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第一話 魔法が使えないけれど?

 ●

 

 オーサの前世。”波渡・統士”は御多分に漏れずヲタクである。

 特に、趣味としていたオンラインゲームでは。

 技能スキル的に扱いが難しく、派手さの欠片も無い職種ジョブ

【暗殺者】を主に使用していたプレイヤー。

 また、プレイヤー同士の戦いに関しては、一定の美学を持っていて。


「(暗殺者で、魅せて勝つのでっす!)」

 

 相手からは、賞賛の声しか出ない程。

 その罵声も、裏を返せば賞賛となる程に。

 観戦者から拍手が巻き起こる位に、魅せて勝つのが大好きだった。


「(その勝利の影には、マウスが壊れ、キーボードが割れる程に朝も、夜も練習なのでっす!)」 


 つまりは魅せる動き。そして勝利の為に、自分に何が出来るかを研究し。

 相手の動きを、観察し。

 自分の得意とする土俵に乗せるかまでが、準備段階。

 そこから、相手が自分の知らない逆転の一手を放つのか。

 それとも、自分が【暗殺者】の醍醐味として。

 技能条件を満たし一撃で相手の体力を刈り取れるのか。

 

 その為なら、装備の強化に惜しみなく。

 給金を湯水の如く注ぎ込む清く正しい重課金者の姿が、ボクの前世。

 

 そして、今。


「もし、貴方が今一番。ボクにして欲しい事は何ですか?」

 

 問うと前世のボクが、遠くに感じ始めるけれど。

 彼の答えが、帰ってくる。


「(ゲームも良いけど、親孝行かな?した事なかったんだよ、俺は)」


 その答えを聞いて。

 

「はい、了解したでっす!」

 

 ゲーム内で、キャラ作りの一環として付けていた語尾を付け答える。

 すると、前世の俺は笑って消え。

 今のボクが残る。


「俺もボクも。昔から、一度決めた事はやり遂げるたちでっすよっねっ!」

 

 ボクは産んでくれた今世の父母に、近い未来。

 そして、前世のボクに親孝行をすると誓い。

 行動を開始する事にした。


 ●


 お父様の職場であり、お母様の職場でもある王立図書館。

 木漏れ日の暖かな場所で、揺れるベットに乗せられて眠るのが最近の日課。

 この場所を訪れる、多種多様な人達の会話を聞いて。

 ここがどの様な国で、どんな場所なのかを考察し、組み上げる。

 

 ここは、聞こえてくる会話から。

 二人の男性の立ち話かな?


「そう言えば、我がサンザクセンと。東のラーダ・ク・ウェル帝国の通商条約は?」

「はい、上手く締結出来ました。王と今代の陛下はご学友ですからな、顔を立てて下さった様子で」


 この会話から推測するに。

 この国は【サンザクセン王国】。

 東には【ラーダ・ク・ウェル帝国】があり、友好関係にある。

 

「(そして、この二人は商家の人と、通商関連の役人と推測される訳でっす!)」

 

 こんな風に、一つ一つの情報は小さいけれど。

 【塵も積もれば山となる】のことわざの通り、膨大な情報が手に入る。


「(今は、雌伏の時でっす。まだ8ヶ月の赤ん坊が聞き耳を立ててるなんて気付かないでっすよねぇ?)」

 

 ●

 生後1年経つと健康診断と、簡易的な魔力マグ検査なる物を受けるらしく。

 サンザクセンでは、貴族や騎士階級だけで無く。

 平民も受ける事を義務付けられていて。

 なんでも優秀な魔力を持つ平民は条件付きで、騎士になる事が出来るらしい。

 

 お母様に連れられて来た王立医療院で、まずは健康診断を受ける。


 豪奢な造りの建物は、お父様の職場である王立図書館の分館を彷彿とさせ。

 その中でも、比較的程よく纏った意匠の一室で。

 大きな姿見が立て掛けられており、そこで初めて自分の姿を見る。


「(一歳で、この美少女っぷりでっすかあ……)」


 母親譲りの紫黒の髪は、おかっぱ頭に少し尖り気味の小さな耳。

 父親譲りの透き通る様な白い肌と、色素の薄い赤い目。

 顔立ちは両親の良い所を組み合わせた、理想の美少女像がそこにある、かぼちゃパンツだけど。

 ボクはお母様に手を引かれて、小さな椅子に座り。


「はい、ばんざーい。良い子ねぇ、オーサちゃん」

「あーい」

 

 お母様に言われ万歳して返事。

 上着を引き抜かれ、女医さんが指輪の様な物を身につけてから診察開始。


「(あの指輪ってなんでっすかねぇ?)」


 じっと、小さな飾り気の無い指輪を見ていたボクに気が付いて。


「はい、痛くないからね、直ぐ終わるから」

 

 ボクを安心させるように、笑顔で優しく声を掛けてくれる。

 頭から、胸、そして腹の順に淡く光った掌を当てられ。


「(仄かに手の暖かさと違う、不思議な温かさでっすねぇ……)」


 女医さんの言葉通り痛みなど無く、淡く光った掌が離れ。

 指輪を取り去ると、完全に光りは消失し。

 

「ええ、体内に澱みなどは見当たりませんね、健康ですよ」


 笑顔の女医さんに太鼓判を頂いて。

 お母様に、上着をまた万歳しながら着せて貰う。

 

「はい、ありがとうございます。オーサちゃん、先生にありがとうはぁ?」

「あいっ!」

 手を上げて、ありがとうの意思表示をすると。


「あら、まぁ頭の良い子ね?」

 

 優しい女医さんに、頭を撫でて貰い。

 ボクは嬉しくて、手を振って。

 お母様に抱かれて、その場所を後にする。

 

 ●

 

 次にお母様に抱かれ連れて来られた小さな部屋は、【四極の間】と検査官から紹介され。

 既に幾人かの検査官が、ボクの健康診断の記録が書かれた羊皮紙を持って待機し。

 中央近くには、大柄な男性の神官服を着込んだ男性が着々と魔法陣の確認をしているのが見える。


「(うはぁ、医務室に比べて更に、無駄な程豪華でっす!)」

 

 床が大理石で一部を除いて覆われ、壁面は金の細やかな装飾。

 更に四方の柱には、赤は火。青は水。緑は風。黄は土の属性を表す、儀礼用の水晶が嵌め込まれている。

 天井には、豪奢なシャンデリアが吊り下げられ、煌々と蝋燭では無い火が灯っていて。

 部屋の中央に、浅い半球状の魔法陣が見える。

 

「(ここまでは、図書館のお昼寝タイムで聞いてたのと同じでっすね)」

 

 魔力の有無を調べ、大まかに四つの分類に仕分ける検査。

 

 一つ目は、魔力優良者。

 魔力が豊富で、複数の属性魔法に適正が有ると判断された者を示し。

 

 二つ目は、魔力保有者。

 魔力はそこそこで、一つないし二つの属性魔法に適正が有ると判断された者を示す。

 

 三つ目は、魔力不適格者。

 魔力はあるものの、魔力を使う方法に条件が必要な者を示し。

 

 最後の四つ目は、魔力欠落者及び、魔力不全者。

 完全に魔力そのものが無く一切魔法が使えない。

 または魔力はあるものの、安定性が悪く不発する者。


 基本的に、一般市民と呼ばれる人達は。

 三つ目ないし四つ目に分類される事が多く、魔力優良者が出る事は稀。

 問題は、貴族階級や、騎士階級から一つ目ないし二つ目の項目以外の子供が産まれた場合。

 サンザクセン王国では、その子供には家督の継承権が無くなり。

 貴族との繋がりを持つ商家等に、養子に出される事が多い。

 

「(故意に差別階級を生み出して、支配権を確立させるのは何処の世界でも同じでっすねぇ…)」


 この為、お母様も。


「(この検査は余り受けさせたく無いと、お父様に相談していたでっす!)」


 しかし着々と準備は進み。


「お子さんを、魔法陣中央へ」

「はーい、オーサちゃん、直ぐ終わりますからね?」


 検査官に言われ渋々ながら、ボクを魔法陣に乗せて手を振るお母様。

 

「あーい」


 お母様に手を振り。

 中央で、ゆったりと座り込む。


「では、オーサ・O・カティスの検査を始めます」

 

 まず検査官が魔法陣が起動するも、何も起こらない。

 検査官が慌て、魔法陣の確認をするも異常は無く。


「(ありゃ、魔力が少しでも在るなら、光るらしいのでっすが。残念魔法は使えないって事でっすねえ。異世界チートボーナス無しでっす!)」


 心の中で、異世界言えば魔法と聞いて、魅力的に感じていた部分もあるけれど。

 オンラインゲームで、魔法職使用時に、


「(魔法って、当てた試しが無いでっすから、前世の業……俺さんのせい…でっす!)」


 前世の業にして、しばらく考え込んでいると、近づいてきたのはお母様。

 お母様は、ああやっぱりね。と、笑顔でボクを見て。


「ふふっ!検査官様、私の夫はあの【カティス家】ですよ?それが何を意味するかは、お分かりですよねぇ?」

「な、まさか。少しお子様の身体を拝見させて頂いても?」


 少しだけよ?と、前置きして検査官の代表者である渋い口髭の金髪碧眼の小父様が優しくボクを抱き上げて。

 ボクのおでこと、小父様のおでこが触れ合うようにして、何かを唱えている。

 しばらくして離すと、抱き抱えられたまま。


「魔力は確かに在ります。しかし……あるのは魔力を自然界から取り入れる、入り口だけ」

 

 分りきった事を言うなと表情を見せたお母様は、髭の検査官からボクを受け取ると。


「あらオーサちゃん。怖いオジサンでしたねぇ。ええ、出口が無い、でしょう?」


 お母様の胸にうずくまりながら、二人の話に耳を傾ける。

 ボクの身体は、魔力を取り入れる事は出来ても、出口が無いとどうなるんだろう?

 

 

「はい、非常に珍しい……、私も初めてでして、そのこの場合、魔力不全に……」

「ええ、それで構いませんよぉ」


 ボクの事を書いた羊皮紙に、検査官の一人が何かを描き込み。

 既に幾枚か、同じような羊皮紙が収った箱に収める。

 そこまで確認した後、髭の小父様が、


「私としては、この症例の事を魔法学院に詳しく報告したいのですが……、カティス家に資料等は?」

「そうねぇ……」

 

 口に人差し指を当て、何かを考える。

 ここ半年ほどお母様を見ていて、この考えるフリが出ると碌な事が無いのは経験済み。


「この症例は【カティス家】特有の先天性魔力放出不全。つまり……始まりの冒険者そのものですわねぇ」

「私も、幼い頃読みました……、かなり脚色強い作品だと思っていましたが」

 

 本当ですわよ?と、お母様が、ボクの頭を撫でながら。


「大丈夫。魔法が完全に使用出来ない変わりに、鍛えれば魔力が身体能力に置き換わる……あら、オーサちゃんが筋肉質になっちゃうわねぇ」

 

 ボクは魔法が使えない変わりに、何か凄い努力の必要な力を手に入れていたようです。

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