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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯
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信頼の証

 その声にリリーナさんたちが振り返り、俺たちの注目も集まる。

 ユイは言った。


「えっと、あの、皆さん。そこまで濡れてしまったら本当に風邪を引いてしまいますし、それならご一緒に温泉……入っていかれませんか?」


「え――」とリリーナさん、テトラ、アイリーンの声が揃う。


「その、今回は一緒に入ってもらえないのかなぁと思っていたのですが……ちょ、ちょうど良いチャンスかな、なんて思ってしまって…………ダメ、でしょうか? もう、一度は一緒に入った関係ですし……」


 本当にみんなとお風呂に入るのが好きなんだろう。はにかみながら言うユイに、リリーナさんたちはキョトン顔のままだ。

 それからリリーナさんが少し困ったように言葉を探り、答える。


「ユインシェーラ様。嬉しいお誘いをありがとうございます。ご要望とあらばそうさせていただきたいのですが、この湯はあの森の秘湯とは違い、溶け込んでいる魔力の『効能』が濃いために、私どもが長湯することは出来ないのです。かといって、水などで薄めてしまえばユインシェーラ様たちが満足に楽しめません」

「あ……そ、そっか。そうですよね。ごめんなさい! でもそれじゃあ……テ、テトラさんとアイリーンさんは大丈夫ですかっ?」

「あはは、大丈夫っすよユインシェーラ様。ちょ、ちょっとふらつくくらいで」

「で、ですです。でも、やっぱり私たちには……」


 心配そうに声をかけるユイに、テトラもアイリーンもなんだか複雑そうにそう返す。

 リリーナさんはその目を伏せて。


「……申し訳ありません。私どもに、皆さまと同じ魔力への耐性があれば……」

「いえそんなっ! リリーナさんが謝ることではないですっ! わ、私のワガママで困らせてしまって、ご、ごめんなさい!」


 リリーナさんは深々と頭を下げ、テトラやアイリーンもそれに倣い、責任を感じたらしいユイはおたおたとしてしまう。アイやミリーもなんだか残念そうだ。



 ――さーて、どうやら出番らしいぞ。



「よし……リリーナさん、テトラ、アイリーン。ちょっといいかな?」

「カナタ様? はい、なんでしょう」


 リリーナさんが答え、俺は三人の元へ近づき、そっと右手を差し出す。


「まずはリリーナさん。俺の手、握ってもらえますか?」

「……? は、はい……」


 リリーナさんの白い手がそっと俺の手に優しく触れて、そこで俺は頭の本からもうずいぶん使わせてもらってる【魔力耐性】の才能を【転写】。俺の身体から淡い光がリリーナさんに流れていく。

 同じように、テトラ、アイリーンの手にも触って【転写】を行った。


 何が起こったのかわかっていない様子の三人に向かって説明する。


「今、【魔力耐性】の才能を三人に渡したよ。これで三人とも、何も気にせず秘湯に浸かれるようになったはずだ」


「「「え……」」」


「あ……でも何も聞かずに渡しちゃってごめんっ。もし迷惑だったり要らなかったら言ってくれ。一応才能を消去する才能もあるからさ」


 苦笑いしながら言う俺に、リリーナさんたちはしばし呆然。だがユイやアイ、ミリーたちは嬉しそうに笑ってくれていた。おそらく、言わなくても俺がしたことを理解していたのだろう。


 リリーナさんは言う。


「カ、カナタ様……? そ、それは確か、カナタ様が仰っていた才能の一つ……【転写】、ですよね?」

「うん。俺もこれで女神のお姉さんに力を貰ったんだけどね」

「いえ……で、ですが、なぜ、私どもに、こんな……」

「あ、やっぱり迷惑でしたかね? いや、ユイのあんな顔見ちゃったら何もしないでいるのはちょっとなって。それに……」


 リリーナさん、テトラ、アイリーンの視線が一身に集まってくる。

 俺は照れくさくなって、頬をかきながら答えた。


「えーっと。俺、リリーナさんたちにはお世話になりっぱなしで、その、すごく信頼してるんで、その力を渡しても有効に使ってもらえるかなって。それと、ご、誤解しないでほしいんですけど、そりゃあ俺もリリーナさんたちと一緒に楽しめる方がいいかなって思いますしっ」

「「「カナタ様……」」」

「ほら、これからみんなで一緒にシャルのところへ行くわけじゃないですか? もしかしたらそういうときにも何かの役に立つかもですし。まーつまりその、い、今までのお礼とでも受け取ってもらえたら!」


 三人のメイドさんは、ぼぅっと俺のことを見つめたまま固まっている。


 ヤバイ、軽く引かれてしまったか――と思った俺だが。


 そこでバッと手を挙げて動いたのはテトラだった。


「――ハイハイ! あのっ、あ、あたし早速試してみてもいいですかっ!? 本当に魔力耐性がついたのか確かめたいんですっ!」

「あっ、そ、それじゃあ私もっ!」


 その声にアイリーンも続き、リリーナさんは「え、ええ……」と困惑しながらもうなずく。

 そして二人はメイド服を着たまま、一緒に温泉の中へダイブした。


「――ぷはーっ! えとえと、さっきも少し入ってたから、本来ならもうちょっとフラフラしてやばい頃だよな?」

「う、うん。この温泉は特に掛け流しで魔力の『効能』も濃いから、私たちにはもう危ない……はずだけど……」

「だ、だよな。でも個人差もあるし、もうちょっと待ってみる?」

「う、うん」


 テトラとアイリーンが浸かっている状況を、俺たちはすぐそばでしばらく黙って見守っていた。


 十秒……二十秒……三十秒………………一分は経っただろうか。


 それだけ待っても二人に特に変化はなく、むしろ二人とも気持ちよさそうに「ふぇー」とほっこりした声を上げ始めている。

 ――うん、どうやらちゃんと【転写】出来たみたいだ。これならもう大丈夫だろう。

 その頃にはテトラとアイリーンもすっかり安心したようで、お風呂の中からこちらへ手を振ってきた。


「よっしゃーすげー! カナタ様! リリーナさん! 見てくださいよ~っ! 本当にあたしも魔力の耐性ついたんですねっ! これでシャルロット様やリリーナさんやアイリーンと一緒に……カナタ様たちとも温泉入れるっ! ひゃっほうっ!」

「ああ、よかった。テトラは喜んでくれたみたいだね」

「もちですよっ! あたしずっと魔力ないの悔しくて、コンプレックスだったんです! だからせめて武力だけでもって思ってメイド隊に入ったんで! カナタ様ありがとーございますっ!」


 テトラはお風呂の中から俺に手を伸ばしてきて、その手を取ったらぶんぶんと上下に動かされてしまう。

 続いてアイリーンも。


「カ、カナタ様……わ、私も嬉しいです! ありがとうございます!」

「アイリーン。良かった、ちょっと余計なお世話かと思ったからさ」

「とんでもないです! だって、これで私もカナタ様や皆さんと温泉に……う、嬉しいですっ。本当は、私たちがお世話をする立場なのに……、カナタ様に、お世話していただいてしまいました……」

「はは、いやいやそんなお世話って程度のことでは」


 本当に嬉しそうに笑ってくれたため、ホッとする俺。二人ともさっきまで叱られてしょんぼりしまくってたからなお嬉しかった。

 そして最後にリリーナさんが。


「……本当に、使用人ともあろう者が、ご主人様にこのようなお世話をしていただくなんて……」

「あ……その、すみませんリリーナさん……なんか勝手なことしちゃって……」

「――いえ。私どものためを思ってしてくださったこと。カナタ様が謝ることは何一つございません。……ですが、いただいてしまったこの力は、私どもの身に余るものです。このような力は、本来であれば一生をかけても手に入れることが出来なかったものでしょう」

「リリーナさん……」


 淡々とした言葉に、湯船で喜んでいたテトラやアイリーンが動揺して眉尻を下げる。

 やっぱりちょっと、出過ぎた真似をしたかもしれない。頼まれてもいないのに、よかれと思ってやったことがリリーナさんの負担になってしまっていたら、それこそ余計なお世話だ。


 と、思っていたのだが――

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