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T大出身だけど異世界に落ちました  作者: 和泉ふみん
8/12

作者の実力不足だけど伝説が始まりました

タイトルの意味は、最後に分かると思われます。

「そっち雑巾がけしといて。」


「了解しました。あ、そこワックスついてますよ!」


「あぶねっ!ベタベタになるとこだったわ。ナイス、フェン!」


「私がいる限り、マスターを危険な目には遭わせませんよ!」


「よーし、今度は隣の部屋だ!いっくぞー!」


「おー!」


「…」


「…」


「「やってられっかーい!!!」」


やあ、小室 剣改め、ツルギ・セラーだ。安直だ、などとは笑ってくれるなよ?あのときは考える余裕がなかったんだ。


それより、俺たちがどれだけ苦労しているか、とことん耳を傾けてほしい。どこから話せばいいのか、俺も手探りだけど。じゃあ、俺がファナとの交渉を終えたすぐ後までさかのぼろうか。

あのときは…







「クックックッ。あー、久しぶりだよ。こんなに大笑いしたのは。君は面白い人間だ。」



「お前こそな。すばやい切り返しどうも。」


「お褒めにあずかり恐縮。さて、このいい気分のまま、仕事を終わらせたい。付いてきてくれるかな?」


肩越しに振り返って、人差し指で俺たちを誘うファナ。彼女の3歩後ろをついて歩くと受付にまで帰って来た。


「例のものを出してくれないか。」


「はい。かしこまりました。」


受付嬢は何事か頼まれると、パタパタと奥に消えてしまった。いったい何が行われるのか、俺は期待と好奇心と愉しさを感じていた。


「お待たせしました。」


「うむ、ありがとう。さてツルギ。君には冒険者になってもらうと言ったね?今からその手続きをしよう。文字は書けるかい?」


水晶のようなキラキラ光る玉を、片手でもてあそびながら尋ねるファナ。


「一応。こっちで通じるかは分からないが。」


不思議と言葉は何とかなっているのだが、文字が一緒とは限らない。不便なことになるかもしれない。少々悩みの種だが、別に眠れなくなるほどのことじゃない。


「さっきはなあなあにしてしまったが、相変わらず君がどこから来たのか分からないな。それに先程まで敬語だったにも関わらず、とたんにざっくばらんに話してくる神経も不可解だ。まあ、理解しようとするのは諦めたがね。もし、君が本当の事を話す気になったら、教えてほしいものだなぁ?」


呆れたような達観したような悟ったような。それでいて小悪魔的というか。怒りと悲しみもチャンポンされてるかな。俺みたいな、理詰めでしか考えられない凡人が味わうには、少々複雑にすぎる表情だ。


「気が向いたら…と答えとこうか。いや、別に隠す必要もないんだけど、どこか切り札って取っときたいみたいな感情もあるしな。本当に信頼関係を築けたら言うよ。」


「面と向かって言うかね、それを…。まあいい。私は面倒なことはとことん嫌いだ。どうでもいいことは、とことん無視するからそのつもりで。分かったらここに名前と歳を。あとは空欄でいいよ。」


「ほいほいっと。これでいいか?」


「うん。おや、君は23なのか。年上だったのだね。」


「え!?ファナっていくつ?」


「18だが。女性に歳を聞くのは感心しないなぁ?」


そちらが含みを持たせたから…とは言えるわけもなく。

こんな威厳のある18がどこにいる。ヤクザの親分でもこんな迫力はないな。そうでもないとギルマスなんてやってられないのかもしれないが。


「君の場合はここからが本題だ。聞くところによれば、君は凄まじい魔力を持っているそうだね?」


一転、興味津々で少女のような無邪気さを発揮してくるファナ。俺の事を不可解だ、不可解だと言うが、ファナだって十分な不思議人間だ。落ち着いた銀色のさらさらとした髪、アクアマリンを彷彿とさせる碧眼。鎧に隠されていても分かるスタイルのよさ。

そして、ギルマスという立場ながら面倒くさがり、大人びた態度から急に年相応の好奇心旺盛な顔を見せる、いわゆる二面性。学校で教科書とにらめっこしてたあの頃には、こんなヤツとは出会えなかった。いや、俺が見過ごしてたのかもな…。



(剣くんってー)


(頭はすごくい)


(性格はおか)


(いっつも下ばっか向い)


断片的などす黒い記憶。思い出したくもない。過去はダメだ。振り返ったところで辛くなる。やめろ。その先へ行くな。脳よ止まれ。思考を停止しろ!


(気持ち悪いよね。)


ドスン!!


脳天直撃だ。幼き日の絶望は、今でも毒の吐息を漂わせて待っている。ともすれば、全てを食らい尽くさんとばかりに。



「…スター。マスター!」


「んあっ!?あ、わりい…。」



フェンリルがこちらを心配そうに見つめる。そういえば、コイツもいたな。今まで静かだったし、なぜか常に俺の後ろにいたし、忘れちまってた。



「どうした?顔色が悪いようだが。」


「何でもねえよ。質問に答えてなかったな。アレを魔力と呼ぶのならそうだな。自分でも分からない。何で急にあんな力が目覚めたのか。」


「ふむふむ。確かに素質はあっても、きっかけがなければ目覚めないものでもあるからね。仕方ないことだよ。それで報告によれば、草原に大きなクレーターができたとか。魔法でない、ただの魔力にできるとは思えないんだがね。」


「また疑うのかよ?」


「それをはっきりさせるためにも、これを使おう。魔水晶だ。」


ファナは、手で遊んでいた玉を乱暴にこちらに投げる。落としそうになったが、何とかキャッチに成功した。球技は、いや運動全般は苦手なんだ。


「何だこれ?」


「魔力を込めてみたまえ。そうすれば色が…」


「うおっ!?」


セリフを言い終わるまえに、水晶が黄金の輝きを放った。


「これは!?ツルギ!君は何者だ!?」


「ちょっとちょ、止めて!眩しいから止めてくれ!」


「魔力を込めるのをやめろ!」


「俺は何もしてねえよ!」


「貸せっ!」


ファナが魔水晶を奪い取ると、ようやく元の透明な球に戻った。


「はあ…。今のは…?」


俺が訪ねても返事はこない。難しい顔で思案するばかりのファナ。どうしたらいいのか戸惑っているようだ。


「そんな、バカな…。いや、むしろこれほどでないと、あの威力の説明が…。」


「おい!」


「ツルギ。落ち着いて聞いてくれ。君は、歴史に名を残す人間になれるかもしれニャい。」


「ニャ?」


「…!すまない。私の方が落ち着いていないようだ。ボロを出すまえに端的に言おう。君の魔力は、伝説級ということだ。」


またまた顔が真っ赤になるファナ。だが、そんなことはどうでもいい。伝説?いよいよ自分が自分でないようだ。


「さっき、魔水晶が黄金に光ったろう?魔水晶は、流し込まれた魔力の質ごとに色が変わる。上から、金、紫、青、緑、赤、無色。中でも金は別格で、今までに3人しか確認されていない。そして、ここに4人目が誕生したというわけだ。」



「マジか…。前の3人は、どんなヤツらなんだ?」


「1人は、初代魔王を討伐した勇者。もう1人は、この国をつくりあげた伝説の皇帝。最後は、今も世界の研究を続けているという、悠久の時を生きるエルフ。皆、後世に名を残す偉業を成し遂げた人物だ。」


「おお…。やっぱいるんだな、魔王…。エルフ…。俺もそんなヤツらと同じ…。」


「ギルドマスターかつS級冒険者である私ですら、紫どまりだ。全く、頭が痛くなるね。」


「何で?」


「周りを見てみたまえ。」


いつの間にか、俺たちの周りに人だかりが出来ていた。その誰もが、怯え、敵意、好奇の目をこちらに突き刺していた。


「さっきまで、俺のことなんか見向きもしてなかったのに…。」


「それほどの力ということだ。この事が、国中を駆け巡ってみろ、君を巡って戦争が起きてもおかしくないな。」


「面倒事は勘弁…だよな?俺もお前も。」


「そういうことだ。しばらくは、私のもとで力の使い方を学びたまえ。」


「へーへー…。」



頭を抱えてため息を付く俺と、頭痛薬を噛み砕くファナ。どうやら伝説は、勝手に幕を開けやがったようだ。




「って、冒頭に繋がってねえじゃねえか!作者ァ!!」

次は、次は必ず冒頭のシーンに帰って参ります…。

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