ヴァリアーゼ初の秘湯
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それから俺とユイはしばしお腹を休め、その間にリリーナさんたちが三人で手早く野湯の掃除を行ってくれた。
一時間もすれば胃の消化も落ち着き、そろそろお湯も新しく湧いて溜まっているとのことで、ようやく入浴時間がやってきた。
「――おお、雰囲気あるなぁ!」
「わぁ……素敵なお湯ですね、カナタ。ここが記念すべきヴァリアーゼ最初の秘湯めぐりになるんでしょうか?」
「はは、だね。思わぬところが最初になったなー。ところでリリーナさん、ここって名前あるの?」
「いえ。こちらの湯には正式な名称がございませんが、私どもは、オーメル草原の秘湯ということで『オーメルの湯』と呼んでおります。ここは魔力含有量が極端に少ないため、『効能』こそほとんどありませんが、私たちでも入れる珍しい温泉なのです」
「おお、なるほど」
リリーナさんがそう教えてくれる。寝ているアイとミリーにはちと悪いが、一足先に楽しませていただこう。
なんてわけで俺たちがやってきたのは、川の先へ数分歩いたところにあった森中の秘湯。
ここは野湯らしくあまり大きくはなかったが、無色透明の湯からはもわもわと魅力的な湯けむりが立ち上り、俺の好奇心を刺激してくれた。
「それではカナタ様、ユインシェーラ様。ごゆっくりおくつろぎください」
「ありがとうリリーナさん。ユイ、入ろっか?」
「はいっ。あ、それじゃあいつも通りに脱衣をお手伝いしますね」
「や、やっぱりか。うん、お願いします……」
恥ずかしいから断りたいというのが本音ではあるが、断ったらユイがしょんぼりしてしまうからいつもなぁなぁで身を委ねてしまう俺である。
いやまぁ好きな女の子に服を脱がせてもらえるなんてある意味最高なんだが! むしろ本音を言えば俺も脱がせたいくらいなんだが!
二人きりのときならまだしもなぁ……。
で、チラリとそちらを見れば、当然テトラやアイリーンがこちらを凝視していた。
「わぁ! お、お二人ともダイタンっすね! あたし、男の子の裸なんて見るの子どものとき以来で……ひゃー!」
「あわわわっ!? カ、カナタ様はいつもそうやってユインシェーラ様に……!? ア、アルトメリアの方々は、そこまで進んで……!」
「ひぃーそんなじっくり見ないでくれ! なんつーかこれは俺とユイが温泉入るときの儀式的なものというか! そんな深い意味とかないから! ただユイが気を遣ってくれてるだけだから! ってもう全裸にされてる!?」
「さぁカナタ。入りましょう♪」
「あ、う、うんっ」
いつの間にかこちらも裸になっていたユイに手を引かれ、二人一緒にいざ野湯へ。
「お、おおお~……ちょっと熱め……かな?」
「そうですね……でも、熱すぎれば川の水で温度を調節することも出来ますし、透明で綺麗で、お肌がツルツルとしそうなお湯です」
「だね。ちょっと酸っぱいし、肌の感じからしてもpHは弱酸性くらいかなこれは」
指で軽くお湯を舐めればそれくらいのことはわかる。特に酸性が強いと男はすぐわかるからな。伊達に日本でいろいろ秘湯めぐって本まで出してないぜ!
「まさか旅の途中にも秘湯に立ち寄れるなんて思いませんでした。リリーナさんたちに感謝ですね、カナタ」
「あ、うん。そうだね」
というか……。
「? カナタ?」
横目で見れば、ユイはずぅっと俺の隣にぴったりと寄り添ってくれている。
当然のように腕を絡め、肌は密着しておっぱいの感触もぷにぷにと伝わり、無色透明なお湯からはユイの綺麗な身体が全身丸見えになっていて、自然といろんな刺激がやってくる。むずむずと。
――いや、改めて思うんだけどさ。
俺、この子と両思いなんだよな?
ていうか俺……この子のおっぱいを…………その、うん……。
あー。ふわふわして、柔らかくて、気持ちよかったなぁ……。
他にも、好きにしていいって言われてるんだよなぁ……。
…………ごく。
「……だあああああやべええええええええええッ!」
「え? カ、カナタ?」
――ガンガンガン!
思わず縁の岩に頭をぶつけまくる俺。とっさに【身体能力向上】のスキルを発動させていたため大した痛みではなかったが、思いきりぶつけまくったので多少頭はスッキリした! 当然ながらそんな俺をみんなはポカンと見つめている。
「だっしゃああああ! はいこれでオッケー! ムラムラ飛んでった!」
「ど、どうしたんですかカナタ? むらむら?」
「なんでもないっす! 男ってのはこうやって自分を戒めないとすぐ過ち犯すからな! この辺は父さんから躾けられてんだ俺は!」
「は、はぁ……?」
よくわかっていない様子のユイ。
フッ、安心してくれユイ。俺はユイが大人になるまで決して暴走しない!
……いやもししてもそこまではしないッ! だから無邪気に誘惑するのやめてくださいね!
で、メイドさんたちはそんな俺たちを見つめつつ。
「うう、いいなぁ気持ちよさそー……あたしも入りたい……」
「カナタ様とお風呂……そ、そんなのはしたないですよね……」
「――テトラ、アイリーン。じろじろ見ては失礼です」
「わっ、そ、そうでしたごめんなさい!」「ご、ごごごめんなさい!」
「この辺りは野生の猛獣もいます。お二人にごゆっくり疲れを癒やしていただくため、私たちは周囲の警戒に当たります」
「「しょ、承知しました!」」
びしっとお腹の前で手を揃え、敬礼のようなポーズを取る二人。
そのまま行ってしまいそうな三人、ユイが俺より先に声を掛けた。
「え? あのっ!」
「――はい? 何でしょうユインシェーラ様」
振り返った三人に、ユイは言った。
「えっと……お三人は入らないのですか?」
「「「え?」」」
「だ、だってこんなに素敵な秘湯があって、とっても気持ち良くて、身体も温まって疲れも取れます! その、だからリリーナさんたちにも是非入っていただきたくて……」
その言葉に、キョトン、と戸惑うメイド三人。




