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13月の狩人  作者: 宗谷 圭
第一部
6/73

 空気の冷たさに、テレーゼは目を覚ました。心なしか、外が白い気がする。

「そっか、今日から花降月だっけ……」

 窓の外を見れば、白い花が雪のように降り注いでいるのだろう。そうだ、その花を集めようと、昨日ギーゼラと約束したのだ。早く起きて、仕度をしなければ。

 そう思い、身を起こして。そこでテレーゼは首を傾げた。

 視線の先には、紅塗月の終わりにカミルから買った、魔道具の暦。たしか月が変わると自然に暦の中身が書き換わるという物で、たしかに紅塗月から氷響月になった時は勝手に中身が変わって驚かされた。

 それなのに、今。テレーゼの目に留まっている暦は、氷響月のままだ。花降月に変わっていない。

「……何で……? まさか、もう壊れた……?」

 訝しげにしながら暦を眺め、そしてハッとした。

「考えるのは後! 朝ご飯を食べて、それで、先生と花を集めに行って……」

 ブツブツと独り言で今日の確認をしながら、居間へと向かう。そこで、足を止めた。

 居間のテーブルに置いておいたはずの、昨日作ったプディング。無くなっている。

「おはよう、テレーゼ。……どうかしたの?」

 ギーゼラが起きてきた。そこでテレーゼは、少し困ったような顔をして問う。

「先生……昨日作ったはずのプディングが、消えているんです。どこかに移動しました?」

「プディング?」

 不思議そうな顔をして、ギーゼラが首を傾げた。

「あなた、昨日はプディングなんて焼いていないでしょう? 昨日は一日、薬草を探して歩き回っていたんだもの」

「……え?」

 テレーゼの目が見開かれる。それと同時に、頭の中で血が逆流しているかのような感覚を覚えた。どくんどくんと、心臓が波打つ。様々な言葉が、可能性が、頭を駆け巡る。そして終いには、一つの言葉だけが何度も何度も、頭の中をぐるぐるとまわり続ける。

 まさか、まさか……まさかまさかまさかまさか……!

「……先生……今日って、何月何日でしたっけ……?」

 震える声で問うと、ギーゼラは「あらあら」と困ったように笑った。

「氷響月の一日よ。夕べ、カミルから買った暦が変わるのをあんなに楽しみにしていたじゃないの」

 どくん、と一段と大きく心臓が鳴った。それを押し隠し、テレーゼは努めて冷静になりながら、苦笑して見せる。

「そ、そうですよね。あは、あはは……ちょっと、寝惚けてたみたいで……」

「あらあら、大丈夫? 昨日歩き回って、疲れたのかしらね? 新年の準備は、テレーゼが頼りなんだから……今日は一日ゆっくり休んで、明日からまた頑張りましょう?」

 一日休めと言われてしまう程、狼狽した顔をしているのだろうか? 冷静に振舞ったつもりだったが、隠せていなかっただろうか?

 余計な事は言わずに頷き、テレーゼは自室へと戻る。戻る途中で、ギーゼラの部屋が視界に入った。扉が開けっ放しになっている。昨日片付けた筈の水晶玉に埃だらけのイモリの黒焼き、枯れてしまった薬草に、何かの獣の頭蓋骨などが散乱しているのが見えた。片付けが下手なギーゼラと言えども、流石に一晩でここまで散らかる事は無い。

 やはりそうなのだ、と、テレーゼは自室に入りながら思う。

 氷響月を、繰り返している。一年を、もう一月余分に過す事になっている。それは、つまり。

 自分は、十三月を迎えてしまった。十三月の狩人に、獲物として狙われる立場となってしまったのだ。

 カミルが、枕元に暦を置いておけば十三月の狩人に狙われているかどうかがわかる、と言った意味がわかった。思えば、昨夜は花降月を迎えるまで起きていようと思ったのに、早々に眠くなり寝てしまったのだ。あの時、既にこうなる事が決まっていたのだろう。

 とにかく、十三月を迎えてしまった以上、狩人に狙われる事はきっと避けられないのだろう。ならば、一刻も早く対策を考えなければならない。

 そうだ、フォルカーはどうなっただろう? カミルは?

 十三月の狩人に狙われるのは、一人だけなのだろうか? 何人狙われるかわからないと、レオノーラあたりが言っていなかったか?

 まずはそれを確認しなければ、二人に会わなければ、とテレーゼは思う。

 二人が狙われていないにしても、本来の氷響月一日には既に三人とも、十三月の狩人についての知識を共有していたのだ。ならば、事情を話せば助けになってくれるかもしれない。

 二人も狙われているのだとしたら、より一層合流すべきだろうと思う。助け合えれば、この十三月を無事に乗り越えられるかもしれない。

 そう考え、そしてテレーゼは荷造りをする。小さな鞄に、財布とと薬類を詰め込んで、背負った上にローブを纏う。

 出掛けるところをギーゼラに見付かったら、恐らく上手く説明できないだろう。見付からないよう気を付けながらテレーゼは自室を出、家を出た。

 まず最初に向かうのは、フォルカーの家だ。そこで合流して、そして中央の街にいるカミルの元へと向かうのが良いだろう。

 辺りを伺いながら頭の中で確認し、そして走り出す。

 氷響月が――一年が終わるまで、あと三十二日。

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