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コキュートス  作者: 朧塚
23/33

第五幕 亜空の城の迷宮都市 2

 スフィアと水月は、魔女の城の中へと入り込む。


 正面玄関からの突入だった。誰か門番がいるかと思ったのだが、そうでは無かった。今の処、無人だ。

 酷く不気味な印象を漂わせていた。

 ぐるるるるっ、と獣が戦慄いているような声が聞こえる。


「水月さん、私、怖いです……」

「さて、此処には何が潜んでいるのかな?」

 二人は辺りを慎重に見回していた。


「とにかく、警戒は怠らない事だな。いつ、どんな事が起こるのか予想が付かない」

 スフィアは首を縦に振った。

 それにしてもだ。此処はやはり、何か霊廟のようなものを感じる。実際に、そうなのではないのか。

 ひたひたと、何処かで足音のようなものが聞こえてきた。

 二人は廊下を慎重に進んでいく。

「何か、得体の知れないものが呼吸しているのかな?」

 水月は言う。

 スフィアは右手にあるナイフを強く握り締めていた。いざとなったら、これで立ち向かえと水月に言われている。

 勇気を出して、立ち向かわなければならない。

 間違いなく、化け物が現われるのは分かっている。

 だが、何だか、警戒が薄いような気がしてならない。

 水月は、ドアの一つを開ける。


「ああ、これ見てみろよ」

 スフィアはドアを覗き見る。

 すると、中には無数のゾンビ達が部屋の中に横たわって、息を潜めていた。

 すぐに、扉を閉じる。


「仕方無いなあ。ゾンビを相手に戦っても、面倒臭いだけだろうからなあ」

「ええ……、私、やっぱり、少し怖いです」

「なれるさ、どんな苦難にも。それに私が付いている」

 スフィアは水月が頼もしく思えた。確かに、彼女が傍にいれば、どんな相手が現われてでも、何とかなりそうな気がした。

 ひたひたひた、と。

 何者かが近付いてくるような音が響いてきた。

 水月は楽しそうな顔をしていた。スフィアの顔は酷く強張る。

 どんな化け物が、この通路の先で待っているのか分からない。

 戦うとはどういう事なのだろうかとスフィアは考えていた。

 取り敢えずは、とにかくは前に進むしかないのだと思った。

 ナイフを強く握り締める。もし、敵が現われたら、これを突き立てよう。

 どうせ、相手はゾンビか何かだろう。……メアリーと戦う事なんて、余り考えられなかった。

 しばらく、廊下を歩いている。

 すると、何かが後ろから追ってきているように思えた。

 スフィアは振り返る。

 背後には、何もいない。


「水月さん……私、とても怖いです」

「まあ、頑張れ、としか私は言えないかな」

 水月はやはり、かなりの余裕がある。

 多分、どんな化け物が現われても、彼女ならばあしらえるんじゃないのだろうか。

「私、水月さんの“能力”見てみたいです」

「そのうち、見せるよ」

 水月は淡々と言った。

 音が聞こえた。

 とーん、とーん、と、やはり何かが背後から迫ってきていた。

 スフィアは振り返る。

 通路の奥にある、部屋の一つが開いている。そして、その部屋から、何かがはみ出していた。

 スフィアは不安に負けて、その部屋へと近付いた。

 ナイフを慎重に振り翳す。

 そして、扉を左手の方で、そっと触れる。すると、扉がぼろぼろになって崩れていく。右手だけではなく、左手でも水月がグリーフと名付けた力は使えるみたいだった。

 扉に穴が開く。中を覗き込める程度の穴だ。スフィアは穴から、部屋の中を覗き込む。

 中は暗い。しかし、徐々に目が慣れてくる。

 彼女は息を飲んでいた。

 それは、ネズミの怪物のようだった。

 別のネズミを頭から齧っていって、背中から、幾つものネズミの顔が浮かび上がっている。ばたばたと、背中から、蝙蝠の翼を広げていた。尻尾からは沢山のミミズが生えて、うねうねと動き回っている。

 ……あれも、ゾンビなの?

 彼女は足が竦んで、動けなくなりそうだった。


「スフィア、上の階へと続く階段を見つけたぞ」

 水月は言う。

 どうも、この城の中は迷路のようになっている。多分、この城は好きなように形を変える事が出来る為に、どのように組み替えても大丈夫なのだろう。

 どしゃり、と。上の階から、大きな物音が鳴り響いていた。

 水月は気にもせず、上の階へと向かっていく。


「さてと、何が出てくるのかな?」

 スフィアは、怪物ネズミのいる部屋を離れて、即座に水月の下へと向かっていく。

 二人は階段を登る。

 すると、今度は大広間に出た。

 辺りには、霧のようなものが漂っている。

 そして、壁には幾つもの絵画などが立て掛けられており、鎧などが置かれている。

「ああ。スフィア、拙い事になるかもしれないぞ」

「何ですか?」

「此処は、敵からかなり見られやすい場所になっている。余り、此処にはいない方がいい。多分、とっくに私達が侵入した事は気付かれているとは思うが。…………」

 水月とスフィアは、驚きの表情を浮かべる。

 鎧の一つが、かたかたと動き始めると、中から、ぽろぽろと鎧が外れていく。最初に外れたのは腕の部分だった。それは青白い腕だった。次に外れたのは右足だ。剥き出しになった腕と足は膨張して、巨大化したかと思うと、鎧がどんどん脱げていく。

 中から現われたのは、複数の人間を合成して出来た怪物だった。

 怪物は、ふしゅううぅぅぅという音を発しながら、二人を見つめていた。


「お前は?」

 水月は訊ねる。


「俺はダンダルガル。ここの大広間の守護者だ。此処は、ルブル様が用意した決闘場だ。ちょうど、お前らのような侵入者を処刑する為に、城の中でわざわざ作られた場所だ」


「ふうん、面白い事をしているんじゃないか。ルブルって奴も」

 水月は楽しそうな顔をしていた。

 ぱち、ぱち、と掌を開いては、閉じるという謎の仕草をする。

 ダンダルガルと名乗った怪物の肉体が膨張していく、筋肉が隆々と膨れ上がり、身体の中から、無数の骨が飛び出していく。そして、彼の全身から目玉や腕、脚などが生え出してくる。


「スフィア、あれは私が何とかする」

 水月は楽しそうな顔をしていた。

 まるで、暇潰しに、新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。

 スフィアは息を飲んでいた。やはり、まだ悪夢の中を彷徨っているのかと思った。

 いつの間にか、怪物は身体から生えた複数の手足に、剣や槍などを持っていた。もしかすると、身体の中から取り出した物なのかもしれない。

 水月は微動だにしなかった。

 スフィアは、この場にいるのが苦しくなって、階段の辺りへと戻る。


「ああ、スフィア。今のお前じゃ、この大広間に来るのは、確かに無理だ。後ろに下がっていろ」

 そう言う水月は、何の戦闘態勢にも入らない。

 怪物は、無数の武器を持って、水月の下へと突進してきた。

 水月は。

 腕を組んで、怪物の動きを見守っていた。

 怪物が、水月の身体に向けて、武器を叩き込む。

 スフィアは、その光景を目で追い切れなかった。

 一体、何が起こってしまったのだろうか。スフィアにはまるで分からなかった。

 怪物の半身は、何かによって、綺麗に刳り貫かれていた。

 おそらくは、水月は何らかのアクションを起こしたのだろう。


「ふぐぅ? ふぐぐぐっぅう? な、なん、何を、何をした?」

 そう言いながら、身体半分となった、ダンダルガルはよろめきながらも、消滅した箇所の肉を盛り上げて、再生を行っていた。


「なあ、質問があるんだが」

 水月は淡々と訊ねる。


「お前らはどのような原理で生きているんだ? 魔女ルブルは、お前らをどのように操っているんだ? 不死の肉体を持つゾンビと言っても、その原理は様々だ。そして、お前らはどのような風になっているんだ? 見る処によると、別の物質と融合しているように思えるんだが?」

 ダンダルガルの体内から、弓と矢が肉を突き破って出現する。

 そして、矢を水月に構えて、打ち込んでいく。

 水月は、矢を、あっさりと右手で掴んで払い除けた。

 巨体のゾンビ、ダンダルガルは後ろへと後ずさりする。

「ルブルに、用がある。再会しに来たぞ」

 ゾンビはぐぅぐぅと、唸り声を上げていた。

 かたかたかた、と。絵画などが揺れ動いている。

 中には、ドレスを着た貴婦人や、農夫、法律家、哲学者、国王、様々な地位と、様々な時代背景の者達が描かれている。その者達が、表情を露骨に動かして、全員が水月の方を向いていた。

 そして、みな、一人一人が、絵画の中から、這いずり出してくる。

 水月は、下らなさそうに、その光景を眺めていた。


「まあ、お前らごときに私を倒すのは無理だ。さっさとルブルに会わせて貰おうか?」

 絵画から出てきた者達は、手に手に、剣や弓矢、斧や短剣、鍬などを持って、水月に襲い掛かろうとしていた。

 スフィアは階段の処で、首だけ伸ばして、その光景を眺めていた。


 ……水月さんが危機に陥っているように見えるのだけれども、これって危ないのかな? でも、水月さん、あの大きな化け物相手に平気だったし。…………。

 能力者がどんな存在なのか、スフィアは知ってみたいと思った。

 メアリーが街を火の海にしてから、異常な現象にばかり出会っている気がする。そして、これからも、その異常な出来事は沢山、続いていくのだろう。スフィアは慣れなければならないのだと思った。今、見ている光景を現実のもので、自分が立ち上がって生きていかなければならない世界なのだと。

 水月は、まるでスフィアに手本を見せるかのような戦い方をしてくれた。

 彼女は、素手で、敵の剣や斧などでの攻撃を捌き切っていた。

 特別、水月が、何か武術の類を学んでいるわけではないんだろうなあと、スフィアは漠然とだが思った。武術なんて、遠くの国の歴史を記した本に書かれていたものを昔、読んだくらいなのだが。

 水月は、まるで風が流れるように、自然に、敵の攻撃を受け流していた。

 もしかすると、彼女からしてみると、敵の動きなど、極めて遅く映っているのかもしれない。うさぎが早く走れるように。相手の動きを、完全に見切ってしまっているのかもしれない。

 そして、水月が相手を軽く掌で触れたりすると、相手は粉微塵になって崩れ去っていく。

 スフィアは、彼女が一体、何をしているのか、理解に苦しんだ。


 ……何なのだろう? 水月さんの使っている魔法は。水月さんは、本当に何者なのだろう?

 考えれば、考える程に分からない。


「ふうん、やっぱり、ルブルっていう奴は大した事が無いな? 私はほら、お前らに対して、“撫でているだけ”に過ぎないんだぞ?」

 巨大なゾンビは、水月から離れた場所で、それを見ていて呆けたように立ち尽くしていた。圧倒的な力の差。それはどうしようもなく、歴然としていた。

 今度は、天井から、何かが降り注いできた。

 水月の周辺に、それらの物が落下していく。

 それは、どうやら、変な液体のようだった。

 液体が降り掛かった処の床は、どろどろに溶解していっている。

 水月に向けて、その液体の雨が降り注いでいく。

 しばらくして、水月は傷一つも、服の破損一つもなく、佇んでいた。

 奇形的な巨人ダンダルガルは、大きく悲鳴を上げると、彼女を背にして走って逃げようとしていた。水月は、指先を巨人へと向ける。

 水月は、指先を軽く弾いていた。


 瞬間。

 巨人の身体に大きな穴が、幾つも開いていく。そして、瞬く間に、巨人の体躯は粉微塵に吹っ飛んで、空気の中へと溶けていってしまう。

 スフィアは、水月の戦いぶりを見て、完全に絶句していた。


「な、な、な、何者なんですか? 水月さん、貴方は……?」

 水月はスフィアに視線を向けると愉悦を浮かべた唇で言う。

「私か。私は“背徳者”。神に背く者だ。もっと分かりやすく言うならば、もはや、他の者達よりも逸脱し過ぎてしまった能力を持つ化け物だ。まあ、私のような存在を人は悪魔と呼ぶのだけれどもな?」

 彼女は、何処か、自嘲的なものを含めて言う。

 スフィアは水月の言っている事を理解する事が出来なかった。

 ただ、要するに、私はお前の想像を絶するような化け物なんだ、と言っているのだという事は分かった。


「水月さん…………」

 彼女が何者かなど、どうでもいい事なのかもしれない。ただ、スフィアは彼女を信じようと誓っている。

 これから、自分もちゃんと戦わなければならないのだ。

 だから、彼女の行動の一挙一動を見習わないといけないのかもしれない。

「私、どうすれば、水月さんみたいに強くなれるんですか?」

 スフィアは訊ねた。

 水月は、楽しそうな笑みを浮かべる。

「さあて、そのうち、お前も強くなるかもしれないぞ? じゃあ、先へと進もう。この先に、魔女とお前の親友が待ち構えているのだろうからな?」



 まるで、矢のように、氷の刃を幾つも黒服の男へと飛ばしていく。

 黒服の男ワイズは、その刃を、身を翻しながら、かわしていった。

 メアリーは、刃を撃ち込みながら、階段を駆け上っていた。

 階段の先には、ローザの城が聳え立っている筈なのだ。

 彼女は次々と、新しい幻影を生んでは、ワイズへと攻撃し、同時に自身の身を守っていく。

 メアリーが取った戦略は、おそらくは敵の能力である蝋燭の焔による死の宣告を無視する事だった。

 おそらくは、後、十数分後くらいに、自分の命の鐘の音が終わりを告げるかもしれないが。その前に、ローザ達を全員、始末する。そのような心意気で行動を起こしていた。

 そんなメアリーの行動に対して、能力を仕掛けたワイズの方は困惑したみたいだった。

 まさか、自分の命を顧みない選択を取られるとは思わなかったみたいだった。


「やはり……、君は相当にクレイジーなんだね。おかしいとしか思えないっ!」

「さあて、どうなのかしらね?」

 氷の弾丸を、幾つも幾つもワイズへと撃ち込み続ける。


 ワイズは追ってくる。

 ワイズは気付く。

 辺り一面が、熱を帯びている事にだ。

 いつの間にか。

 ワイズの全身が発火していく。

 メアリーは、今度は周囲に焔を撒き散らしていた。

 ワイズは、必死になって、彼女に追い付こうと走り続けていた。


「ははっ? この僕が解除しないと、僕の能力であるフューネラルが君の命を奪うぞ?」

「ふん、その前に貴方のとこの君主を倒させて貰うわ」

 もはや、頂上は近かった。

 メアリーは、不思議と身軽に階段を走り続けていた。それも、飛び跳ねるように。

 彼女は、足元に風の幻影を作り出す事によって、自身の身体をかなり身軽なものへと変えていたのだった。

 そして、頂上。

 そこには、ローザの城が聳え立っていた。

 どくん、とメアリーの心臓がまた弾けそうになる。


「さてと」

 彼女は、背後を振り返っていた。

 そして、辺りを見回して、姿を現していない誰かに向かって問い掛ける。

「あの男は、私の力を様子見したいだけなんじゃないのかしら? 噛ませ犬もいい処ね。少しは可哀相だとは思わないのかしら?」

 虚空から、声が返ってきた。

「思わないよ。それに、一応、彼もそれなりの手練だとは思っているけれども。やっぱり、君は中々の強敵なんだよ。以前の氷帝の報告よりも、より強力な能力者に成長しちゃっているみたいじゃないか。やっぱりね」

 そう言って、城の城門の辺りに、渦のような空間が出来て、一人の少年がその空間の中から姿を現した。

「貴方は何と言うのかしら?」

「ああ、僕の名前はヘリックスと言う。事実上、ローザ様の側近で、片腕のような者だよ」

「ふうん? 凄いわね」

「もっとも、騎士団長だの大臣だの、これといった地位は持っていないけれどもね。強いて言うならば、作戦参謀って処かな?」

「あら、じゃあ、ルブルにとっての私と同じようなものね」

 メアリーを追ってきた、黒服の男、ワイズも頂上にまで辿り着く。

 彼の身体には、幾つも擦り傷が出来ていて、メアリーを恨めしげに見ていた。

 メアリーは彼をろくに見ずに言う。


「処で、後ろの奴の能力って、解除されるのかしら? 私は後、数分くらいで、死ぬんだっけ?」

「そうだねえ。君は後、数分くらい放置していれば死ぬよ。彼が意識を失ったりしない限りねえ」

 ヘリックスはへらへらとした顔で、メアリーに笑いかける。


「あら、そう」

 ワイズは、隙ありとばかり、精一杯の拳を振り上げて、メアリーに襲い掛かる。

 既に、メアリーの能力は完全なまでに発動していた。


 天空で作られていた巨大な氷の岩石が、流れ星のように、ワイズの全身に向かって降下していく。ワイズは咄嗟に、防ごうとするのだが、その数が余りにも多過ぎた。そして、降り注いでくる氷の岩石は、徐々に巨大な物へと変わっていく。

 ワイズは、気付けば、宙を舞っていた。そして、そのまま階段の下へと勢いよく転がっていく。その間にも、追撃として、メアリーのマルトリートの攻撃は続いていた。更に、ワイズが落下する地点の辺りは、小さな焔の柱が燃え立っていた。


 溜まらず、男は盛大な悲鳴を上げる。

 メアリーは、ヘリックスを注意深く見据えている。

 そして、しばらくの間、心臓が何とも無い事に気付く。


「あらあら、さっきの奴。それなりの手練だったんじゃないのかしら?」

「まあ……君が強過ぎたみたいだね」

 そう言って、ヘリックスは笑う。

 そして、しばらくの間、お互いを睨み合っていた。

「それにしても、堂々と君はこの城にやってくるんだね。氷帝と戦った時もそうだったらしいんだけれども、威勢がいいというか、何というか……」

「まあ、どうせ、私は自分の命の価値だとか、意味だとかが分からないから。なら、いっそ面白おかしく挑んだ方がいい。それじゃ駄目かしら?」

「ふふっ、それはとてつもなく素敵な思考回路なんだと思うよ?」

「じゃあ、処で。今度は貴方を倒して、城の中にいるローザを殺害しようと思うのだけれども、どうかしら?」


 二人の間で、しばらくの間、沈黙が訪れる。

「残念だけれども、僕にはそれ程の戦闘能力は無い。それから、ローザ様も、女相手にはドゥーム・オーブを中々、使う事が出来ない。僕はワイズが何とかしてくれるんじゃないかという淡い期待もあったんだけれど、やっぱり駄目だったみたいだからねえ。一応、あの男、あれで兵団長もしていたんだよ? もっとも、今は格闘技術を教える身に専念していたんだけどね。……やっぱり、僕は能力者は嫌いだよ。平気で、常識を破壊してしまう奴らだからね?」

 メアリーは額を指先で軽く掻く。

「まあ、それは貴方は御自身の死を潔く、受け入れる、という答えだと受け取ってもいいのかしら?」

 ヘリックスは首を横に振って、両手をひらひらとはためかせた。

「僕は君と戦うつもりは無いよ、頼むから、そんな険のある目で見ないで欲しいかな」

 そして、含むように彼は笑う。


「ローザ様に会わせて上げるよ」

 女帝の側近は、唇を三日月型に歪めた。



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