騎士シャルロット
そして結界を出た俺たちを見て、騎士たちはハッとこちらに顔を向ける。
三人のメイドさんが騎士を守るように前に出たが、騎士はその手でメイドたちを制止、俺たちの方へ一歩歩み寄る。
ユイは背筋を伸ばし、呼吸を整え、ハッキリと相手の目を見て言った。
「お待たせしました。私がアルトメリアの里長、ユインシェーラ・アルトメリアです。お話を聞きに参りました」
その言葉に反応したのは、相手のリーダーらしき騎士。
その人物は剣を置いたままそっと立ち上がり、頭部のヘルムをさっと上げ、
「「えっ――」」
俺とユイは揃って驚愕した。
兜の下の素顔――それは美しい女性のものだった。
青く長い髪を軽く振り払い、彼女は言った。
「お待ちしていた、ユインシェーラ殿。私の名は『シャルロット・エイビス』。ヴァリアーゼ第一騎士団の団長をしている」
腰元まで届く髪は先の方で一つに結われ、その瞳は力強く、身体はしっかりと絞られながらよく鍛えられているようで、結構な重量だろう銀に輝く鎧を軽々身に着けている。
とはいってもガチガチに全身を覆うプレートアーマーみたいなものではなく、肩や胸、腰、肘や脛などある程度の部分を保護するためのもののようで、鎧の中では軽装なものなんだろう。動きやすさを重視しているのは、下がスカートのような服であることからもわかる。
そんな彼女の第一印象は、とにかく凜々しい女性――といった感じか。
「申し訳ないが、この者たちはまだ勉強不足でアルトメリア語を話すことが出来ない。私が責任を持って貴女と話をしたいのだが、構わないだろうか」
「は、はい、わかりました。私のことはユイ、とお呼びください」
「助かる。であれば、私のこともシャルと呼んでくれないか。その方が対等であろう」
「わかりました、シャルさん」
「うん。あのようなことがあった折、話をすることは難しいと思ったが……こうして足を運んでくれたこと、心より感謝する」
「いえ、そんな。アルトメリア語を話せる騎士さんがいるなんて……」
「アルトメリアの民はヴァリアーゼでは有名だからな。常々あなた方に会いたいと思い、幼き頃より学んでいたのだ」
ユイとシャルはお互いに握手をかわし、二人の顔からそっと緊張の色が抜けたことが俺にもわかった。
そしてシャルの顔は俺の方にも向く。
「む。アルトメリアは女性のみの種族と聞くが……こちらの殿方は?」
「あ、こちらはカナタ。最近私たちの里にやってきた勇者さまなんです」
「あー、えっと、ど、どうも。藤堂奏多っす。いや、異世界的にはカナタ・トードーとかか……?」
なんとも慣れない紹介に肩身の狭い俺。初対面の騎士様に緊張して人見知りな挨拶になってしまった。
「勇者? ……そうか、であれば、貴殿がこの里を守ってくれたという英雄か」
シャルはすぐに理解してくれたようで、一度大きくうなずき。
それから大きく一歩下がると。
静かに地面に膝をつき。
――なんと、そのまま土に頭をつけて土下座してしまった!
「大変申し訳なかった! この通り――どうか赦してほしい!!」
『っ!!』
いきなりのことに、俺もユイも結界の中のエイラたちもうろたえるが、メイドさんたちは静かに事態を見守っていた。
ユイはしゃがみ込んでシャルに話しかける。
「シャルさん? あの、突然何を」
「先日のことは聞いている。我が騎士団の愚者たちが勝手な真似をしてこの里を襲い、あなた方を危険に晒し、森にまで火を放った事実。騎士団長としてこの通り非礼を詫びる。――いや、どうか詫びさせてくれ。今日はそのために来たのだ!」
「シャ、シャルさん……」
想像もしていなかったであろう出来事に、ユイはおろおろしてその視線を俺の方に向けてくる。だが俺もこんなことになるとは思わず、どうしていいのかわからなかった。
シャルは頭を上げ、俺たちを見上げて続けた。
「だが信じてほしい。あれはあくまでもあの者たちが個人的に起こした暴走であり、国の命令ではない。何よりも、我が騎士団はあのような卑劣な真似を断じて許さん! 私は、私は自分が恥ずかしい! 我が部下からあのような者を輩出してしまったことを、心より恥じて詫びる! 詫びて済む問題ではないことも承知しているが、直接謝罪させてもらわなければ気が済まなかったのだ! 本当に――申し訳ない!」
そして、またその頭を地面に叩きつけるように下ろす。その行為にメイドさんたちは沈黙を貫くが、そのうちの二人はちょっと不安そうだった。
俺は確信した。
この人は信頼出来る。
それは【神眼】スキルで確認した上での判断だが、スキルなど使わなくても、この人の清廉な目は誰にも明らかなものだろう。
ユイと目が合う。
俺は頷き、そしてユイもまた頷いてくれた。
ユイは言う。
「シャルさん。頭を上げてください」
「ユイ殿。だが……!」
「とにかく、場所を変えてゆっくりお話をしませんか? きっと、私たちはそれが出来るはずです」
シャルがそっと頭を上げる。
その綺麗な顔や髪は土に汚れ、しかし、目の輝きは消えてはいなかった。
「……すまない。心より感謝する――!」
そうして俺たちは、彼女を村に連れて帰ることにしたのだった。




