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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第一湯 アルトメリアの秘湯
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異世界温泉ダイビング


「なん!? えっ、ぼご! ごぼぼぼぼぼぼ!?」


 よくわからない力に吸い寄せられるように、俺の身体はどんどん秘湯の底へ沈んでいく。

 なんで!? この温泉こんな深くなかったぞ!? ていうか何に引っ張られてんだ!? そもそも何が起きてんだこれ!


『大丈夫、落ち着いてください。目を開けて』

「もご!? ご、ごごぼぼぼばーん!?」


 聞こえてきたのはお姉さんの声。

 目を開ければ――不思議と目の前にしっかりお姉さんの姿が見えた。それに、声も鮮明に聞こえてくる。


『苦しいのはわずかです。さぁ、もうじき扉をくぐります。直前までお見送りさせていただきますね』

「ごぼ……ごごぼぼぼ!?」

『さぁ、あちらを』


 お姉さんが笑顔で俺たちの下を指差す。


 見た。


 すると――緑色の不可思議な空間の中の底に、巨大な『扉』が待ち構えている! 

 そしてそれは、ゆっくりと静かに開いていた!


 ――ちょ、なにこれなにこれどういうこと!?


 意味がわからない俺はお姉さんの方を見る。

 するとお姉さんは、そっと俺の胸元に手を当て、


『せめてものお礼として、そしてあちらの世界で生き抜くため、私からも『本』をプレゼントさせてください。カナタ様に私の力を――『転写』いたします』


 そう言って、お姉さんの手が温かく輝き、そこから複雑な形をした魔方陣みたいなものが出現。それはゆっくりと回って収縮し、俺の胸の中へ消えていく。

 そして、俺の心臓が一度大きく高鳴る。

 瞬間、頭の中に無数の『文字』が刻み込まれたような感覚を得て、その文字たちが一冊の本に集約し――収まっていく『イメージ』が脳内をめぐった。

 なんていうか、強引に凄まじい量の知識を詰め込まれたような、凝縮された情報をダウンロードされたような、そんな、よくわからないけどとんでもないものを貰ったような気がした。


『これでカナタ様のレベルは潜在上限に達し、27604512の『才能スキル』と93775820の『魔術』を扱えるようになりました。初めは必要なときに自動発動しますが、やがて頭と身体が仕組みを理解していけば、自らの意志で行使出来るようになります。これで、あちらの世界でも秘湯めぐりを楽しむことが出来るはずです。少し大げさな力ですが……どうかわたくしを、いえ、わたくしの世界を、お願いします』

「もご、もごごごごご!」


 お姉さんさっきから何言ってるんだ!? 俺、どうなるんだ!?


『さぁ、扉が開きました。カナタ様に、どうぞ加護がありますよう――』

「ごぼぼぼ! ごぼぼぼぼぼっ!」


 いつの間にか開ききっていた謎の巨大な扉。

 俺の身体はそこに吸い込まれていき、お姉さんとどんどん離れていく。


 手を伸ばすと、お姉さんは優しい笑顔で――



『いつかまた、カナタ様にお逢い出来る日を心待ちにしています。

 ……わたくしの、名前は――――』




 だが、その名前を聞く前に姿は消え、声は断ち切れて――




「ごもごごごご! もごごごごごご~~~~~~~~~~~~!」




『だから! 何がどうやってんだよ~~~~~~~!』と叫ぶこともままならず、俺はそのままわけもわからず『扉』をくぐり落ちていった――。



 ♨♨♨♨♨♨




「――どわあああああああああああああああああああ!?」



 次に気付いたとき、俺はなぜか空に浮かんでいた。


「なんだよこれなんだよこれなんだよこれ! 空飛んでる!? スカイダイブ!? ちょっと待てどうなってんだよおおおおおおおおおおおお!」


 素っ裸のまま上空を落ちていく俺。寒い寒い寒いってぇ!

 なんとか姿勢を動かして上を見れば、そこにはゆっくりと閉じて消えていく扉があった。

 どうやら俺はあそこから落ちてきたらしい。いやいやなんでだよ!? つーかなんだよあの扉は!


「く――そおおおおお!?」


 続いて眼下を見れば、そこにあるのは山。山山山。ごつごつした岩肌と生い茂った木々しかない。


「いやいや死ぬだろ! パラシュートもないのに山に落ちたら死ぬだろ! ちょっとこれどうなってんのどうすればいいの!? お、おねえさあああああああああん!」


 あのお姉さんに助けを求めるも、俺の声は空に響くのみ。


 ――が、そこで突然頭の中に一冊の本のイメージが思い浮かび、そこから勝手にある『言葉』が飛び出してきた。

 すると視界が一瞬だけ赤くなり、パリン、とどこからかガラスの砕けるような音がして、先ほどまで山しかなかったはずのその落下地点に、今は人里のようなものが確認出来るようになった。小さな里だが間違いなく民家があり、人が住んでいるのがわかる。

 さっきまでは絶対になかった里が、今はなぜか“視えて”いる!


「なんだ、これ? は? 何が起きて――えっ?」


 意味もわからず呆然とするしかない。

 が、そんなことをしている間に地上はみるみる近づいていき。


「――あ。や、やばい! このままじゃ!」


 ぐんぐんと近づいてきた地上――そこには巨大な湖のようなものがあり、どうやらもうそこに落ちるしか生き残る方法はないようだった。

 いや、なんか湯気っぽいの見えるしこれ温泉じゃないか!? 落下地点にいきなり秘湯!? お姉さんの世界ってここ!? 秘湯めぐりってこういうことなん!?



「だーもうわけわかんねーよ! どうにでもなれええええええええええええええ!」



 すべてを覚悟した俺は、水泳の飛び込み競技のように手を前に突き出して、ついにそのまま巨大な秘湯に飛び込んでいったのだった――。


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