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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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ドラゴニアの歴史

 それからずっと離れてくれないアンジェリカの変貌ぶりに戸惑う中、リリーナさんが気絶したままの宰相から鍵を奪取し、ついにシャルを自由の身に戻すことが出来た。


 そのためもはや目的を果たした俺たちだったが、逆に俺の自由はこの竜の少女に奪われたままである。


「ええと……カ、カナタ? これは一体……」

「ちょっと! なんであんたいきなりこいつに懐かれてんのよ! さっきまでめっちゃヤバイバトルしてたじゃないの!」

「いや俺だってわかんねーの! だぁ! ちょっとくっつきすぎだよ!」

「主様、主様、主様っ!」

「はいはい! 落ち着いて! ストップストップ! いい加減離れてくれ! そんで何がどうなってんのか教えてくれ!」


 みんなの前でもずっと俺に頬ずりを続けてくるアンジェリカをなんとかなだめると、アンジェリカはようやくそっと俺から身を離し、そして言った。


「主様。名は?」

「え? ああ、カナタだけど」

「うん、主様らしい響きある名じゃ。妾のことはアンジェと呼んでくれ」

「ア、アンジェ?」

「うむ!」


 無邪気な子供のようにニパーッと微笑むアンジェリカ――いやアンジェ。


 なにこれ。マジで普通の女の子になってしまった。


 さすがの状況にみんな目を点にしていて、ようやく動けるようになったシャルもリリーナさんに肩を借りながらこちらへやってきていた。テトラとアイリーンも多少よろめきながら、お互いを支え合って歩いている。


「カ、カナタ殿? これは一体……」

「カナタ様、一体何が……」

「いや、だから俺もよくわかんなくて。そ、それで……アンジェ? なんで俺が主様なんだ? それに、ずっと待ってたって……」


 尋ねると、アンジェはようやくまともに話をする気になったらしく、その場で礼儀正しくも正座をしてから言った。


「ふむ、どうやら主様はまだ“運命の導き”が視えていない(・・・・・・)と見受けられる。であれば妾がその先駆けになろう」

「運命の……導き?」

「うむ。主様が持つその才能――【竜脈活性】とは、本来ヒトが扱える類いの才能ではない。というのも、それは代々我がドラゴニアの血族の『王』にのみ受け継がれるものだからじゃ」


『え?』と俺たちの声が揃う。


「その力によって歴代の王たちは地脈を活性化し、それによって木々は育ち、水は溢れ、人も魔族も問わず生き物たちは栄え、地上は隆盛を極めた。それが世界を治めるドラゴニアの役目であり、存在理由であった。我がドラゴニアは常に世界(アスリエゥーラ)を支えてきたのじゃ。ヒトごときには統一など果たせんよ」

「そう……だったのか……?」

「うむ。古くよりこの世界では神話の類いとして伝わっておるはずじゃ。だがまぁ、我ら竜族や神族が実在すると知っておるのは為政者やそれに近い者のみであろうが」


 俺がユイたちの方を見ると、彼女たちはそれぞれにうなずいて応えてくれた。そういえばユイも、王子に話を聞くまで知らなかったみたいだしな……。


「しかし、我らドラゴニアはあまりにも世界を活性化しすぎてしまった。それによって力を得た人と魔族がくだらん争いを始めるようになり、やがて『勇者』や『魔王』なる強大な力を持つ存在を生み出してしまった。その者たちの戦いをきっかけとして地上は枯渇し、ゆえに大地と深く根付いていた我らドラゴニアは弱る一方だった。さらには恐れを知らぬ人間が竜の力を求めて我らを狩るようにさえなり、ドラゴニアは滅びの道へ向かっていったのじゃ」


 あまりにも悲しい話にユイがそっと口元を覆う。ミリーやシャルたちも複雑そうな表情をしており、特にシャルは大きなショックを受けていたようだった。

 アンジェは淡々と続ける。


「そうして絶滅の危機を迎えた我らの前に現れたのが女神じゃ。ヤツの力によって我らドラゴニアは人化の術を学び得て、人や魔族と共存する道を探った」

「あ――だからアンジェは女神のことを知ってたのか? ていうか、地に落としたっていうのはそういう意味だったのか!」

「うむ。ヤツのおかげで存亡の危機は一時的にこそ免れたが、そのために我々は世俗と関わり合い、人々の中に溶け込まなくてはならなくなった。女神ら神族とは違うが、我らとて世界の理に携わる高等なりし生物。穢らわしき魂に触れることも多くなり、プライドはぐちゃぐちゃじゃ。しかし女神は『それが生きるということですよ』などと気色の悪い笑顔で語りおって。ああ思い出しても腹が立つ」

「ア、アンジェ?」


 苦々しい顔でイラつきながら軽く地面を踏みつけるアンジェ。たぶんそれ、クセなんだろうな。

 けど、その話しでなんとなくの事情は呑み込めた。

 

 そこでシャルが気付いたように言う。 


「……そうか! つまりそうして竜族と人との間に生まれた子に、王の力が受け継がれていったと……! 君はその主を捜していたのか!」


 得心したといったように手を叩いたシャルの発言に、しかしアンジェは「ふん」と素っ気なく腕を組む。


「その通りじゃ。しかしドラゴニアの力を脆弱な魂のヒトごときがそう簡単に受け継げるはずもなく、ゆえに我らはヒトの中でもより力の高い選ばれし勇者とその子孫にのみ相手を絞った。それによってドラゴニアの血は一時的にこそ受け継がれていった。だが――」


 答えを待つ俺たち。

 しかし、一時的――という単語から結果は予想がついた。


 アンジェは少し声量を落として言う。


「それでもなお、子孫を増やすことは叶わなかった。元々竜族の血に堪えられるほどのヒトなど一握りであったし、激化した戦争と竜狩りによって我らはもはや避けられぬ絶望の道を歩み、女神共も世界の均衡を保つことで手一杯じゃった。そしてついには『王』の子を生む役目を持つ(わらわ)だけを残し、血は途絶えた。そのために大地は枯れ、資源は減り、戦争の終わらぬ混沌とした時代に入った。もう覚えてもおらぬ遠い昔の話じゃな」

「……アンジェ」

「そう暗い顔をするな、主様。それでも妾は信じていた。人であろうが魔族であろうが構わぬ。『王』の血をわずかにでも受け継ぐ者がいるはずだと。それを妾は探し続けた。一人で。千年を超えてな。じゃが、ついには弱ったところをヒトに捕らえられ、そして『聖女』の力でこの地に封じられたのじゃ」

「……そんな過去があったのか……」

「うむ。だが希望はあった。妾の【竜眼()】にはかすかに見えていたからな。いまだどこかに『王』の力を持つ者がいることを。そして今わかった。妾の眼でさえその姿を捉えられなかったのは、それが異世界の者であったからじゃ」


 嬉しそうにうなずき、赤い瞳で俺を見つめるアンジェ。


「え……そ、それってつまり」


 おそるおそる自分を指差す俺。



「うむ。主様のことじゃ!」



 大きくうなずくアンジェ。俺もユイたちもただただ驚くしかなかった。


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