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4.AIの時代において、「人間が創造すること」の意義

 ここまでを参照してくださった読み手の皆さまならば、もう2.にあげた冨山氏の提言が本当に「役に立つ」のかどうかについて、かなり疑問に思うようになってきていると思います。「職業訓練」を云々するより前に、肝心の職業そのものが、あるいはもっと広く人間の生活そのものが大きく変わってしまう可能性を考えなくてはなりません。冨山氏の提言をまったく的外れと排することはできませんが、すこし視野が短期的です。より長期的に、しかも異なった視点から「大学教育」や「日本の在り方」を考える必要があるはずです。


 日本の行く末について思いをめぐらすのは、政治家の方々に任せることにしましょう。ここでは、AIの進歩がより身近に何をもたらすかについて考えてみましょう。


 ここからようやく本題に入ります。このテキストは「小説家になろう」のプラットフォームを経由して読み手の皆さまに供されていますし、このテキストを読む人の大半は「小説家になろう」に何かしらの形で関わっている方だと思います。


 そのことを前提として、「未来における小説のあり方」について考えてみたいと思います。


 3.において私は、AIが頭脳労働の分野にまで進出しつつあると指摘しました。2045年頃には、人口の1割くらいしか働いていない可能性もあるという指摘も存在しています(『日本経済新聞』2015年8月3日朝刊、「人工知能の実力(下)頭脳労働、ロボもこなす――雇用減の対策必要に」)。「仕事をしなくても生きていけるんだ!」と大はしゃぎする方々もいるかと思いますが、現実はそれほど単純ではありません。


 そもそも、「AIが頭脳労働を代替する」という事態は、いったいどのような意義を帯びているのでしょうか? この問題を考えるためには「そもそも頭脳労働とは何か?」という問いを掘り返さなくてはならなくなります。


 「頭脳労働」を一様に定義することには大きな弊害があるかもしれませんが、便宜上このテキストでは「創造性を発揮して、新しい価値を提供する労働」と頭脳労働を定義します。


 この定義に基づいて「AIが頭脳労働を代替する」という事態を考えてみると、もっとも創造性を要するであろう分野――たとえば絵画、音楽、文芸、料理といった、一般に「芸術」と呼ばれる分野――にさえも、AIが進出する可能性があります。


 特に文芸の分野において、AIの進出がもっともはやく進むのではないかと私は考えます。それは文学理論の成熟過程において、物語の要素分解が進み、要素の集合として物語を構築することができるようになったためです。


 その一例としてここで紹介したいのが、『七度文庫』というアプリケーションです(「『七度文庫』」(http://www.enterbrain.co.jp/gamecon/no5/03.html)2015年8月4日閲覧)。これはアプリケーションを起動するたびに、自動的に官能小説を生成してくれるというスグレモノ(?)です(「実はこれを使っています」みたいな書き手の人もいるのではないかと思っちゃったりしています)が、このアプリケーションが示唆することは重要です。既にアルゴリズムに従って、それなりの体裁を整えた小説が作られているのです。これがアルゴリズムでなく、AIが小説生成に関与するようになったら、それがもたらす効果は計り知れません。


 このような現象は、おそらく文芸を起点として、そのほかの芸術分野にも及ぶと思います。「創造性」の根幹を司る分野においてまでAIが進出するようになったとき、はたしてそれまで自身の「創造性」に依拠して仕事をしていたプロの芸術家たちは、どのように自分たちを正当化させればよいのでしょうか? 並大抵の「創造」ならば、AIが首尾よくやってくれる世界が来るかもしれません。それこそカリスマとして世界を震え上がらせるような芸術を、AIが創造する時代が来るかもしれません。「人は考える葦である」とはパスカルが言った言葉ですが、21世紀になった今、人間としての根拠である「考える」という行為すらAIが代替しつつあるのかもしれません。

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