はじめて知る気持ち
で、それから食事やら何やらがたくさん運ばれてきて、そのままちょっとした宴会のようになってみんなワイワイと盛り上がってしまった。
どうもみんなで俺の歓迎会を準備していてくれたようで、想像もしていなかったサプライズにしばし戸惑ったものの、俺なんかのためにみんなが動いてくれたことがすごく嬉しかった。
「カナタさま! 一緒に踊りましょうよー!」
「カナタっち! あたしらともあそぼー!」
「カナタさん、こちらでゆっくりお話でもどうですか?」
「あ、ずるい!」「ちょっと待ちなさい!」「抜け駆けダメって言ったじゃん!」
なんて感じに俺を受け入れてくれて嬉しかったが、みんなとあれこれやるのはパーティーみたいで楽しかったし、知らない踊りや遊びで文化を知ることも新鮮だった。
そして、どこぞの高級温泉旅館にも負けないだろうアルトメリアの心づくしという豪勢や料理をいただき、その味に感動。
里で採れるという山菜や穀物、鹿に似た味の肉。他にも例のペムっていうパンみたいなものとか、ナタデココみたいなスイーツもある。さすがに異世界料理で名前も知らないものばかりだが、どれも美味しく喉を通り、俺のお腹を満たしてくれた。
「味はどうですか? カナタ」
「あ、ユイ。うん、どれもすごく美味しいよ!」
「それは良かったです。みんなでたくさん用意したんですよ」
「ありがたいよほんと……あ、でもこれってさ、もしかして全部ユイが作った?」
「え?」
尋ねながら木のスプーンですくったのは、里芋らしきものの煮物。
「これもだけど。というか、ほとんどの料理がユイが作ったのかなーって思ってたんだけど」
「それは……確かに、基本的なレシピや味付けは私ですが、どうしてわかったんですか? カナタは、まだあまり私の料理を食べていないのに……」
「どうしてと言われると困るけど……うーん、なんていうのかな。優しい感じがするっていうか。ユイの味がするって思ったんだよね」
「え……」
「まぁ異世界に来てからはユイが作ってくれたものしか食べてなかったしね。はは。それにしても、こんだけ美味しい料理が作れるんだからユイは絶対良いお嫁さんになれるよね。あー、毎日食べたいくらいだ!」
正直な気持ちを吐露しつつ、止まらないスプーンで次々に食べ進めていく俺。
ユイはそんな俺をぼーっと見ていたが。
やがて言った。
「……毎日、食べますか?」
「え? ――んぐっ。ユイ?」
そちらを見る。
ユイは胸元で手を押さえながら、上目遣いに言った。
「カナタさえよければ、私は、毎日でも……いいですよ?」
ユイの頬は、桜みたいに淡く色づいている。
その表情と言葉に、俺の心臓は思わずキュンとしてしまう。
――!? な、なんだこの愛しさはっ!
激しく抱きしめたい衝動にかられてしまう!
「ぐおおおお……ユ、ユイ!」
「は、はい」
立ち上がった俺は、ユイの両肩を掴んで言った。
「そういうセリフは、好きな相手にしか言っちゃダメだ!」
「……え?」
「なんかもう逆プロポーズみたいなもんだったし、一生を共にしても良いと思えるくらいの相手じゃないとダメ! じゃないと男はすぐ勘違いすっから! 俺みたいなアホ男はもうキュンキュンしてユイを抱きしめて結婚を申し込んでこの場で嫁にしたくなるくらいだったから! いい? わかったね!」
大真面目に詰め寄る俺。
ユイは何度か目をパチパチさせ、うろたえながら言った。
「は、はい……わかり、ました……」
「よろしい!」
満足げに頷く俺。
ユイはちょっと心配なところがあるからな。男のことは教えられることは教えないと! いつかユイがどっかの男に騙されるようなことになってはならん!
「…………くれても…………のにな…………」
「え? ユイ、今何か言った?」
「――あ、な、なんでもありません。えと、あっ、そ、そうだ! みんなのことを紹介しますね。ついてきてくだしゃい!」
「あ、う、うんっ」
そのままユイに手を引かれる俺。
つーかユイ、なんか動揺して噛んでなかった?
そして、俺はまだ名前も知らなかった他のエルフさんを順番に紹介してもらえた。
アルトメリアの中では十六歳からが大人として認められるらしく、その基準で言えばこの里にいる大人はわずか八人。残り十九人は子どもということになる。
もちろんユイやアイ、ミリーも子どもだ。いやミリーが来年大人かよって思うと凄まじく疑問は残るが。アレが大人て。
まぁともかく、みんな有効的に接してくれてほんとに嬉しかった。
俺みたいなヨソ者でも受け入れてくれて、有効的にカナタと呼んでくれる人も多いし、おかげで俺の方もみんなを名前で呼ぶことを許してもらった。
やっぱアルトメリアのエルフは優しい種族なんだろうなと思う。ミリーがあんなにみんなを信頼しているのも納得だ。
ま、当のミリーは耳や尻尾をみんなにいじられてワーワー騒いでいるが、愛されてる証拠だなあれは。
「ふふ、ミリーったらすごく楽しそう。アイも、あんなに嬉しそうなのは久しぶりに見ました」
俺の隣でユイが愉快そうに微笑む。
俺もそんな光景を見ながら言った。
「ユイ、紹介してくれてありがとね」
「いえ、そんな。みんなとは上手くやれそうですか?」
「うん。みんなすごい優しいしね。それに……なんかわかったよ」
「? 何がですか?」
「ユイが里長になった理由。里長ってみんなが投票して決めるんでしょ?」
「は、はい」
「たぶんさ、みんな優しい人たちだから、ユイが一番里長に向いてるって判断したんじゃないかな。だって、この里で一番優しいのはきっとユイだよ」
「え……」
「だから俺、異世界に来て最初の場所がこの里でほんとよかった。それに、一番最初に逢えたのがユイでほんとに良かったと思ってるよ。ユイ、いろいろありがとね」
「カ、カナタ……」
ユイは呆然としていたが、その顔は徐々に可愛らしく紅潮していく。しまった。ちょっとキザっぽい言い方になってしまったか?




