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T大出身だけど異世界に落ちました  作者: 和泉ふみん
9/12

チュートリアル聞いたけどお泊まりすることになりました

「せーの。」



「「申し訳ありませんでしたァ!!」」


「えー、この度は、作者の実力不足により、回想シーンが長引いてしまったことを、私ツルギと、」


「フェンが作者になりかわりまして、お詫び申し上げます。」


「そもそもがさ。調子にのってさ、出来もしない回想スタイルをとるからよくないんだよね。」


「ほんとですよねー。それに、私が何でフェンって呼ばれてるかの説明もありませんでしたよね?」


「あ、それ思った!突然その名前出てきて、誰かと思ったもん。」


「本来回想の中で、それを言うはずだったんですよ。ただ予想外に長くなっちゃって、今こうして弁明してると。ちなみに、お気づきとは思いますが、フェンリルだからフェンでーす。以降しれっとこの名前でいきまーす。」


「さて、本編は俺にすごい力があると分かったところから始まります。それでは…」


「「どーぞ!!」」








「これからどうすればいいんだ?」


「冒険者の本分はクエストだが…。今日は疲れたろう?」


「いつでも受けられるのか?」


「冒険者の仕組みについて説明してなかったね。それではいってみよう、ギルドマスターファナの~」


「よく分かる冒険者チュートリアル~!!」


パチパチパチパチ


呆気にとられる俺とフェン。一人で拍手までするかと。そんな高い声を出すかと。クールなファナはどこへ行ったと。


「え…何してんの?」


「気にしない方がいいですよー。」


受付のお姉さんが、手招きしながらヒソヒソ声でささやく。


「ギルマスは毎回これをやるんです。マスターが唯一人前で子供に戻れる瞬間というか…。」


「ああ…。立場上、堂々としてなきゃいけないもんな。」


「まだ18歳なんですよね?人間の事はよく分かりませんが、私たちで18歳といったらまだまだ赤子ですし。そういうときもありますよね。」


「だから、どうか優しい目で…。」


「ん。りょーかい。いっ!?」


ほったらかしにされたファナが絶望感にまみれていた。目が死んだ深海魚のようだ。よどみきって今にもボトリと落ちてきそうだ。


「あー、すまない!もう一回、もう一回頼む!」


「いい…興が醒めた…。どうせ、私のテンションが高すぎて、気持ち悪いんだろう…?簡単な説明だけにしよう…。」


すっかりいじけてしまった。あー、指で地面にのの字を書くな!


「大丈夫、大丈夫だから!聞くから、ちゃんと聞いてるから!な、フェン!」


「はいっ!私の耳は、5キロ先の音も聞き逃しませんよ!さあ、存分に人間の低俗で汚い声を聞かせてください!」


「余計なこと言ってんじゃねえ!!」


「キャイン!!」


フェンに空手チョップをお見舞いしたところで、ファナがムクリと立ち上がった。


「そうか、そんなに聞きたいか…。ムフフ、しょうがないヤツらだ…。」


ニヤニヤしてる。ひょっとして、アホの子なのかな?


「それでは気を取り直して…冒険者には、FからSまでの階級があるんだ。入りたての頃は、みんなFからスタートだぞ☆ クエストをこなしたり、私が実力を認めれば、だんだんクラスが上がっていくから、頑張ってSを目指そうな!ちなみに私はSだ。Sは今のところ、50人ぐらいしかいないから、なればすごく尊敬されるし、VIP待遇だってあるからおトクだぞぉ!」





うーん、引くわぁ。普段教室で黙ってるヤツが、修学旅行でテンションが爆上がりなのって、悪くはないけどちょっと引くでしょ?それ。途端にクスリやったみたいにハイになられてもな。




「次にクエストについてだけど、クエストにはいろんな種類があるのさ!それらは3つに分類されるよ!普段からボードに張り出されてる通常クエスト。緊急時や国家の一大事に張り出される特殊クエスト。そして、未開地域の開拓や未開ダンジョンの攻略などの伝説クエスト。ランクによって受けられるクエストが違うから、最初は簡単なのからこなしていこう。これで説明は終わりだよ、分からないことがあったらまた聞いてね! もう一度聞きますか? はい いいえ」




マジのゲームのチュートリアルみたいになってんじゃねえか!何だ、最後のそれ!ステータスバーみたいになってる!



「ふぅ。清々しい気分だ…。最近、新人が入ってこなかったから、これがやれなくてストレスがな…。ありがとう、ツルギ!」


いい笑顔でサムズアップされてもな…。あれ、心なしか周りの冒険者たちの目が…。「ブルータス、お前もか。」みたいな目になってるし。みんな、潜り抜けてきたんだな…。



「コホン。今日はクエストに出発するには遅い。宿の当てはあるのかな?」


「いや、ねえな。無理矢理ここに連れてこられたわけだし。どっかねえかな?」


「それならば、最高の所を紹介しよう。少し待っていてくれ。」


ファナは、俺たちがもと来た方向へ帰っていき、すぐに戻って来た。巨大なリュックを背負って。


「何だ、それ?」


「ああ、今までマスタールームに持ち込んでた着替えとか、日用品とか。場所を取って困るからな。」


「で、それをどうする気だ?」


「まあまあ、いいから。気にせず付いてきたまえ。」


「あっ、ちょっと待てって!」


荷物を抱えているのに、ファナは俺たちよりも猛烈に速かった。








街の外れ。ここまで歩いてくるのもかなりの重労働だ。俺は、体育会系ではない。女の子二人がスタスタ歩いて、大の大人がゼーゼー言ってるのもおかしな話だが、みんな基準で考えてくれるな。ここは異世界だ。ようやく建物らしきものが見えてきたのは、そんなことを考えていた10分後のことだった。





「おーい、どこまで行くんだよ~。もう足がガクガクだぜ…。」


「だらしないな。そんなことでは、クエストでモンスターに食われてしまうぞ?」


「お言葉ですが…もうちょっと鍛えた方がいいと思いますよ?」


くっ、屈辱!格差社会嫌い!


「ほら、見えてきたよ。ここが、今日から君の家だ。」


「あ?見えてって、建物なんかねえじゃねえか。」


「これは、バカには見えない家で…、おいおい、そんな怖い顔で見ないでくれよ。」


「誰がバカだ、この野郎!騙しやがったな!」


「冗談だよ、ほら。」


パチンッ


ファナが指を鳴らすと、何もなかった空間に、突然、宮殿のような豪邸が現れた。


「なんじゃあ!?」


「魔法で、光を屈折させて見えなくしていたんだ。さあ、入るよ。」


「いや、ちょっと待てよ…。勝手に入っちゃダメだろ。こんなところ、汚したら体を売らなきゃいけなくなる…。」


完全にビビっている俺と対照的に、ファナはズンズンと進んでいき、扉を乱暴に開けて中に入っていく。


「さあ、君たちも入りなよ。遠慮することはない。なんてったって、ここは私の家なんだから。」


「え?」


衝撃発言がサラリと飛び出した。梅酒並のさらり加減でだったが、流せるわけもなく。


「どうした?」


「ここが、お前の家…?こんな、豪邸が?」


「そうだが…。まあ、普段は忙しくてあまり使ってないがな。私にとっては、マスタールームが家みたいなものだ。」


ドサッ


俺は、その場に崩れ落ちてしまった。こんな宮殿を建てようと思ったら、みんなから税金を搾り取るくらいでなきゃ無理だ。それを現実に建ててしまったファナは、どれだけ金持ちなのか。そしてそれを使ってないとは、無駄遣いにもほどがあるだろう。資本主義の抜けきらない俺には、ファナが化け物のようにすら見える。



「そんなことより、荷物を置いてきたまえよ。幸い部屋はいくらでもあるからな。」


「はい…。そうします、ファナ様ァ…。」


「何を泣いている?しかも、ファナ様って…。」


長い廊下を涙で濡らしながら歩く。せめてもの抵抗だ、コノヤロー!


「ここを君の部屋にしようか。どうぞ。」


「失礼しま…うわっぷ!!?」


ドサドサドサッ!!



扉を開けた途端に、広辞苑の親玉みたいな分厚い本が何冊も俺の頭を直撃した。被弾の損傷は激しく、俺は頭から赤い生温いモノを流す羽目に。


「うぐっ…いてえ…!」



「ああ、すまない!えーと、包帯は…どこにやったかな…。」


「あー、もう!しっかりしてくださいよ!マスターが死んじゃう!」


「この部屋だったかな…。うわあっ!?」


ドカーーーーン!!!


「ケホッケハッ!!何事ですか!?」


「思い出した…ここ、泥棒退治のダミーの部屋だった。入ると爆発するヤツ。いやー、長らく帰ってないとド忘れするねぇ。」


「冷静に言ってんじゃないですっ!このポンコツ!!」




何をやってんだか。ファナは爆発の煤だらけ、フェンはフェンで騒ぐだけで何もしない。あー、頭クラクラしてきた。こんな時に魔法があれば、ちょちょいと治しちまうのに…。ん?魔法?



「ファナ…。最後にこれだけ聞かせてくれ。魔法はイメージの具現化、そうだな?」


「あっ、ああ…。」


「なら、俺のケガも治せるな。」


「おいおい、イメージと言っても、かなり正確なものでなければならないぞ?」


「大丈夫…。俺、頭だけはいいんだ。」


俺は、医学、生物学、物理学、化学、経済学、学と名のつくものなら、何でも学んできた。


精神統一、無我夢中、魔力凝縮。何でかわかんねえけど俺に宿った魔力、過去に培った知識たちよ、今ぐらいは役に立ってくれ。


「ヒール!!」


若葉色の優しい光が俺の患部を包み込む。細胞分裂が猛スピードで進んでいき、あっという間に元通りになってしまった。



「ほっ…。成功か。よかった。」


「驚いたな…。君は、医学の心得もあるのか?この国では、ほんの一部の者しかそういうヤツはいない。それこそ、エルフたちから教えを請うているぐらいなのに。」


「マスターですから。当然のことなのです。」


「お前が威張んな!」


「キャンッ!」


「ハッハッハ。とにかくよかった。さあ、存分に体を休めてくれ…」


「それはムリだな。」


しかめっ面のツルギ。目線の先には崩れた書物の山。


「お前のことだ。全部の部屋がこんな感じだろ?」


「あ…。いや違うぞ!?私がルーズなのではなくて…」


「ルーズでなければ、こんなことにはなりませんよね?」


「というわけで、これから大掃除を開始する!徹夜だ、覚悟しやがれぇ!」


「そうです、覚悟するのです…えーっ!?徹夜ァ!?」


「そんな無茶な!いくつ部屋があると思ってるんだ!?」


「だから…徹夜なんだろうがァ…お分かり?」


ドスの聞いたヤクザ声。歴戦の猛者であるファナ、モンスターの中でもかなりの上位種であるフェンも震え上がってしまうぐらいの。


「よっしゃ、戦の始まりじゃーい!!!」


Let's お掃除!

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