った。

 全てが虚像の世界なんじゃないのか?

 この力を手にしてから、そういった懐疑心も強く出てきてしまった。



「スフィア。貴方はきっと、これからの人生において。素敵な男の人と巡り会って、素敵な恋をして。子供なんかも、育てるのかもしれない。そして、私の記憶は過去の物となって、私は置き去りにされていく」

 彼女は、眼に映るもの全てに対して、憎しみを覚えてしまっていた。


「スフィア。私を殺害して、前に進むべきね」


 教会の鐘の音が耳に聞こえてくる。

 スフィアは結婚式を挙げている。相手の男性は、とても美青年で、性格も良く、地位も財力も持っている。そして、彼女のお腹の中には、すでに、彼の子供がいる。

 スフィアはとてつもなく、幸せそうだ。

 自分はそんなに好きじゃない男とつまらない家庭を築いている。

 そして、これから先、ずっと続いていくであろう重荷でしかない人生が待ち受けている。

 耐え難い程の屈辱と絶望ばかりが、目の前にはあった。

 しかし、こうも思うのだ。

 スフィアは貧乏な生活の中から、抜け出す事が出来るのだろうか。

 もしかすると、生涯、彼女は貧困の中で生きていくのかもしれない。それ程、幸せでも、極端に不幸でもなく、つまらない人生を送っていくのかもしれない。

 自分は、一体、どちらを願っているのだろう?

 ふと、思ったのは。

 幸福になりたいと願っているうちは、まず幸福ではない。

 幸福を感じているのは、きっと、幸福を意識していない時なのだろう。



 メアリーは、ルブルと出会った時の事を思い出す。

 …………………………………………。


 伝承にある通りに、グラニットから数キロ先も離れた真っ黒な森の中へと向かった。

 メアリーは森の中に入り込んで、少しだけ、薄気味悪い思いをした。とてつもなく真っ暗で、ランタンの明かりが無ければ、とても森の中を進めそうにない。

 蝙蝠なのか、梟なのか、奇怪な声を放つ空飛ぶ生き物が木々を飛び回っている。

 遠くでは、狼の遠吠えが響いている。

 そこは、大きな樹木だった。

 樹木の中央には、洞窟があった。

 メアリーは、洞窟の中へと入り込んでいく。

 ことり、と何かを踏んだ。

 見ると、何かの生き物の頭蓋骨だった。

 メアリーは、自分の指先から、幻覚を作り出していく。

 それは、小さな炎だった。

 その明かりで、洞窟の中を進んでいく。


 メアリーは息を飲んだ。


 確かに、そいつはいた。

 樹木に絡まりながら、そいつは漆黒のドレスを纏って眠りに付いていた。

 一体、いつからそいつはそこにいるのだろう。

 綺麗で整った顔立ちの美少女だった。

 最初に見た時は、人形か何かだと思った。


「貴方、死んでいるの?」


 メアリーは、おそるおそる、その少女に話し掛ける。

 答えは無い。

 指先で、思わず、そっと頬を撫でてみる。

 すると、体温は無く、酷く冷たかった。

 本で読んだ内容を思い出す。

 眠りに付いている魔女は、語り掛けるものの呪詛によって、蘇るのだと言われている。

 そして、その本は、目の前で眠っている魔女本人が書いて、後世に残したものらしい。


「呪詛……?」


 メアリーは、スフィアの顔を思い出す。

 純粋そうで、みんなに好かれそうな顔だ。

 きっと、彼女は幸せになれるのだろう。

「私は、スフィアが嫌いだ。何もかも、彼女の全てを壊してしまいたい」

 …………あら、そうなの?

 何かが、耳元で語り掛けてきた。

 洞窟の中が、揺れ動いている。

 メアリーは、急いで外に出る。

 途中で、ランタンを落としてしまったが、幻影の炎だけで外に脱出した。

 そのまま、洞窟の中で、岩の下敷きになったのかもしれない。

 やはり、伝承なんてものは嘘だったのだろう。

 馬鹿馬鹿しい。

 しかし。…………。

「私が、化け物になればいいだけの話……」

 ごと、と、何かが転がる音がした。

 …………あら、貴方も化け物なの? 私もって事かしら?

 メアリーは振り返る。

 そこには、雪のように純白の肌をした、人形のような顔の、真っ黒なドレスの少女が佇んでいた。

 両目は、深い邪悪さを称えている。

 凍えるような気温の中、薄着で平気で佇んでいる。


「貴方が、ルブル?」

「そう、私が魔女ルブル」

 魔女は、大きく欠伸をする。

「あら、貴方にお聞きしたいのだけれども。今年は星の歴史の下で、何年なのかしら?」


 メアリーは、今日の年を告げる。

 少女は少し、困惑したような顔をする。

「そうなの? 私、酷いお寝坊さんね。もう、四百年近くも眠っていたの。けれども、貴方、よくこの森に近付く事が出来たわね。たとえ、戦争が起きようとも、歴史が移り変わろうとも。この森に近付く事は出来ないようにしといたのだけれども。もし、森に近付く事が出来るのは、私と同じような望みを持っている者だけなのだから」

「ルブル」

 メアリーは言った。

「私、貴方に仕えたい。私、今、この地方の領主の下で、メイドをやっているのだけれども。私は貴方の下で、メイドをやりたい。何でも言う事を聞くから、私を今の場所から連れ出してくれないかしら?」

 ルブルは不思議そうな顔をする。

「何故、私なんかと一緒に? まあ、いいわ。せっかく起こしてくれたんだから、貴方の望みを叶えて上げる。それにしても、私は以前のように自分の力を使う事が出来るのかしら?」

「ルブル様、って呼んだ方がいいかしら? もっと、敬うように呼んだ方がいい?」

「それは、堅苦しいから止めて欲しい」

 黒い少女は困ったような顔をしていた。

「私の堕落の力が戻らない。少しずつ、戻っていくと思うけれども、やっぱり、四百年のブランクは大きいわね、そうだ、貴方、何てお名前?」

「メアリー」

「そう、じゃあ、私の下で仕えてくれないかしら? 私の力の復活には時間が掛かる」

 ルブルは樹木の一つに触れる。

 おおぉぉおおおおぉおおぉぉっ、と、奇妙な音が鳴り響いていく。

 すると、樹木はぐしゃぐしゃと変形していく。

 メアリーは、地面を眺める。

 蟻が集っている甲虫の屍骸があった。

 甲虫の屍骸が、ぶしゅっ、ぶしゅっ、と粘液を吐き出しながら、ゆっくりと脚を動かし始めた。

 辺りに転がっている、獣の骨ががたがたと動き始める。


「メアリー、私の力を知っているかしら?」

「……知っているわ」

「そう」


 蟻が集っていた甲虫が立ち上がって、蟻を食べ始める。

 そして、獣の骨も立ち上がり、周囲にある土をぐちゃぐちゃと噛み砕き始めた。

「そう、死者を蘇らせて、好きなように操る事が出来る。真っ黒な魔法を使うようにね」

 この森は、まるで魔女の饗宴と化していた。

 死者達が、うぉぉぉぉん、と唸りながら、踊りを踊っている。

「私の力はまだまだ不完全。それまでメアリー、私を守ってくれないかしら?」

 メアリーは頷く。


 その数日後、メアリーはグラニットの街を、自身の能力マルトリートによって焼き尽くす事を決断した。それは、ルブルからのアドバイスでもあった。

 やがて、街を燃やした後、彼女はルブルと合流する。…………。



 ルブルは、グラニットの街から、遥か西の方へと向かっていた。


 彼女は、大地に向かって、何かを囁いていた。

 メアリーは息を飲む。

 ぼつり、ぼつり、と大地から、大量の腕が這い上がっていく。

「此処は、墓場よ。みんな、氷漬けにされているから、腐らない」

 ぶよぶよとした白い皮膚の上に、かさかさの布が覆っている。

 死体達だ。

 死体達が、動き回っている。

 暗黒の儀式が行われていた。

 しゅうぅぅ、しゅうぅぅぅ、と死者達の声が、空中にも響き渡っていた。

 黒い雲が、空一面を支配していった。

 ルブルは、人の声ではない声を呻き続けていた。

「此処が私の城となる。ふふふっ、ねえ、メアリー。此処が多分、この地上で一番、天空に近くなると思うの。何よりも、荘厳で、何よりも傲慢な城を作りたい」

 ルブルは拳を強く握り締める。

「私はまだ、完全じゃない。私は力を復活させなければならない」

 巨大な何かが、完成していく。

 それは、彼女が住まう御殿なのだと言う。



挿絵(By みてみん)


挿絵・桜龍様



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