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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第四章
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初めての選挙戦(7)

真生まお君、お疲れさん!」

「いえ、比婆ひばさんこそ、お疲れ様でした」

「うちの軽トラックで良ければ、家まで送るよ」

 龍岳りゅうがくさんの後援会長である比婆さんと一緒に、地域の支援者回りをし終えた俺は、この暑さの中、歩いて帰るよりは良いと思って、お言葉に甘えようと思ったけど、最近、選挙運動が忙しくて、趣味に掛ける時間が少なくて、少し禁断症状が出てきていたことから、久しぶりにアキバに行ってみようと考えた。

「ありがとうございます、比婆さん。でも歩いて帰ります。少し寄りたい所もあるので」

「じゃあ、そこまで乗せていってあげるよ」

 アキバにエロゲを見に行くとは言えないし、ここからだとアキバはけっこう遠いはずだ。

「いえいえ、すぐそこの駅で電車に乗って行きますから」

 すぐ近くに地下鉄の入口があった。

「そうかい。分かったよ。おじさんは何も聞かなかったことにしてあげるよ」

「……はい?」

「これからお楽しみって顔に出てるぜ」

 馬鹿正直すぎる、俺の顔!

「若いんだから仕方ねえよなあ。俺も真生君くらいの歳の頃には、頭の中は女体のことで占領されていたからなあ」

「違いますって!」

 いや、エロゲを見に行くんだから半分は合ってるか?

「分かった、分かった。霊奈れいなちゃんには内緒にしといてやるよ。あははは」

 それだけでもありがたい。命拾いした。

 比婆さんはニヤニヤと笑いながら、軽トラックに乗り込むと、窓から手を振りながら走り去って行った。

 まあ、比婆さんのことだ。後援会の人達には、俺の怪しい行動として知れ渡ってしまうだろうが、御上みかみ家のみんなにまで広がることはないはずだ。

 とりあえず、俺は地下鉄の入口から地下に降りて行った。



 霊奈や魅羅みらと一緒に来て以来、約一か月ぶりのアキバだ。俺的にはけっこう久しぶりという感覚だ。

 前回、行けなかった、コアなゲームを置いているゲーム屋に向かった。

 雑居ビルの二階にその店はあり、一階も同人誌専門の書店で、そのビルの周辺には、この俺が見ても少しキモいと思ってしまう野郎どもがたむろしていた。二十人ほどの狐林こりんに囲まれていると言えば理解してもらえるだろうか?

 二階に階段で昇ろうとした俺は、一階の書店から出て来た魅羅と目が合った。

「あれえ、真生様!」

 トートバックを肩に掛けた魅羅は、ツバの狭い麦わら帽子をかぶり、チェック柄のノースリーブワンピースに生足サンダルという可愛いファッションで、掃き溜めに降り立った鶴にしか思えず、野郎どもの視線を一身に集めていた。そして、そんな魅羅から「様」付けで声を掛けられた俺も注目されてしまった。

「魅羅! ちょっと向こうに行こう!」

 その視線に耐えられなかった俺は、魅羅の手を取って、少し離れた電気店まで小走りに走って行った。

 その一階は携帯電話売り場だったが、とりあえず店の中は冷房が効いていて、たまたま空いていた休憩スペースのベンチに座った。

「真生様、このまま手をつないでもらっていても良いですか?」

 俺は魅羅と手をつないだままだったことに気づくと指を開いたが、魅羅が俺の手を握りかえしてきた。

 俺も魅羅が嫌いな訳ではない。友達としてつき合うとも言った。だから、魅羅に冷たく接することもしたくなかったから、再び、魅羅の手を握った。女の子の手を握ったのは霊奈と手をつないだ時以来だ。魅羅の手は小さくて柔らかかった。その感触を楽しむ余裕もできた俺は、魅羅に訊いた。

「それはそうと、魅羅が出て来た本屋は同人誌専門だったよな?」

「そ、そうだったんですかあ? 知らずに入ったら、エッチな本ばかりだったから、焦って出て来ちゃったんですけど」

「そのわりにはしっかりと買い込んでるじゃねえか?」

 魅羅が脇に置いたトートバックからビニール袋に入った本が頭を覗かせていた。

「あれえ? いつの間に?」

「おい! それじゃあ万引きじゃねえかよ!」

「てへっ」

 あれっ、舌をチロッと出して首を傾げる魅羅が何か可愛いんだけど……。

「一人で買いに来るなんて、お前、本当にアニメや漫画が好きなんだな?」

「……はい」

「あの本屋は妹系萌えエロ漫画が充実していたはずで、どっちかというと男向けの店のはずだが?」

「……真生様、どうしてそこまでご存じなんですか?」

「あっ、い、いや、狐林が常連でさ」

 俺もだけど。

「そうなんですか。私、妹物が好きで」

「はい?」

「私、一人っ子なので兄弟が欲しかったんです。中でも妹がいたら良かったなあっていつも思ってて」

「どうして妹なんだ? お姉さんとかは駄目なのか?」

妖奈あやなちゃんです」

「えっ?」

「妖奈ちゃんが生まれた時、私も霊奈ちゃんの所にお母さんと一緒にお祝いに行ったんです。その時に見た赤ちゃんの頃の妖奈ちゃんが可愛くて可愛くて。もう食べちゃいたいくらいでした」

 その気持ちは分からんでもない。いや、食べるというのは、みんなが思っているような意味じゃないからな!

「それから、私を頼って甘えてきてくれる妹がいたらなあって、いつも思ってて、妹物のゲームで気を紛らわしていたら、いつの間にかアニメや漫画も好きになっちゃったんです」

 恐るべし、妖奈ちゃんの妹パワー!

「真生様はどちらに行かれていたのですか? 階段を上がって行こうとしていたような……。あの上はエッチなゲーム屋さんとか、女子高生耳かきクラブとか、スク水カフェがあったと思いますけど」

 いや、逆に訊きたい。どうして、そんなに詳しいんだ?

「そうだったのかあ。俺も迷ってしまって、あは、あははは」

「真生様! 魅羅に嘘は吐かないでくださいね!」

 申し訳ないが、嘘を吐くぞ! そうしないと、霊奈にあの家から叩き出される!

「嘘なんて吐いてないよ。一階の本屋には前に一回だけ行ったことがあるけど、上の階には何があるのかなあって思って、上がってみようかな、どうしようかな、って迷っていただけだよ」

「そうなんですか? でも、真生様もあの本屋さんには行かれていたんですね。真生様と同じ店に行っていただけでも、魅羅、嬉しいです」

「う、うん。魅羅さあ、このことは同級生には内緒にしてくれないか?」

「はい。それは私もお願いしたいです。やっぱり、ちょっと恥ずかしいですから」

「そうだよな」

「じゃあ、二人だけの秘密ですね?」

「そ、そうだな」

「真生様、せっかく、二人だけの秘密が一つできたのですから、もっと、いっぱい作りませんか?」

「作るって?」

「ベッドが回るお部屋とかにも行ってみたいです」

「……魅羅は行ったことがあるのか?」

「ないですよ! だから行ってみたいんです!」

 魅羅って、こんなに積極的なのは、ひょっとしてエッチ経験者なのかな?

 そう思うと童貞の俺は、魅羅に負けた気がしてならない。

「魅羅って、今まで彼氏はいたの?」

「いません! ずっと龍真りゅうしんさん一筋でした! でも、今は真生様一筋です!」

「じゃあ、ベッドが回る部屋って、どこで知ったんだ?」

「ネットでいろいろと調べていたんです。やっぱり、知らないことを知る楽しみってありますよね?」

 どうやら魅羅も耳年増だけのようだ。

「回るベッドの部屋には行かないけど、それ以外で魅羅が行きたい所があればつき合うぜ」

「本当ですか?」

 思いも掛けずに出会ってしまって、何となく俺の中で魅羅のステータスが上昇した気がする。このまま帰るのはもったいないし、魅羅にも申し訳ない気がした。

「嬉しいです! 真生様!」

 ベンチに座ったまま、俺に抱きついた魅羅は本当に嬉しそうだった。



 その後、いろんなディープなアキバを堪能した俺と魅羅は、アキバ駅前の広場にいた。

 時間は午後六時を回っていて、そろそろ家に帰らなければならない。

「真生様、晩ご飯はどうされるのですか?」

「帰ってから食べるけど?」

「そうですよね」

 魅羅はすごく寂しそうに見えた。

「魅羅は家で食べないのか?」

「今日、お爺様はお出掛けになっていて、私一人だけなんです。政界を引退されてからはお爺様と一緒に食べていたのですけど、選挙が始まってからは、いろいろと忙しいみたいで、最近は、また独りぼっちでご飯を食べているのです」

 龍岳さんと同じく、政治家をやっていた頃の了堅りょうけん先生は家で御飯を食べることなんてほとんどなかったんだろう。ということは、了堅先生と二人で暮らしていたはずの魅羅は、これまでずっと一人で飯を食べていたのだろうか?

「アキバに一人で買い物に来られるのなら退屈しないんじゃないか?」

「確かに、ここにいる間は現実を忘れることができます。でも、ずっと、外食って訳にもいきませんし」

 地界にいた時の俺は、家族が鬱陶しく思えることが多くて、一人で生活したいって、よく思っていた。でも、俺が死んだ時、家族はすごく悲しんでくれた。俺なんていらない人間なんだって思っていたのは、俺の勘違いだった。

 獄界に来て、もし、霊奈が御上家に居候させてくれなかったら、俺は、こっちでも一人で寂しい生活を送っていたかもしれない。一人はやっぱり寂しい。魅羅の気持ちも分かる。

「今日もお爺様は家に帰られないようなので、アキバで食べて帰ろうかなって思ってたんですけど、女の子が一人で入れるお店はあまりなくて……」

 最近は、オタク趣味の女子も増えてきているから、アキバにも女性が一人で入りやすい店ができているが、全体から見れば、まだまだ少ない。

「だから、もし、真生様が一緒に食べていただけたらなあって……。ごめんなさい。勝手なこと言って」

 これって魅羅の演技なのか?

 ……違うような気がした。単に俺といちゃこらしたいからじゃなくて、本当に寂しいみたいだ。

「分かったよ。一緒に晩飯を食べようか?」

「えっ?」

 魅羅は、俺が自分のお願いを聞いてくれるなんて思ってなかったようで、驚きと喜びが混じりあった顔をした。

 

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