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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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混浴も楽じゃない


「……私は、幾度ともどかしく思ったことがあります」


 リリーナさんが静かに言葉を口にする。

 その手は、胸元の赤いリボンにそっと触れられていた。


「自身に魔力がないことで、メイドとして十分なご奉仕を出来ずにいたことがありました。もっと自分に力があればと、何度も後悔の夜を過ごし、そのたびに自らの未熟を恥じ、常に精進たれと思ってまいりました」

「リリーナ、さん……」

「それが……まさかこのような形でとは想像もしておりませんでした。ですから、大変戸惑っております。しかし……カナタ様のおかげで、私はより質の高いお世話をさせていただくことが可能となりました。ありがとうございます、カナタ様」

「え、え? リリーナさん?」


 リリーナさんはその頭を下げ、スッと膝をついて俺を見上げる。


「ヴァリアーゼメイド隊リリーナ・ランドール。僭越ながらカナタ様のお気持ちに報いるため、今後はよりこの身を粉にしてご奉仕させていただきます。なにとぞ、宜しくお願い致します」


 そう言って再び頭を下げ、テトラとアイリーンもすぐに温泉から上がってリリーナさんの左右に並び、それに倣った。


「同じくテトラ・ベクトラ! カナタ様にお仕えし御恩をお返し致しますっ!」

「同じくアイリーン・マルシェ! カナタ様に献身し、お尽くし致します!」


 三人が横並びになって俺にそんな言葉をかけてくれた。

 当然、いきなりメイドさんたちにひれ伏されて俺は当惑する。


「え、ええ? いやそんな大げさな! 俺はただユイと同じで、みんなと一緒に混浴出来ればいいなと思っただけで! っていや別にエロい意味じゃないからね!? そこは信じて! ほら! 俺ちゃんと目隠しとかしてたし! 紳士だったし!? まぁそのせいでウルフに襲われかけたけども!」


 慌ててそう言うと、そのときのことを思い出したのかリリーナさんが「フフッ」と小さく笑いを漏らした。

 それをテトラやアイリーンが驚いたように見つめて、リリーナさんは「あ」と短い声を上げたあとすぐに咳払いをして、しかし頬がわずかに赤らんでいたので俺やユイ、アイ、ミリーが笑ってしまって、さらにはテトラやアイリーンまで大笑い。

 リリーナさんだけは恥ずかしそうに口元をむずむずさえていたが、でも、その場はとても暖かい空気が流れていた。



 それからは、結局七人という結構な人数で秘湯温泉を楽しむこととなった俺たち。


 もちろん、リリーナさんたちも脱衣場で濡れたメイド服を脱いで裸で戻ってきたため、俺はまた目隠しをして紳士らしく振る舞おうとしたのだが――


「カナタ様、それはご不要です」

「え? で、でも……ていうか見えっ、み、見えてますよ!?」


 既に混浴を始めたところで、しかし俺が手にしていた布をリリーナさんがさっと取ってしまう。

 髪をアップしていたリリーナさんは淡々と告げた。


「構いません。以前は『お客様』でしたのでそのご配慮に感謝致しましたが、現在は違います。お仕えする『ご主人様』にそんな真似をさせるわけにはまいりません。どうか、私どもの肌をさらす無礼をお許しくださいませ」

「え、ええっ!? そ、それって見てもいいってことに…………け、けどテトラとアイリーンは!」

「カナタ様っ、遠慮しないでくださいよっ! 一度は裸で混浴したカンケイなんですし! 何よりご主人様なんですからいいんですって!」

「えええっ!? ちょ、テトラそんな近くにこられると~~~!」

「です、です。カナタ様っ。は、ははは恥ずかしいです、けれど…………わ、私も……!」

「アイリーンまで!? え、ええええ~!」


 なんとリリーナさん、テトラ、アイリーンの三人に目隠し案を却下されてしまったため、俺はなんと普通に混浴することになってしまった!

 それにはユイも嬉しそうに笑っていて、アイやミリーもケラケラと愉快そうにしている。困っていたのは俺だけのようだった。


 そのせいで、当然みんなの裸は丸見えだったわけで。

 濁り湯でもなかったためさらに丸見えだったわけで。


 ユイはいつも通りにくっついてきて満面の笑みだし、アイもミリーも一切恥ずかしがらずにはしゃいでるし、リリーナさんも自然体でほっこりしてるし、テトラもアイリーンも先ほどから俺のそばに寄ってきてあれこれ話しかけてくれたり、あまつさえスキンシップも起きてしまう。


 ――なんだよこれ天国かよ!? もうやべえよいろいろ我慢の限界だよ! こんなのに堪えられるほど俺悟ってねえよおおおおおおおお!


 なんてひたすらに自分と戦い続けるしかなかった俺だが、もちろんリリーナさんもテトラもアイリーンもそれとなく身体を隠してはくれていたし、俺もじろじろ見るようなことはしなかったからほとんど何も見れてはないんだけども!

 それでも見えちゃうことあるんだよ! 特にユイとか一切そういうのないし! う、うおおおおおお……!


「カナタ様。その、ご迷惑でしたら我々は……」

「い、いいんですリリーナさああああん……! みんなは悪くない! 悪くないんだ! 俺の煩悩が悪いんだああああ…………! ハッ! そうか煩悩を抑える才能を使えば! って検索しても出てこないしいいいいいい!」

「カ、カナタ様…………」


 必死に堪える俺を見て、リリーナさんはしばらく不思議そうな顔で目をパチクリとさせていたが……なんだかそれが、ちょっとだけ嬉しそうなものに俺には見えた。


 でも、こうやってみんな仲良く混浴出来たことでアイやミリーはテトラとアイリーンと一緒に話を弾ませたりしていて、ユイもいつも以上に楽しそうにしてくれたから結果はオーライってとこ……だろうか。女の子たちが仲良くキャッキャしてるのは俺にとっても嬉しいし、素晴らしく眼福な光景だしな。


 ま、俺は限界が近いけどな!!

 ホント今夜は一人であれこれしなきゃいけないけどな!!




 で、そんな楽園でもあり地獄でもあったハーレム入浴を済ませ、テトラとアイリーンがアイとミリーの着替えを手伝い、リリーナさんがユイと俺の着替えを手伝ってくれようとしたのだが――


「リリーナさん。カナタの服は私に着させてもらえませんか?」

「ユインシェーラ様、よろしいのですか?」

「はい、何でも皆さんにやってもらって申し訳ないですし、そうしたいんですっ」

「――かしこまりました。それでは、着衣方法をお教え致します」

「は、はいっ」


 リリーナさんから俺の服を受け取り、そのまま教えてもらいながら俺に着せてくれるユイ。

 なお、その服は里から着てきたものではなく、ヴァリアーゼの貴族用だという立派な仕立ての寝間着のシャツだった。正直普通のものでよかったんだが、これも王子様の歓迎のうちなのだろう。シルクみたいな素材でサラサラしててすげぇ気持ち良い。


「カナタ、ご、ごめんなさい。手間取ってしまって」

「いや、いいんだけど……」


 ユイはすごく真剣な顔でリリーナさんの説明を聞いているようで、それには俺も黙ってまっているしかない。


 そうしてようやく着替えも終わり、ユイがリリーナさんにお礼を言って、リリーナさんたちメイドは先に脱衣場を出ていく。アイとミリーも湯上がりの氷菓子――アイスがあるという話につられて飛び出していってしまった。


 残ったのは、俺とユイ。


「ユイ、俺たちも行こっか? あの勢いじゃアイとミリーに全部食われるかもしれないぞ」

「は、はい。あの……カナタ」

「ん? どしたのユイ?」

「……やっぱり、次からはカナタの身体は私が洗います」

「え?」


 突然の宣言。

 ユイは両手をぐっと握りしめて、俺の顔を見上げながら言った。


「カ、カナタのお世話は、私の仕事ですっ! こればっかりは、いくらリリーナさんたちがメイドさんだと言っても譲れません!」

「ユ、ユイ……」

「べ、別に何かの契約をしたわけでもないですし、まだ、ただの許嫁ですけど……で、でもやっぱり、私がしてあげたいんですっ。ダ、ダメでしょうか?」


 本当に真剣に。

 真っ直ぐで、気合いさえこもった大きな瞳で俺を見つめている。


 だから、つい笑ってしまった。


「えっ、ど、どうして笑うんですか?」

「いやごめん。もしかして、だからあんな一所懸命に着替えを手伝ってくれたの?」

「は、はい……。だって、その、今まではずっと私がやってきたのに、リリーナさんたちと一緒になってからは、私の仕事がなくなってしまっていたので……。このままじゃ、リリーナさんたちに全部とられちゃうかもって……」


 なんだか寂しげなことは声尻が弱くなっていくところからもわかる。

 いやー、まさかリリーナさんたちメイドの仕事に嫉妬してくれるとは……また久しぶりにキュンキュンしてしまった。乙女か俺は。


「ダメなわけないよ。ありがとね、ユイ。」

「カナタ……」

「すっげぇ嬉しいけどさ、でもほどほどでいいからね? それにリリーナさんたちは仕事なんだし、あんまりその仕事を奪いすぎない程度にさ」

「……は、はいっ! わかりました!」


 俺なんかの世話が出来て喜んでくれるとか、なんか愛されてる気がして嬉しいなぁ。

 つーかほんと、我ながら良く出来た許嫁だよもう!


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