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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第一湯 アルトメリアの秘湯
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来訪者


「……へ、変です」

「え?」

「わ、私、ちょっと、変です」

「ユ、ユイ? 変て?」


 いきなりの発言に困惑する俺。

 ユイは胸元を押さえながら下を向き、なんだか落ち着かないようにそわそわしていた。


「カナタと出逢ってから……お、おかしいんです」

「え?」

「胸がドキドキして、奥のほうがざわざわして。カナタと一緒にいると、時折そんな風になることがあって……こんな気持ち……初めてで。ど、どうしていいのか……。なんだか、火照ってしまって、その、まともにカナタの顔が見れません……!」

「ユイ……」


 ユイは自分の気持ちがよくわからないようで、本気で戸惑っているようだった。その顔には不安げな様が見えるが、同時に何か熱い感情を秘めているようにも見えた。

 それはひょっとしたら……なんて思うが。


「――あはは、それは照れてるだけじゃない? ほら、俺がなんか恥ずかしいこと言っちゃったからさ。なんかごめんね」

「え? 照れて……そ、そうでしょうか……」

「そうそう! ほら、気にしないでもっと食べよ!」

「は、はい……」


 あーもう、ほんとにユイは初々しくて可愛いな!

 こうやって女の子はいろいろ成長していって、やがて恋愛を知っていくんだろう。たぶん、俺の世界も異世界もそういうところは変わらないんだ。

 もしも、ユイのその気持ちが俺への恋愛感情だったらすっげぇ嬉しいんだけどなぁ……なんて妄想しちゃうけど、いやいやないよな。

 だけど、もしユイに告白なんてされたら即オッケーして嫁にするレベルで俺もユイのこと気に入っちゃってるかもしれない。まぁそんな都合良いことありえないけどね。異世界に来ても妄想は加速しちまうぜワハハ!


「何キモチワルイ顔でニヤニヤしてんのよ!」

「いってぇ!? ちょ、なんだよミリー!」


 ずかずかやってきたミリーに軽く頬を引っ掻かれる俺。


「ふんだ! 里を救ったくらいで調子に乗らないでよね! そういうのは勇者として世界を救ってみせてからにしなさいよ!」

「いたた……てかなんで怒ってるんだよ? つーか、勇者として世界を救うってのもまだ漠然としててなぁ……ねぇユイ?」

「…………え? あ、は、はいそうですねっ」


 どうやら話を聞いてなかったらしいユイ。珍しいな。ここまでぼーっとしてるなんて。

 なんて、そんな風に宴会が盛り上がっているときに次なる問題は起きた。


「――た、大変だよみんな! 大変大変っ!」


 一人のエルフ――確かエイラって名前の子が慌てて部屋の中にやってきてそんなことを言った。その子の肩には猛禽類らしき鳥が止まっている。

 確か、あの鳥は見張りのために里に放っているとか聞いたな。騎士たちが攻めてきたときも、真っ先に知らせてくれたのはあの鳥らしい。

 エイラはその鳥を示して言った。



「この子が森の外で――結界の外でまた騎士たちを見つけたって!」



『――っ!?』



 その報告に思わず身構えて立つ俺たち。

 エイラは続けて言った。


「あ、で、でもなんか攻めてくる感じじゃなくて、その、なんか私たちに呼びかけてるみたい? なんだって。人数もぜんぜん少ないし、武器はほとんど持ってなくて、ていうか騎士みたいな格好の人は一人で、敵対心はないみたいって、この子が言ってるの。で、でも昨日の今日だし、どうしよう? どうすればいいかな? ユイっ」


 敵対心は……ない? 呼びかけてる? どういうことだ?

 そんなエイラの呼びかけに、ユイはしばらく悩む様子で。

 みんなが言葉を待つ。

 ユイは言った。


「……結界があれば襲われることはないはずです。とにかく一度、会ってみましょう。もし話して説得が出来るのであれば、そうした方が良いはずですから」


 ユイが決めたことに、みんなは多少心配そうではあったが、各々にうなずいて応える。

 その判断は俺も賛成だ。

 前回あんなことがあったとは言え、あいつらとは別人のようだし、相手が話し合いを望んでいるというのなら応えてもいいだろう。

 もしもそれで関係が上手く作れればそれに越したことはないし、もし一方的にこちらの侵略を告げるようなものであれば即話を打ち切って結界内に戻ればいい。

 頭の中で本の中身を検索し、スキルを発動させる“回路”はもう構築できている。いざとなったら俺がユイたちを守り、結界内に戻す時間くらいは稼げる。それにユイたちに魔術を転写してもいいんだ。


「ユイ。俺も一緒に行くよ。いざとなれば俺がユイたちを守るから」

「カナタ……でも、良いのですか?」

 

 いいもなにもない。

 みんなの前だからしっかりしようとしてるけど、当然ユイだって怖いんだ。その震えが俺にはちゃんとわかっている。ユイを一人で行かせるわけにはいかない。

 すると、そんな俺の言葉に続くように、数人のエルフたちが一緒に行くと言ってくれた。ユイはそれでホッと安心したように顔を緩ませてくれる。


「カナタ……ありがとうございます」

「お礼を言うことじゃないって。それくらい当たり前だよ。一緒に住んでる里長さまくらい守らせてくれ」

「カナタ…………はいっ!」


 ユイは嬉しそうに笑ってくれた。

 格好付けてしまった以上後には引けないが、正直すっげぇ怖い!けどなんとかするしかねぇんだよな! 


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