側室立候補
ユイとアンジェはさらに一歩ずつ近づき、お互いから視線を外さずに対峙する。
二人の間には、とても俺が――いや俺たちが立ち入れないほどの緊迫感があった!
「小娘……妾と主様との神聖な行為を邪魔するか。心して答えよ!」
「はい邪魔します! 許嫁としてそれだけは絶対に許可出来ません!」
「ええい、正妻でもない生娘が許可などと笑わせる! そもそも貴様ごときに主様を満足させられるというのか? 根拠を言ってみろこの処女めが!」
「こ、これでも最近は房中術とか……い、いろんな本をたくさん読んでいるんです! だ、だからもう知識だけはありますっ! それにアンジェリカさんだって処女じゃないですか!」
「ふんっ。妾はドラゴニアの古き記憶を受け継いでおるゆえ、いつでも完璧に実戦可能じゃ。貴様と一緒にするでない。何より、所詮貴様と主様との関係はただの口約束にすぎんのだろう。その指輪にも誓約の力は込められておらん!」
「うう……そ、そうですけど……。で、でも私はカナタを信じてますっ! それに、今はお互いが大人になるのを待ってる段階なんです! お、大人になったらもう、す、すごいことするんです! アンジェリカさんこそ邪魔しないでください!」
「この妾が邪魔、だと!? ふんっ、言ったな小娘。良い度胸じゃ! ユインシェーラ……ユイと言ったか。ならばユイよ! 妾と今ここで勝負せよ!」
「えっ?」
「主様のパートナーにふさわしい者として、どちらが黄金の湯に長く浸かっていられるかの勝負をな! 勝った方が先に主様の子種をいただく! それで文句あるまい! 」
「の、望むところですッ!」
挑発的なアンジェに、ユイは真っ向から大きな声でそう応えた。
さすがに我慢出来ないのは俺である。
「え…………ええええ!? ちょ、望まないでよユイ! それにアンジェも落ち着いてって!」
するとユイとアンジェはずいっと俺の方に近づいてきて、お互いに息を荒くしながら言った。
「見ていてくださいカナタ! 私、絶対勝ちます! そしてカナタの妻にふさわしいところを証明してみせます!」
「乳だけの小娘かと思ったが良い気概じゃな。しかし、このドラゴニアの姫にたてついたこと後悔させてくれる! ついてこい、湯が一番熱いところを教えてやる!」
「はい!」
そのまま二人は身を翻してずんずんと浴槽に向かい、同じタイミングで入浴。そのまま最も新鮮で熱いお湯が注ぎ込んでいるという場所で揃ってやってきたところで二人ともびくぅっと震えて怯んだが、それも一瞬ですぐに肩まで浸かり始めてしまった。
そんな明らかに無理をしている二人を、ミリー、テトラ、アイリーンが少し離れたところから呆然と見守り始めている。
「え、えーと……そ、それで俺は、どうすれば……?」
手を伸ばしたまま硬直していた俺。
シャルがやってきて俺の肩をぽんと叩いた。
「カナタ殿。勇者とは色を好むものだと聞く。その、が、がんばれ……――フフッ」
「何を頑張るの!? つーかシャル笑ってんじゃん! 楽しんでんじゃん! おいこら!」
「カナタ様……諸々、お察し致します」
「ほんとリリーナさんだけはいつも俺の気持ちわかってくれてありがとね!!」
――で、結局あの二人を止めることは出来ず、諦めた俺もみんなと一緒に『黄金の秘湯』を初体験することに。
おそらく壁を伝って落ちてきているせいなのだろう。流れる間に冷まされたお湯はあまり熱くはないが、家のお風呂くらいの適温でなんとも心地が良い。休みを挟めば、割と長時間はのんびり浸かっていられそうな感じだ。ユイたちの方は地下からも源泉が沸いてきているみたいだから、そのせいで熱いんだろうな。なんか魔力封じとかも言ってたし、そもそもどういう構造の温泉なのか気になるところだ。
そこで、隣にいたミリーがジト目で俺を見つめていたことに気付く。
「ん? な、なんだよミリー?」
「ちょっとカナタ。あんたさ、いつユイと結婚の約束なんてしてたわけ? あたしそれ聞いてないんだけど? だいたい、何なのよあの指輪!」
「え? あーいや、その」
「そーそー! それあたしも聞きたかったです! カナタ様、ユインシェーラ様とご結婚なされるんですかっ?」
そこにテトラも加わって、二人がぐいぐいと詰め寄ってきて、その密着ぶりに戸惑ってしまう俺。
するとアイリーンがなんだか不安そうにそわそわし始めて。
「カ、カナタ様がご結婚……で、でも確か、アルトメリアの方は十六歳からが成人で、しかも、それは人間の年齢とは違っているって……」
「主のことを知るのは当たり前ですが、よく勉強していますね、アイリーン。アルトメリアのエルフは長寿ゆえ、私どもとは違う時間軸を持っております。ユインシェーラ様が大人になるにはまだしばしの時間が必要であるはずです」
「そ、そうですよねっ! まだ時間はありますよね? ふぅ、よかったぁ……」
リリーナさんの補足説明に、アイリーンが胸をなで下ろして安堵する。そして俺と目が合うとすぐに顔を逸らし、耳まで赤くなっていった。
――あ、あれ? 俺、まさか結構モテてる!?
「カナタ殿。それで、ユインシェーラ殿との件は本当なのか? 本当ならばおめでたい話ではないか。私も是非祝いたいところだが」
「あーいや、なんて言ったらいいかなぁ」
なぜかワクワクと嬉しそうな目をするシャルに促され、どう答えていいものやら考える俺。ミリーがそのキツネ耳をピンと立てており、テトラとアイリーンは揃って顔を寄せてきて、さらにはあのリリーナさんまで一見冷静そうながら目線がソワソワしておる。
で、これ以上隠しているのは無駄かと悟り、俺は説明することにした。
もちろん細かい部分はいろいろと省略したが、俺とユイがこれからも一緒にいることを約束して、その意思表示として指輪をプレゼントしたこと。
そして、ユイが大人になったとき正式に答えを出す――ということをだ。
すると、みんなすぐ納得してくれて。
「なるほど~そうだったんすね! はぁーちょっと驚きましたよー! やーでも、竜族にまでモテちゃうなんてやっぱカナタ様はすごいっすね!」
「う、うん。カナタ様……どんどん、勇者様らしくなっていって……わ、私なんか、もう……」
「お? なんだ、諦めちゃうのかアイリーン。ふっふーん!」
そこでテトラが俺の腕に抱きついてきて、こちらに流し目を向けながら言った。
「それじゃあ~、あたしがカナタ様の側室になっちゃおっかなー?」
「「「ええっ!?」」」
驚く俺とミリー、アイリーンをよそに、テトラは「にへへ」と笑ってさらに密着してくる!。
当然お互いに裸なので、テトラの発展途上な胸やら柔らかい二の腕やらがぎゅうぎゅうと! ていうかわざと押しつけてきてませんかこれ!? ええどうなってるの!
 




