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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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シャルロットの選択


「ユイ、ミリー」


 そこで俺は名前を呼んだ二人の手を取り、先ほど【思考加速】の才能で検証してそれぞれに合いそうだと見繕ったいくつかの魔術を二人同時に【転写】しておく。

『魔術』には神族や神獣、精霊、あるいは魔族の力を借りるものなどがあり、そのうえで様々な属性や相性、本人の生まれ持った素質によって扱える術は十人十色の千差万別だが、この二人にもやはりそれぞれ合った魔術がある。

 そして同時に、重なるところもあった(・・・・・・・・・・)


「え? カナタ……これは……」

「ちょっとカナタ、これっ」

「何があるかわからない、自由に使ってくれ。俺たちでシャルを助けよう。それに――里のみんなにも絶対に手出しはさせない。だろ?」


 俺がチラッと送った視線に、ユイとミリーは少しだけ驚いたように呆けていたが、お互いに顔を見合わせて頷き、俺も頷き返してそのときを待つ。


 

 ――そしてその頃にはもう、シャルは限界を迎えていたようで。



「――それでは訊こうか。エイビスよ、この剣を抜いてもらえるな?」

「……く、ぐうぅぅぅっ……!!」



 苦しげにうなるシャル。

 彼女は今、選択を迫られている。




 ――世界を守るために仲間を捨てるか。



 ――仲間を守るために世界を捨てるか。




 突きつけられる最悪の選択肢に、シャルの清廉な心が激しく乱れ、怒り、焦燥、悲しみ、悔しさ、いろいろな感情がない交ぜになっていることがよくわかった。

 また、あの宰相がいかに頭の切れる男かもよくわかる。


 知っているんだ。

 シャルロットという人間を。


 彼女が、仲間を犠牲にしてまで他の何かを選ぶことはないであろうということを。

 シャルが、誠実で清廉な女性であることを。

 

 だから、その『人質』というカードを最後に切ってきた。

 そしてその手をシャルの肩にそっと置いて告げる。


「エイビス。お前は確かに天賦の剣才を持つ、我が国が誇る強靱な騎士だ。そこまでの騎士になるために、どれほどの努力を積み重ねてきたのか私は知っている」

「……え?」

「だが、本来お前は騎士など務まらぬ優しき乙女なのだよ。いい加減楽になれ、エイビス。自らの気持ちに正直になるが良い」


 まるでシャルの内面を見通すような言葉で、諭すように優しく、甘い声をかける宰相。

 それに対して。



「…………………わたし、の、きもち………」



 シャルはうなだれながら、ぼそぼそと弱り切った声で言葉を口にしていく。

 その表情には、もう先ほどまでのような気迫や強い決意が見られない。


 そしてシャルは――


「……私が……」

「ん? なんだ?」

「私が…………剣を、抜けば……」

「うむ」

「………………皆に、手を出さないと、誓ってくれ……」


 ついに、その言葉を口にして。


 宰相は、ニヤリといやらしく笑う。


「ああ、ヴァリアーゼの剣に誓おう!」


 ハッキリとそう答え。


 果たしてシャルは、ついに折れた――。



「……わかった。剣を、握らせてくれ」



 宰相はやれやれと疲れたような様子で聖剣を持ち上げ、それを鎖に繋がれたシャルの右手に――利き手ではない方に寄せていく。

 そしてシャルは右手で聖剣の柄を握り、その瞬間に聖剣の鞘から淡い光が漏れて、宰相が鞘をスライドさせていくと自動的に剣は抜けていき、



「――参りますっ!」



 真っ先に駆けだしたのはリリーナさん。

 先ほども見せた強い踏み込みでまるで疾風のように距離をつめ、一切無駄のない流麗な動きで三人の魔術師に素早く連撃をたたき込み、その音に気付いた他の兵士たちがすぐに振り返って戦闘態勢に入った。

 だが、そのときにはテトラとアイリーンも人とは思えないほどのスピードで詰め寄っており、幾人もの兵士たちの喉・みぞおちなどの急所を狙って打撃を入れ、戦闘力を奪う。あっという間に半分以上の兵士たちが無力化されたところで、ようやく宰相も襲撃に気付いたようだった。


「なっ!? お、お前たちはエイビスの!」


 慌ててシャルから聖剣を奪い返した宰相。彼を守るように残った兵士たちが牢の中へと集まっていく。

 リリーナさんはスカートを綺麗に保って姿勢正しく立ち、その両隣へテトラ、アイリーンが並ぶ。


「な、なぜお前たちメイドがここに……! くっ、王子の差し金かっ!」

「シャルロット様を解放していただきます」

「よ、寄るなッ! それ以上近づけばエイビスがどうなってもしらんぞ!」


 聖剣の鞘を投げ捨て、その美しく輝く刀身をあろうことかシャルの首筋に当てる宰相。

 シャルはそんなことで一切動揺はしなかったが、それよりもリリーナさんたちがやってきたことにこそ驚いているようだった。


「リリーナ……テトラ……アイリーン……なぜっ!」

「救出に参りました。遅れまして大変申し訳ございません」

「シャルロット様! すぐお助けしますよ!」

「もう少しだけお待ちくださいっ!」


 気力を燃やして歩み寄る素手のリリーナさんたちに、武器を持つ兵士たちは皆気後れしてしまっている。

 それはそうだ。【心の深化】によって力を解放している彼女たちのオーラは凄まじいものだし、特にリリーナさんのそれはたとえ見えずとも相手に恐怖心を与えているだろう。


 けど、シャルが人質にされてるままだ。どうやって助けるんだ……!?


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