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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第四章
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初めての選挙戦(9)

「おかえり、真生まお!」

 今から帰るコールをしておいたからか、俺が玄関に入ると、霊奈れいなが出迎えてくれた。その霊奈の顔が少し曇った。

 俺の隣にうつむいたままの魅羅みらがいたからだ。

 亡くなったのが了堅りょうけん先生だったことは手短に霊奈に電話していた。その了堅先生と二人きりで暮らしていた魅羅が一緒に来ている理由はすぐに分かったはずだ。

 すぐに幽奈ゆうなさんも出て来た。魅羅の姿を認めると、玄関を降りて、魅羅の肩を抱いた。

「魅羅ちゃん、お久しぶり」

「……幽奈さん?」

「ええ、もう、おばちゃんになっちゃった?」

「そ、そんなことはないです!」

「ふふふ、大変だったわね。まずは上がってゆっくりしてちょうだい」

「幽奈さん、うっ……」

 幽奈さんの優しい言葉遣いに、魅羅の涙腺が崩壊してしまったようで、魅羅は幽奈さんに抱きついて泣きじゃくり始めた。

 幽奈さんもそんな魅羅を優しく抱きしめ、赤ん坊をあやすように、魅羅の背中をポンポンと叩いていた。

 俺と霊奈は魅羅が泣き止むまで、じっと見つめることしかできなかった。



 幽奈さんが入れてくれたホットミルクを飲んで、少し落ち着いた魅羅は、リビングのソファに幽奈さんと並んで座った。その対面のソファには俺と霊奈が座った。

布施ふせさんという執事の方に、魅羅ちゃんはうちに来ているって、お父様から連絡をしてくれているから安心して」

「ありがとうございます」

 魅羅は横にいる幽奈さんに頭を下げた。

「魅羅ちゃんさえ良かったら、落ち着くまで、うちにいても良いのよ」

「えっ? そんなご迷惑を」

「迷惑なんかじゃないですよ。一人でいると考えなくても良いことを悶々と考えてしまったりしますからね。ここで、いつもどおり、霊奈と喧嘩でもしながら過ごした方が、気が紛れますよ」

 いきなり引き合いに出された霊奈は、うんうんとうなずいてから、ハッと気がついたように幽奈さんの顔を見た。

「喧嘩って……」

妖奈あやながいないから、霊奈も退屈してるんじゃない?」

 長女の幽奈さんは穏やかで優しい性格だから、霊奈とも妖奈ちゃんとも喧嘩をしているところは見たことがない。何よりも霊奈も妖奈ちゃんも幽奈さんのことが大好きみたいだから衝突することもなかった。でも、霊奈に言わせると生意気盛りだという妖奈ちゃんと霊奈は、ときどき喧嘩腰で言い争いをしていた。もっとも、少し経つと、二人してケラケラ笑ってたりするから、仲が良いほど喧嘩するということなんだろう。

「魅羅に泊まってもらうとしても部屋はどうするんですか?」

 俺の部屋でも良いよとは、さすがに言えない。

「妖奈がまだ帰って来ませんから、妖奈の部屋を使ってもらえます。妖奈にも電話をして了解をもらってますよ」

 幽奈さん、手際が良すぎる。

 でも、魅羅の辛い気持ちをどうすれば癒やすことができるのかを考えれば、自然と答えが出たのだろう。

「魅羅ちゃん、一人で眠れる? 一人で寂しいようなら、今夜は、私の部屋で休みますか?」

「幽奈さんが迷惑でなければ」

「うん。じゃあ、今日は、もう休みましょう」

 俺も幽奈さんの部屋で寝てみたい!

 こんな時だと言うのに、俺の妄想癖は健在だ。俺も幽奈さんに添い寝をされて、胸をポンポンと優しく叩かれながら眠りにつきたいものだ。



 翌朝。

 今朝も霊奈に叩き起こされた俺が食堂に降りて行くと、幽奈さんの部屋で寝た魅羅が、妖奈ちゃんの席、つまり俺の隣の席に着いていた。

 幽奈さんから貸してもらったと思われる浴衣姿の魅羅はけっこう可愛かった。

「ん、んんっ!」

 魅羅に見とれていた俺を、咳払いをした霊奈が睨んでいた。

「真生様、霊奈ちゃん、昨日はごめんなさい」

 俺と霊奈が席に着くと、魅羅が殊勝な顔をして頭を下げた。そんな魅羅に、さすがの霊奈も牙を抜かれたライオンのような顔をした。

「何言ってんだよ。魅羅は悪いことをしたわけじゃないだろ?」

「そうよ、魅羅ちゃん」

 俺と霊奈の言葉に、魅羅にやっと笑顔が戻った。

 ふいに家の電話が鳴った。

 幽奈さんが出ると、「いつもお世話になっております」といつもどおりの丁寧な受け答えをしていたが、しばらく黙って話を聞いた後、「少々お待ちください」と言って、受話器を手で覆ってから、魅羅を見た。

「魅羅ちゃん、了斎りょうさい先生からお電話ですけど出ますか?」

 魅羅はすぐに「いいえ」と首を横に振った。

 魅羅と了斎先生との確執のことを知っている幽奈さんは、すぐに受話器に向かって魅羅の返事を伝えた。そして、その後しばらく、話を聞いてから電話を切った。

「あの人は何て言ってきたのですか?」

「了堅先生の通夜と告別式のことです。今夜、通夜をして、明日の正午から告別式だそうです。神聖自由党の党葬になるとも言われていました」

「……そうですか」

「私が一緒に行ってあげましょうか?」

「えっ、そ、そんな幽奈さんにそこまでしてもらうなんて申し訳ないです! 一人で行きます」

「じゃあ、家まで送ってあげましょう」

「俺が送りますよ。幽奈さんだって、この暑い中を移動するの大変でしょ? 体調のこともあるし。俺が魅羅を送りますから」

「真生様」

「じゃあ、私も行く! 真生が寄り道しないように見張ってないと」

「こんな時にしねえよ!」

「どうだか」

「まあまあ、一人よりも二人の方が賑やかで、魅羅ちゃんの気が紛れるかもしれないから、二人で一緒に行ってらっしゃい。先ほど、了斎先生が言われていましたけど、神聖自由党は明日の了堅先生の告別式が終わるまで、喪に服して一切の選挙運動を休止するそうですから、時間を気にする必要はありませんからね」



 御上みかみ家と魅羅の家である東堂とうどう家までは歩いても三十分ほどで行けるが、まだまだ日射しも強い中を歩いて行くのも大変だということで、俺と霊奈はエア・スクーターに乗り、魅羅の家まで向かうことにした。

 ソウルハンターの仕事以外でエア・スクーターを使うのは本当は違反なんだが、ここは大目に見てもらおう。

 俺のエア・スクーターの後部座席に魅羅を乗せると、すぐに空に舞い上がった。

「真生様!」

 俺にぎゅっと抱きついている魅羅が、更に体を密着させて、俺の耳元で叫んだ。

 ――当たってるよね、これ。

 しかし、ここでデレっとした顔を見せると、後から霊奈に殺されることは必至だ。俺は冷静を装って、魅羅に「何だ?」答えた。

「本当にありがとうございました! 魅羅は、すごく心強かったです!」

「ああ、まあ、困った時はお互い様だよ」

「真生様、大好きです!」

 こ、これ以上の密着はやばい! 既に隣を飛ぶ霊奈からの殺気が凄まじい。俺、生きて帰れるだろうか?

 だが、魅羅の体の柔らかさを堪能する暇もなく、エア・スクーターは魅羅の家に着いた。

 あらかじめ連絡をしていたから、執事の布施さんが正門前で待っていた。

「お嬢様、お帰りなさいませ」

 布施さんが丁寧にお辞儀をした。

「ただいま」

 また、少し元気が漏れてしまったように、力なく魅羅が答えた。

「了斎先生から、今夜の通夜は出席しなくても良いから、明日の告別式には出席するようにとの連絡がございました」

「お爺様は?」

「この家にはお帰りになっておりません。党がすべてを仕切るようでございますから、既に通夜の会場に行かれているのでしょう」

「そう……。真生様。霊奈ちゃん」

 魅羅が俺達の方に振り向いた。

「明日は、お爺様にお別れをしに来てくださいますか?」

「もちろんよ! 了堅先生には、私も小さい頃にはいろいろとお世話になった記憶もあるし、必ず行くわ!」

 霊奈が俺の顔を見た。俺の返事も決まっている。

「俺も行く。つき合った時間は短いけど、少なくても俺のことを買ってくれていたから、お礼くらいは言わないとな」

「うん。本当にありがとうございました」

 魅羅は深々と俺と霊奈にお辞儀をすると、布施さんに背中を押されながら、門の中に入って行った。

「魅羅ちゃん、大丈夫かなあ」

 あれだけ喧嘩をしていたのに、その魅羅のことを本気で思いやっている霊奈を少し見直した。

「そうだな。実質、了堅先生が父親代わりだった訳だったんだからな。小さい頃に母親を亡くして、今度は父親代わりのお爺さんを亡くした。本当に辛いだろうな」

「うん。でも憎いのは犯人よね。白昼堂々と車に爆弾を仕掛けるなんて、いったい、どこのどいつなのかしら?」

 プライベートアーミーは、一般の国民がその存在すら知らない秘密組織で、そのために暗殺対象を結界に閉じ込めて、剣や槍といった痕跡が残りにくい武器を使って相手を殺す。結界が解けると、その中で息絶えた死体は結界とともに消えていってしまう。

 つまり、プライベートアーミーであれば、人知れず目標ターゲットをこの世から抹殺するというやり方を採る。

 そう考えると、今回の爆弾テロは明らかにプライベートアーミーが手を下したものではない。そうすると、いったい誰が?

「野党の連中か?」

「その可能性も捨てきれないけど、いくら野党の連中もそんな危ない橋を渡るとも思えないわ」

 謎が多すぎる。犯人捜しの鉄則は、確か、その犯行で誰が一番得をしているかだ。

 今回の事件で一番得をしたのは誰だ?

 

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