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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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戦うメイド隊


「……あ」


 不思議なことに気付く。


 見えていた。


 ユイが隣でわずかに頬を膨らませている愛らしい姿とか。

 恐ろしく無表情なリリーナさんが泣き喚くテトラの頭を万力のごとく両手でグリグリしている姿とか。

 アイリーンが頬に手を当てながら何やらもじもじしている姿とか。


 もちろん全員裸で。


 黒髪を全部下ろしたリリーナさんは凄まじいクールビューティで、そのモデルのようにスレンダーなスタイルは抜群。テトラに押しつけられた胸は小ぶりだがハリがあって美しい! さすがにシャルの部下らしく、戦うメイドさんとして身体も引き締まっている。


 テトラはまだ成長途中ゆえか、リリーナさんに比べれば多少子どもっぽい体つきをしているが、しかし筋肉などは適度についているし、陸上とか水泳とかやってそうなスポーツ少女っぽい健康的な魅力を感じるフレッシュな子だ。今後の成長を予感出来るな!


 アイリーンは三人の中では一番華奢で、肌も白く、なんともか弱い感じではあるが、成長期のその胸はユイに匹敵――とまでは言わないものの見事に湯に浮いていて、テトラよりも若干女の子らしい体つきをしているように見えた。


 メイド服を着ているときはよくわからなかったが、こうして改めて見ると三人ともそれぞれすごく魅力的な女の子だなって思える。シャルの部下であり、訓練を積んだ戦うメイドとは思えないその神秘の光景に、俺の目はつい釘付けになってしまった。ごくり……。

 ちなみにリリーナさんは【Lv250】、テトラが【Lv75】、アイリーンが【Lv70】となっていて、ユイもいつの間にか【Lv128】と相当高くなっている。



「――っておおおおい!?」



「わっ!? カ、カナタ?」

「カナタ様?」「どったのカナタ様!」「ひゃ! カ、カナタ様っ?」

「あ、い、いいいやなんでもないっす! あ、あははは!」


 必死で誤魔化す俺。


 ――おいおいなんだよこれなんで見えてんだ!? ああああ【神眼】スキルが勝手に発動しておるううううう!

 

 慌てて目元を手で探り、確かに目隠しはがっちりとされているのに光景が見ている――なんてことにようやく気付く俺。

 そう、いつの間にか【神眼】スキルが発動しており、その影響で目隠しを透過してしまっているのだ!

 つーかこんなことも出来たのかよこのスキル! マジ万能じゃん! ああでも見えると思うと目を閉じてても開けたくなっちゃうじゃんかよおおお!


 なんてうろたえまくって頭を抱える俺のところへ、みんなが心配してきてくれる。


「カナタ? どうかしたんですか?」

「カナタ様、顔色が優れないようです。これは……湯あたりされたのかもしれません。ユインシェーラ様、一度お湯を出た方が良いかと。テトラ、アイリーン」

「わ、わかりましたリリーナさん。カナタ、いったん上がりましょうっ!」

「は、はいっす! カナタ様、いったん出ましょう! ってわー全部見えてる! 男の子のアレが見えちゃってます!」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないよテトラ! カナタ様、今私たちがお運び致します! な、なななななるべく見ないようにしますから!」

「成長しましたねアイリーン。テトラ、ほら目を開けなさい」

「うう、わ、わかったわかりましたっす! カナタ様にこっちは見えてないんだし、問題なしだ! よっしゃー!」

「ええええっ!? ちょ、みんな待って! 俺別に湯あたりなんてしてな――うわあああ!」


 俺の反応を待つこともなく、みんな俺のためにと一斉にこちらへ近づいてくる。


 ユイもリリーナさんもテトラもアイリーンもみんな裸で。


 湯けむりの中でみんなの肌はほんのり赤くなり、縛りつけるものなんて何もない胸はぷるると揺れ、くびれた腰からお尻、見てはいけないところまですべてオープン!

 もう視界が肌色でいっぱいになり! 当然、俺の目にはそれが見えてしまっていて! けど見えてるなんて言えるはずもないし!

 しかもみんなが俺を助けようとして、抱きかかえるために身体を支えたり持ったりしてくれるので、みんなの柔らかい身体がこれでもとあちこちに密着しまくり、頭から腕から足から、もうありとあらゆるところから幸せすぎる感触が襲いかかり、俺の頭をショートさせていく。


「ぐっ――だあああああ! 大丈夫なんでマジ大丈夫なんでホント大丈夫なんでー!」

「ええっ? カ、カナタ!」

「カナタ様!」「カナタ様っ?」「カ、カナタ様!」


 あのままではまたユイのときのように情けない姿を見せると思い、俺はすぐさま【気力活性】のスキルを使って意識を取り戻し、みんなから逃げてお湯を上がり走った。


「ごめんありがとうでも大丈夫だから! 俺先に上がっておくね! 女の子だけでのんびりどうぞおおおおー!」


「あっ――カ、カナタ前! 前です! 逃げてっ!」


「――え?」


 ユイに言われて前を向く。


 そこに獣がいた。

 茶褐色の毛に覆われた四足歩行の獣――ウルフと呼ばれる肉食の猛獣種だ。


 アルトメリアの里でみんなから教えてもらい知っていたが、こうして対立するのは初めてだった。その目は飢えた獣のそれであり、大きさはたぶん俺の世界で言う狼以上はあるんじゃないだろうか。ウルフはその歯をむき出しにして涎をこぼし、俺に飛びかかってくる!


「うわっ!」


 その勢いに思わず尻もちをついてしまった俺。目隠しがはらりと落ち、瞬時に【身体能力向上】のスキルを使って防御。その後カウンターを――と思ったが。


「ハアアアアアッ! っと!!」


 そこに目にも留まらぬスピードで飛び込んできたのはテトラ。

 テトラの見事な肘打ちによって弾き飛ばされたウルフは、しかし素早く体勢を立て直し、木を蹴り飛ばした勢いでまたも飛びかかってくる。


「――くっ! やあああああっ!!」


 が、今度はアイリーンが真正面からウルフを迎え撃ち、その突撃を――ウルフの獰猛な牙の見える口をなんと素手で受け止め、そのままぐるりと身体をひねって華麗に投げ飛ばしてしまった!

 テトラとアイリーンはすぐに半身の背中合わせという戦闘態勢の構えで並び、そのよく訓練された動きとコンビネーションに呆然としてしまう俺。


「おいワンちゃん! お客様においたはダメだぞ!」

「カナタ様には指一本触れさせません……!!」


 そんな二人の表情は普段のそれとはまったく異なり――ウルフのそれよりも野性的に研ぎ澄まされ、こちらまでひりつくような威圧感さえ放つ戦士の目に変わっていた。


 投げられたウルフは地面に激突して苦しげな声を上げていたが、しかしいまだに鋭い目つきでこちらを睨みつけ、「ガァァァウ!」と雄叫びのような声を上げる。

 すると、森の中からさらに数匹のウルフたちがガサガサと呼び寄せられたように現れ、牙を剥きだしにしてこちらを威嚇。

 その中に一匹、明らかに異質なウルフがいて、その大きさは他のウルフの倍以上。【Lv30】と出ている。親なのかはわからないが、他のウルフとのレベル差からしてもそいつは間違いなくこいつらの中のボスだ。


「グルルル…………ヴァァァァアアアアアウ!!」


 森を震わせる咆哮。

 テトラとアイリーンはさらに深く腰を落とす。


「アイリーン。いっきに二階層まで潜るぞ」

「うん、わかってる」


 ――二階層? 潜る?

 二人の発言の意図は俺にはわからなかったが、しかし、それから二人の呼吸が大きく、深く変わって、放たれる気配がその迫力をざわざわと増していくのがわかった。


 だが、そこでリリーナさんが二人の前に立ち、その手でスッと二人を制した。

 リリーナさんは一切構えるようなこともなく、いつも通りの声色で言った。



「――退きなさい。ここにあなたたちの食事はありません」



 それだけだ。

 ただそれだけで、しかしリリーナさんの身体からはテトラやアイリーンのそれをはるかに上回る凄まじい威圧感が――もはや畏怖さえ感じるオーラとでも呼ぶべきものがウルフたちを包んでいくのが俺には見えた。

 これが……ヴァリアーゼの戦うメイド部隊……!!


 すると、ウルフたちは突然ガタガタと震えはじめ、揃ってじりじりと後退していき、やがてはそのまま一目散に森の奥へ逃げ出していく。

 そして再び静寂が戻り。


「おお……す、すげぇ…………」


 俺の身体から力が抜け、思わずそんなつぶやきをしてしまう。


「カナタ! だ、大丈夫でしたかっ?」

「あ、ユイ……うん、ごめん。大丈夫。はは、ちょっとびびったけど」

「よかった……リリーナさん、テトラさん、アイリーンさん。ありがとうございましたっ!」

「いえ。こちらの警戒不足で申し訳ありません。お二人がご無事で何よりでした。テトラ、アイリーン。良い仕事です」

「へへ褒められた! でも、さすがにいきなりでちょっと焦ったっすよ~! ちょびっと本気出しそうになったしね!」

「カナタ様……はぁ……ご無事で、よかったです……」

「あはは、ありがとうみんな。おかげでたすかっ――」


 と、お礼を言って気付く。


「――あ」


 足元に落ちている、俺の目隠し。


 顔を上げる。


 みんな裸だ。


 そしてそのことにおそらくとっくに気付いていたリリーナさんは目を伏せつつ、ほんのり赤い顔をしながら手足で身体を隠している。

 やがてテトラとアイリーンもそのことに気付いたらしく、二人とも短い悲鳴を上げてしゃがみ込み、素早く身体を隠した。特にアイリーンはトマトみたいに赤くなっている。


 リリーナさんが言った。


「カナタ様……その、お見苦しいものをお見せして申し訳ありません……」

「い、いえ……その、ご、ご立派でした……はい……」


 なんてことしか言えず、苦笑して誤魔化す俺。


「? あの、みなさんどうしたんですか……?」


 唯一わかっていないのはユイだけで。

 今後、ユイにも外の世界では必須である恥じらいや常識というものを身に着けてもらわないといけないな……なんて思う俺であった。眼福。

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