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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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救出作戦開始!

 宰相たちの行動を見届け、静かになったところでリリーナさんが言った。


「上手くいきました。あの聖剣が放置されていてはいてもたってもいられないでしょうし、直属の騎士が消えたことでいろいろと疑うことでしょう。それに、あの剣は持ち主たるシャルロット様以外に抜くことは出来ません。後ほど訊くこともあると仰っていたようなので、必ずもう一度シャルロット様の元へ向かうと確信しておりました。兵士も一緒に連れていったおかげで我々も侵入しやすいはずです」


「おお……」と感嘆してしまう俺たち。

 あんな短い間にそこまでの作戦を思いついて、しかもちゃんとそれを成功させた。相手の動きや心情を想像、理解しなければ出来ないことだ。ユイも「さすがですっ」と目を輝かせている。


 そこでミリーが勢いよく立ち上がり、


「よーし! そんじゃあとはあいつらぶっ飛ばして鍵を奪って、シャルロットを助けるだけでしょ! あたしたちなら楽勝よ! ね、カナタっ!」


 そう言って耳と尻尾を立てながら拳を握りしめるミリーに、しばし呆けた後で思わず笑い出す俺。


「ははっ、お前こういうときでも明るいし前向きですごいよな。素直に尊敬するよ」

「な、なんで耳撫でるのよっ! つーかビビりながら行ったってダメに決まってるじゃないっ。こういうのは気合いと勢いよっ! ほら行くわよ!」


 先頭を切ろうと逸るミリーのおかげで、良い意味で場の緊張感が抜けて、ユイたちもみんなリラックスした表情へ変わっていく。

 ホントに良いムードメーカーだと、俺はまたこいつに感謝した。


 しかし、そこでリリーナさんが静かに止める。


「ミリー様、お待ちください」

「――ちょっ、何よもう! 気合い入れたばっかなのに!」

「申し訳ございません。ですが……もはや事情は変わりました。ここから先は、あまりに危険です」


 リリーナさんの真剣な声に、一瞬にして空気がまた引き締まっていく。

 俺もユイも、そしてミリーも、リリーナさんの表情と声色に顔を見合わせた。


「宰相の企みもそうですが……まさか、伝説の竜族である『ドラゴニア』が生存しているとは信じがたい話です。もちろんカナタ様の仰ることなので疑う余地はございませんが、これは、本来ならばすぐに王子へお伝えしなくてはならない国家レベルでの案件となります」

「国家レベルの……」


 俺のつぶやきに、リリーナさんは黙ってうなずく。


「何よりも、ここまで大事になってしまえば、カナタ様たちにも大きな危険が及ぶ可能性があります。宰相は、おそらく私どもの姿を見れば生きて帰そうとはしないでしょう。そのようなところに、ご主人様を向かわせるわけにはまいりません」

「う……そうっすよね。あたしたちは怪我してもいいけどさ、カナタ様たちがアブナイ目に遭うのは……」

「はい……カナタ様たちにそんな危険な思いをさせるわけには……」

「その通りです。シャルロット様は必ずお救いしなくてはなりませんが、無茶をするのは我々だけで構いません」


 それにはテトラとアイリーンも同意し、その声を弱めていく。

 そしてリリーナさんは、どこかいつもより冷たく、怒りのこもった声をしていたと思う。


 ――でも、だからこそだ。



「――リリーナさん。テトラ。アイリーン」



 呼ぶと、三人とも俺の顔を見てくれる。

 俺はあえて明るく笑った。


「よくわかるよ。俺だってもし同じ立場だったらそう言うだろうな。三人とも、心配してくれてありがとね」


 三人は笑う俺を呆然と見つめてくる。

 そりゃそうだよな。リリーナさんたちメイドにとって、俺たちは守るべき存在。いくらシャルの危機とはいえ、そこに俺たちを向かわせる判断なんて出来るはずがない。


 だからこそ、こっちから言わないとな!


「でもさ、こんなところでシャルを見捨てて逃げるような勇気は――リリーナさんたち女の子だけを行かせるような勇気は逆にないって。それに俺は仮にも『勇者』だよ? こんなときに活躍してこその『勇者』じゃんか。こう見えて【才能】だけは人一倍あるんだぜ。ま、頂き物だけどさ」


「「「カナタ様……」」」


 リリーナさんもテトラもアイリーンも、それぞれに複雑そうな心情を顔に映していた。その迷いが俺にはよくわかって、だから安心させたいと思ってそう言ったつもりだった。


 そこでユイとミリーが俺の肩をトントンと叩き、見れば、二人とも小さく微笑んでいる。

 俺は言った。


「ほら、付き添いのエルフのお嬢様方も同じ気持ちのようですし?」

「はいっ! シャルさんは私のお友達です。一緒に助けに行きます! 私だって、カナタに頂いた魔術で少しはお手伝いが出来るはずです!」

「つーかあたしはさっきからやる気マンマンなのよっ。ああいうキモくてやらしーやつらぶっ飛ばして気分爽快スッキリしたいの! しょうもないこと悩んでないで行くわよ!」


 両手をぐっと握るユイと、仁王立ちして鼻息を荒くするミリーに、三人は言葉を失う。


 けれどやがて――


「……うううう~~~っ! だー! カナタ様もユインシェーラ様もミリー様もかっこいいっす! よしゃー! リリーナさんみんなで一緒に行きましょうよ! カナタ様たちは絶対あたしたちがお守りしますしっ! な、そうだろアイリーン!」

「……はい。この命に替えても、カナタ様たちは全力でお守り致します。そして……シャルロット様を必ずお救い致しますっ! リリーナさんっ!」

「テトラ……アイリーン……あなたたち……」


 リリーナさんがやる気を出した二人を見て、わずかに考え込むように黙り、目を伏せて――。


 ――それからそっと顔を上げて、大きく息を吐いた後で言った。


「……わかりました。そのかわり、戦闘行為を行うのは極力私どものみとし、カナタ様たちはいざというときのみお動きください。誰一人として傷つくことは許しません。皆無事に、シャルロット様をお救い致します。それがすべてであり、敵を倒すことが目的ではありません。シャルロット様を連れ、生きて帰ることが目的です。良いですね」


『はいっ!』


 俺たちの揃った返事に、リリーナさんはわずかに口元を緩めた気がした。

 そしてリリーナさんは白い手袋をはめ直しながら続ける。


「それではこれより偵察任務を変更。シャルロット様の救出作戦へと移行致します――!」



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