シャルロットの行方
そんな風にして敵兵の目をかいくぐりながら進んだ俺たちは、ようやく遺跡のすぐ脇まで到達。
間近で見る『ドラゴニア遺跡』は石造りの巨大な遺跡であることがわかって、ピラミッドかと思うくらいにでかい。見上げないと全貌が把握出来ないほどだ。
そして、遺跡のすぐ近くも大きなテントがいくつか張られていて、そのうちの一つの前に二人の屈強な騎士が立っている。検問のときのやつとは違い、その肉体がしっかりと鍛えられていることは俺の目にもよくわかった。レベルもずいぶん違うしな。
リリーナさんの目の色が変わる。
「……あの二人は、間違いなくヴァリアーゼの騎士ですね。それも宰相専属の一等騎士です。何度かお見かけしたことがあります」
え、と俺たちの短い声が揃う。
ミリーが目を細め、苦々しい顔をしながら言った。
「うっわぁ、やっぱやらしーニオイする。やっぱろくでもない任務なんじゃないのこれ」
それには俺も同意するが、その言い方もちょっとやらしいぞミリー。
リリーナさんは続けた。
「そして、やはりシャルロット様はこちらにいらっしゃるようです」
「え? どうしてそんなことわかるんですか?」
「あちらをご覧ください、カナタ様」
リリーナさんの視線を追う。
テント前に立つ二人の騎士。
そのうちの一人が、見たことのある豪奢な装飾が施された剣を持っていた。
――あれ、シャルのっ!
目を見張る俺に、リリーナさんは小さく頷く。
「何を話しているか聞こえませんが……あれは、シャルロット様の『聖剣ゲレヒティヒカイト』です」
「えっ! で、でもリリーナさん! シャルロット様があの剣を手放すなんてことあるんすか!?」
「アルトメリアの里に行ったときが初めてだったのに……でも、あれは例外で……。シャ、シャルロット様がそんな……!」
テトラとアイリーンが信じられないといったように目を見開く。
そこで頭の中の『写本』が開き、新たな才能が発動する。
――【集音】
瞬間、俺の耳がまるで指向性マイクにでもなったかのように変化し、その二人の騎士の会話が聞こえてきた。
「――エイビスはまだ目覚めないのか? このままでは尋問すら出来んぞ」
「力をそぐため、ノルメルトの魔術師共が妙な術をかけたからな。まだかかるのだろう」
「ふん、だがいい気味だ。あのような小娘にこの聖剣が授けられたこと自体、俺は納得していない」
「それは俺も同じだ。何せやつは王子の方に寝返りおったからな。そのせいで国宝の聖剣が二本とも王子の元へ流れてしまった。国を支配するにはどうしてもそいつが必要だ」
「ヴァリアーゼの歴史は聖剣と共にある。しかし……こいつもようやく王の元へ戻る。これで王子も失墜し、策略も潰えるだろう」
「王子は戦を嫌う生温い考えをお持ちだからな。我がヴァリアーゼは戦ってこその騎士国。再び支配は進むことだろう」
「そうだな。エイビスには悪いが、ここで消えてもらうしかあるまい。宰相様のお考え通り、遺跡調査の事故として、な」
「これで騎士団長の席が一つ空くわけだ。次は俺が座らせてもらうか」
「いいや俺だ。お前には譲らんぞ」
「くくく、ははははは」
「ハハハハハハ――」
そんな会話に――俺は背筋に冷や汗を感じた。
思わず手に力が入る。
「? カナタ様?」
「……リリーナさん。みんなも聞いてくれ。今、スキルであいつらの会話が聞こえた。あいつら――」
そこで俺は、みんなに今さっき聞いた会話の詳細を明かした――。
ユイやテトラ、アイリーンは呆然とし、ミリーは「ほらやっぱり」と腹立たしげにつぶやき、リリーナさんだけは変わらずポーカーフェイスであったが――
「……そういうことですか。おそらく、我が国の王と宰相はノルメルトと裏で繋がっており、シャルロット様はその謀略に巻き込まれたのでしょう。ですが、これでもう悩む必要はなくなりました」
リリーナさんは目を閉じ、呼吸を整えて言う。
「シャルロット様の危機を確認しました。テトラ、アイリーン。今から全力を出すことを許可します。相手が誰であろうと、シャルロット様をお救いするためならば力を発揮して構いません。責任は私が持ちます」
「――了解っす!」
「――はいっ!」
リリーナさんがまぶたを開く。
その静かな瞳を見た俺はぞわ、と寒気を覚える。
同時にリリーナさん、テトラ、アイリーンの気配が冷たいほどに研ぎ澄まされていき、三人の呼吸が、そして気力と呼ばれるオーラが深く変わっていくのがわかった。
あのときと――俺が野湯でウルフに襲われたときと同じだ。
【心の深化】によって、その力が解放されている。
三人が今、明確に『戦闘モード』に変わったことを俺は肌でこの【神眼】で理解していた。
リリーナさんが言う。
「私が聖剣の方を担当します。二人はもう一人を」
「了解す」「はい」
「では参ります。カナタ様たちはしばしこちらでお待ちを。すぐに戻ります」
「え――」




