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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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黄金の秘湯

 それからみんなで宰相とその兵士たちを外のテントまで連れ出し、ユイとミリーにそれぞれ渡した回復魔術によって外傷を治癒してもらう。


 けど、アンジェの強力な魔力によって身体を内部まで蝕まれていた宰相たちはユイとミリーの魔術を最大限には受け付けず、俺たちは焦った。次第に顔色もどんどん悪くなっていき、このままでは命がないことは明白だ。

 特にシャルはあんな目に遭ったにもかかわらず必死で宰相たちを助けようとしていて、それをアンジェは冷たく傍観したままつぶやく。


「理解できんな。娘、なぜ此奴らを助けようとする。これらのくすんだ命にそれほどの価値があるのか」

「命の価値に差などない。目の前で瀕死の者がいれば助かるのは騎士として――いや、人として当然のことだ」

「此奴らはお前を手に掛けようとしたのだぞ。いわば敵だ。騎士とは敵を屠る戦士であろう。お前の存在理由に反するではないか」


 何の感情も込めず、ただ淡々と告げられる言葉にしかしシャルはその動きを止める。

 そして少しの間を置いて答えた。


「……そうかもしれない。しかし、だからといってこのまま見捨てることなどできない。それこそ私の騎士道精神に反する。私は、皆を守るために騎士になったのだから」

「傲慢じゃな。お前はその細腕に到底収まりきらぬ理想を抱えて修羅の道を進んでいる。その先の理想が辿り着ける世界など妾には視えん」

「それはそこに辿り着かねばわからないことのはずだ。だから私は私の道を進む。そのときに絶望するならそれでいい。ただ、今やるべきことをやる。それだけだ」


 額から汗を流し、また宰相の心臓マッサージを続けていくシャル。

 アンジェが何を言おうとも、その心は折れない。


 俺たちは、そんなシャルの姿に心から感嘆していた。

 初めて会ったときは俺もユイも警戒していた。ミリーだってあんなにも攻撃的だった。けど今はもう知っている。シャルには表裏がなく、どこまでも実直な性格なんだ。

 そしてシャルがこういうヤツだからこそ、俺たちはシャルを信じて里に迎え入れることが出来たんだ。


 じっとそんな光景を見つめていたアンジェは、やがて苛立ったようにため息をついて右足で地面を踏みつける。


「退け、小娘」

「!? ア、アンジェリカ殿、何を!」

「黙っていろ」


 シャルをどけて宰相の前に立ったアンジェは、蔑むような視線でじっと彼を見下ろしていたが、そのままそっとしゃがみ込むと宰相の胸元に触れ――


 次の瞬間、まるで電気ショックでも与えたように宰相の胸が大きく跳ね、すると宰相の顔が血の気を取り戻していく。アンジェはそのまま他の兵士たちにも同様のことをして、みんな次々に生気を取り戻していった。


 俺たちは揃ってアンジェに視線を向ける。


「体内に残留していた妾の魔力を抜いただけじゃ。後はそやつらの生命力次第じゃな。だが、アルトメリアの娘たちの回復魔術でそれも問題なかろう」

「ア、アンジェリカ殿……」

「思い違いをするな。妾は此奴らに路傍の石ころほどの価値も見いだしておらん。だが……自由の身を取り戻した礼くらいはしてやってもよかろう。間接的にではあるが、その剣の持ち主たるお前に免じてな」

「アンジェリカ殿……あ、ありがとう! 感謝する!」

「ふん、お前のような魂の持ち主は実に稀じゃ。だが此奴らは違う。これらの魂がその穢れを払わんかぎり、此奴らは近い将来に命を落とし、ヴァリアーゼは滅ぶだろう。戦いの果てにあるのは無のみ。妾の【竜眼】には視えている」

「――ああ! だがそうはさせないように私が気をつける! 国も変わる! そして必ず未来を勝ち取る!」

「……やはり阿呆か」


 シャルが嬉しそうにアンジェの手を握ってぶんぶんと振ったが、アンジェはなんとも居心地悪そうにその手をふりほどく。それでもシャルは満面の笑みを浮かべ、張り詰めていた周囲の空気が一気に緩んだように思えた。


「後は放っておいてもどうにでもなろう。それより主様、行くぞ」

「え? い、行くってどこへ?」


 突然の声がけに当惑する俺。


 アンジェは腰に手を当て、仁王立ちしながら言った。



「当然、此所の秘湯じゃ。それが主様の目的であろう? 妾としても、早く世界の竜脈を活性化してもらわねばならぬからな!」




 ――と、そんなアンジェに連れられてやってきたのは、なんと今出てきたばかりの遺跡の地下で。


 実は宰相たちも知らなかったさらなる隠し扉がいくつも存在し、それらから内部の階段を降りていくと、やがてある広い部屋に到着。


「うわっ……!」


 思わず驚愕してしまう俺。

 そこにはなんと学校のプールほどのサイズはある石造りの巨大浴槽があり、四方の壁から垂れ落ちる湯の滝がそこへと繋がっていて、綺麗な黄金色の湯がなみなみと注がれて湯けむりを上げていた。天井にはいくつも換気のための穴が作られている。


「此所こそが、古くより各種族の『王』とその妻のみが浸かることを許された神聖な湯――『黄金の湯』じゃ。一刻も浸かれば万病を治癒し、全身に活力が戻る。さらに美肌効果も抜群じゃ。まぁ、今となってはこの存在を知るものがどれだけいるかもわからんがな」


 アンジェの説明に、「おお~」と声を上げる俺たち。


 予想していなかったまさかのご褒美に、否応なくテンションも上がっていく!


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