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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第四章
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初めての選挙戦(8)

「今から幽奈ゆうなさんに電話して夕飯はいらないって伝えるから、一緒に食べるか?」

「……本当に良いんですか?」

「ああ!」

 魅羅みらが満面の笑みで俺に抱きついた。

「ありがとうございます、真生まお様!」

「あ、ああ」

 霊奈れいなもいないし、少しくらいイチャついても良いだろう。

「じゃあ、真生様! そのまま朝まで一緒に」

「晩飯食べたら帰るからな」

 油断大敵だった。

「仕方がないです。でも、魅羅は、一歩一歩、真生様を攻略いたします」

 攻略って……。

「それで魅羅は何を食べたい」

「魅羅は真生様が食べたいものを食べたいです。魅羅でも良いですよ! きっと美味しいです!」

「カニバの趣味はないんだ」

「そうではなくて、魅羅のすべてを」

「食べないから!」



 八階建てビル一棟がまるまる電気店というビルの最上階にあるレストラン街に行き、お好み焼きという比較的リーズナブルな店で夕食を終えた俺と魅羅は、ニュースの時間だなっと思い、テレビ売り場までやって来た。

 これも獄界に来てからできた習慣だが、御上みかみ家では毎日ニュースを見ないと話についていけないこともあったから、ニュースを見ないと不安になってしまうんだ。魅羅も政治家の娘で、選挙の行方には無関心ではないはずだ。

 ちょうど、ニュースが始まったばかりだった。

 総選挙のニュースをしていたところで臨時ニュースが飛び込んで来た。

「ただいま入って来たニュースです! インペリアルホテルの車寄せに入ろうとした乗用車が突然爆発したというニュースが入って来ました! 乗用車はバラバラに破壊され、付近にいたホテル従業員も数名爆発に巻き込まれ負傷をしているようです」

 周りにも被害を及ぼすくらいの破壊力だなんて、自動車の構造的な欠陥で爆発したとは思えない。爆弾によるテロが一番考えられる。

 ふと隣を見てみると、魅羅が青い顔をしていた。

「どうした?」

「今日、お爺様もインペリアルホテルに行くとおっしゃていたのです。まさかとは思いますけど」

 テレビでは、アナウンサーが画面の隅から伸びてきた手からメモを受け取っていた。

 そのメモを一瞥しただけで、アナウンサーは前を向いて話し出した。

「インペリアルホテルで爆破された乗用車は、衆議院議員である東堂とうどう了斎りょうさい氏のものであることが判明しました。ただし、東堂了斎氏が乗っていたかどうかの確認はできていません」

「……!」

 魅羅が絶句しているのが分かった。いくら嫌っていたとはいえ、自分の父親が死んだかもしれないと言われて、ショックを受けない子なんていないはずだ。

「魅羅、大丈夫か? まだ、了斎先生が乗っていたとは限らないって言っていたんだから」

「……東堂了斎なんて知らない人だよ」

 この期に及んでも、まだ了斎先生のことを認めようとはしない魅羅だった。

「魅羅……。とにかく、了堅りょうけん先生に連絡を取ってみろよ」

「は、はい」

 魅羅はバッグの中からスマホを取り出すと、画面を素早く操作して自分の耳に付けた。

「電波が届かない場所にいるか、電源が切られている」というアナウンス声が俺の耳にも聞こえた。

「お爺様も出ません」

「了堅先生は何の用事でインペリアルホテルに行ったのか聞いているのか?」

「輝星会の人達と会うって言ってました」

「了斎先生も向かっていたということは、輝星会の会合があったんだな?」

「たぶん」

「とにかく、今日は、こんな所にいない方が良い気がする。魅羅、家に帰ろうぜ」

「せっかく真生様と一緒だったのに」

「家まで送るよ」



 魅羅の家までたどり着くと、オロオロと辺りを見渡している年配の男性が正門先にいた。

 その男性は、魅羅の姿を認めると一目散にこちらに駈けて来た。

布施ふせさん、どうしたのですか?」

 魅羅も驚いた様子でその男性に訊いた。

「ご隠居様と連絡が取れないのです」

「私も携帯で掛けたのですが、電源を切られているみたいで……」

 どうやら、この布施という男性は、この家の執事のようだ。

 魅羅は俺と一緒に家に帰る最中、何度も電話をしていたが、了堅先生は電話に出ることはなかった。

 屋根に赤色灯を付けた黒塗りの乗用車が、サイレンこそ鳴らしていなかったが、けっこうなスピードでこっちに向かって走って来た。

 そして、俺達の近くで停まると、ワイシャツ姿の男性が二人、車から降りてきた。

「東堂了堅さんのご家族の方ですか?」

「はい」

 魅羅が、思いの外、しっかりとした口調で返事をした。

「三十三区警察の者です」

 二人が胸ポケットから警察手帳を出して魅羅に示した。

「インペリアルホテルでの爆発事故で亡くなられた方が東堂了堅さんである可能性があります。どなたかご遺体の確認をお願いします」

 警官が言い終わらないうちに魅羅の体が揺れた。

「魅羅!」

 俺が咄嗟に魅羅の肩を抱いて支えたが、魅羅は虚空を見つめるように、目を見開いたまま呆然としていた。

「俺は彼女の友達です。俺も一緒に行って良いですか?」

 とても魅羅一人で行けるようではないと警官も判断したようで、俺の同行も許された。



 獄界の首都とも呼べる三十三区を管轄する三十三区警察は、インペリアルホテルとは目と鼻の先にあった。

 とりあえず、携帯で霊奈に事情を話して、できれば龍岳りゅうがくさんにも伝えてほしいと伝言をした。

 覆面パトカーの後部座席に魅羅と並んで座っていた俺は、隣の魅羅をちらちらと見たが、固い表情のまま目を伏せて自分の足元から視線をはずさなかった。

 三十三区警察に着き、歩くこともままならないほど憔悴している魅羅に腕を貸しながら、警官の案内で俺達は霊安室の前までやって来た。

「爆発でご遺体の損傷が激しいのですが……」

 魅羅に見せるのは忍びないほどということを心配してくれているのだろう。

「顔は?」

 俺が警官に訊いた。

 これでもソウルハンターとして、普通の高校生よりははるかに多くの遺体を見ている。事故死の遺体は正視できない状態のものもある。

 警官は顔を横に振った。どうやら顔にも相当ひどい傷があるようだ。

 ソウルハンターでもない魅羅は損傷した遺体など見慣れていないだろう。

 俺もどうしようかと迷っていると、廊下の向こう側から男性が二人大股で歩いて来た。

 前を歩いてきている半袖ワイシャツの男性は少し足を引きずるようにして歩いて来ており、顔や腕に包帯を巻いていたが、その眼鏡で東堂了斎先生だと分かった。

「魅羅」

 父親の顔を聞いたのも久しぶりだと思うが、魅羅はその声の主が誰かはすぐに分かったようで、困惑したような顔で了斎先生を見つめた。

 了斎先生も魅羅からの返事は期待してなかったようで、すぐに俺に視線を移した。

「君は確か、先日、霊魂管理庁で会った、龍岳先生の……」

「はい。永久真生です」

「本当に魅羅の友達をしてくれているのだね」

「はい。それより了斎先生、その怪我は爆発で? 爆発したのは、了斎先生の車だとニュースで言ってましたが?」

「ああ、そうだ。しかし私の車に乗っていたのは、私の父親だったんだ」

「えっ?」

 隣で魅羅が更に青ざめたのが分かった。

「総選挙の趨勢がかんばしくないことから、今日、輝星会の幹部会をインペリアルホテルで開催をする予定にしていて、父親にも参加してもらうことになっていたのだ。私は、この近くの事務所から直接ホテルに向かうことにしていたから、父親に自分の車に乗ってきてもらって、先に着いていた私が出迎えようとホテルの玄関に出たところで、車が爆発したんだ」

「あの、ご遺体の確認は?」

 タイミングを図っていたかのように、警官が言葉を掛けた。

「私がする。衆議院議員の東堂了斎だ」

 警察も国会議員の肩書きは効き目があるようで、警官が少し緊張した面持ちになったのが分かった。

 魅羅に辛い思いをさせるよりは、実の子である了斎先生に確認をしてもらった方が良いだろう。

「魅羅! 俺達は向こうで待っていよう」

 俺は廊下に並んであるソファを指差した。

 力なくうなずいた魅羅の肩を抱きながら、俺は、魅羅をソファに座らせ、その隣に座った。

「真生様」

「うん、どうした?」

「ありがとうございます」

 魅羅はゆっくりと顔を上げて俺の顔を見た。

 憔悴した顔に笑顔を作ろうとしているのが分かった。

「真生様が近くにいてくれて、すごく心強かったです」

「あ、ああ。これくらいのことしかできないけど」

「いえ、嬉しかったです」

 魅羅の目から大粒の涙が落ちた。

 

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