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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第四章
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初めての選挙戦(6)

「痛たた」

 食卓に着いた俺が頭の上のたんこぶをさすっていると、パジャマ姿の妖奈あやなちゃんが入って来た。

「あれえ、妖奈、帰ってたの?」

「う、うん。すっごい汗かいてたから、先にお風呂に入ってた」

 霊奈れいなが俺を見た。

 ――霊奈さん、顔が怖いっす。

真生まおも入ってなかった?」

「うん、こんな時間だから誰もいないと思って、私が脱衣場のドアを開けたら、真生兄ちゃんが、ちょうどお風呂から出て来たところだったの」

 妖奈ちゃんが出してくれた助け船に、俺も飛び乗ることにした。

「いやあ、ちょうどパンツを履いたところに妖奈ちゃんにドアを開けられて、びっくりしちゃってさあ。慌てて自分の部屋に戻ったんだ」

「だから、部屋の前で、パンツ一丁で喘いでいたの?」

「そう! そうなんだよ! 別に、霊奈にパンツ姿を見せびらかそうなんて思っていた訳じゃないから!」

「当たり前よ! キモい!」

「でも、俺は無実だと分かってくれただろ?」

「すぐに自分の部屋に入らなかった真生が悪い!」

 くそっ! 今まで口喧嘩で霊奈に勝ったことないぞ、俺!

「お待たせしました」

 幽奈ゆうなさんが、涼しげなガラスのお椀に入れた素麺そうめん四人前を、お盆に乗せて食卓に持って来た。

 夏の胃袋に優しそうで、しかも美味そうだ!

「いただきます!」

 つるつると麺をすする。――うめえ!

「真生兄ちゃん、美味しいね」

「お、おう!」

 俺の隣に座っている妖奈ちゃんが少し赤い顔をほころばせながら言った。

 どうやら、お姉さんにチクることはしないでくれそうだ。

 妖奈ちゃんを黙って見ていると、妖奈ちゃんの裸が、また頭の上で乱舞してくるので、とりあえず話をして気を紛らそう。

「そう言えば、妖奈ちゃんは声優のオーデションを受けるって聞いたけど、声優も目指しているの?」

「声優を目指しているというか、一つのきっかけにしたいなって思って」

 確かに、最近は声優もアイドル並みの活動をしている人がいるからなあ。声優で注目されて、アイドルとしてステップアップということもできるんだろう。

「妖奈、オーデション、明日でしたっけ?」

 俺の斜め前で素麺をお上品にすすっている幽奈さんが訊くと、妖奈ちゃんは「うん」とうなずいた。

「声優としてバリバリ活躍している人も挑戦するみたいで、けっこう狭き門みたい」

「そうなの。妖奈なら全力でやるでしょうけど、頑張ってね」

「うん!」

 幽奈さんと妖奈ちゃんは七歳違いで、四歳の時に母親を亡くした妖奈ちゃんにとって、幽奈さんはお姉さんであるとともにお母さんでもあるのだ。



 政治家のパーティに初めて参加して、帰って来た時はすごく疲れていたのに、幽奈さんの夜食を食べると、すぐに元気になった。

 恐るべし、幽奈さんの愛情いっぱいの食事パワー!

 せっかくもらったパワーを有効利用しない手はない。

 ここ獄界でも夏休みには課題が出る。しかし、最終日にまとめてやる派の俺は、まったく課題に手をつけてなかった。

 と言うことで、俺は、自分の部屋で、一応、勉強をしていた。

 ――コンコン!

 ドアがノックされた。

 時計を見ると、午前一時。誰だろう?

「どうぞ」

 俺がドアに注目していると、ドアを開けて顔を見せたのは、妖奈ちゃんだった。

「真生兄ちゃん、今、良い?」

 妖奈ちゃんが寝ぼけて俺の布団に潜り込むこと以外に俺の部屋に来るのは初めてだった。

「ど、どうしたの」

 俺は、不覚にもちょっと動揺してしまった。

 ひょっとして、さっきの風呂場のことを怒りに来たのだろうか?

 不可抗力とはいえ、妖奈ちゃんの裸を見てしまったのは事実だ。男として、ちゃんと謝るべきだろう。

「ごめんね、真生兄ちゃん」

 妖奈ちゃんから先に謝れて、俺もすぐに頭を下げた。

「と、とんでもない! 俺の方こそごめんよ」

「ううん。悪いのは妖奈だよ。真生兄ちゃんの着替えを置いてあるのに全然気づかずに入って行っちゃったんだから」

 そういえば、脱衣所の籠は一つしかない。誰かが先に入っていたら分かるはずだが……。

「妖奈は、全然、平気だよ」

 妖奈ちゃんは、ニコニコと笑いながら、勉強机の側に寄って来た。

「真生兄ちゃん、お勉強してるんだ。じゃあ、やっぱり邪魔だった?」

「いや、可愛い妖奈ちゃんの用事の方が重要だから!」

「ありがとう! 真生兄ちゃん!」

 笑顔がくそ可愛い! 天性の妹キャラだ!

 美咲と違い、小さな頃から一緒に育ってきてないから、同じ妹キャラでも萌え具合が全然違う!

「それで、何の用かな?」

「明日、声優のオーデションだって、さっき話したでしょ?」

「ああ」

「それで、さっきまで自分の部屋で練習をしてたんだけど、何か一人だと気合いが入らなくて」

 よく見ると、妖奈ちゃんは両手で抱きしめるように台本らしい冊子を持っていた。

「オーディションの本番では相手方の声優さんも入るの。だから、練習でも誰か相手方役をやってもらいたくて」

「相手方って」

「お兄ちゃんと妹の役で、私が挑戦するのは妹役ね。真生兄ちゃんにお兄ちゃん役をやってもらえないかなって思って?」

「でも、俺、演技とかできないぜ」

「ううん、良いの。棒読みでも良いから相手が欲しかったの」

 妖奈ちゃんの目は真剣だった。そんな頑張っている妖奈ちゃんが助けてくれと来てるんだ。協力しない訳にはいかないだろ!

「分かったよ。妖奈ちゃんのためだ。俺で良ければ協力するよ」

「本当? ありがとう、真生兄ちゃん!」

 そう言うと、妖奈ちゃんは俺のベッドに腰掛けた。

「真生兄ちゃんもこっちに来て」

「えっ」

 ベッドに腰掛けたアイドルから「こっちに来て」なんて言われるのは、ちょっと刺激的だ。

「台本が一つしかないから、一緒に見るしかないでしょ」

「ああ、そうか」

 俺は妖奈ちゃんの左隣に座った。

「真生兄ちゃん。台本のそっち側を持ってくれる?」

 一冊の台本の右側を妖奈ちゃんが、左側を俺が持った。

 自然、二人の距離は縮まるわけで……、何かいろいろ密着しているわけで……。

「この『アヤコ』って言うのが妹役で私の台詞ね。それで『マサオ』って言うのがお兄ちゃん役で、真生兄ちゃんはこの『マサオ』の台詞を読んでくれる?」

「分かった」

「それじゃ、私からね」

 妖奈ちゃんは、一旦、目を閉じて集中したかと思うと、おもむろに目を開けて台詞を読んだ。いや、「読んだ」というよりは既に役になりきっていて、「しゃべった」と言うべきだろう。

「お兄ちゃん! 私はお兄ちゃんのことが大好きなの!」

 のっけから大胆な台詞だ。……いや、これは練習なんだ、練習。

 俺も台本の台詞を役になりきって読んだ……つもりだったが、棒読みぽいのは仕方がないよな。

「アヤコ、僕達は本当の兄妹きょうだいなんだよ。こんなことは許されないんだ」

「嫌よ! たまたま同じお父さんとお母さんの間に生まれたってだけじゃないの! そして好きになったのが、お兄ちゃんだったってことだけなの!」

 ト書きには「アヤコはマサオをベッドに押し倒し、馬乗りになる」って書いてある。

 こ、これは、かなりの視聴者サービスシーンのようだ。

「お兄ちゃん! 私、もう我慢できない! お兄ちゃんは、私と『レイコ』とどっちが好きなの?」

「レイコは同級生で……」

「同級生で……。それだけ? レイコなんて、お兄ちゃんの相手には相応しくないわ。昔からずっとお兄ちゃんの側にいた私がお兄ちゃんの相手には相応しいのよ!」

 妖奈ちゃんは、演技に集中しているからか、ますます、俺に体を密着させてきた。

 俺は、逆に演技に集中できないんだが……。

 沈黙が居座った。

 あれっ、俺の番か?

 台本を見直したが、次は妖奈ちゃんの番だった。

 台本から妖奈ちゃんに視線を移すと、妖奈ちゃんと目が合った。

 何だか、ちょっと頬が赤くなっていて、目が潤んでいるような気がするが……。

「お兄ちゃん」

「ア、アヤコ」

 横目で台本のト書きを見ると「キスを交わす二人」とある。

「お兄ちゃん。私、初めて会った時からお兄ちゃんのことが……」

 えっ、そんな台詞あったっけ? 

 だんだん妖奈ちゃんの顔が近づいてきた。

「お兄ちゃん」

「あや……なちゃん」

「えっ?」

 妖奈ちゃんは、ふと我に返ったみたいだった。

「あっ……」

 そして、至近距離で密着していたことにも気が付いたみたいで、慌てて腰を横にずらした。

「真生兄ちゃん。ご、ごめんなさい!」

「い、いや。でも、さすが妖奈ちゃんだね。すごい集中力だよ」

「役になりきってって思ってたら、本当になってた」

「はははは。すごい迫真の演技だったんで、ドキドキしちゃったよ」

「えっ、ドキドキしたって?」

 何か、妖奈ちゃんが嬉しそうな顔をしてるのだが?

「あっ、いや。妖奈ちゃんも女の子なんだって」

「え~、酷い! 今まで私のこと、女の子って意識してなかったの?」

 ぷ~と頬を膨らませて怒る妖奈ちゃんが可愛すぎる!

「いやいや、可愛い妹だと思ってたけど、素敵なレディになってたんだなあって嬉しかったんだよ」

「レディ? 妖奈が?」

「おう! もう立派なレディさ!」

「ちゃんと胸だってあったでしょ?」

「……み、見てないし」

「本当?」

「やっぱり、お、怒ってる?」

「ううん、怒ってないよ。妖奈だって、真生兄ちゃんのお尻をばっちり見ちゃったし!」

 お尻だけだろうか? 前も見られたような気もするが……。

「見苦しいものを見せて申し訳無い」

「ふふふふ」

 無邪気に笑う妖奈ちゃんは本当に可愛い!

 この笑顔を見たくて、妖奈ちゃんのファンのみんなは、妖奈ちゃんを応援してるんだよな。

 そんな笑顔を独占してしまって、少し罪悪感に苛まれた。

「でも、ありがとう。真生兄ちゃん」

 ――チュ!

「えっ」

 俺の右頬にキスをした妖奈ちゃんは立ち上がり、ドアの手前まで行くと、俺に笑顔で振り向いた。

「真生兄ちゃんと話すと本当に元気になる! 明日の昼間はオーデション、夜からはコンサートツアー後半戦が始まるから、また、しばらく真生兄ちゃんとは会えないけど頑張るね!」

「あ、ああ。俺も応援してるよ」

「それじゃあ、お休みなさい」

「お休み」

 妖奈ちゃんは、元気に手を振って俺の部屋から出ていった。

 

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