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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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異変

 見れば、確かに前方から二人ほどの軽装の兵士が槍を持って近づいてきていて、リリーナさんもそちらへ近づく。

 ヴァリアーゼの騎士……なんだろう。ヴァリアーゼでもよく見かけた簡易タイプの鎧を着ていた二人の兵士たちが言った。


「――待て。使用人が何の用だ。ここは立ち入り禁止である」

「こちらの遺跡はヴァリアーゼ王の命により、現在ヴァリアーゼ第一騎士団長シャルロット・エイビス様によって調査が行われている。貴様たちを通すわけにはいかない」


 兵士たちはリリーナさんの服装をじろじろと見つめてきたが、リリーナさんは落ち着いた表情のまま答えた。


「私どもはそのシャルロット様にお仕えしている使用人です。クローディア王子の命により、客人をお連れしております。シャルロット様にご面会したいのですが」

「王子の? いや、そんな話は聞いていないな。立ち去れ。シャルロット様からも一切誰も通すなと言われている」

「誰の命であろうと関係はない。何人たりとも近づけることは出来ない命令だ。ただちに引き返していただこう」


 二人の兵士はあえて威嚇するように槍を地面に突き立てるが、リリーナさんはそれにもまったく動揺することもなく平然としている。

 けど、俺たちは何か不穏な空気にそわそわとしていた。


 リリーナさんがそっと口を開く。


「……承知致しました。ところで、お二方の騎士階級をお尋ねしたいのですが」

「「何?」」


 兵士たちは声を揃えて視線を送りあい、それから一人が言った。


「まだ正式な騎士ではない。騎士見習いだ。それがどうかしたか」

「……いえ。ありがとうございます」

「ふん。さっさと立ち去れ」


 兵士二人が面倒くさそうにしっしっと手を振って追い返そうとする。

 リリーナさんは言った。



「――ではこちらを通らせていただきます」



「「は?」」



 次の瞬間、ずっと姿勢を正しくしていたリリーナさんがわずかにその両手を動かしたかと思えば――二人の兵士はゆっくりとその場に崩れおちてしまった!


『えっ!?』


 いきなりのことに驚いた俺たちは慌てて馬車を飛び降り、テトラ、アイリーンと一緒にリリーナさんの元へ走る。


 俺の目にはちゃんと見えていた。

 リリーナさんが兵士二人の首筋に凄まじい早さの手刀を叩きこんだ場面が!


 俺は困惑しながら尋ねる。


「リリーナさん!? えっ、な、なにをっ!?」


 駆けつけたとき、倒れた二人の兵士は朦朧とした様子でぷるぷると震えながら、


「き、貴様……!」

「なに、を……!」


 そんな二人の兵士を静かに見下ろしつつ、リリーナさんはメイド衣装に一切の乱れもないまま淡々と告げる。


「一つ。シャルロット様が特別な理由なく私たちを通さないということはありえません。

 二つ。ヴァリアーゼの騎士にあなた方のような貧弱な騎士はおりません。

 三つ。一等騎士階級と同位であるヴァリアーゼメイド隊長にそのような口調を向ける騎士見習いはヴァリアーゼには存在致しません」


「「なっ……!」」


 わずかに大きく目を見開く兵士たち。


「この赤いリボンは隊長の証ですが、それを知らない騎士などおりません。もう少し勉強が必要なようですね」


 リリーナさんが小さく息を吐いたとき、二人の兵士はがくっと意識を失ってしまった。

 テトラとアイリーンがばたばたとリリーナさんのそばへ。


「リ、リリーナさん! えっ、こ、こいつらうちの兵士じゃないんすか!?」

「そのようですね。アイリーン、少し探ってみなさい」

「は、はいっ!」


 リリーナさんに言われて、アイリーンが倒れた兵士の鎧や持ち物を探る。

 すると、アイリーンは「あっ!」と驚愕して言った。


「せ、背中に杖が隠されてました! この杖に刻まれている国章は……ま、魔術国家ノルメルトのものです!」


『!!』


 その発言に、俺やユイ、ミリーは一様に言葉を失う。それは確か、近くに国境があるという国の名前だった。

 リリーナさんはそのナイフを一瞥し、冷静につぶやく。


「やはりそうですか。ヴァリアーゼ王の勅命ということでしたが……ノルメルトの者がヴァリアーゼ騎士の偽装していることから、何やら裏がありそうです。テトラ、アイリーン。この者たちを拘束して馬車の中へ。後ほど森にでも放置します」

「「は、はい!」」


 二人は慌てて馬車からロープを手に戻り、リリーナさんは困惑する俺たちの方へ向き直った。


「皆さま、申し訳ございません。どうやらシャルロット様に何か異変があったようです。私どもはただちに偵察、確認しなくてはまいりません」

「シャル……マジかよ!」

「い、異変って……シャルさんは大丈夫なんでしょうかっ?」

「なーんかよくわかんないけど、きな臭いことは確かねっ。そーゆーニオイするし!」


 不安げにシャルの身を案じるユイと、倒れた兵士を不審そうにつま先でちょんちょんとつつくミリー。俺は俺で、ここにアイを連れてこなくて良かったと心から思った。


 ――シャルの部下を騙る他国の兵士による検問。王の勅命。古代の遺跡。


どうやら、王子の予感とやらは当たっていたらしい!

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