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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第五章
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政界の姫を巡る争い(9)

真生まお様、手をつないでいただいてもよろしいですか?」

 霊奈れいな達から少し離れた所で魅羅みらが俺に言った。その顔は赤く、今までの魅羅の言動からは考えられない態度だった。

「ああ、良いよ」

 俺は、魅羅と手をつないで、砂浜を歩いた。

 砂浜の上に大きな岩が盛り上がっているような所にやって来た。

 ここはプライベートビーチの端っこで、海水浴客もまったくいなかった。

 波で削られたのか、岩のあちこちに海水が貯まった窪みがあり、おそらく、引き潮で取り残された小さな魚などが泳いでいた。

「魅羅、ここに小さな魚がいるぞ」

「本当だ! 可愛いお魚です」

 しゃがんで魚を見る俺の隣に魅羅もしゃがんだ。

「わあ! 真生様、小さなカニさんもいますよ!」

「どれどれ」

 魅羅が指差す水たまりを見ると、小魚とともに小さなカニもいて、ユーモラスな動きをしていた。

「うふふ、可愛いです」

 俺も屈託なく笑った魅羅の笑顔が可愛いと思ってしまった。

「うん、どうしたんですか、真生様?」

 顔を見とれているのを魅羅に気づかれてしまった。

「い、いや、可愛いなって思ってさ」

 また、魅羅の顔が赤くなった。魅羅は、自分から攻めるのは得意なのだが、攻められるのは苦手のようだ。

「う、嬉しいです」

 照れる魅羅の顔をもう少し見ていたかったが、俺は殺気を感じて立ち上がった。

「どうしたのですか、真生様?」

 魅羅のその問いが終わらないうちに、辺りの空気が揺らいだ。

 結界だ!

 周りの風景は、揺らぎながらも、同じように見えているが、結界に閉じ込められた俺達は、結界の外からは見えなくなっている。

 俺が殺気を感じた方向に黒服黒サングラスの男九人が現れた。闇の騎士だ!

「真生様!」

 魅羅も当然、闇の騎士を知っている。その狙いが自分だということも感じ取ったのだろう。闇の騎士達から隠れるように、俺の背中に回った。

「魅羅、大丈夫だ。俺の側を離れるな」

「はい」

 闇の騎士九人は全員、太刀をどこからか取りだして構えた。

 俺は右手を強く振ると、俺の右手に大きな鎌が握られていた。俺の携帯武器である「青龍青玉大鎌せいりゅうせいぎょくたいれん」だ。

 とりあえず、岩場のここは足場が悪い。

 すぐ、砂浜に移動したかったが、闇の騎士達が通せんぼをするように、それを遮った。俺一人なら、奴らの頭を飛び越えることもできるが、魅羅と一緒だと、そういう訳にいかない。

 突然、ガラスが割れるような音がした。気がつくと、闇の騎士達の背後に霊奈がいた。

「真生! 約束どおり、協力するからね!」

 張られた結界に穴を開けて入り込んでくることなんて、相当な訓練を積んだ闇の騎士じゃないとできない。それをいとも簡単にやってのける霊奈は本当に頼りになる奴だ。

 九人の闇の騎士達が背後の現れた霊奈に気を取られている間に、俺は魅羅をお姫様抱っこして岩場から砂浜に素早く移動した。

 その俺の動きに気を取られた闇の騎士達の隙を突いて、霊奈が高く跳躍して、俺の隣に降り立った。

 しかし、その水着姿で暴れるつもりか? 既に俺の目は、目の前の敵よりも、ぷるんぷるんと揺れる霊奈の胸に釘付けなんだが。

 これには、ちゃんと理由がある。目の前の九人の闇の騎士達から発せられる殺気が、霊奈の胸に意識を集中していてもまったく問題にならない程度だったということだ。つまり、こいつらは危険だということが感じ取れなかったのだ。

 けっして慢心しているのではない。俺の中の龍真りゅうしんさんの経験が教えてくれているんだ。

 大丈夫だ。こいつらは、闇の騎士として三流の連中だ。

「真生! こいつらは私が相手をする! だから、魅羅ちゃんを守っていてあげて」

 霊奈も冷静に判断して、一人で対応できると考えたのだろう。

「分かった! 霊奈、頼むぞ」

「任しといて!」

 霊奈が細身の剣を取り出すと、闇の騎士に突進していった。

 無防備な水着姿で、足と取られやすい砂浜だったが、霊奈はそれを感じさせない華麗な剣さばきで六人の闇の騎士をあっという間に斬り倒した。

 残り三人に剣を突きつけながら、霊奈は「紅雲べにぐもいかずちの連中ね?」と訊いた。

 もちろん、「そうだ」と返事をすることはなかったが、動揺しているのが明らかに分かった。闇の騎士としては素人同然の俺にもばれるんだから、こいつら、本当に三流だ。

「霊奈! こいつらは始末するまでの価値もないぞ! 逃がしてやれ」

「良いの?」

「ああ、お前ら!」

 俺は、霊奈から闇の騎士に視線を移した。

「逃がしてやるから、お前達のボスに言っておけ! 俺と魅羅は将来を約束しあった仲なんだ。もう、俺達の間は、お前らが邪魔をしようとも壊れることはない! そして、大切な魅羅は俺が絶対に守るからな!」

 俺としては、魅羅に誤解されないで、かつ、闇の騎士らには俺と魅羅が仲良しだということを刷り込もうとして、「結婚」とか「彼氏」という言葉を口にしないように気を使って言ったつもりだったが、俺の背中で、魅羅がうっとりとした口調で「真生様」と呟いたのを聞いて、魅羅に誤解されないようにという目的は失敗したことを把握した。やっぱり「将来を約束しあった仲」って直接すぎたかも。

 結界が消えた。六人の闇の騎士の遺体は結界とともに消え、生き残った三人の闇の騎士は、俺達を恨めしそうに睨みながら、走って逃げて行った。

 あいつらは、俺が魅羅の伴侶に一番近い男ということを、上層部に伝えるはずだ。そうすると、いろいろと尻尾を出してくれるかもしれない。

「真生様! 魅羅は一生、真生様について行きます!」

 俺がそんなことを考えていると、魅羅が俺の背中に張り付いた。

 胸が当たってる! まずい! 霊奈の殺気が半端ない!

「こ、こら! 魅羅、離れろ!」

 俺が体を捻って、魅羅を押し退けると、魅羅は頬をぷ~と膨らませた。

「今、『大切な魅羅』と言ってくださったのに~」

「いや、だから、同級生として大切だということだよ」

「『将来を約束しあった仲』とも言っていただきましたけど?」

「一緒に卒業をしようぜと約束しなかったっけ?」

「……真生様、もしかして?」

「何の話だ?」

「……いえ、何でもありません。でも、危ないことはしないでくださいね」

「分かってるよ。それより、幽奈さんと妖奈ちゃんの所に戻ろう」



 海から帰ると、夕食前に風呂でさっぱりしようと、みんなで風呂に行った。

 天然温泉で露天風呂もあるらしい。

 入口でみんなと別れて、一人、男風呂に入る。向こうは四人で賑やかそうだ。俺も混じりたいけど、こればかりはそういう訳にいかない。

 脱衣場にも誰もいなかったけど、風呂に入っても誰もいなかった。広い風呂にゆったりと入れるのは嬉しいけど寂しすぎる。

 引き戸を開けて外に出ると、そこは露天風呂だ。暑い日に熱い風呂に入るのも、意外とさっぱりとして気持ちが良いよな。

 ――うん?

 賑やかな声が聞こえる。霊奈と言い合っているような魅羅の声だ。妖奈ちゃんの声も聞こえる。よく聞けば、幽奈さんの声も聞こえるじゃないか!

 声は、露天風呂を隔てる高い木造の壁の向こう側から聞こえる! こ、この壁の向こう側には楽園パラダイスがあるのか?

 この塀の高さなら、闇の騎士の力を発動させたらひとっ飛びだ。

 よし!

 俺は、湯船から出て、ジャンプする体勢をした。

 が、すぐに止めた。

 ……駄目だ。

 何を考えてるんだ、俺は!

 覗きなんて、ただの変態じゃねえか! 本当に御上みかみ家を追い出される。

 俺は、岩をくり抜いたような露天風呂に身を沈めた。

 女の子と一緒に温泉に来るなんてことが初めてだったから舞い上がってしまった。

 しかし、エロゲでは、よくあるシチュエーションだよな。

 ありがちなのが、主人公が一人でお風呂に入っている時に、男湯と女湯が入れ替わって、ヒロインを含む女性達が入って来るというパターン!

 実は、俺も少し、そんなことを期待して、風呂に入る前に従業員さんに聞いたが、このホテルでは、ずっと固定だそうだ。

 大人しく、温泉で疲れを癒やそう。

「もう、ゆだってきちゃった! 妖奈、もう出るよ」

「じゃあ、私も出ます」

「魅羅も」

 妖奈ちゃん、幽奈さん、魅羅の声に続いて、霊奈の声が聞こえた。

「気持ち良いじゃない。私、もうちょっと浸かってるね」

「じゃあ、先に出てるわよ」

「うん」

 ジャブジャブとお湯がかき分けられるような音がすると、隣が静かになった。

 霊奈だけが残っているのだろうか?

 他に客はいないのだろうか?

「霊奈」

 俺は壁に密着するようにして、霊奈を呼んだ。

「真生! 何で、あんたがいるのよ!」

「い、いや、男湯だし」

「じゃあ、どうして、私がいることが分かったのよ?」

「声が聞こえたんだよ」

「えーっ、キモい! 盗み聞きしてたんだ」

「違―う! あれだけ大きな声で話してたら、嫌でも耳に入るに決まってるだろ!」

「……そ、それで何で私を呼んだのよ?」

「い、いや、霊奈だけ残ってるのかなって思ったら、話をしたくて」

「ど、どうして?」

「だって、お風呂に入っている同級生の女の子と話をするなんて、レアな体験じゃないか?」

「やっぱり変態だ! キモいから、とっとと出て行きなさいよ!」

「分かったよ。俺ももう少し温泉を楽しみたいから、もう話さないよ。霊奈もゆっくり浸かってなよ」

「あっ、真生!」

「何だ?」

「は、話だけなら……良いよ」

「はあ? 何だ、それ? 話が急に変わってるけど」

「良いじゃないのよ! 覗かないのなら、べ、別に良いけど」

「覗いたりしねーよ!」

 さっきまでの醜態を棚に上げて言い訳をする俺だった。

 

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