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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第五章
34/45

政界の姫を巡る争い(4)

 いつの間にか眠っていたようだ。

 既に窓からはカーテン越しに太陽の光が差し込んでいる。八月もそろそろ終わろうかというのに、今日も暑そうだ。

 うん? 背中に柔らかい感触?

 また、妖奈あやなちゃんか? そういえば最近、来てなかったもんなあ。

 って、妖奈ちゃんは今日までいなかったんじゃ?

 俺が寝返りをうつと、そこにはパジャマ姿の魅羅みらがいた。

 こいつ! どこまで積極的なんだ!

 でも、よく見ると、魅羅は寝息をたてていた。本当に眠っているようだ。

 こうやってじっくりと見てると、魅羅の寝顔も可愛いな。

 とりあえず、魅羅を起こそうとベッドの上に座り直した俺は、横向きに寝ている魅羅の肩を揺すった。魅羅は「う~ん」と唸って顔をしかめたが、目を開けることはなかった。

 もう一度、肩を揺すろうとした時、魅羅が「お爺様、駄目だよ」と呟いた。

 起きたのかと思ったら、どうやら寝言のようだ。しかも魅羅の閉じた目からポロリと涙が一粒こぼれた。

 いつも脳天気に俺に絡んでくる魅羅も、心の奥底ではいろいろと悩みがあるんだろう。それを微塵も感じさせずに、明るく笑顔を振り向いているのも、本当は少し無理をしているのかもしれない。

 俺は、大人同士のいがみ合いに巻き込まれて苦しんでいる魅羅が可哀想になった。そして、何とかしてやりたいという想いを強くした。

 しかし、それはそれ、これはこれで、魅羅を起こして、しかも、霊奈れいなにばれないように部屋に帰さないといけない。この状況を霊奈が見れば、絶対に誤解される。

「魅羅、魅羅! 起きろ!」

 俺が少し強めに肩を揺すると、魅羅は目をこすりながら目を覚ました。

「あれえ、真生まお様、おはようございます」

「おはよう。って、自然に朝の挨拶をしている場合じゃない!」

「そういえば、ここはどこですか?」

「俺の部屋だよ」

「えっ! つ、ついに、私達、結ばれたんですね!」

「違う! お前が勝手に俺のベッドで寝ていただけだ」

「そうなんですか? ……夜中にトイレに行った記憶があるので、部屋に戻る時に間違ったのかもしれません」

 どうやら嘘ではないらしい。慣れない家で泊まるとありがちなことだ。

「まあ、責めているわけじゃないけど、こんなところを霊奈に見られると困るから、とりあえず、ばれないように妖奈ちゃんの部屋まで戻ってくれ」

「え~、もう、いっそのこと、霊奈ちゃんにこの既成事実を見せつけてやれば良いじゃないですか」

 何だよ、既成事実って? 何もないだろ!

「霊奈もそうだけど、幽奈ゆうなさんにだって誤解されると、俺、この家から叩き出されてしまうんだよ」

「じゃあ、私の家に来ませんか? 真生様が来てくれたら、魅羅、いっぱいお世話いたします!」

「いやいや、それはそれでまずいだろ? とにかく早く!」

 俺が魅羅の手を取って、ベッドから降ろそうとした時!

「真生! 起きてる?」

 霊奈の声がしてドアがノックされた。

 俺は咄嗟に魅羅と一緒に布団にくるまった。

「真生! 開けるわよ!」

 前回のパンツ丸見え事件以来、一応、霊奈も俺が勝手に起きていないかどうかを確認するようにしたようだ。

 俺は、いかにも眠そうに「お、起きてるぞ」と返事をした。

 布団から顔を出すと、制服姿の霊奈が入って来た。

 何か、こんなシチュエーション、前にもあったよな。

「何だ、目が覚めてるんなら、早く起きなさいよ。もうそろそろ、朝御飯ができるって」

「わ、分かった。すぐに降りていく」

「魅羅ちゃんも、もう起きてるかなあ」

 霊奈は回れ右をして、廊下の反対側にある妖奈ちゃんの部屋に行こうとした。

「み、魅羅はまだ寝てるんじゃないかな? 人のベッドって熟睡できないからだろうけど、夜中によくトイレに行く音がしてたんだ」

「何? あんた、ずっと聞き耳立ててたの? キモい」

「違う! たまたま、その時に目が覚めたんだ。だから、ゆっくり眠らせてあげなよ」

「それもそうね。私、今日も補習に行くから、先に食べてるね」

「ああ、分かった」

 霊奈が出て行くと、すぐに布団をめくった。

 霊奈と話をしている間、ずっと、魅羅が背中から俺に抱きついていて、心ここにあらず状態だった。

「魅羅! 今のうちに早く!」

「真生様、ピチピチの女子高生と添い寝ができるなんてレアな経験は滅多にできることではありませんよ。ここは一つ、もう少しベッドに横になりませんか?」

 まだ、俺の背中に張り付いている魅羅は、更に俺に体を密着させてきた。

 だから、背中に当たってるって!

「これ以上、そんなことしてると、俺、我慢ができなくなってしまうぞ!」

 俺が少し語気を強めて言い、くるりと寝返りを打った。

「あっ」

 俺の顔のすぐ近くに、魅羅の顔があった。その余りの近さに、俺もびっくりしたけど、魅羅も驚いているようだった。

「ま、真生様。……近いです」

「そ、そうだな」

 俺は体をずらすようにして魅羅から離れた。

 魅羅の顔が耳まで真っ赤だった。あんなに扇情的なことをしておきながら、いざ、自分が迫られるような状況には、まったく耐性ができていないようだ。

「あ、あの、今日は、真生様成分をいっぱいいただきましたから、魅羅は満足です。魅羅も着替えますから一緒に朝御飯を食べましょう」

 立ち上がった魅羅は、少し照れた笑みを残して、俺の部屋から出て行った。



 着替えた俺は、昨日、ここに来た時と同じ制服姿の魅羅と一緒に一階に降りた。

 食堂に行くと、幽奈さんが今日も魅力的な笑顔で「おはようございます」と挨拶をしてくれた。

「幽奈さん、体調はどうですか?」

「昨日はぐっすり眠れたので、今日はすごく調子が良いですよ」

「良かったです」

「魅羅ちゃんもぐっすり眠れた?」

「はい! お陰様で、朝からすごく元気になれてます」

 きっと、さっきまでのことを言っているのだろう。もちろん、そんなことを知らない幽奈さんは、ぐっすりと眠れたという意味にとっているはずだ。

 霊奈は既におらず、もう学校に行ったようだ。

 俺と魅羅が食卓に着くと、すぐに幽奈さんが朝御飯を持ってきてくれた。

 今日は、アジの一夜干しをメインとする旅館の朝食のようなメニューだ。アジは焼きたてで、俺と魅羅が食卓に来る時間が事前に分かっていたのかと思ってしまうほどだ。

「昨日の豆腐ハンバーグもそうでしたけど、幽奈さんが作られるご飯って、本当に美味しいです」

「それは俺も激しく同意するぜ」

「ありがとうございます。真生さん、おかわりですね?」

 幽奈さんの絶品おかずに、いつも三杯は飯を食う俺のお茶碗は既に空っぽになっていた。

「魅羅ちゃんも遠慮せずに、いっぱい食べてね」

「はい」

 幽奈さんと話しているだけで元気をもらえるのは、俺だけじゃなかった。魅羅もモリモリとご飯を食べていた。



 朝食が終わると、家に帰るという魅羅を俺が送って行くことになった。

 魅羅が了堅りょうけん先生と一緒に住んでいた家まで、御上みかみ家から歩くと三十分くらいは掛かるが、太陽の光がまだ全力を出していない、朝の時間帯なので、散歩がてら歩いて行った。

「目覚めてから、ずっと真生様と一緒にいられるなんて夢みたいです」

「俺は、そんな夢の対象になる男じゃないよ」

「そんなことないですよ! クラスでも真生様の魅力に気づいていない女子が多いだけなんですよ」

「そうなのかな?」

「そうなんです!」

 魅羅は本気で怒っているようだった。そこまで想われるなんて、男冥利に尽きるというものだ。

「真生様、今日は何か用事があるのですか?」

「いや、特にないけど」

「だったら、魅羅と一緒にまたアキバに行きませんか? 一人で行くよりも真生様と一緒だと楽しいですから」

 アキバか。

 まさか、昨日、行ってきたばかりだとは言えなかった俺は、とりあえず、夏休みの課題がまだ終わってないと事実を告げて、今日は家に帰ると言った。

「だったら、図書館で一緒に課題をしましょう!」

「魅羅も課題が終わってないのか?」

「魅羅は夏休み初日に全部済ませましたよ」

 そうだった。

 転校してきた魅羅が、霊奈に負けず劣らずに頭が良いことも転校初日に分かったんだった。

「それじゃあ、魅羅は課題をする意味がないだろ?」

「いいえ、未来の旦那様を留年させる訳にまいりません! 魅羅もお手伝いいたします!」

 魅羅は悪意もなく「未来の旦那様」って使っているようだが、霊奈に聞かれると、間違いなく俺は死ぬ。

「いや、課題は自分でやってこそ、自分の力になるんだ。魅羅の気持ちは嬉しいけど、ここは心を鬼にしてくれ」

 自分で自分の台詞が恥ずかしい。どの口が言ってるんだと自分で突っ込むしかない。

「そうですか。分かりました。では、真生様、一つだけお願いがあります」

「な、何だ?」

「携帯のアドレスを交換させてください」

 そういえば、これだけしつこく魅羅から迫られていたけど、携帯の番号もアドレスも交換していなかったことに気づいた。

「真生様にはご迷惑はお掛けしません。でも、家に一人でいると寂しくて寂しくてたまらないこともあって、……真生様が近くにいなくても、真生様を感じることができたら良いなあって思って」

「分かったよ。別に秘密にしている訳でもないし、良いぜ」

「ありがとうございます! 真生様!」

 俺が自分のスマホを魅羅のスマホに近づけると、すぐにアドレスの交換ができた。

「真生様のアドレスゲットです!」

「魅羅、さっきの迷惑を掛けないって言葉、忘れてないだろうな?」

 大喜びの魅羅をジト目で見つめた。

「忘れていませんよ~。メールも一分に一回で我慢しますから」

「用事がある時だけだ!」

 

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