歓迎の宴
それからログハウスの中に招かれた俺たちは、その中があまりにも普通であまりにも生活感のある空間だったため、これまた呆気にとられた。
温かみのある広々とした室内は居心地が良く、吹き抜けとなっている造りはデザインも良く、オシャレなシーリングファンまでついている。立派な木製のテーブルやイス、さらに暖炉まで用意されていて、まるで軽井沢かどこかの避暑地にある別荘だぞこれ!
そんな俺たちを迎えたチュチュは、頬に手を当てながら話す。
「わたし、こうして男性を家に招いたのは初めてなもので、少し気恥ずかしいですね。あまりじろじろと見ないでくださいね。掃除も行き届いていないので」
「いや、めっちゃ綺麗じゃないですか。つーかこんなところにログハウスがあるのが信じられん……」
「ふふふ。あ、下着はそちらのタンスの下から二段目に入っていますが、勝手に開けて触ったりくんくんしたりしてはいけませんよ?」
「やらないし!? 突然何!?」
「ちなみに今日は上下共に白のレースで――あ、途中でバニー服にしたので上はカップのみでした」
「なんなの!? 今なんで自ら明かしたの!? 見てほしいの見てほしくないの!?」
「そうですね、見てほしいかと聞かれると、実は見てほしいタイプなのかもしれません。どうしてもということでしたら……」
わざとらしくもじもじして、チラ、とスカートをめくって見せる彼女に俺はふきだす。ユイやミリーもちょっと赤くなっている。
「だーもう! 完全にからかってるよね!? もうわかった! これ俺にツッコませて遊ぶタイプの人だ!」
「ツッコむだなんてお下品ですよ? さすがにわたしもいきなりは覚悟が……」
「そういうことじゃないし! もうからかうのやめてぇっ!」
「ふふふ、すみません。面白い方なのでからかってしまいます。ああ、会話というものは楽しいですね。さぁ、みなさんどうぞこちらへ」
愉快そうに口元を覆うウサ耳少女・チュチュ。
ただの会話だったのに、それが本当に楽しそうに笑うものだから、それ以上俺がツッコむことも出来なかった。
そのままテーブルを囲むように座る俺たち。なかなかこの環境に馴染めず、ついキョロキョロと辺りを見回してしまう。それはユイたちも同じで、アイとミリーなんかはあっちこっち行ったりして探検を始めていた。
一方、チュチュはキッチンで鼻歌を奏でながら飲み物などを用意してくれているようで、コーヒーの良い香りが漂ってくる。落ち着かないユイが手伝いを申し出てそちらへと足を向け、さらにリリーナさん、テトラとアイリーンも続き、気付けばキッチンのほうはいつもの光景になっていた。
やがてチュチュたちが全員分の飲み物と、たくさんのスイーツを運んでくる。コーヒーが苦手な人のために、水やミルク、アイスティーなどが用意されているあたり、気遣いが行き届いている気がした。
ちなみに、ログハウスの外ではラークとルークにも新鮮な牧草や水が与えられており、あいつらもちゃんと休めていることだろう。
「お待たせ致しました。自慢のコーヒーは豆の産地から焙煎、挽き方にもこだわった香り高い品です。また、それぞれのスイーツは各国より手に入れた至高の一品ですから、きっとお気に召していただけるかと思います」
「じゅる……ぜんぶあたしも見たことないのばっかり! それじゃいただきまーす!」
「ミリーちゃんずるいです! アイもアイも!」
スイーツに目がないミリーとアイから手を付け始め、それに俺たちも続く。
「うわ、どれもすごいな。……うん、コーヒーもめちゃくちゃ美味しいし。俺、元の世界でもこんなの飲んだことないや」
「そうですねカナタ。それに、ケーキの見た目もとっても綺麗です!」
「うむ。私はコーヒーが苦手なのだが……この香りは素晴らしい。リリーナたちもいただくと良い」
「はい。それではありがたくいただきます」
「うわーホントすごいな! アイリーンそれとって!」
「う、うん。どれもとっても美味しそうで……太っちゃうかも……」
そうして、あっという間に騒がしいパーティーがスタート。
飲料はもちろんだけど、ケーキやクッキー、スコーン、フルーツに和菓子と思われるものまで、多種多様なスイーツの数にはただ驚くばかりだった。中には凍りついてるのに冷たくない不思議なケーキや、食べても全然減らないわたがしのようなスイーツまである。
「ふふっ。皆さまのお気に召したようで何よりです」
チュチュはコーヒーを飲みながら、俺たちのことをニコニコと見つめていた。
彼女の正面――上座に座っていた俺は、落ち着いたところで話しかけてみる。
「えーっと……チュチュ、さん?」
「はいはい、なんでしょうか。あ、さんも敬語も要りませんよ」
「ん。わかった、チュチュ。えっと、正直なところまだわからないことだらけなんすけど……そもそも、チュチュは一体何者なのかなと」
「あっ、そ、それは私も気になっていました。その、わ、私はまだカナタと婚約しているわけではないですけど……」
「ふむ、そうだな。私も気になっていたところだ」
「あ、あたしも! あたし、ラビ族なんて聞いたことなかったし!」
ユイとシャルも俺に続いて、ミリーもスイーツタイムを楽しみながらこちらに耳を傾けている。
チュチュはぴこぴことウサ耳を動かし、すぐに答えてくれた。
「そうですね、ではわたしのことを少し。ラビ族とは、古くから『時の魔術』を司る一族なのですが、現在は希少民族で大変数が少ないので、皆さまがお会いしたことがないのも当然かもしれません。わたしも、わたし以外のラビ族と会ったことはありませんから」
「そ、そんなに少ないんすか? それに、時の魔術って……」
そのことが気になって、早速頭の写本にアクセスしてみる俺。
だが、俺の写本の中に時を操る魔術なんてものは存在しない。
するとチュチュは笑顔のまま、
「ふふ。まだ貴方にはアクセス出来る権限がありませんよ」
「――えっ」
俺の目を見て、まるで、すべてを見透かすような発言をした。
ユイたちには意味がわからないようだったが、俺には今の発言の意図がわかる。
だから、真意を確かめるために尋ねた。
「それ……どういう意味なんだ?」
「そのままの意味ですよ、秘湯の英雄――カナタさん。貴方の写本にはまだアクセスが許されていない領域が数多く存在するのです。時の魔術はその一種、というわけですね」
「許されていない領域?」
「ど、どういう意味ですか? カナタ? え?」
「むう? わ、私には難しい話だな」
ユイやシャルたちが頭を悩ませる。
なんて説明したらいいものか、思い悩んでいるとチュチュが言った。
「皆さまを混乱させてしまいましたね。う~ん……よぉし! それではわかりやすく実践しましょう!」
「実践?」
「ええ、カナタさん。わたしとあなたの出逢いは運命づけられたものですから、わたしにはここで皆さまに説明をする義務があるのです」
「う、運命? それって――」
――ぴょこぴょこ!
そこでまたチュチュのウサ耳が揺れ、生まれた魔方陣がこの家全体を包み込む。
次の瞬間――俺たちは全裸になっていた。




