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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第二章
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生まれ変わりの許嫁(3)

「えっ?」

 霊奈れいなの顔から般若はんにゃのお面が取れた。

 俺は、首に巻き付けられていた魅羅みらの腕をはずして振り返った。

「今日は、霊奈と一緒に帰る。じゃあな」

 俺は、呆然とする魅羅に手を振ると、霊奈に近づき「行こうぜ」と声を掛け、教室を出て行った。

 すぐに霊奈が追い掛けてきた。

真生まお! い、良いの?」

「何が?」

「だって、魅羅ちゃんだって、真生と一緒に帰りたかったと思うんだけど?」

「霊奈は俺と一緒に帰りたくなかったのか?」

「そ、それは……、か、帰る方向が一緒だし、し、仕方ないじゃない!」

 ――相変わらず可愛くねえ!

 しかし、いろいろと霊奈に訊きたいこともあるしな。

 上履きから靴に履き替えて校門を出ると、俺は少し声を潜めて、霊奈に問い掛けた。

「なあ、魅羅のお爺さんって、どんな人なんだ?」

「あ、ああ、……神聖自由党の重鎮よ」

 やはりな。自分の孫娘のわがままも自由に叶えてやれるほど権力を持っているとは思っていたが。

龍岳りゅうがくさんともやり合えるくらいか?」

「もちろん」

 霊奈は、周りをキョロキョロと見渡してから、少しだけ俺との距離を縮めると、前を向いたまま話し出した。

東堂とうどう了堅りょうけん。神聖自由党で現在第三位の構成人員を誇る派閥『輝星会きせいかい』の名誉会長よ」

 今、政権与党の神聖自由党には十三の派閥がある。

 龍岳さんが事務局長を務める「薫風会くんぷうかい」が第一派閥で、今の総理も輩出している。その次に構成人員が多いのは、薫風会と蜜月関係にある「嵐月会らんげつかい」で、この二つの派閥の構成人員を合わせると、所属国会議員の五分の二以上を占めていて、他の複数の弱小派閥と合わせて、主流派を形成している。

 一方、輝星会は非主流派の筆頭派閥で、これも他の派閥と連携をして、党の主導権を握ろうと、日が当たる場所での論戦とは別に、日が当たらない世界で血みどろの抗争を繰り広げているのだ。

 そんな輝星会の名誉会長なら、龍岳さんに匹敵するか、あるいはもっと実力者だ。

 霊奈が恐れるのも当然だ。俺達がヘタを打つと龍岳さんの政治活動に支障が生じるかもしれないからだ。

「了堅先生は、もう国会議員は引退されていて、今は、息子で、魅羅ちゃんのお父さんの東堂とうどう了斎りょうさい先生が国会議員をされているわ。でも、引退したとしても、了堅先生の影響力はまったく衰えていないはずよ」

「ふ~ん。息子を傀儡かいらいにして、自分の影響力を保持しているって訳か?」

「それが、そういう訳でもないみたい」

「えっ? どういうことだ?」

 霊奈は、また周囲を見渡した。俺も一緒になって見渡したが、誰もいなかった。

 次の瞬間、辺りの景色が揺らいだ。俺と霊奈は結界の中にいた。

「な、何だ?」

「私も不確実な情報しか持ってなくて、誰かに盗み聞きされたくないから」

 そう言うと、霊奈は言葉を選ぶようにしながら話し出した。

「輝星会が第三勢力に甘んじている理由の一つに、派内が一つにまとまり切れていないことがあると言われているの」

「所属議員の仲が悪いのか?」

「と言うより実質的には分裂しているみたいなの」

「分裂?」

「うん。分裂している一方は了堅先生を中心に集まっている、どちらかというと古参の議員のグループ。そして、もう一方は了斎先生を中心にしている若手議員のグループよ」

「親子で分裂しているのか?」

「ええ、要は世代間対立なんだけど、それぞれの勢力がその筆頭に戴いているのが東堂親子ってことなのよ」

「世代間対立って?」

「古参議員は、こと地獄に関する考え方については主流派の考えに近くて、例えば、地獄の民営化には断固反対しているわ。でも、若手議員達は、野党の考えに近い人もいて、地獄の民営化やむなしという考えの人も多いのよ」

 人間って言うのは、それまで積み上げてきた価値観をたやすく突き崩すことなんてできやしない。

 古参の議員は、政権与党として、これまでずっと政府直轄事業として行ってきた地獄業務を民間に任せることなんて想像だにできないことなんだろう。

 でも、若手の議員には、そんなこだわりが薄いだろうし、何かを変えることによって、今、苦戦している神聖自由党の支持率アップにも繋がると信じているのだろう。

「薫風会も了堅先生のグループとはよしみを通じておきたいところなの。でも、了堅先生はご高齢だし、自分の息子が反対勢力ということもあって、苦しい立場ではあるみたい」

 地獄の民営化を絶対阻止したい薫風会などの主流派にとって、了堅先生の影響力が残っているうちに、その所属議員を取り込んでおきたいところだろう。

 逆に言うと、了堅先生のご機嫌を、今、損ねる訳にはいかないと言うことだ。

 ――待てよ。魅羅をないがしろにするのは、そういう意味から言うとやばくね?

「俺、魅羅にあんな態度取って良かったのかな?」

「了堅先生に私も会ったことがあるけど、いかに可愛い孫娘のことでも、ちゃんと政治のこととは切り離して考えることができる、大儀を見失わない方よ。心配いらないわよ」

「それなら良いけど……、それはそうと霊奈」

「何?」

「魅羅とは幼馴染みだったんだよな?」

「そ、そうだけど」

「でも、お前、全然、忘れていたじゃないかよ。けっこう物忘れ激しいのか? それとも魅羅のことなんて、まったく眼中になかったとか?」

「違うわよ! そんな人でなしみたいに言わないでよ!」

「じゃあ、どうして魅羅だと分からなかったんだよ?」

「そ、それは、かなり印象が変わっていたから」

「印象? どんなに?」

「……魅羅ちゃんはもちろんだけど、クラスのみんなにも黙っていてね」

「ああ、霊奈がそう言うのなら約束するよ」

「魅羅ちゃん、昔はもっとふくよかだったのよ」

「太ってたってことか?」

「直接的すぎる! ……まあ、そうなんだけどさ」

「しかし、ひとめ見て分からなかったくらい……と言うことか?」

「う、うん」

龍真りゅうしんさんとのことは?」

「それは私も全然知らなかった。お兄様のことだから、魅羅ちゃんを慰めようとしたのかもしれないけど……」

 霊奈は俺から目をそらした。

 実の兄でありながらも龍真さんのことが大好きだった霊奈にとっては、あまり話したくないことだろう。

 それに龍真さんの霊魂は、俺の体の中にいる。実際に俺の体から出てきた龍真さんの霊魂とも会っている。霊奈は、俺と話している時の何割かは、俺の中にいる龍真さんと話しているような気がする。



「お帰りなさい」

 家に帰り着くと、幽奈ゆうなさんの優しい笑顔で出迎えられた。

 それだけで一日の疲れが吹き飛ぶと言うものだ。そこらへんの栄養ドリンクより効果抜群だ!

「外は暑かったでしょう? 冷たい麦茶を入れますね」

 玄関から奥に向かった幽奈さんの跡を追い掛けるように、俺と霊奈はダイニングキッチンに入った。

 幽奈さんが入れてくれた麦茶を一気に飲み干す。

 ――ぷはーっ! 生き返るぜ!

 通学路の間だけとは言え、真夏並みの直射日光が汗として俺達の水分をどれだけ奪っていたのかが分かる。

「幽奈」

 一口だけ麦茶を飲んだ霊奈が幽奈さんを呼ぶと、幽奈さんは優雅に首を傾げて霊奈を見た。

「今日、東堂の魅羅ちゃんに会った」

「あの、霊奈と同い年の?」

「うん。同じクラスに転校して来た」

「そうなの。懐かしいわね」

「それがね、すごく痩せてて、昔の面影が無くて」

「お年頃だからじゃない。誰だって可愛くなるわよ」

 そう言うと、幽奈さんはお年頃を過ぎているみたいじゃないですか!

 そんなことないですから! 幽奈さんは落ち着いて見えるが、まだ二十一歳!

 素敵なお姉さんで、俺にとっては、すごく可愛い人ですよ!

 と心の中で力説している俺を置いて、幽奈さんと霊奈の話は進んでいた。

「お兄様が魅羅ちゃんと結婚の約束をしていたなんてこと、幽奈も聞いてないよね?」

 霊奈が幽奈さんの返答次第では、幽奈さんを責めようかという勢いで訊いた。

「ああ、その話なら、龍真から聞いたことがありますよ」

「えーっ!」

 霊奈は幽奈さんを責め立てる勢いも忘れて、霊魂が抜けたような状態になってしまった。

「れ、霊奈! だ、大丈夫か?」

 俺も思わず心配して声を掛けたが、霊奈の反応はなかった。

「ゆ、幽奈さん! 龍真さんが言っていたことって、どういうことなんですか?」

 生ける屍のようになっている霊奈の代わりに俺が幽奈さんに訊いた。

「龍真は、いつでも正義の味方でしたから、友達から太っていることをからかわれていた魅羅ちゃんをいつも庇っていたんです。それで魅羅ちゃんも龍真に懐いていたんですけど、ある時、魅羅ちゃんから『私をお嫁さんにして』って言われたんですって」

「……」

「龍真は、痩せたらお嫁さんにしてあげても良いよって答えたらしいんです。魅羅ちゃんが虐められるのは太っているからで、それを自分の努力で克服したら考えるってことで、とにかく魅羅ちゃんに痩せさせる努力をさせたかったみたいね。龍真もまだ小学二、三年の頃だったから、本当、子供みたいな考え方でしょ?」

 魅羅は、その約束を守ったってことなのか?

 そうだとすると、龍真さんとの約束を果たしているってことになる。

 

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