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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第一湯 アルトメリアの秘湯
23/119

ユイとアイとの初混浴

 その後。

 とりあえずの脅威は去ったということで、今後はもう少し外への警戒を強めるという話し合いと、その簡単な役割分担などを決めてその日は解散。後日、また話し合いをすることとなった。


 そして俺は、ユイ、アイと共に里長の家に帰ってきて、テーブルにぐったりと伏していた。


「ふへぇ~。なんか帰ってきた途端疲れが……」

「ふふ、お疲れ様ですカナタ。アイもね」

「アイはまだげんきです!」


 びしっと手を伸ばして応えるアイに、俺もユイも笑いだす。

 異世界でも子どもはやっぱ元気だよな。でもいきなりエネルギー切れしたみたいに寝たりしちゃうから面白い。


「カナタ、お腹空いていますよね? すぐ夕食にしますね。栄養のあるものをたくさん食べてもら――ああっ」

「え? ど、どうしたのユイ?」

「ユイねえさま?」


 ユイが驚きの声を上げたので、どうしたものかと慌てる俺とアイ。

 ユイは申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい……そういえばお水がないんでした……。汲みに行かないとです……」


 俺とアイは顔を見合わせ、お互いに「よし!」とうなずき合った。



 ♨♨♨♨♨♨



 で、ただ水汲みに行くのももったいないということで、俺たちはそのまま水汲み用の桶にタオル代わりの布と着替えを入れて里の温泉の一つに向かっていた。

 その頃にはもうすっかり日は暮れ、異世界の夜がスタートしている。

 里には電気なんて便利な文明はないが、魔力をエネルギーとして充填することで使えるマジックアイテムと呼ばれるものがあるため、その中のランタンを手に外へ出ていた。火ではないから風などを気にしなくて済むのも便利だし、何よりこの里のみんなは凄まじい魔力を持ってるから燃料切れも心配ない。

 そもそも電気を使った家や町なんかが周囲にないため、月や星の明かりがかなり眩しくて、それだけでもかなり明るいんだよな。


「にしても、この世界に来てから初めての温泉か。あ、いや正確には二度目だけど、さすがに『死の温泉』を数に数えていいものか……」

「ふふ、そういえばそうでしたね。カナタが空から落ちてきたときは本当に驚きました」

「アイもアイも! どぼーんってなって、ユイねえさまがとびこんで、わーっでした!」

「そうだったね、アイ」


 姉妹は仲良く笑いあって、俺もそういやそうだったなぁと苦笑する。

 でもなんか、そうやって異世界に来たことが今はちゃんとリアルに感じられるようになっていた。

 見上げれば、空には見たことないくらい多くの星が瞬いていて。

 その並びからやはりここは日本ではなく、そもそも地球ですらのないのだろうと感じた。


 俺は、今日からこの異世界で生きていくことになる。

 そう思ったとき、少しまた不安になったけど。


「あ、カナタ。ここの温泉ですよ」


 俺の隣で笑ってくれるユイを見ていると、その不安は和らいでくれた。



 そうして温泉に――里の秘湯その一へ到着した俺たち。

 ユイいわく、この森に囲まれた静かな秘湯の濁り湯は『イレイドの湯』という名前らしく、疲れを取って活力をみなぎらせる『効能』があるらしい。

 ちょっとした池くらいの大きさはある露天風呂で、日本じゃまず見られない湯にテンションが上がる俺。もくもくと上がる湯気はなんとも気持ちよさそうだ。


「へぇ……ここも結構大きいね!」

「はい。里の温泉はどれも自慢なんですよ。『効能』も豊富で、日によって場所を変えるんです」

「そうなんだ。面白いな。ていうか毎日温泉選べるって贅沢だなー!」

「そうなんですか? 私はこれが当たり前なので……」

「やー羨ましいよ! 俺はそのためにどれだけ散財したか……!」


 どうやらこの世界の温泉の『効能』とは、俺の世界のそれとは少し意味が違うらしく、湯に溶け込んだ魔力の質や量などに応じて『効能』が変化するようだ。

 そもそもこの世界の温泉はどこも『魔力』が溶け込んだ源泉であり、それを温泉と呼称するらしい。

 けど、魔力が濃いと耐性のない人間には毒になるらしくって、ユイたちみたいに魔力耐性の強いエルフにとっては天国そのものなんだとか。

 入るだけで魔力をチャージすることが出来るけど、今までその使い道がなかったから、俺の『転写』スキルで魔術を使えたことがユイは本当に嬉しかったということを教えてくれた。


 それはともかく。


「ええと……それで……」


 見たところ、ちょっとした簡易脱衣所らしき木板のようなものはあったが、他には何の設備もない。

 いやまぁユイたちアルトメリアのエルフには女性しかいないわけだし、覗きが入ってこれる場所でもないし、脱衣所とか要らないといえばそうなんだけど。


 でも……俺はどうすればいいんだ!?


 チラ、とユイたちの方を見れば、すでに全裸になっていたアイはぴょんとジャンプして湯に飛び込み、「こら! アイ!」とユイに怒られても嬉しそうに笑っていた。


 そこでユイが俺の視線に気付く。


「あ、気付かなくてごめんなさいカナタ。脱衣を手伝いますね」

「え?」

「手を上げてもらえますか?」

「あ、はい」


 思わず返事をしてしまう俺。

 ユイはそばにくると、そのまま俺の服に手をかけて上着を脱がせてくれる。


「……え? あの、ユイさん?」

「はい? あ、次は下を脱がせますね」


 ユイの手が俺のズボンにかかる。


 固まっているうちに――その手はサッと下まで下りてしまった。


 俺は裸で召喚された。

 衣類など何も持ってきていない。

 借りた衣服は、木綿らしい素材の上着とズボンのみ。

 パンツはない。

 まるだしである。


 つまり――


「? カナタ? どうかしましたか?」


 ユイが首をかしげる。


 全裸の俺は――叫んでいた。



「キャ、キャーッ!」



「えっ? カ、カナタ?」

「なになにーどうしたんですかゆーしゃさま!」



 ユイが俺の服を持ったまま呆然とし、アイがぱしゃぱしゃ泳いで近くに来る。


「イヤー見ないで! エ、エッチー!」

「えっちー? え? ど、どういう意味ですか?」

「あはは、ゆーしゃさまくねくねしておもしろ~い!」


 男の裸を見ても何ら反応もなく平然としているお二人。まだお子様ランチが似合いそうなアイはともかくユイまで!? どういうことなの!? 俺の裸なんてそんな貧相なもんてことか!?


 とか思っていると、ユイが「あっ」と何かに気付いたようで。


「もしかして……肌を晒すのが恥ずかしいのですか? 大丈夫ですよ。私もすぐに脱ぎますから。一緒に入りましょうね」


「……え?」


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