一人ぼっちだけどモンスターに会いました
「ハイホー、ハイホー、ハイホーハイホーハイホー」
草原をひたすら歩く。道なんかないさ、人影なんて嘘さ、だけどちょっとだけどちょっと、俺だって辛いな…。
「ああ、何もねえ。ホントに人間いないのかも…。」
人類は衰退しちゃったんですかね?代わりに、妖精さんとかいない?
「ふはっ、結構歩いたぞ。それなのに、道や建物、動物にすら出会わんとは、こりゃ一体、どーいうわけだ?」
座って、周りを眺める。見渡す限りの平野。その向こうにゃ山。山を越えれば人里もあるか、と希望を抱いてみる。
「あー、何で俺は、この世界に落ちてきたんだ?ハッ、まさか夢オチ?…イテテテ!覚めねえなぁ。」
今更ながら、頬をつねってみる。頬が赤くなって、ジンジンするだけだった。ちょっとムカつく。
もうちょい歩くかな。どうせ死んでたかもしれん命よ。行けるとこまで、行ったろうじゃないですか。
「見渡ーす限りの平野にー、1人立っているんだー、そりゃ身震いもーするだろー」
日が傾き始めた頃。元いた場所は、遥か遠く。帰りも同じ時間かかるなら、もう帰らんと。結局今日は、何の成果も得られなかった。飯もないし、無駄足だったな。
「帰るか…。ん?何だ、あの土煙?」
草原の向こうの方から、土煙をあげて何かが走ってくる。地響きが、俺の体を揺らす。
「うえっ揺れる、気持ち悪っ。って!こっちに向かってくる!」
ドドドドドドドド!!
「どわっしゃあ!」
横に大きく跳んで避ける。前回はトラックに不覚をとったが、今回はそうはいかん。スーツが汚れるのも構わず、大ジャンプしてスライディングを決める。
その甲斐あって、土煙は俺の横スレスレを通って、走り去った…と思いきや!Uターンして俺の方に向かって来るではないか!
土煙の中では、鋭い牙を生やした体長5メートル級のイノシシが、鼻息荒くよだれを垂らしている。
「うそぉぉ!食べる気満々!?ひゃぁぁぁあ!」
イノシシは雑食性、アイツからしたら、俺なんてエサなんだろう。食われてなるものかと、必死で腕を突きだし足を振る。しかし、イノシシは俺を追いかけてくる。イノシシのスピードは、実は時速40キロメートル。人間の足では、到底逃げ切れない。しかも体重も相当なため、複雑骨折、死亡するケースも多数ある。
イノシシとの距離がジリジリと詰まっていく。その牙が、俺の命を刈り取ろうとした瞬間、
ドゴォンッ!!
「ブフォゥッ!」
「んなっ!?」
後に俺はこう語る。その時、俺は見たんだわ。あの巨体が宙を舞う姿を。美しいもんだな、キレイに二回転半を決めて、背中から地面にダイブだよ。あれこそ、芸術なんだろうな。by剣。
地面をのたうち回るイノシシ。そもそもどうしてこうなった?
石につまづいた訳でもあるまいし…。そう思い、ふと横を見ると、大きな影がこちらに伸びてきていた。
「あ、何だこれ?…うぉぉう!?」
その白銀は夕日に照らされ、神々しさと気高さを醸しだし、人々に畏怖の念を抱かせるであろう。荒野に凛と立つ一匹の狼は、王者の風格をもってこの場に顕現したのであった。