5月8日 初対面のシーン
部屋から出て一階に向かう。
部屋を出ると左に向かって廊下が続いていて、2~3m程進んだところで一階に繋がる階段があった。
階段を降り切ったところで、正面に玄関があった。階段の隣は、リビングへ行く為の廊下だ。
リビングに着くまでの間、俺は詩音が言っていた事を頭に浮かべる。————————————
穂村詩音と穂村秋乃は、血の繋がった姉妹では無いらしい。詩音が7歳、秋乃が5歳の時、2人の親が再婚してできた家族だとか。
秋乃の実の母親は、子供の面倒が見切れず、初めのうちから育児放棄気味だった。それでも父親の頑張りで支えていたが、その内児童虐待が始まった。結果父が離婚を切り出し、シングルファーザーとなった。
その時秋乃はもうすでに4歳で、このことも記憶にあるらしい。
一方詩音は、物心ついた時から父親はいなかったとか。それに、父親の事を母に聞いても笑って誤魔化される、と言っていた。
他にも聞いた事はあるが、残りはまたの機会に話そう
そんなこんなでリビングに到着。
「おはよー、詩音」
詩音の母親だ。質素なYシャツとズボンを着ていて、エプロンをかけている。
「おはー」
これは父親。なんと言うか・・・・抜けている感じのある人だ。
俺も返事を返す。
「おはよー」
そして席に着・・・・・どこが俺の席だ?
椅子は、テーブルを挟んで二席ずつ並んでいる。
一つには父親が座っているし、その隣は母親だと思うので、実質二択。
俺が少し戸惑っていると、
「ん、どうしたの?」
母親が聞いてくる。そこに———————
「おはよー」
「あ、秋乃。おはよー」
妹、秋乃がやってきた。長い髪が後ろでまとめられ、ポニーテールになっていた。
「 お姉ちゃんもおはよー」
そう言って、俺から見て奥側の席にすわった。
これ幸いと残った前側の席に座る。
俺が席に座ったのを確認して、母親が言う。
「それじゃ、食べよっか」
それを聞いて各々が、頂きますと手を合わせて食べ始める。
そこからは雑談が続いた。秋乃が割とよく話していて、何か聞かれる事も無かったからピンチにもならなかった。
「ところで詩音、今日は何処か出かける?」
秋乃の話が一段落した所で、母親がきいてきた。
「あー、えっと………」
少し返事が詰まる。
詩音は何も用事が無いと言っていたし、これからの予定も決まっていないが、調査として外に出かける事もあるかもしれない。
「……今のところ予定はないけど、もしかしたら出掛けるかも、って感じかな」
と、答える。
「そう…」
と相槌をうって、母親は会話をやめる。急に聞いてくるとは何なのだろう。その割秋乃には何も聞かない。隣を見ると秋乃も首をかしげている。
やがて、手持ち無沙汰になったのか、秋乃がテレビを点ける。
点けたテレビでは、この辺りで発生している事件が取り上げられていた。
簡単に言うと……連続死亡事件である。
今から約1ヶ月前から、人目につかない所で人が倒れる事件が度々起こっている。被害者は各々近くの病院に移送され、意識不明の重体で入院していた。
ところが。
つい先日、この事件の最も恐ろしい部分が明らかになった。
第一被害者の体が、
正常な生命活動をしているにも関わらす、
腐敗をし始めたのである。
これは、先端医療の専門家にも理由が分からず、事件は一気にトップニュースになった。
「恐いね………」
秋乃が呟く。
全員が無言でテレビを見る。そこでテロップに『特報、事件の新情報』と出る。
映り変わった映像に、目を見開く。
『先程、新しく被害者が発見されました。場所は、岡山市………』
映し出された場所は、
例の、路地裏だったのだ。