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異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~  作者: 灯色ひろ
第二湯 ヴァリアーゼの秘湯

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手合わせ

 リリーナさんの膝枕で思う存分癒やしていただいた俺は、才能のおかげもあってすぐに回復。

 俺を心配してくれていたみんなの元へ無事を知らせて、それから全員一緒に最後の夕食をとった。ユイたちが大量に作った料理を前に俺もリリーナさんも驚き、リリーナさんはその味にとても満足してくれて、褒められたユイたちはすごく喜んでいた。


 そのままみんなで最後の混浴タイムも済ませたのだが、最後ということもあり、テトラやアイリーンが今まで以上に積極的にスキンシップしてきて、それにユイやミリーも対抗するものだから、俺はひたすら自分の下半身をコントロールすることに集中するしかなかった。その上、リリーナさんが珍しくどうしてもと俺の身体を洗いたがったので、それもめちゃくちゃドキドキしてしまった――。



 そうして最後の夜は更けていき、俺は一人、自分の部屋で旅支度の確認をしながら、ヴァリアーゼでの思い出を心に留めていた。

 明日にはもう、シャルたちとは別れることになる。

 さすがに情が湧いていたので別れるのは辛いが、かといって行かないわけにもいかない。

 俺は勇者だし、役目がある。

 それに、ユイたちも笑顔で別れるつもりだろうからな。男の俺が情けないことは出来ないだろ。


 そう思っていたとき、俺の部屋を誰かがノックした。


「ん? どうぞー?」


 声を掛ける。

 開いた扉の向こうに見えたのは、なんとシャルの姿だった。それも寝間着ではなく、なぜか騎士の鎧を身に纏っている。


「シャル? どうしたんだよ? 入って入って」

「あ、ああ。こんな時間にすまない、カナタ。実は、その……」


 扉が閉じたところでシャルはもじもじし始めて、俺はちょっとドキッとする。以前のユイの一件が頭によぎったからだ。

 するとシャルは、俺の目を見てこう切り出した。



「旅立つ前に、私と手合わせしてもらえないだろうか?」


「……へ?」



 ♨♨♨♨♨♨



 そうして俺とシャルは真夜中の庭にやってきて、対峙する。

 彼女が鎧を着てきたのはこのためだったらしい。まったく色っぽい話じゃなくてドキドキしたのが恥ずかしいわ!


「本当にすまない。旅立つ前だというのに……それも病み上がりで……」

「いやいいって。体調はバッチリ良くなったし、俺もなかなか眠れなかったしな」

「ありがとう。本当は夕方、リリーナの後に私もと思ったのだが」

「ああ、そ、そういうことか。ならむしろ俺の方が謝らないとな。ごめんシャル。それに、前に里で約束してたもんな。いずれ手合わせしようって」

「カナタ……覚えていてくれたのか?」

「もちろん。めっちゃ怖かったからな」

「ふふ、そうか」


 少し緊張していたらしいシャルの表情がほぐれる。おかげで俺もリラックス出来た。

 軽く準備体操を済ませたところで、呼吸を整える。身体に酸素を取り込み、写本からの回路を意識する。

 よし、才能はいつでも発動出来る。


「じゃあシャル、やるか?」

「ああ。武器はこの木刀でよいだろうか? さすがに私闘に聖剣は使えないからな」

「おっけー」


 シャルから一本、意外にもずっしりとする木刀を受け取り、軽く振ってみる。

 その間に才能――【武なる支配者(ウェポン・マスター)】を発動し、武器を身体に馴染ませた。この才能はあらゆる武具の“正しい使い方”を習得出来るものであり、この木刀は俺にとって最適な武器となった。今はもう、自分の腕のように完璧に使いこなせる確信がある。


 そして、シャルはどうやら俺の軽い動きだけでそれを悟ったらしい。


「さすがだな、カナタ。良い動きだ」

「おう。準備はいいぜ」

「ああ。では正々堂々、闘おう」


 まるで剣道の試合をするかのように向かい合う俺たち。


 シン、と世界が静まり返る。

 俺たち以外、誰もいないのではないかと思える夜の空間。月明かりだけが俺たちを照らす。


 お互いの剣の切っ先が触れ合った瞬間――闘いは始まった!


「はあああああっ!」


 踏み込んできたのはシャル。

 凄まじい速度に俺は一瞬出遅れるが、すぐに身体能力を向上させ、思考を加速させてシャルの世界のスピードに追いつく。

 それでもシャルの一撃は重く、木刀で防いだと思った腕はびりびりとしびれた。

 すぐにまた身体能力を上げて今度はこちらから一刀を入れる。シャルは身軽にそれをかわし、一進一退の攻防を続けた。


「やるな、カナタ!」

「シャルこそ! ったく! やっぱこええよ!」


笑っている彼女の瞳は闘志に燃え、リリーナさんよりもさらに凄まじい闘気と気迫、速度、膂力はとても同年代の女の子とは思えない。何より鎧を身に着けているのにこの動きだ。やっぱりシャルはとてつもなく強い!

 俺たちはしばらく笑いながら闘っていたが、しかしまったく決着がつかない。楽しくて、決着をつけたくなかったのだ。


 だからだろう。シャルはついにその力を解放させた。


「やはりカナタ相手に出し惜しみなどできん。全力でいかせてもらう」


 その静かな呼吸が深く、大きくなり、瞬時にシャルの身体を覆うオーラがメラメラと燃えさかるように大きくなっていく。


 ――【心の深化】だ。

 

 特殊な呼吸法によって精神をコントロールし、意識を自らの内に沈めて力を解放する才能。


 おそらく、シャルは最下層まで一気に潜っている。

 それがわかった俺もまた、同じように最下層まで潜った。

 何度使っても、この才能は心が穏やかになる。深い海の中で一人漂っているような、とても静かで、しかし感覚がどこまでも鋭くなるこの高揚感。


 シャルが言った。


「手加減はやめてくれ。私も全力でいく。どうか応えてほしい」

「……わかった。ここからはそうする」

「感謝する」


 シャルはふっと目を閉じ――そして次に目を開いたとき、先ほどとは比べものにならない速度で俺に迫っていた。


 だが、俺には見えている。

 彼女が動きがすべて。

 次にどこへ来るのか。剣をどう振るうのか。そこにどれほどの力が込められていて、どれほどの力で返せば勝てるのか。そこに足を踏み込んでどこを振り抜けばいいのか。その通りにすれば俺は勝てる。勝ててしまう。


 だから、少しだけ躊躇してしまった。

 勝てるという油断が隙を生み、シャルはその油断を見逃さない。

 彼女は下から木刀を振り上げ、俺の木刀を上空に弾き飛ばした。

 武器がない。

 そこにシャルは上段から剣鬼のごとき一撃を震う。


「もらったッ!」


 だが――その刹那の刻に俺は自らの右手をシャルよりも素早く払い、その木刀をへし折る。シャルは大きく目を見開いていた。


「甘いぜシャル!」

 

 今度はシャルの隙を見つけ、ここで反撃を入れようとしたのだが――


「……カナタこそッ!」


 そこでなんとシャルの木刀が白い光に包まれていき、折れた木刀が光の剣に変貌した!

 よく見れば、シャルの肉体を覆う眩しいほどのオーラが木刀にまで伝わっており、それが剣の形を作っている。

 即座に俺の目がそれを理解していた。


 シャルが使っている力は――【闘気の剣(オーラ・ブレイド)】という才能だ。

 鍛え上げた剣の達人のみが使える類い稀な力であり、あらゆるものを両断する凄まじい力だ!


 その闘気の剣が、頭上から俺に振り下ろされる――!

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