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その言葉に、俺とユイはしばし呆然としてしまう。
俺はハッとして言った。
「え、えっと、シャルの仕事を手伝う……っていうのは?」
「うん。実は今、シャルロットは王の勅命で外に出ていてね。そのせいで君たちを迎えに行くことが出来なかったのだが……もう連絡もないままに数日が経っている。本来シャルロットは僕の部下だから、どうにも心配になってしまってね」
「ああ、なるほど……そういうことですか。用は、俺たちに様子を見てきてほしいってことですよね?」
「その通りだよ。考えすぎならそれでいいんだが……少し気になることがあってね」
王子は神妙な顔で手を組み、何かを考えているようだった。
そこでユイが尋ねる。
「あの、王子様。ご質問良いですか?」
「うん? もちろんだよユインシェーラ嬢。どうぞ」
「は、はい。えっと、どうして、それを私たちに……? 初めて会った私たちよりも、その、王子様の信頼出来る部下の方たちにお願いした方が良いのでは……」
「あ……確かに……」
納得してしまう俺。
王子も「うん」とうなずき、それから爽やかな笑みを浮かべて返した。
「答えは簡単だよ。今、僕が一番信頼出来るのは君たちだからさ」
「「え?」」
予想もしなかった返答に、俺もユイも呆然としてしまった。その様子にミリーが気付いて、「ちょっと、何よ何の話? 仕事を手伝うの?」とソファーの後ろから俺にもたれかかってくる。
要領を得ない俺たちに王子は続けた。
「すまない、それだけじゃわからないね。実は……現在僕の直属の部下たちはほとんど出払っていてね。いや、出払わされているというべきか。ともかく、今僕についてくれている部下たちはほとんど王の息の掛かったものたちなんだ。だから、彼らにシャルロットを任せることは出来ない」
「ええ? そ、それってもしかして……」
「うん。王は――いや、王についている宰相だね。彼らは僕が王に離反していることに気付いている。だからその力をそぐため、僕の部下たちに強引な命令を与えているんだ。今はもう……こんな任務を任せられる者はほとんどいない。リリーナは信頼出来るメイドだけれどね」
「恐縮です」
リリーナさんはペコリと頭を下げ、王子が小さく微笑む。
「そこで考えたんだ。シャルロットがあんなにも楽しそうに報告をして、また会いに行きたいと笑った勇者とアルトメリアの民のことを。伝説に名を残す勇者たちなら、きっと僕も信頼出来る。そう思ったんだよ」
「……そっか」「王子様……」
正直に話してくれた王子に俺は協力したくなり、そしてユイも同じだっただろう。
しかしそこで、後ろのケモミミ娘が俺の頭に顎を乗せながら言った。
「ちょっと待ちなさいよ。途中から聞いてよくわかんないけど、それってつまりあたしたちを呼びつけて試したってことでしょ? こうやって面と向かって会ってみて、信頼出来たら任せるし、出来なかったらハイさよならだったってことよね? なんかそれむかつく」
「うぉいミリー! 何失礼なこと言ってんだよ!」
「そ、そうだよミリーっ」
「な、なによっ。本当のことじゃない!」
ぶしつけな発言に俺もユイも慌てたが、しかし王子様は「いいんだ」と苦笑いして言った。
「ミリー嬢の言う通りだよ。こうして直接会ってみて確かめたいという思いは確かにあった。試すようなことをして失礼をしてしまった。申し訳ない。この通り、許して欲しい」
「ええっ! ちょ、いいですって頭上げてください!」
「そ、そうですよ王子様っ。わ、私も気にしていないですからっ!」
まさかの王子様に頭を下げられるなんて事態に、今まで以上に困惑する俺とユイはつい立ち上がってしまう。さすがのリリーナさんも少し目が泳いでいた。
それにはミリーもちょっと動揺したようで。
「ふ、ふーん? 正直じゃない。ま、ちゃんと謝ってくれるなら許してあげる」
「ありがとう、ミリー嬢。感謝するよ」
「はいはいっ。そ、それより話続けたらっ」
照れたように促すミリーに俺たちは苦笑。
王子は改めてミリーにお礼を言い、そして続けた。
「ありがとう。こうして会って話して、自分の目で見て確信したよ。君たちは信頼に足る人物だと。でなければシャルロットが気に入るはずもないしね。何より、このリリーナだって君たちを迎えに行きたいと自ら言い出したくらいなんだ」
「え? リ、リリーナさんが?」
俺たちが揃ってそちらを見ると、脇に立っていたリリーナさんは目を閉じたまま「こほん」と咳払いをした。
王子はくすりと笑って立ち上がると、部屋の壁に大事そうに立てかけられていた剣の元へ向かい、それに触れながら言った。
「さらに言えば、僕は会う前から君たちを信頼出来ると思っていたよ。なぜなら、この剣が勇者たちのことを僕に教えてくれたからね」
「え? そ、その剣は……」
「国宝――『聖剣エーヴィヒカイト』と言う。僕の命よりも大切にしているものでね。この剣は僕を“正しき道”へ導いてくれるんだ。今回もそうだった。だからこうして君たちにすべてを正直に明かし、信頼してほしいと思ったんだ」
「クローディア王子……」
王子は剣から手を離し、真剣に俺たちを見つめ、よく通るその声で言った。
「勇者カナタ。是非、君たちの力を借りたい。どうか僕の頼みを聞いてはもらえないだろうか?」
真摯にそう願い出る王子。
ユイの方を見れば、ユイは笑顔でうなずいてくれる。後ろのミリーも「好きにすれば」とちょっと照れくさそうに言う。
俺は王子の方を見返して、そしてうなずいた。
♨♨♨♨♨♨
そうして王子の依頼を引き受けることにした俺たちだったが、シャルがその仕事とやらをしているのはヴァリアーゼから少し離れた場所だということで、ひとまずは旅の疲れを癒やすため、数日ほどヴァリアーゼで身体を休めてからシャルのところへ向かう、ということになった。そんなところの気遣いもまた王子の人柄が出ている。
別れ際、すっかり仲良しになっていたアイと王女様は寂しそうにしていたが、アイがまた遊ぶ約束をすると、王女様はそれはもう嬉しそうに喜んでいた。これには王子様もとても感謝していて、いつでも遊びに来て欲しいと言ってくれた。
そのこともあって、今後は俺たちも顔パスで城に入れるようになったのだが、なんつーか、すごい人と知り合ったんだなぁと改めて思う俺だ。
――で、それからはリリーナさんの案内で、王子が俺たちのために用意してくれていたという住居にやってきたわけだが……。
「うわすげぇ……」
「お、おっきいです……」
「わー! おしろみたいですー!」
「はー、やっぱ王族のお金持ちは違うわねー」
四人揃って見上げる俺たち。
ちょっとした一軒家程度のものかなぁとなんて予想をしていたのだが、それは見事に裏切られた。
何せ、目の前の大きな洋館は迎賓館か鹿鳴館かよというレベルの豪奢ぶりであり、貴族様たちが優雅に暮らすためのものにしか見えないからだ!
ヴァリアーゼ領内の秘湯めぐりをするときはここを拠点として、いつでも自由に利用してくれて構わないとのことで、その太っ腹ぶりに感謝する俺たち。けど四人で過ごすには明らかに広すぎる環境だし、一体何LDKあるんだよこれ! ミリーの言う通りだわマジで王族すげぇ!
「皆さま。どうぞ中へ」
「あ、はいっ!」
そのままリリーナさんに続く俺たち。
多少そわそわしながら館に入ったところで再会したのが――
「――あっ! テトラ! アイリーン!」
「あっ、カナタ様! 皆さんも! お待ちしてましたよー!」
「カ、カナタ様っ、お待ちしておりましたっ」
そこで掃除をしていた、見知った二人のメイドさん。
そちらにリリーナさんも移動し、三人は俺たちに向かって横並びに姿勢を整える。そしてお腹の前で礼儀正しく手を揃え、
「カナタ様。ユインシェーラ様。アイリベーラ様。ミリー様。
クローディア王子殿下の命により、本日より、私どもヴァリアーゼメイド隊のリリーナ、テトラ、アイリーンが正式に皆さまのご滞在中のお世話をさせていただきます。何なりとお申し付けくださいませ。引き続き、どうぞ宜しくお願い致します」
「よろしくお願いしまぁーすっ!」
「よ、宜しくお願い致しますっ」
そのまま三人は丁寧に頭を下げてくれる。
俺はユイやアイ、ミリーと顔を見合わせ、それから四人揃って笑顔で答えた。
「「「「よろしくお願いします!」」」」




