危機
「お兄様おやめください」
「レナそんなやつをかばう必要なんかない」
「この方は、私の恩人です」
「そんなやつがオーク数体と渡り合えるはずがない。あの中にはオークキングもいたんだぞ」
「ですがこの方は⋯」
殴られて呆然としている俺の目の前で二人の言い争いが聞こえる。レナの兄のようだが⋯。痛みを抑えながらただ茫然と見ているだけであった。
「⋯この方は怪我をされていたのですよ」
レナは俺をかばいながら兄に向かい怒りの声を上げた。だが兄のほうもそれにひるむことなく、俺に指をさしながら怒声を上げる。
「いいかお前、今のわれらにお前事気にかまう時間も、養う飯もない、さっさと消えろ目障りだ」
「お兄様!!」
そういうと体を翻し外に出ていく。
「レナ、俺達には余裕なんか残されていない。そのことを忘れるな」
静寂が漂う。何が起こったかあまり理解できなかったが、自分がこの集落での厄介者であることだけは分かる。しかし、レナは気にしないでとばかりに微笑み、
「申し訳ありません、本来であれば、もてなすはずのあなたにこのような仕打ち。今私たちは窮地に立たされていて、気が立っているのです。必ず兄にはリュウ様がいていただけるように話しますので。巻き込んでこの仕打ち、大変申し訳ございません」
この集落もいずれは襲われる。その時に邪魔になっているのか。
「気にしないでくれ。弱いのはよく知っているから」
「ですが⋯」
「あの、オーク?に勝てたのもたまたまだし。明らかにただ飯ぐらいになるのは分かっている」
そう、あの時はなにか不思議な力が湧いてきた。なぜか周りの気配がわかったし、いつも以上に動くことができた。痛みにもがまんできたし、きっと火事場の馬鹿力てやつだろう。今は普段の状態だ。
「弱くて済まない、君をたくさん傷つけた」
「あれは!⋯、私が勝手にやったことですあなたに責など一切ありません」
「そう言ってくれると助かる」
そうだ自分はあの時決めたではないか、この子は、レナは何があっても助けると。だから今やることは、自分のやりたいことは⋯。
「すまんが邪魔するぞ」
「ケネディーさん?」
「話し中のところ悪いが坊主もよくなったみてーだし、仕事を頼まれてくれないか」
「仕事ですか?」
「ああ簡単な仕事だ、川行って水を汲んできてもらいてーんだ」
体の調子はいいし受けるべきだろう。
「わかりました、行ってきます」
「大丈夫ですか?」
レナは心配そうにしているが、ただ飯ぐらいになるのはまずい。だから俺は彼女にうなずく。
「大丈夫だな、じゃあ頼むわ」
そう言ってケネディーさんは消えていった。
「それでは行きましょうか」
レナの後を追い外に出る。まぶしい本当に森の中のようだ。ちらほらと人が見える、被害妄想かもしれないが、こそこそこっちを見ては何か言っているのが聞こえる。
(だいぶ嫌われているんだな)
苦笑しながらレナの後を追いかける。
「これ持ってくださいね」
そう言って渡されたのは大きめの木の桶だ。
「それではこちらです着いてきてください」
歩く速さは結構早めだ。てか早い。現代日本で過ごしてた俺は川に着く頃には、
「ゼハ⋯ごふ ヒューヒュー」
息も切れ切れで、疲れた。
「少し休みましょうか」
レナは涼しげな顔なのに情けない。
「水を飲んでください」
「あ、ありがとう」
数分してようやく息が整う。帰りは水を運んでこの道を帰るのかと思うと、めまいがする。
「あまり無茶はしないでくださいね」
「えっ?」
「あなたは戦士ではありません、見ればわかります。あなたの戦いはあなたが傷つくことでようやく成り立っていました。それは死を意味します。もうあんな傷つくような戦いはしないでください」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
回答に迷った。いま生きているのはレナを守るためだけである。目的はそれ以外にないだからこそ、次も同じことをするし死に急ぐだろう。
「わ・か・り・ま・し・た・か」
「ごめん分かったから」
「約束ですよ、傷つくあなたを私は見たくありませんから」
にっこり笑って注意された。こんな風に心配されるのは初めてかもしれない。そう思うと少しうれしい気持ちになった。だからだろう自分は気が緩んでいたのかもしれない。
きゃーーーーーーーー
集落のほうから悲鳴が上がり、ようやく敵の存在を思い出したのだから。
今回はさっくり終わらせます