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T大出身だけど異世界に落ちました  作者: 和泉ふみん
6/12

何もしてないけど懐かれました

予備校生活は大変ですなぁ。国語の時間とか、これにあてたいっすわ。

「これにて会議は終了とする。各地のギルドマスターたちよ。ご苦労であった。」


「「「「ははっ!」」」」


「それでは、解散!これからも、我がフォンターナ王国の防衛、更なる冒険に励んでくれたまえ。」


ふぅ、終わった。談笑したり、しばらく休憩したりするギルマスもいるけど、私は、そそくさと会議場をあとにしようとする。


「ああ、ファナよ。お主は残れ。話があるゆえ、別室に来てくれぬか。」


「う…。何でございましょうか。私とて、ギルドマスターとしての仕事が忙しく…。」


「そう露骨に嫌がるな。お主の街は、冒険者の登竜門と呼ばれておるじゃろ?新人も多く、多種多様な種族の住む、治安が悪くなりやすい場所じゃ。その事について、お主の意見を聞きたくての。」


面倒くさ…。王の話は長いから…。ここは、うまく切り抜けねば。


「しかしながら王。今こうしている間にも、街に問題が起きているやもしれません。一応、サブマスターに任せていますが、ヤツは出世欲が強すぎるきらいがありまして…。少々心配と言いますか…。」


どうだ、しおらしくしていれば、そう強くは出られまい。そして街の事を心配しているからですよ、あなたの話がうっとうしいんじゃないですよという、さりげないアピール。ここで、下手なことを言っては、また日を改めて呼ばれるかもしれない。それだけは避けたい。ネムルの街から王都まで遠いし。


「そうか?では仕方ないな…。ご苦労、下がってよいぞ。」


「は。それでは。」


フッ。勝った!完全勝利!自然と笑みがこぼれるほどの、この高揚感。王すらも、私の手のひらの上で踊っている!


「ああ、そうじゃ。今度は視察という名目で、ワシがネムルの街に向かおう。そうすれば、お主は街を離れずともすむ。」


「へっ?」


「おお、これは名案じゃ。そうは思わぬかね?ワシと話をするのが面倒なネムルのギルドマスター、ファナ・ファオルペルツよ?」


バレてたー!?笑顔が逆に怖い。ニッコニコしてるけど、迫力が伝わってくる。一言でも逆らえば…。


「は、はは…。それは、名案でございますな。お待ちしております…。」


S級冒険者ならではの一級品、ドラゴナイトメイルのきしむ音に紛れさせ、ファナは思いっきり歯軋りした。





「め・ん・ど・く・さ・いんだよ!あんのクソジジイッ!」


バキインッ!!


怒りのあまり城壁を蹴っ飛ばす。全身を覆う鎧が、ガチャガチャとやかましい音をたてる。ドラゴンの鱗を加工して作った鎧は、全身フルプレートアーマー仕様。その硬さはダイヤモンドの比じゃない。でも…


「~~~~~~!!?!ンッ!ンッ!?」


声にならない痛み。そんな鎧が作れるなら、城壁にだってその技術を施すだろう。ただのレンガのように見える城壁にも、バッチリ鱗の粉末が練り込まれており、その上から魔法障壁も張られている。もちろんファナもそれは理解しているはずなのだが、怒りで我を忘れたようだ。


足を押さえて跳び跳ねる姿は、滑稽としか言いようがない。



「くそぉぉ…。私としたことがぁ…。いたいよぉ…。」


涙目でうずくまるファナ。だが昔から、悪いことは続くのが道理というもので。


ピィーー


「ん?」


バサバサバサッ!


「お前は、ファルコか?どうした、こんなところに。」


ピィ~


ホーミングフェザー。この世界における伝書鳩のようなモンスターだ。大人しい性格で、人間にもなつきやすい。モンスターはなぜか人を襲うが、必ずしも一枚岩ではないということだ。ただ、時速300キロ以上で飛行するために、ケガ人が絶えない諸刃のモンスターでもある。


「手紙か。ギルドからかな…なにっ!?」


フェンリル来襲、ケガ人多数、今すぐ帰還を。一言一句が脳天を叩き壊すぐらいの重みを持っていた。


「チッ!面倒事を増やすなぁぁぁ!!!」


ファナは、すぐさま馬に跳び乗ってネムルを目指して疾走するのであった。




ガオオオオ!!


フェンリルの咆哮は、天に届き地を揺らし、みんなの鼓膜を貫いて。


「サブマスター!これ以上は無理っす!あいつ、強すぎます!」


「マスター!ご指示を!」


ネムルのギルドサブマスター、ゴオマ・ボルキャン。ドワーフやゴブリンのような低い背にでっぷりとした腹。おおよそ冒険者とは思えない肉体。ツルギを捕らえた時も、自分でなく周りの人間に全てやらせていた。こんな人間がなぜサブマスターになれたのか。それは…。


「サブマスター!なにやってんすか!?」


「笑止!逃げるのよ!ワシは、欲望は強くとも実力は全くない!」


類いまれなる危機察知能力と、なによりプライドを捨てて我が身を優先する、ある意味見上げた根性によってのしあがってきたのである。冒険者はどんなに弱くとも、生き残れば勝ちの世界だ。ゴオマは、とにかく生きて生きて生き続けた。RPGでモンスターと一切出会わずに、ゲームクリアしたようなものだ。上司には絶対したくない、してはいけない部類の人間である。


「ふざけんな!俺たちを見捨てるのか!」


「バカモン!ワシだって戦えるもんなら戦っとるわ!だが、実力が伴っとらんのだ!」


もうムリだ。俺たちの上司がコレか。部下の冒険者たちの間に諦めと絶望が立ち込める。負の空気は集団に一気に伝播する。みんなが逃げ仕度を始めた頃、一人の救世主が現れた。


「おい、お前!」


全身汗だくのツルギが、逃げようとするゴオマの胸ぐらをつかんだ。


「貴様!牢を抜け出しおったのか!」


「じゃかあしい!んなこた、どうでもええわい!聞きてえことがあんだけどよ。魔法の使い方を教えてくれや。」


親の敵を見るような目でゴオマを睨み付け、そこらのチンピラが泣き出すような低い声で尋ねる。


「はあ?」


「いいから喋れ!時間がないんだよ!」


今こうしている間にも、フェンリルは暴れ続ける。損害は増える一方だ。


「魔法は、魔力とイメージがあって初めて生まれる。イメージだって漠然としたものじゃダメだ。きちんとその事象の起こる原因、理論を理解していないといけない。この世界で魔力と知識、両方を兼ね備えているものは少ない。だから…おい!どこへいくんだ!」


ツルギは話の途中でスタスタ歩き出した。おもちゃを与えられた子供のように、ニヤッと笑いながらフェンリルに向かって歩き出す。


「知識ぃ?バカにすんな。こちとら16年間、義務教育から真面目に勤めあげてたんだよ。今こそ見せてやるよ、俺の人生の集大成を!」


ツルギは、フェンリルに向かい合う。向こうもこちらに気づく。意識を集中させ、脳内に今までの知識を思い浮かべる。体が熱くなり、魔力が外に出る感覚があったその時、驚くべきことに、フェンリルがお腹を見せて地面に寝転がったのだ。


「うええっ!?何事!?」


驚くツルギを尻目に甘えた声を出すフェンリル。その巨体がまばゆい光を発したかと思えば、人間の中学生サイズの女の子が、立て膝をついてつむじを見せていた。


「お会いしたかったです、マイマスター。」


「お前は…?」


「私はフェンリル、先ほどのあの巨大なモンスターであり、マスターの忠実な僕です。」


姿形は人間だが、頭とお尻に、獣耳と尻尾がついている。特筆すべきは、小さな体に似合わぬ胸にぶら下がったメロンだろう。哺乳類は授乳しなければならないから、確かにとは思うが、いくらなんでも…というのが正直なところだ。俗に言うロリ巨乳というやつを、ツルギは直視できなかった。


「あの、僕ってのは?」


「敗者は勝者に尽くす。例えそれが、クズで愚かで取るに足らないような存在であっても。これが我々フェンリルの掟です。マスターは、私を圧倒的な力で潰しました。私は掟にしたがい、マスターに尽くすことを誓います。」


「えっ、それって俺がクズで愚かで取るに足らないような存在ってこと…?」


フェンリルは、自分の失言に気づいたのか慌てて、


「違います違いますっ!マスターは、体こそチビですが、素晴らしいお方だと思いますっ!チビですがっ!」


「二回も言うな!」


ギャーギャーわめいていると、後ろから蹄のパカラッパカラッという心地いい音が聞こえてきた。


「誰か!状況を説明しろ!」


漫画で見るような姫騎士が、白馬に乗って駆けつけてきた。


「サブマスター、ゴオマ・ボルキャン!現状を報告せよ!」


凛としたよく通る声で、混乱した現場に指令を出す。


「はっ、先ほどのフェンリルの件、ここの娘がそうであります。」


姫騎士ファナは、フェンリルと、その前に立つスーツの男を交互に見比べる。


「とりあえず、暴れる気はないようだね。少し話をさせてもらえないかな?ゴオマ、この二人は私がマスタールームへ連れていく。お前は、街の被害の確認とケガ人の救助を。」


「ははっ!」


「ああ、それと。敵前逃亡の罪は重いよ?」


「…!はい…。」


蛇ににらまれた蛙を、現実で見ることになろうとは。ツルギは、姫騎士から目を離せなかった。気を抜いた瞬間やられそうで。


「じゃあ、行こうか?」


鋭い視線はツルギとフェンリルを正面にとらえ、決して逃さない。ツルギは、気を引き締めながら、戦いの場へと向かうのであった。

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