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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第五章
37/45

政界の姫を巡る争い(7)

「海?」

 妖奈あやなちゃんも降りて来て、久しぶりに三姉妹揃っての夕食。

 俺は、夏休みの終わりもいよいよカウントダウンが始まったのに、まだ海に行っていないのは残念至極だと言って、みんなに海に行かないかと誘った。

「行きたーい! 妖奈は絶対行く!」

 妖奈ちゃんがすぐに食いついてきた。妖奈ちゃんもずっと芸能活動をしていて、休みらしい休みもなかったはずだ。

魅羅みらも誘いたいって思ってるんですよ。家で一人で寂しいって言ってましたから」

 俺のその台詞で、霊奈れいなは俺の意図が分かったはずで、「まあ、魅羅ちゃんを慰めるという目的なら仕方ないわね」と、あっさりと承諾してくれた。

「でも、この時期だと、クラゲも多いですし、少し寒くないですか?」

 さすがに幽奈ゆうなさんは難敵だ。

「天気予報を確認しましたけど、明日から夏休み最後の猛暑になると言ってましたよ」

 これは本当のことだ。しかし、クラゲはどうにかできるものではないな。

「それなら、妖奈がグラビアの撮影で行ったホテルのプライベートビーチは、沖に網を張り巡らしていて、クラゲが来ないようにしてるって言ってたよ」

「でも、ホテルのプライベートビーチだと高いでしょ?」

 天下の政権与党の副幹事長である龍岳りゅうがくさんは、議員歳費の他に、株などの有価証券、不動産の賃貸借などの収入があるようで、もっと贅沢な暮らしもできるはずだが、この古びた家からも分かるように、無駄な贅沢を嫌う人だ。その精神は三人の娘にも受け継がれていて、幽奈さんは安いけど良い食材を見極める目を持っていて、それを値段からは考えられないような美味に料理する。霊奈はソウルハンターの仕事で、妖奈ちゃんはアイドルの仕事でそれぞれ収入を得ているが、そのお金は幽奈さんが管理していて、二人が好き勝手使えないようにしている。幽奈さんは名実共に御上みかみ家の財務大臣なのだ。

「うちの社長に言えば、安くなるはずだよ。タイアップしている所だから」

「そうなの。でも、私は海に行っても仕方がないから、霊奈と妖奈の二人で行ってらっしゃい」

 駄目だ! 幽奈さんの水着姿が拝めないのなら行く意味がないんだ!

「幽奈さんも行きましょうよ! 幽奈さんに一人で留守番させているなんて思うと、俺達も思いっきり楽しめないすっよ」

 俺の必死の懇願に、霊奈と妖奈ちゃんも乗ってきた。

「幽奈もたまには家事のことを忘れて、のんびりした方が体のためにも良いよ、絶対」

「そうだよ! 妖奈も幽奈と一緒に行きたい!」

 妖奈ちゃんにとって、幽奈さんは母親代わりでもあるお姉さんで、いつも勉強をしろと怒られて、ぶつくさ言っているのだが、妖奈ちゃんが幽奈さんのことを好きなのは疑いようがない事実だ。

 そして、幽奈さんも七歳も下の妹のことが可愛くないはずがない。

 結局、幽奈さんも二人の妹の説得に折れて、海に行くことになった。

 早速、魅羅にもメールを送ると、二人きりではないことに不満を述べていたが、それでも楽しみだとの返信があった。



 そして、二日後。

 夏休みも残り四日というタイミングで、美女四人に囲まれて海に行くという、地界にいた時には考えもできなかったハーレムが実現しようとしていた!

 いや、違う。これは、魅羅を助けるための作戦なんだ。気を引き締めていくぞ!

 でも、顔が緩むのは仕方がないよな。

 魅羅の執事の布施ふせさんが、全員が乗ることができるミニバンを運転してくれることになって、天気予報どおり、とても残暑とはいえない暑さの晴天の中、地界でいうところの伊豆半島にあるホテルに向かった。

 俺は、気を使って、助手席に座ったが、ミニバンの二列目、三列目の椅子に座った女性陣は他愛のないおしゃべりに夢中になっていた。特に、魅羅は大好きだという妖奈ちゃんの隣に座って、ニコニコと話をしており、本当に妹が欲しかったんだなと納得した。

 獄界では、高速道路も完備されていて、あっという間に目的地に着いた。

 ホテルの前で車から降りる。

 地界では、この辺りは「伊豆」という地名だが、獄界では「四十六区」と呼ばれる地域で、ホテルの名前も「四十六ホテル」という、そのまんまの名前だった。

 日傘を差して優雅に車から降りた幽奈さんは今日も涼しげな着物姿、霊奈は白の膝丈のノースリーブワンピース、妖奈ちゃんはTシャツにホットパンツ、魅羅はタンクトップの上にシャツを羽織り、下はキュロットという四者四様のスタイルが眩しいぜ。

「では、皆様、お嬢様をよろしくお願いします」

 布施さんも泊まれば良いのに、どうしても家を空ける訳にはいかないと、また、車を運転して三十三区まで帰って行った。明日の昼には、また、布施さんが迎えに来てくれることになっている。

 五人でホテルの玄関を入る。

 豪華なリゾートホテルだったが、妖奈ちゃんが所属している芸能事務所スマイルマジックの提携先ということで、割引価格で泊まることができるはずだ。

 チェックインの手続をしようと、俺がカウンターに向かった。

 実際、こんな豪華なホテルなんかに泊まったことなどないから、どうすれば良いのか分からずに、少しびびっていたが、ここは男の俺がしっかりとしないと!

「昨日、予約をしました永久ながひさですが」

 カウンターの中にいるアロハシャツを着たお姉さんに告げると、お姉さんはパソコンの画面を確認して「はい、ご予約ありがとうございます!」と言い、安心をしたのも束の間。

「和室の大広間をご用意させていただいております」

 シングルの部屋を頼んだはずだが?

「シングルを五部屋、頼んでいたはずですけど?」

「少しお待ちください」

 女性が少し焦って感じで画面を操作していたが、すぐに画面から顔を上げた。

「代表者永久(ながひさ)真生まお様で、五名様でいらっしゃいますよね?」

「そうです」

「……お部屋で夕食を食べたいとのご希望でしたので、和室にいたしましたが、ご予約の際、そのようなご案内はございませんでしたでしょうか?」

「……」

 あった気がする。最初にシングル五部屋とは言ったが、食事はレストランになると言われたので、部屋でゆっくりと食べたいと希望を言ったことは確かだ。初めてのホテル予約で焦ってしまって、その後のことをよく覚えていない。

「あ、あの、今からシングル五部屋に変えることはできませんか?」

「申し訳ございません。本日、満室でございまして」

 背中に冷たい汗が流れてきた。

「どうしたの、真生?」

 カウンターの前で固まっている俺の周りに霊奈達が近寄って来た。

 ギギギと擬音が鳴っているような感じで俺が首を回すと、みんな、俺の青い顔を見て、非常事態であることが分かったようだ。

「じ、実は」



 海は良いなあ。ざぶ~んざぶ~んという波の音を聞くだけでも心が落ち着く。

 しかし、俺は今、命の危険に晒されていた。

 海に面してある和室のベランダ側にある板の間に正座をさせられた俺の前には仁王立ちの霊奈。

「どういうことなの、真生? 最初からこれを狙ってたの?」

「違う! 本当だ! 信じてくれ!」

「じゃあ、どうして、みんなが同じ部屋で泊まることになったのよ!」

「霊奈、みんな一緒だと楽しいから良いじゃない」

 霊奈の背後から幽奈さんが助け船を出してくれた。

「私達は良いけど、そこに真生がいるのよ! 女性四人の中に男が一人って計画的に決まってる!」

 幽奈さんの助け船も一撃で撃沈された。

「真生兄ちゃんは、そんなにエッチなことをする人じゃないよ」

 今度は、妖奈ちゃんが手を差し伸べてくれた。

「そうは言い切れないでしょ? もし、そうだとしても、男が一人いるだけで、いろいろと困るじゃない!」

 妖奈ちゃんが差し伸べてくれた手は一刀両断された。

「こうなれば仕方ありません! テントをどこかで借りて、真生様と私が浜辺で泊まります!」

 魅羅が、隙に乗じて、自らの欲望を剥き出しにした。

「魅羅ちゃん、それ良い考え! でも、テントに泊まるのは真生だけね」

 霊奈の般若の形相に、魅羅でさえも震え上がっていた。

 俺も自分の責任で間違って予約をしてしまった以上、反論することはできなかった。

 こうなったら、本当にテントで一人寝るかと思っていたら、「真生さん」と幽奈さんが声を掛けてくれた。

「女性は、いろいろと男性に見られたくないことがあります。真生さんも分かっていただけますよね?」

「はい」

「だから、そんな時だけ、真生さんに外に出てもらうとかすれば良いんじゃない?」

 幽奈さんがみんなに振ってくれた。

「そんな時はどうすれば良いの?」

「個別に言いにくいのなら、私に言ってくれれば、私が真生さんにお願いして、一定時間、部屋を出て行っていただきます。どうですか、みんな?」

 年長者の幽奈さんの意見に反対する声は出なかった。と言っても反対しているのは霊奈だけだったけど。

「妖奈はそれで良いよ。やっぱり、みんな一緒の方が楽しいし」

「そうだよね、妖奈ちゃんとは気が合うわ」

 妖奈ちゃんと魅羅が賛成して、残りは霊奈だけになったが、霊奈もしぶしぶ承諾してくれた。

「みんな、本当に申し訳ない! この償いに、俺、何でもするから!」

「じゃあ、真生にお願いがある」



 霊奈の命令で、ビーチパラソルとレジャーシートを両手に抱え、冷たい飲み物が入ったクーラーボックス二個の紐をたすき掛けに掛けて、フラフラとしながら浜辺に出ると、気持ちが良い海風に思わず涙が出そうになった。

 でも、今回は自分のミスだから仕方ねえなあ。ため息を吐きながら、パラソルを立てて、その下にレジャーシートを広げた。

 浜辺には、夏の終わりを惜しむように大勢の海水浴客がいた。ここはホテルのプライベートビーチだが、使用料を払えば、宿泊客でなくても入れるようだ。もっとも、ホテルも満室と言っていたから、ホテルの宿泊客がほとんどなのだろう。

 そんな砂浜の風景を眺めていると、背後から賑やかな声が聞こえてきた。

 振り向くと、そこには極楽パラダイスがあった。

 妖奈ちゃんは黄色のスポーツタイプのビキニ。少し胸が寂しいが、霊奈と姉妹なんだから、きっと、これから大きくなるに違いない。

 魅羅はトロピカルな色使いのビキニで腰には同系色のパレオを巻いていた。

 ――いかん! 妖奈ちゃんの裸と、魅羅の下着姿が頭の上で踊り出した。

 静まれ! 俺の妄想、静まれ! この数学方程式が目に入らぬか!

 課題の数学方程式を脳内で解いていて、なんとか気分を落ち着かせると、今度は幽奈さんと霊奈が連れだって浜辺に出て来た。

 日傘を差した幽奈さんは残念ながら水着ではなく、ホテルの浴衣姿だった。

 しかし、霊奈は、布の面積が少ない黒のビキニ。はち切れんばかりのバストと理想的な曲線を描くヒップが否応なしに俺の目に飛び込んできた。

 

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