アルトメリアvsドラゴニア
目の前に広がる黄金の世界。
これには秘湯好きの俺はもちろん、ユイやミリーもさっきからずっとうずうずしてしまっていて、
「カ、カナタっ、早く入りましょう」
「あーもうあたしガマンできない! 先入っちゃうわよ!」
ミリーは器用に一瞬で服を脱ぎ捨て、そのままドボーンと湯に飛び込む。それにアンジェが「んなっ」と驚愕していた。
「はぁ~~~~めっちゃきもちい~~~~! ほら! 早くカナタたちも来なさいよー」
ミリーがぶんぶん手を振って、それをきっかけに【魔力耐性】を得ていたテトラとアイリーンもあっという間に服を脱いで続き、すぐに浴槽が騒がしくなる。
シャルやリリーナさんは困惑しつつもその表情を柔らかくし、興奮を隠しきれないユイも既に服を脱ぎ始めて下着姿になっており、アンジェがぷるぷる震えながら言った。
「こ、この小娘共っ! 妾の話を聞いておらんかったのか! この湯は王とその妻のみが浸かることを許された秘湯であり、お前たちのような生娘が湯を汚すなど決して許されぬ! ゆえに妾と主様だけが共にしっぽりと肌を擦りあわせ――うがああああ妾の話を聞くのだあああああ!!」
「あはは、許してやってよアンジェ」
「ぬ、主様! しかしだな!」
「俺もだけど、みんなもすごい秘湯が好きでさ。それにここは活力の『効能』もあるんだろ? みんな戦いで疲れてるだろうからさ、ゆっくりさせてやりたいんだ」
「む、むう…………。主様が、そういうならば……」
怒りに満ちた表情が次第に収まっていき、それでも納得いかないのか口元をむずむずさせるアンジェ。けどもう怒号を上げるようなことはなかった。
ミリーはテトラとアイリーンと浴槽ではしゃいでおり、ユイは下着を脱ごうとしていて、シャルとリリーナさんもそれぞれを風呂に入るよう促している。
俺はみんなを見て、心からホッとしつつ言った。
「ありがとな、アンジェ。最初はとんでもない子かと思ったけど、結構優しい子なんだな。なんだかんだで宰相のことも助けてくれたしさ」
「……やめよ。ただの気まぐれじゃ」
「それでも嬉しいよ、ありがと」
軽くアンジェの頭を撫でると、アンジェは嫌がることもなくそれを受け入れてくれた。
いつの間にかそんな光景をみんながニコニコと見つめていて、アンジェはそれを知ると微妙に赤面していく。
「れ、礼などよい。それより、もっとわかりやすい褒美が欲しいぞ」
「褒美?」
一体何かと尋ねた俺に、アンジェはぴたりとくっついて言った。
「うむ。妾を抱いてくれ」
「――は?」
その場の空気がシン、と静まる。
呆気にとられたのは俺だけではなく、みんなもその場で固まってしまっていた。
だがそんなことを気にしないアンジェはボロボロになっていた拘束着を捨て去り、一糸まとわぬ姿となってしまう。
ミリーと同程度に未成熟な身体は、しかし傷一つなくとても綺麗な肌をしていて、あんな場所に長年封印されていたとは思えない姿だった。
そしてアンジェはお腹の辺りにそっと手を当てて言った。
「さぁ主様。早く妾をそのたくましい腕に抱き、妾の中へ思う存分に子種を注ぎこんでくれ。さすれば妾が次代の王を孕み、やがてはこの世界も豊かさを取り戻してゆくであろう」
「え、え、えっ」
「どうした主様? 何も遠慮することはない。それが姫たる妾の生きる意味であり、使命じゃ。それに、ドラゴニアとの性交は淫魔たちと並んで最高の快楽を得られる至上の悦びと云われる。まぁ普通の人間には到底堪えられんがな。勇者たる主様だからこその特権じゃぞ」
満足げに鼻息をもらすアンジェは全裸のまま俺のそばにやってきて、今度はいそいそと俺の服を脱がそうとしてくる。
「うわわ! いやっ、ちょ、待って待って待ってぇっ!」
「む? なんじゃ主様、その生娘のような反応は。……よもや、主様ともあろう者が初物というわけではあるまい?」
「…………すんません」
「な、何? 本当にそうなのか? これだけの女を連れているものだから、てっきり毎晩励んでいることかと思っておったが」
「ヘタレでごめんなさい!」
男らしく誘ってくるアンジェに対し、逆に俺の方が照れてしまって縮こまるという逆転状態。そのせいで俺のチェリーがバレてしまった! ひい恥ずかしいっ!
アンジェはそんな俺にわずかにだけ戸惑っていたようだが、しかしすぐに納得したようにうんうんとうなずいて。
「――ふむ、そうかそうか。リードを任せるつもりだったが、それもよかろう。ならば、妾が主様の筆下ろしを買って出ようではないか」
「え、えっ?」
「案ずるな主様。妾も初物であるゆえ、お互いに合わせやすかろう。さぁ、まずは口づけからじゃ」
「え? 初物って、え、えっ!? ちょ、アンジェ待って!」
アンジェはかかとをぐーっと伸ばして俺の方に顔を寄せ、次第にそれは近づいて――
「――却下ですッ!!」
「のわっ!?」
と、そこでアンジェが横から突き飛ばされてべしゃっと転ぶ。
何事かとそちらを見れば、下着姿のユイが俺の隣にぴったりと寄り添ってその眉尻を上げている。
コントのように顔から地面に落ちたアンジェが鼻を押さえながらこちらに振り返り、こちらもまた眉尻をキッと上げ、そのままズカズカと勢いよく戻ってきた。
「ぐぬぬぬ……! いきなり何をするかアルトメリアの小娘ッ!」
「言ったはずですアンジェリカさん。カナタは私の夫になる方です。カナタの初めては……わ、わ、私と一緒になんですっ! これは決定事項です!」
「ええええ! ちょ、ユ、ユイっ!?」
「そ、それに……私の方がずっとカナタを気持ち良くしてあげられますっ! アルトメリアのエルフをなめないでくださいっ!」
「な、なんじゃと!? 無礼な娘がっ!」
そのまま俺の前で対峙する二人。
その視線がバチバチと交錯し、あまりの展開にみんなも動けないでいる。
ああ、なんかヤバイことになってきてしまった!