客人から仲間へ
で、そのまま四人でユイの家に帰宅。
一人暮らしだというミリーも一緒になって、ユイが作ってくれた美味しい朝食(ハムトーストに似たもの。ペムとかいうらしい)をいただき、その日は洗濯を済ませたり掃除をしたり、里のみんなと植樹なんかをしてのんびりと過ごした。
そして夕暮れ時。
今後の話し合いをするため、村の集会所となっている場所に――里長の家の離れにやってきた俺たち。当然、ここもユイの所有物である。
そこは小屋のようなものだったが、中にはなんと畳のような敷物が敷かれていて、思わぬところで故郷を懐かしむことになってしまった俺。
家族はどうしてるかなぁ。やっぱ俺が帰ってこなくて騒動になってんだろうか。いや、でも俺は勝手ばっかりやってきたからな。ちょっとした家出程度に思われてる可能性が高いか。
「カナタ?」
「ん? ああごめん。ちょっといろいろ思い出しててさ」
「……元の世界のこと、ですか?」
「あはは、わかった? うん、ちょっとね」
「そうですか……。やはり、元の世界に戻りたい、ですか……?」
「え?」
「カナタはだいぶこちらの生活に馴染んできていると思うのですが……元の世界のことも、気になりますか……?」
ユイはじっと俺の目を見つめていた。
それはとても真剣なものだったので、俺も真面目に答える。
「んー、まぁそりゃあいきなりこっちに来ちゃったからね。家族や知り合いもいるからさ。ちょっと心配はしてるよ」
「……そう、ですか」
「うん。でも俺にも勇者としての役目らしきものが出来たみたいだからね。帰るのはそっちを果たしてからかな。それにほら、そもそも帰り方もぜんぜんわからないわけだし。はは、だからまだしばらくはユイにお世話になるかも……なんて。それでもいいかな?」
尋ねると。
「カナタ…………はいっ!」
パァ、と花が咲くように笑ってくれるユイ。
ああもうなんだよ。そんな顔されたらこっちの世界に愛着が湧きすぎていざというとき元の世界に帰る気がなくなってるかもしれないじゃないか。でも可愛いから良し!
「ちょっと、何遊んでんのよ。もうみんな来るわよ」
「あ、うん。ごめんなミリー」
「ご、ごめんなさいミリーっ」
「あっ、ユイねえさま! みんなきました!」
アイが声を上げ、俺たちはそちらを向く。
小屋の入り口からみんなが――里のエルフたちが二十四人やってきて、これでこの里のエルフ全員が揃ったことになる。そういや、全員が集まったのを見るのは初めてだ。
そうしてみんなが座ったところで、まずはユイが立ち上がって言った。
「みんな、先日はご苦労様でした。とにかく、みんなが無事で良かった……。誰も怪我はしていないよね?」
ユイの言葉に、みんな一様に頷いて応えた。ああ良かった。俺も安心する。
「みんなのおかげで、里は無事に助かりました。結界も新しくなって、また突然攻め込まれるようなことはありません。これも、全部勇者カナタのおかげです」
「え? お、俺?」
「さぁカナタ。みんなに挨拶を」
「あ、挨拶って言われても。ええ?」
「ゆーしゃさま、がんばってー!」
「さっさとしなさいよね」
ユイたちに促されて、仕方なく立ち上がる俺。
「ごたごたしてしまって、まだちゃんとみんなにカナタのことを紹介出来ていませんでしたし、カナタにもみんなを紹介出来ていなかったので、ちょうど良い機会かと……」
「ま、まぁそれは確かに」
「ふふ。お願いします、カナタ」
ユイは一歩下がって俺を前に出し、俺は注目の中で「あー」だの「えー」だの言葉を探し、とりあえず喋ってみることにした。
「ど、どうも。藤堂奏多です。えー、みなさんにもカナタと呼んでもらえれば嬉しいっす」
たどたどしい俺の喋りに、くすくすと小さな笑いが起きる。はずかし! まぁ既に呼んでくれてる人たちもいるしな。
あー、しかし何を話していいのかやっぱり決まってはいなかったが、とにかく、自分が言いたいことを言おうと決めた。
なので、まずは頭を下げる。
「えーと……その、先日は大変ご迷惑おかけしました!」
それは、あの騎士たちが攻めてきたときの話だ。
改めてそのことを謝り、それから顔を上げて続ける。
「正直、勇者としての自覚はまだあんまりないけど、でも、たぶん俺がこの世界の――みんなのところに送られたのは、何か理由があると思うんだ。それが女神さまの目論見とやらかどうかはわからないけど、とにかく! 男らしく責任取って、お世話になったみんなに恩を返していきたいと思います! えー、そんなわけで今後ともよろしくっす!」
また頭を下げる。
するとパチパチとみんなが拍手をしてくれて、顔を上げればみんな笑ってくれていた。その光景に俺はホッとして胸をなで下ろす。
「ゆーしゃさま! これからもアイたちといっしょですよー!」
「はは、アイありがとね」
「まーた謝ってる。あんた、勇者のくせにうじうじするタイプみたいね。もう済んだことをくよくよしてどうすんのよっ。そんなことよりこれからのことでしょ?」
「ミリー……だな、サンキュ」
「ふんだ」
アイとミリーがそんな風に声をかけてくれる。
そしてユイはみんなの前に移動し、そして俺に向かって笑顔で言った。
「カナタ。私たちアルトメリアの民は、あなたを心から歓迎します。勇者としてだけではなく、カナタという人を」
ユイの言葉に、みんなが立ち上がって一段と大きな拍手をくれる。
そんな嬉しい光景を前に、俺はしばらく言葉を失って。
それから、また頭を下げた。
「――ありがとう! えっと、とにかくよろしくお願いしますッ!」
なんとも勇者らしくはない挨拶に、けれどみんなは笑ってくれて。
俺は、ようやくみんなに受け入れてもらえたのかなって、そんな気がした。




