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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第一湯 アルトメリアの秘湯
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落下後ティータイム

 ユイとアイに案内されてやってきたのは、いわゆるリビング……的な部屋なんだろう。

 俺は木製のしっかりとしたテーブルを前にしてイスに座り、隣にはアイが座って足をぶらぶらさせながらあれこれと俺に質問をしてくる。

 ユイは奥の方でお湯を沸かしているようで、そちらには料理用の釜や水瓶などがあるようだった。

 冷蔵庫……とかはさすがにないみたいで、それと電気も通っていないみたいだ。その代わりにランタンらしきものが優しい光を放っていて、なんとなくこの里の文明レベルみたいなものを察することが出来る。


「――カナタ。まずはこれをどうぞ」

「あ、ありがとう」


 やがてユイが運んできてくれたのは、カップの中でオレンジ色に揺れる紅茶……のような飲み物だった。

 鼻を近づけると、なんだか柑橘類みたいな良い匂いがする。アイが嬉しそうに口を付け、「あつっ」と舌を出してひーひーしていた。


「これは、私たち『アルトメリア』のエルフたちで生み出した『アルトメリアティー』と呼ばれる特産の飲み物で、この里でしか取れない茶葉を利用して作っているんですよ」

「へぇ~……特産物かぁ」

「昔は他国と交流して売買することもあったようなのですが、今は……。あ、香りが良くて心も落ち着きますので、是非飲んでみてください。はちみつを入れていますので、疲れも取れますし、湯冷めした身体も温まります」

「うん、ありがとう。……おお、美味しい!」


 多少の甘みと酸味が心地良く舌をくすぐり、ホッと落ち着く温かさが喉を通って、最後に爽やかな香りが鼻に抜ける。


「ほんと美味しいよ! これ気に入った!」

「それは良かったです。勇者さまに淹れるのは初めてでしたから、少し緊張しました……」

「あはは。実はさ、俺の世界にも似たような飲み物があるんだよ。紅茶って呼んでるんだけど、だからすごい馴染みやすい味だった」

「本当ですかっ? やはり、私たちとカナタの世界は古くから繋がっていたのかもしれませんね」

「なんか本当にそんな気がしてきたよ」


 ユイは楽しそうに笑い、俺の前の席に座る。アイもたくさんはちみつを入れて美味しそうにお茶をこくこく飲んでいた。

 と、そこで俺は辺りを見回しながら言った。


「えーと、それで、なんかほっこりしちゃってたけど。その、肝心の里長さんは? ていうか、勝手に家に入ってお茶なんて飲んじゃっても大丈夫なのかな?」


 失礼な行為をして怒られるかも……なんて思っていたのだが、ユイはニッコリ笑ったままで、アイもまるで我が家のように落ち着いている。

 アイが「ぷはっ」とお茶を飲み干して言った。


「ゆーしゃさま、だいじょうぶです! ここは、ユイねえさまのおうちですから!」

「……え?」


 ユイの方を見る。

 ユイは立ち上がり、姿勢を正してスカートをそっとつまみ上げながら頭を下げた。


「ようこそいらっしゃいました、勇者カナタ。私がこの里の長――『ユインシェーラ・アルトメリア』です」


 言葉もなく、ポカーンと口を開けているしかなかった俺。

 どうやら俺は、とっくに里長さんと出逢っていたようだった――。


「あ、あの、黙っていてごめんなさい、カナタ。その、二人で――いえ、アイと三人で落ち着いたところで話がしたかったので……」

「あ、ああいや、ぜんぜんいいんだ。あはは! ちょっと驚いただけで。まさかユイみたいな若い子が里長だとは思わなかったからさ」

「ユイねえさまはすごいんですよゆーしゃさま! いつもキレーでやさしくて、アイたちのじまんのさとおささまなんです!」

「も、もう、アイったら……」


 ユイは多少照れて赤くなっていたが、なんとなくアイの気持ちはわかった。

 まだ出逢って時間も経ってないけど、ユイが真面目で優しい人だということはとっくにわかっていたから。


 で、それからはお互いに改めて自己紹介を済ませた。


 そこで、ユイの年齢が十四歳、アイが六歳であること。ただしエルフは長寿であるため、その年齢の基準は人のそれとは異なり、実際にはもっと生きているらしいことがわかった。明確な基準はよくわからないが、ユイは俺の世界でなら俺より年上みたいだ。だから精神的に大人っぽいのかなと思う。

 また、この家には現在二人だけで住んでいて、ユイの母親が以前の里長であったが、亡くなってからはユイがその後を継いだこと。

 現在、この里には二十七名のアルトメリア族のエルフが暮らしていること。

 みんなで農業などをして自給自足の生活をしていること。

 里には多くの秘湯があって、みんなで一日何回も入るくらいにアルトメリアのエルフたちが温泉好きであるということ。それはこの世界では少々珍しい習慣であること。

 神世界アスリエゥーラにおいて最も大きなクラウディア大陸――この里がある大陸の他国では長い間戦争が続いており、ユイたちはそれに巻き込まれないためずっとこの里に隠れて住んでいること。里は結界で守られているということ。


 そんな色んな話を聞くことが出来て、少しはユイたちの事情を知ることが出来た。

 そして同時に、どうやら俺は紛れもなく本当に異世界に来てしまったらしいということを悟った。


 後はどうするかだ。


「えーと……それで俺、これからどうすればいいんだろ? その、俺の処遇は里長が決めるとか言ってたけど……」


 まだ熱いお茶を手元に置いたまま、俺はユイにそう尋ねた。

 正直、ここに来て何をしていいのかもわからない。

 いくら勇者と呼ばれても、俺にすごい力が備わっていたのだとしても、それで何をしていいものやら。何せ俺は秘湯めぐりをしたいと言ってここに送られたわけであって、それ以外に目的などないのだ。


 ユイは少し表情を引き締め、正面から答えてくれる。


「衣食住に関しては、すべて私がお世話いたしますので心配しないでください。この家も、今日からカナタの家として自由に使ってくださって結構ですよ」

「え? そんな、でも迷惑じゃない?」

「迷惑だなんて。里長として、勇者さまをぞんざいに扱うわけにはいきません。それに……カナタは私の恩人ですから。個人的にも、お世話をさせてほしいんです」


 優しいユイの笑顔と言葉に、思わずドキッとする俺。この子本当に良い子すぎる!

 それに……服が薄いからわかっちゃうんだけど、この子絶対ノーブラなんだよ! そりゃ異世界だからブラないのかもしんないけどおっぱいが! おっぱいが! そんでもってあの温泉から上がったばっかりだから保湿効果すごくて肌がしっとりしてるんだよ! ああもう真面目な話なのに目があああああ!


「ええと、大まかなことはお話したと思いますが……何か質問などありますか? あ、あれ? カナタ?」

「へっ!? あ、ごごごめん! えっと、し、質問ね! えーっとえーっと!}


 不思議そうに目をパチクリさせるユイに、俺は慌てて腕を組みながらちょっと考え、


「うーん……あっ、そういえばここの里って、妙に女の人が多くない? ずっとそれが気になってたんだよね」

「あ、それはですね……」


 ユイが話し始めたところで、横からアイが元気よく言った。


「あのねゆーしゃさま! アイたちアルトメリアのエルフはね、みーんなおんなのひとなんだよ! おとこのひとはいないの!」

「……え?」

「そうなんです、カナタ。古くから、アルトメリアのエルフは女しか生まれないのです」

「お、女の子だけ? ええっ!」


 想像もしていなかった事実に仰天する俺。

 でも、そ、それでどうやって今までやってきたんだろう?

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