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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第五章
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政界の姫を巡る争い(12)

 俺の周りを取り囲んだ闇の騎士達は、ゆっくりと間合いを詰めてきた。

 まずは、俺を始末してからということか?

 俺は、その時、こいつらはどうやって、ホテルの五階にある俺達の部屋に行くつもりだったのだろうかとの疑問が湧いた。しかし、それはすぐに解決した。

 周りを取り囲んでいる連中を睨みつけながら、ゆっくりと体の向きを変えて、ホテルが見えるようにすると、ホテルの屋根から三本ほどのロープが降ろされて、三人の闇の騎士がそのロープをつたって、俺達の部屋に向かっていた。

「くそ! させるか!」

 俺は、ホテル側に立ち塞がっていた闇の騎士に突撃すると、大鎌を打ち込んだ。しかし、相手の剣で跳ね返されてしまい、逆に相手が三人掛かりで俺に向かって来た。

 二十一人が一斉に俺に襲い掛かってきても、接近戦である剣を使った戦いでは、あまり意味はない。というよりも、思い切り剣を振るえない状態になってしまう。

 こいつらは、その辺の武器による戦い方のセオリーもわきまえているようだが、その三人を相手にするだけで大変だ。それだけ、こいつらは強い。昼間、襲って来た連中よりは遙かに手練れていて、ちょっとした油断で命取りになる。

 しかし、部屋に向かっている連中も気になる。俺はホテルの部屋に注意しながら、何とか斬られずに防戦をしていた。

 ホテルのベランダから闇の騎士が一人落ちていくのが見えた。すぐに二人目も落ちた。

 見ると、ベランダに霊奈れいなが出て、ロープで降りてくる連中がベランダに飛び移る瞬間を狙って、一撃で倒しているのだ。三人目をベランダから落とした霊奈が、俺を見て、Vサインを見せた。結界の外にいる霊奈には俺は見えていないはずだが、ここに俺がいることが分かっているのだ。

 ベランダからの突入を諦めて、廊下側から正面突破される恐れもなきにしもあらずだが、闇の騎士はその存在を秘密にしている集団だ。いかに深夜であっても、宿泊客が大勢いるホテルの廊下から正面突破してくるようなことはできないだろう。

 ベランダに霊奈がいる限り、闇の騎士に、部屋に突入されることはないはずだ。

 俺は、目の前の連中に集中した。

「さあ、来い! 貴様らの相手は俺がしてやる!」

 大鎌を構え直して、取り囲んでいる連中に叫んだ。

 三人が俺に打ち込んでくると、その連中は後に下がり、次の三人が攻撃をしてくる。それを七回繰り返してから、最初の三人が打ち込んできた。

 闇の騎士であろうと人間だ。向こうは一回攻撃すれば六回分は休みだが、俺は休みなしだ。こいつらは俺の息が上がるのを待っているんだ。一糸乱れずに攻撃してきているのは、こいつらがそのための訓練をたゆまずしてきているからだろう。

 俺がこいつらを倒すチャンスは七回分の一しかなく、そのため、一撃で個別に撃破していくしかない。しかし、おいそれと打ち負けてくれる相手でもない。

 俺は、気を抜くことなく防戦をしながら、今の状態を打ち破る作戦を考えたが、妙案が浮かぶことなく、防戦一方になってしまった。

「ぐわああ!」

 突然、ガラスが割れるような音がすると、すぐに、俺に襲い掛かってきていた闇の騎士の一人が断末魔を残して、その場に倒れた。

 その背後には、霊奈が立っていた。

「霊奈!」

 昼間と同じように張られた結界を打ち破って、ここに来たのだ。普通、そんな荒技ができる奴なんて、闇の騎士の中でも数えるくらいしかいないはずで、闇の騎士達も、突然、現れた霊奈に浮き足立っていた。

 そんな闇の騎士を何人か斬り倒してから、霊奈は俺の近くにやって来て、俺と背中を合わせて、闇の騎士に対峙した。

「真生! 大丈夫?」

「ああ、お陰さんでな! それより部屋は?」

「心配いらないよ。あれだけ騒いじゃったから、幽奈ゆうな妖奈あやなも起きちゃって。二人に真生まおの助勢に行くように言われたのよ」

 ふと、ホテルの部屋を見ると、ベランダに幽奈さんと妖奈ちゃんが出てきていて、妖奈ちゃんが俺に向かって大きく手を振った。

 霊奈が結界を破って結界の中に入ったことは、向こうから見れば、霊奈がいきなり消えたように見えたはずで、その消えた場所に俺もいると考えて、手を振ってくれているのだろう。

 幽奈さんも妖奈ちゃんも携帯武器が使える。霊奈ほどではないが、闇の騎士相手に戦うこともできる。二人は今回の戦いには巻き込みたくなかったが、こうなってしまえば、仕方がない。

「真生! 私も一緒に戦うから、こいつらをあっという間に打ちのめしちゃうわよ!」

「恩に着るぜ、霊奈!」

「お礼は後よ! 行くよ、真生!」

 俺の返事も待たずに、霊奈は目の前の闇の騎士に突撃していった。俺も負けじと大鎌を打ち込んで行った。

 霊奈が来てくれたお陰で、相手をする敵の数が半分になるし、何よりも浮き足立っている闇の騎士達の攻撃速度が明らかに落ちていた。

 こいつらの相手をする前に、しばらく、俺が一人でベランダに出て、様子をうかがっていたから、まともに戦える相手は俺だけだと判断して、さっきまでの攻撃パターンを考えたのだろうが、突如、戦いに加わる者がいるとは想定していなかったのだろう。

 一度、浮き足立つと、それを元の状態に戻すには、けっこうな時間を要する。持ち直されると手間が掛かる相手なのは変わらない。だから、それまでにカタを付けるんだ。

 俺が一人で相手をしている時とは比べものにならないくらいに、闇の騎士達は「弱く」なっていた。もちろん、実力そのものが下がる訳ではなく、要は気持ちの問題なのだ。精神的な訓練も十二分に積んでいる闇の騎士も所詮は人間だ。今まで優位に立っていたのに、急にその優位さが崩れると、動揺することまではなくても、心のどこかに不安というのが居座るだろう。それが、剣を振るう時間や、その太刀筋にごく僅かでも影響を与える。命を賭けた戦いでは、その僅かなことが命取りになるし、勝敗を決することになる。

 ということで、俺も霊奈も相手を滅多斬っていった。

 残り五人ほどになるまで斬り倒した頃、周りの景色が揺らいだ。結界を解いたようで、周りの景色の揺らぎがなくなると同時に、絶命して倒れていた闇の騎士の死体が消えていった。

 残った闇の騎士達は、俺達に背を向け、一斉に走り出した。全員、オリンピックに出れば、間違いなく金メダルが狙えるくらいの速さだ。しかし、こっちもみすみすと逃がす訳にいかない。

 俺も前に跳躍すると、一番、しんがりを走っていた闇の騎士の前に降り立った。その闇の騎士が反対側に逃げようと振り返ると、そこには既に霊奈が待ち構えたいた。

 再び、俺の方を向いた闇の騎士に、俺は大鎌を突きつけた。

「もう逃げられないぞ!」

 闇の騎士は、横に素早く移動して、俺と霊奈の挟み撃ちの状態から抜け出そうとしたが、霊奈が先回りをして、そいつを逃がすようなことはなかった。

 観念したのか、再び、俺の方を向いた闇の騎士の顔が不穏な動きをしたのを、俺は見逃さなかった。

 俺は、咄嗟に大鎌を振り上げながら、闇の騎士に襲い掛かった。しかし、闇の騎士は何も反撃してこなかった。もちろん、想定済みだ。

 俺は、振り下ろそうとした鎌を一旦、空振りさせて、今度は、横に振りかぶったその大きな刃の腹部分で相手の顔をぶっ叩いた。相手は五メートルほど後に吹っ飛んでいき、仰向きに倒れたが、そこに霊奈が素早く近づき、そいつのみぞおちに一発食らわせると、そいつは泡を吹いて失神してしまった。

 闇の騎士は生きて捕らえられることが、一番の恥だと教育されている。だから、捕まりそうになった時には躊躇なく自害をする。こいつが舌を噛もうとしたのに気づいた俺が、そうはさせじと飛び掛かったのだが、その俺の攻撃に反撃してこなかったのは、舌を噛む代わりに、俺の鎌にそのまま斬られようとしたためだ。しかし、俺がそいつを斬らなかったことで、霊奈も阿吽の呼吸で、そいつを気絶させてくれたということなのだ。



 気絶させた闇の騎士を縄で縛り、舌を噛まないように、口にハンカチを押し込んでから、俺は、プライベートビーチの端っこにある岩場の陰に担いで行った。

「俺は、こいつが気がついてから、ちょっと話をする。霊奈は、魅羅や幽奈さん、妖奈ちゃんが心配していると思うから、部屋に戻っていてくれ」

「一人で大丈夫?」

「心配するなよ。相手は身動きできないんだぜ」

「でも、逃げた連中が、こいつを取り戻しに来るかもしれないよ」

「逃げた連中は、こいつがもう自害していると思ってるはずだ。取り戻しに来るようなことはないだろう」

「それもそうか。分かった。何かあったら電話して」

「そうだ、霊奈!」

「何?」

 ホテルに戻ろうとしていた霊奈が足を止めて振り向いた。

「俺がこいつと話しをした後、こいつに魅羅の姿を見せるように頼むと思う。俺が電話をしたら、外の景色でも見ようぜって言って、魅羅をベランダに出してくれ」

「なるほど。そういうことか。うん、分かった」

 俺がしたいことをすぐに理解をしてくれた霊奈は、そのままホテルに戻った。五階だからベランダからは入れないが、とりあえず宿泊客なのは間違いないから、玄関から入れてくれるだろう。

 霊奈の姿が見えなくなって、しばらくすると、闇の騎士は、意識を戻した。

 岩場にもたれ掛からせるようにして、闇の騎士を座らせると、俺はその前にしゃがんで、真正面から睨みつけた。

「気づいたか。お前に訊きたいことがある」

 自害もできないと分かった闇の騎士は、俺の話を無視しようというすることを行動で示そうとしたのか、俺から顔を背けた。

「闇の騎士がべらべらと自供するようなことはできないと分かっているが、俺は、どうしても知りたいんだ」

 俺の方を見ないようにする闇の騎士に、俺は勝手に話し掛けた。

「まず、訊くが、お前は俺のことを知っているのか?」

 闇の騎士はうなずくことも首を横に振ることもしなかった。俺は、そんな闇の騎士の対応を気に留めることなく、次の質問をした。

「じゃあ、次の質問だ。お前達が侵入しようとした部屋には誰がいると教えられていたんだ?」

 この質問にも反応はなかった。

「じゃあ、教えてやる。あの部屋には東堂とうどう了堅りょうけん先生の孫娘である東堂魅羅がいたんだ」

 闇の騎士が反応した。俺の言葉を信じられないという目で凝視していた。

「俺が嘘を言ってると思っているのか? じゃあ、証拠を見せてやる」

 俺はポケットからスマホを取り出して、霊奈を呼び出した。霊奈はすぐに電話に出た。

「魅羅をベランダに立たせてくれ」

 それだけ言って電話を切ると、俺は、闇の騎士がホテルを見ることができるように体勢を変えてやった。

 ベランダに霊奈と一緒に魅羅が出てきたのが見えた。

 さっきまで戦っていた所よりは遙かに遠いが、訓練された闇の騎士であれば、この距離でも、しかも夜でも十分、相手の顔を見分けることができるはずだ。

 実際、闇の騎士が魅羅の顔を見て、息を飲むのが分かった。

 そうなのだ。こいつは、自分が襲おうとしたのが、魅羅だとは知らなかったのだ。

 筑木つづきさんの読みどおりだ。

 俺は、今日の昼間、闇の騎士に襲われた後、筑木さんに連絡をして、その対処法を教わったのだが、ぴったしかんかんだった。

 俺は、呆然としている闇の騎士の口からハンカチを取り出してやった。

「お前達の大事な姫様である魅羅を、自らの手であやめるところだったんだぞ」

 闇の騎士が震えているのが分かった。自分達が何をしようとしたのか、分かったからだろう。

「俺は魅羅の友達として、魅羅を守りたい。お前達だって、本当は魅羅を守ろうとして、今回の襲撃に加わったんだろう? だったら、今回のことを、お前に命じた奴は、俺とお前の共通の敵だ!」

 

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