贅沢な野宿
そんな風にメイドさんと親睦を深めつつラークとルークの世話を済ませ、馬車のところへ戻ってきたときにはもうみんなが勢揃いしていた。
そこでアイが俺の元へ駆け寄ってくる。
「あっ、カナタさまみてみて! あのおさかなアイがとりました!」
「おお、すごいなアイ。結構捕れてるじゃん」
見れば既に魚はたき火の横で焼かれており、人数分は確保されているようだ。
「あたしだって捕ったからね! ふふんすごいでしょカナタ? あたしたちのおかげで美味しい魚が食べられるんだから感謝しなさい!」
「はいはい、ありがとなミリー。さすが狐の血を引くもふもふ野生児だ」
「えっへへそうでしょそうでしょ! もっと褒めていいのよ! あたしみたいなカワイくて魚捕りも出来るもふもふ――って誰が野生児よーッ! あーもうあんたの分あげないからッ!」
「だーウソウソごめん! ほんとありがと! アイと、それにテトラも! あ、ていうかテトラって呼んでも大丈夫かな? 二人に付き合ってくれてありがとね」
「もちっすよ! やーむしろお礼を言うのはこっちなんで! 二人ともあたしより魚捕り上手いんで、正直助けられちゃいました。てへへへ」
照れ笑いするテトラに、アイもミリーも我が物顔で胸を張っている。
と、そこでテトラが俺の方を見て目をパチパチとさせた。
「あれ? もしかしてカナタ様、アイリーンの手伝いをしてくださってたんすか?」
「ん? ああそうそう。こっちから頼んだんだけどね。でも、馬の世話って思った以上に楽しくて勉強になったよ」
「へぇ~……ラークとルークが初対面の人に世話されて懐くなんて珍しいっすよ。それに……ムフフ。アイリーンが男の人とそんなに距離が近いのも珍しいっすね」
「「え?」」
隣のアイリーンを見る。
肩が触れ合いそうな距離にいた彼女の顔が、みるみる赤くなっていく。
テトラは口元を手で隠しつつ、ニヒヒといやらしく笑いながら言った。
「あれあれあれ~? ひょっとして、アイリーンまで懐いちゃいました? やーカナタ様さすがは噂の勇者様ですね! アイリーンは内気で奥手なんで、その子が誰かに懐く方がよっぽど珍しいっすよ?」
「テトラっ!! や、ややややめて~~~!」
「やーまじで驚きましたよ! まっさかあのアイリーンがそんなに男の子と打ち解けるなんてさぁ~! なになにどんな話したんですか? あたしにも教えてくださいよ!」
「違うのっ! 違うからぁ! カナタ様がお気遣いしてくださって、そ、それで動物好きで話ができてっ」
「おほほほほ。まぁアイリーンさんたら照れちゃってカワイイ♡」
「だから違うの~~~! こ、こら待ちなさい~~~~!」
からかって逃げるテトラを真っ赤な顔で追いかけるアイリーン。
それは大変微笑ましい光景だったが――
「――テトラ。アイリーン」
「「ひっ!」」
二人の首根っこがリリーナさんに掴まれ、その動きが止まる。
リリーナさんは俺たちに向かって言った。
「お食事の準備が出来ました。冷めないうちにいただきましょう。テトラ、アイリーン。ユインシェーラ様の配膳をお手伝いなさい」
「「は、はいーっ!」」
リリーナさんの命令で素早く動き出す二人は、そのままユイと一緒に食事を運び始める。
リリーナさんは軽くため息をつき、
「申し訳ありませんカナタ様。アイリベーラ様。ミリー様。あの子たちはまだヴァリアーゼのメイドとしては教育が行き届いておらず……」
「ああいや、こっちも楽しかったんで。また手伝わせてください。な、アイ?」
「はい! アイもたのしかったです! テトラちゃんとはもうおともだちですっ!」
「ま、ヴァリアーゼのメイドに魚捕りで勝てたのは嬉しかったわねっ。みんなに自慢出来るわ!」
「皆さま……お気遣い、ありがとうございます」
「いやいや、俺たちも配膳手伝いますよ。行こうぜ、アイ、ミリー」
「はーい! ユイねえさまてつだいまーす!」
「お腹減ったしさっさとしましょ。つーかカナタ、あんたメイドと仲良くなったくらいであんまり調子のんじゃないわよ!」
「いってぇ!? なんで足踏むんだよ! おいこらミリー!」
「ふーんだ! ユイにも告げ口してやろー!」
「何をだよ!? お、おーい!」
なんて流れでそのまま俺たちも加わり、すぐに配膳を済ませて、そのまま七人で火を囲みながらワイワイとキャンプのように楽しい食事の時間を過ごす俺たちだった――。
――そして食後。
「あーうまかったっ。ごちそうさまでした」
「ふふ。カナタに気に入ってもらえてよかったです」
干し肉の料理や焼き魚、野菜もたっぷりなひよこ豆のスープなど、これでもかと食べまくって腹一杯になった俺は、とてつもない満足感と共にその言葉を告げて手を合わせる。するとユイが嬉しそうに笑ってそう言ってくれた。
ちなみにアイとミリーは既に腹一杯食べ終えた後で、疲れていたのかぐっすり寝入ってしまっており、テトラとアイリーンが二人を起こさないようゆっくり馬車へと運んでくれていた。
「やー、まさか野宿でこんな立派な食事とれると思わなかったから感激だよ。アイたちにも感謝だけど、ユイとリリーナさんにも感謝っす。ありがとうございました!」
「ふふ、どういたしまして」
「勿体ないお言葉です」
「でも、リリーナさんがすごくお料理が上手で、私はお邪魔になっていたんじゃないかと……」
「そんなことはありません。ユインシェーラ様のおかげで普段より176%ほど効率化出来ておりました。テトラやアイリーンよりよほど手際が洗礼されていらっしゃいます。またの機会に是非お手伝いをお願いしたいくらいです」
「ほ、本当ですか? はいっ、是非お願いします!」
食後のお茶を用意するリリーナさんの淡々とした褒め言葉に喜ぶユイ。
この二人もちょっと仲良くなった感じがして良かったな、と思う俺だ。ユイにはもっと外の人と触れ合ってほしいところはあるしな。
そうしてリリーナさんのお茶でほっこりしていると、リリーナさんがふと言った。
「ところでカナタ様、ユインシェーラ様。湯浴みはどうなさいますか? 少し胃を休ませてからの方が良いかとは思いますが」
「え? 湯浴みって……お風呂?」
「リリーナさん。でも、さすがにお風呂はないのでは……?」
俺とユイの疑問に、リリーナさんは「いえ」とすぐに答える。
「そちらの森の奥――川の向こうに小さな野湯があるのです。この辺りで野宿をする際はいつも掃除し、利用しているのですが、カナタ様は秘湯めぐりの目的があるとのことですし、アルトメリアの皆さまは湯浴みを好むと聞きましたので、それでは是非――と思い、ここを野宿の場所に選ばせていただいた次第です。暑いときは川で水浴びも可能ですので」
「おお……そういうことだったのか。リリーナさんの気遣いすげぇ……」
「さすがですリリーナさん……」
「痛み入ります」
感心する俺とユイ。リリーナさんは軽く頭を下げてやはり平然としていた。
そこへちょうどテトラとアイリーンも戻ってきて、俺とユイは顔を見合わせて頷く。
「そんじゃあせっかくだし入らせてもらおうかな。ね、ユイ?」
「はいっ! 里以外のお風呂は初めてなので、楽しみですっ!」
そんなわけで、俺とユイはメイドさん三人と一緒に初めて外の秘湯に入ることになったのだった。




