5月8日 困惑のシーン
さて、俺は今驚愕な事実にぶち当たっている。それを説明するに際して現在に至るまでの経過の話と、自己紹介をしなければいけないだろう。先ずは自己紹介から。
俺の名前は水谷閃也。岡山県立北雫高校の二年生。誕生日を迎えていない為16歳の、世に言う思春期男子だ。
居住地は、まあ学校名でも分かる通り岡山県。県民以外に話すと「え?どこそれ」となるのがネックな47都道府県の1つだ(ちなみに香川県と瀬戸内海をはさんで隣に位置する中国地方の県)。
自己紹介はこのくらいにして今に至るまでの話をしよう。
地味にうるさい目覚まし時計の音に、俺は目を覚ました。覚ましたと言っても意識が覚醒したわけではないので、仰向けに寝転がったままいつも目覚まし時計を置いている、今の状態から見て右上の場所に手を伸ばす。
だが、何も掴めないまま手は台に行き着く。しばらく手で探るが、見つからない。観念して目を開け、目覚まし時計を探す。――――――――――あった。左だった。 左に体を向けて右手で目覚ましを止める。それは、俺が愛用しているデジタル式の黒の横長な目覚まし時計―――――ではなく、アナログ式・ピンク色の時計だった。
ぎょっとしてその時計をまじまじと見る。最中、この部屋の壁が目に入る。それには、白とピンクの縞々模様が入っている。勿論男子である俺の部屋にこんな素敵な装飾は施されていない。
さて結論だ。ここは俺の部屋では無い。はてさて、じゃあ俺は何故ここに居るのだろう?
記憶を掘り返す。
「・・・あ、そうだ」
別に京都に行きたい訳では無い。
思い出したのだ。・・・俺が、路地裏で少女に切られたことを。
でも、どうやったらここに繋がるのだろう?
パターン1
1・切られる 2・通りすがりの人に介抱される 3ここに運び込まれる
・・・無いな。何で病院に連れて行かないんだ馬鹿なのか?ここはどう考えても病室では無い。
パターン2
1切られる 2 切った少女が罪悪感をおぼえて介抱する(切った事がばれない様に救急車は呼ばない) 3ここに運び込まれる
切っといて・・・。あと今思ったが素人が刀でばっさりいかれた人を蘇生出来るわけがない。
パターン3
パターン1の2まで 3病院に運ばれて蘇生 4手術終了後ここに来る
だからここどこやねん。俺は常に生徒手帳を携帯しているので(友達に言ったら引かれた)、誰か分からないと言うことはないだろう。
・・・はぁ、ほんとここどこだ。
取りあえずベッドから出る。と、そこに大きな姿見があった。覗いて見る。そこに写っているのは俺―――――ではなかった。
ショートカットの、可愛い女子だった。
それで序盤に戻るのだが・・・・・ちょっとワケがワカラナイ。
切られて倒れて朝起きたら知らん所でおまけに女になってたとか、脳の容量を完全にオーバーしている。
フリーズ。
・・・よし、取りあえず詳しく現状確認かな?
手始めにこの部屋の内装を大まかに見てみる。
大きさは五~六畳位。扉と窓が向かい合う形で在り、横に長い。扉から見て左奥に、頭側を角に向けてベッドが設置されていて、ベッドとその奥の壁との間の隙間に目覚まし時計を置くための棚がある。ベッドを挟んで反対側には今さっき覗いた姿見があり、さらに進んで突き当たりに学習机がある。その左には小さい本棚も。扉から見て右側にはクローゼットがある。
部屋の概要も分かったので、探索を始める。
と、学習机の上に何かあった。携帯と、生徒手帳だった。生徒手帳の中身を拝見。
————————岡山県立北雫高校116期生 穂村詩音———
隣に、今の俺の顔(女)の写真が貼ってあった。どうやら既存の人物らしい。
というか、学校同じだった。
しかも同級生やん。
生徒手帳が見終わって、次は携帯を開いてみる。画面に、日にちと時刻が表示される。
ふむ、五月八日、日曜日、、、あれから日を跨いだ程度らしい。
時刻もAM6:42となっているので、昏睡していた訳でも無い様だ。
それにしても日曜日か。
いきなり学校にいくーみたいな事にならずに済んでよかった。
さて、手始めに何所を捜索しようかな?
・・・・ん~、、、
そして、クローゼットに手を掛けた。開くと、いかにも女の子~みたいな感じの服が並んでいた。あー、特に収穫はn・・・・
・・・・・えっっっと~~、隅っこのアレは無視すべきなのか?書き記すべきなのか?
・・・あっと~、手前に大きめの物入れがある~。これは中身を確認せねば~(逃避)。
かけられている服の下、高さ70㎝程の割とデカめの物入れだった。
それでは扉をオーーープン!
ガチャッ。さあ!中身はぁ~~?
さ ら に 扉!!!!!
・・・・リアルでマトリョシカなボックスを見たのは初めてだ。
たっぷりリアクションした所でもう一度扉を開ける。幸いにまたマトリョシカってる事はなかっ・・・なにこの山積みの本・・・・
「んーと?『僕は友達が◯ない』・・・」
・・・・。
「『G◯部』、『はた◯く魔王さま!』・・・」
・・・・・・・。
「『魔法科高校の◯等生』、『異世界C◯ート』、『エロマ◯ガ先生』、『ソード・◯ート・オンライン』、『やはり俺の」ぶちっ!!
オ タ ク かっっっっ!!!!!!
いやいや、ね?まぁ予感はね?あったんですよ?何で女の子っぽい服の中に魔法少女のコスプレ衣装が混じってんのかな、とかね!!
クールダウン・・・
よし、別の所探そう。と、言っても、もう机位か。
机前に移動。
机の上には先ほどの携帯&生徒手帳以外は何もない。改めて見ると片付いてるな。
そんな事を考えながら左上の引き出しを開けて、
固まった。
そこには、透き通るような肌に、何ともファンタジックな服を纏い、純白の髪をして――――――――――羽のついた、妖精が、いた。
・・・・・How??
えっっっとまあ今までも相当ふっしぎーな展開ではあったけれどもだよ!妖精って!いきなりファンタジー色出しすぎじゃないですか大丈夫ですか?
と、いうか!この顔、、、、
俺(が今憑依?している女の子)の顔だ!!
数分間ぶり二回目のキャパオーバーを起こしている俺の前で、妖精の妖子さん(仮)がうっすらと目をあけた。
「ふぁあ・・・・・・にゃむー、、、え?・・おあぁ・・・・あた・・し・・?
い・・あおぅ・・・ってでか!!」
数々の疑問を取りあえず保留しましたね、妖子さん(仮)。というか、この反応からしてこの人が詩音さんか?
と、詩音さん(?)が話しかけて来た。
「あのー、ちょっと質問いいですか?」
ん、んーー・・・
「あっはい。俺もそんなに解ってないけれど、いいですよ」
「えっと、あなたはーー、私?」
「ではないですね。どうやら貴方の体に入り込んでしまっているようです」
詩音さん(ほぼ確定)は、自らが二つに分裂した可能性を考えた様だ。
「ああ、そうですか。じゃあ・・・どちら様で?あ、私は穂村詩音。高校二年生です」
ああ、やっと詩音さんが確定した。じゃ、こっちも自己紹介だ。
「俺は、水谷閃也。丁度同級生で———————」
「せssっっっせせせっ閃也きゅんっっっ!?!?」
「うおっ!」
どうしたどうした詩音さん!随分とラップみたいな驚き方したけど、そんなに衝撃だったのか?
「だっ、大丈夫ですか!?」
「えっ、あのっ、そのっ・・・・大丈夫だよ?ただ、閃也くんだとは思わなくて、ちょっとびっくりしちゃった」
そんなレベルの声だったか?・・・・というか、俺ら面識あったっけ?えーっと・・・
あ
穂村詩音、クラスメイトだった。
まずいぞ自分やばいぞ記憶力。クラスメイト忘れるとは何たる。
「そうですか。で、現状について・・・・というか、同級生だしタメ口でいいですか?」
「あ、うん。いいよ。クラスメイトな訳だし。敬語はちょっと変だよ」
「ああ、有難う。それで、質問は———————」
と、その時。
「うっっっっっっさいっっっっ!!!」
ドアを勢い良く開け、仁王立ちした詩音によく似た長髪の女の子が、いきなり怒鳴ってきた。
「あ、秋乃!?」
今のは詩音。どうやらこの子、秋乃と云うらしい。
「今何時だと思ってるの?!お姉ちゃん!ノンレム睡眠4段階目からレム睡眠フっ飛ばして即起床しちゃったよ!」
なんだこの子。朝から騒いだ事を怒ってるんだろうけど、ラストが、何ていうか、独走的(打ち間違いではなく)なツッコミだ。
というか、やばくないか?誤魔化しようが無い程ガッツリ妖精が居るんだが・・・・。
「どしたの、お姉ちゃん。話聞いてる?」
見えて、ない?詩音(この場合妖精の方)は、この子には見えないのか?
あ、というか一応反応しないと。
「ご、ごめん。足ぶつけちゃって。」
おお、我ながらひねりがないな。
「そう?今度から気をつけてよねー」
「はーい・・・」
そう言って秋乃さんは立ち去っていく。
「・・・・・今のは?」
「い・・・妹デス・・・・・」
まあお姉ちゃんって言ってたもんな。それより。
「お前の妹って変人?」
「人の妹をいきなり変人呼ばわりはひどくないかな!?普通の女の子だよっ!!
・・・・ちょっとツッコミ癖あるけど・・・」
ツッコミ癖て、まあいいけれど。
「すまんな」
「もう・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
会話が続かない。いや、話題は有る。ただ、有り過ぎてどれから言えばいいか分からない。
・・・・・・。
あ、そう言えばさっきやった部屋の探索、謝った方がいいか?女子だし、触れられたくない所もあったかもしれん。・・・例のラノベとか。
「・・・あー。詩音、すまん。さっき現状確認のために部屋の中を色々見てしまった」
「・・・・・え」
おう・・・・本当すいません。
「・・・う、ううん?全然大丈夫大丈夫。ひ、非常事態だもんね。あ、あははは・・・・・・・・クローゼットの中見た?」
ううう・・・。
「・・・すまん。見た。物入れの中も」
「あ、あははは!!だだd大丈夫大丈夫!!ははははhAHAHA!!」
台詞がゲシュタルト崩壊してますよ本当に大丈夫ですか?やっぱ見ちゃいかん物だったか。大分厳重に閉ざしてあったしな、隠していたんだろう。
謝罪もしたし、そろそろ現状打破する為の会話をしないと。
と言っても、入れ替わり(?)について即急に分かる事は余り無さそうだ。敢えて言うのであれば・・・・
「原因は、やっぱり路地裏での一件だろうな・・・」
「あ、うん。そうだろうね」
「ああ・・・ん?何で解るんだ?」
今のは独り言のつもりで言ったのだが・・・そもそもこいつ居なかっただろ。
「あ!いや!?偶然通りかかったんだよ!!」
「お、おお、そうか」
まあいいや。結局巻き込まれたからこうなったんだろうし。
これ以上掘り下げて今解る事は無いだろう。
それよりもこれからの生活で必要な事を聞こう。
「なあ詩音」
「う、うん?なにかな?」
「このままだったら、俺が詩音として生活していかなきゃだろ?」
「あ。そうだった!」
「だからな?家族構成とか友人関係とか教えておいてくれないか?あと約束事とか」
「そ、そうだね。じゃあ———————」
省略して話すと、家族構成は両親と今さっきの妹。あと詩音。
友人関係についてはまたの機会に話そう。約束事は特に無いそうだ。
「———————位かなー。そんな感じでいい?」
「ああ。大丈夫だ。———————と、7時50分か、大分経ったな」
さっきの携帯で確認する。それを図った様に下から声が聞こえてきた。
「朝ご飯よー!」
多分母親だろう。
「お、じゃあちょっと行ってくる」
「うん。———————大丈夫?」
「おお。下手な真似はせんよ」
そう言って、一階に降りていく。