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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第四章
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初めての選挙戦(5)

 去って行く鬼っ子クラブの後ろ姿を未練たらしく見ていると、霊奈れいなにヒールで足を踏まれたが、叫び声を上げる訳にもいかず、必死で笑顔を保ったまま痛みに耐えた。

 その後も会場のあちこちで和やかな歓談が行われていた。

 千手せんじゅ社長が挨拶をしたことで、龍岳りゅうがくさんの家族だと認識された俺のところにも招待客が次々に挨拶に来るようになった。

 神聖自由党の重鎮政治家だったり、一流企業の経営者、有名芸能人やスポーツ選手などなど、龍岳さんの人脈の広さとともに、その実力のすごさを感じる人達が入れ替わり立ち替わり挨拶に来た。

 まるで自分が偉くなったような錯覚をしてしまうが、偉いのは龍岳さんで、俺はその地位を受け継ぐかも知れないという可能性を買われているだけだ。



 そして、パーティもいよいよ終盤になり、龍岳さんの挨拶となった。

 龍岳さんの跡に従って、幽奈ゆうなさん、霊奈、そして俺も舞台に上がった。

 こんな大勢の人の前に立ったことのない俺はすごく緊張してしまった。

 しかし、横を見ると、幽奈さんも霊奈も緊張していることが分かって、少しだけ安心をした。

 龍岳さんが舞台のセンターにあるマイクスタンドの前まで進み出て一礼をした。それに合わせて、後ろに並んだ幽奈さん、霊奈、そして俺も一礼をした。こうやって舞台の上から会場を見渡してみると本当に広い。そして、その広い会場が満杯になっていた。

 龍岳さんがスタンドマイクに向かって話し出した。

「本日は、ご参集いただきまして、まことにありがとうございます」

 龍岳さんは、また、丁寧に一礼した後、現在の政治情勢と自らの政治的ポリシーを熱く語った。

 政治家の中には、名誉とか権力を手に入れたいと思っている輩もいる。龍岳さんはその両方を既に手にしている。しかし、それは、本当に獄界を愛して、人々を愛して、その最大公約数の幸福を追求していることの反面、手に入ったものだ。

 闇の騎士の親玉として、いろいろと汚い裏側も見てきている龍岳さんだろうが、それもこれも私利私欲のためではなく、国民のためなのだ。

 ひとしきり熱弁を振るった龍岳さんは、一旦、言葉を切ると、一度、後ろを振り返り、すぐに前を向いた。

「せっかくの機会ですので、後ろに控えております、私の家族を紹介させていただきます。まず向かって右端に立っておりますのが、長女の御上幽奈でございます」

 幽奈さんにスポットライトが当たった。

 満場の拍手の中、幽奈さんは、いつもの涼やかな笑顔を湛えたまま、優雅に一礼をした。

「十年前に地獄に行った女房の代わりに家事一切を取り仕切ってくれております。私が安心して仕事に打ち込めるのも、長女がしっかりと家を守っていてくれているからでございます」

 会場の野郎どもの熱い視線が幽奈さんに集中して、ため息も漏れてきた。やっぱり、幽奈さんの美貌に感動しない奴はいないってことだよな。

「次に控えておりますのは、次女の御上霊奈でございます」

 スポットライトが隣の霊奈に移った。

「まだ高校二年生ですが、ソウルハンターとして働いております。将来は私の仕事も手伝ってくれるようです」

 霊奈も満場の拍手の中、優雅に一礼をした。普段の暴力的性格を微塵も見せずにだ。

「一番、左に控えておりますのは、私の親戚筋に当たる若者で、永久ながひさ真生まおと申します」

 スポットライトが眩しかったが、「焦ってお辞儀をすると軽く見られちゃうわよ」という霊奈の忠告に従って、ゆっくりと一礼をした。

「彼も高校二年生ですが、ソウルハンターとして働いており、将来は、三年前に地獄に行った長男の龍真りゅうしんの代わりに、私を手伝ってくれることになっております。何とど、お見知り置きの程よろしくお願い申し上げます」

 興味津々といった目が俺に注がれていた。

 正確に「後継者」だとは宣言されなかったが、「龍真の代わり」と言われて、会場のみんなも俺が龍岳さんの後継者だと認識したのではなかろうか?

 別に龍岳さんの後継者となることが嫌な訳ではない。まだ、政治家としてやっていけるのか自信がないだけだ。

 俺に当たっていたスポットライトが消えると、龍岳さんが、またマイクに向かった。

「本日は、来ておりませんが、三女もおります。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、三女は既に政治とは関係の無い世界で生きておりまして、本人も御上龍岳の娘ということで特別扱いされる、あるいは特別扱いされているのではないかという噂が立つことを嫌っております。皆様方におかれましてもご理解を賜りまして、本日、三女が出席しておりませんことを、ご容赦いただきますようお願い申し上げます」

 御上龍岳の娘だと言われたくないというのは、妖奈あやなちゃん自身の考えだ。

 事務所としては、その大きなネームバリューを利用したいと思っていただろうが、自分の実力でアイドルとしての人気を花咲かせたいと思う妖奈ちゃんは、さすがは龍岳さんの娘だ。もっとも、娘三人の顔は誰一人として龍岳さんには似ていないが。



 パーティは終わった。

 俺は、幽奈さんと霊奈と一緒にタクシーで家に帰った。

 龍岳さんは二次会と称する派閥の重鎮会議がこれからあるということで、近所の料亭に移動した。政治家が体力勝負なのも確かだ。

 家に帰り着くと、玄関には、妖奈ちゃんの靴はなかった

「妖奈、今日はリハの後、家に帰るって言ってなかったっけ?」

「きっと、リハにも熱が入っているんでしょう。そのうち『お腹が空いた~』と帰って来ますよ」

 心配そうな霊奈に幽奈さんが答えた。

 妖奈ちゃんは、霊奈にも生意気な口を利いて、よく喧嘩もしているが、何だかんだ言って、三人姉妹は仲が良く、夏休みで集中して芸能活動をしている妖奈ちゃんの体を心配しているのだ。

 リビングに入ると、幽奈さんが振り袖にたすきを掛けながら言った。

「あまり食べられなかったでしょう? すぐに夜食を用意しますね」

「本当ですか? ありがたいです!」

 確かに、あんな会場で料理をパクつけるものではなく、はっきり言って、一口も料理を口にできなかった。

「ありがとう、幽奈」

 さすがの霊奈も疲れているようだった。

「幽奈さんは大丈夫なんですか?」

「ええ、もう慣れてますから」

 幽奈さんだって、まだ二十一歳のうら若き乙女なのだが、十年前に母親が「地獄に行って」から、ずっとこの家の主婦を務めている。最近までは学生をしながらだ。龍岳さんを裏から支えていたのは、確かに幽奈さんなんだ。

真生まおさん、十五分ほどでできますけど、先にお風呂に入って来ますか?」

「霊奈は?」

「私は後で良い。真生、先に入っといでよ」

「じゃあ、お先に」

 幽奈さんと霊奈に言うと、一旦、自分の部屋に戻って、着替えを持っててから、風呂場に行った。

 風呂はタイル張りの少し懐かしい感じがする造りだが、スイッチを押すとあっという間にお湯が張れた。これも獄界の進んだ技術のお陰だ。

 ざぶんと湯船に飛び込み、肩までお湯に浸かると一日の疲れが溶けていってしまうようだ。

 はあ~ビバビバなんて鼻歌で出てしまう。俺も日本人だぜ。

 うつらうつらとしてたが、風呂場の折りたたみ式のドアが開いて、意識が戻った。

 ドアを見ると、タオルを前に垂らしているだけの妖奈ちゃんが唖然とした顔で立ち止まっていた。

「…………」

 お互いに声が出ずにいた。

「真生兄ちゃん、入ってたんだ」

「あ、ああ」

「えっと、……せっかくだから一緒に入ろうかな」

 顔を赤くしながらも、妖奈ちゃんが湯船に向かって来た。

 そんな嬉しい……いやいやいや!

 現役のアイドルと風呂に入るなんて駄目に決まってる! アイドルじゃなくても女子中学生と一緒に風呂に入るなんて許されることじゃない!

 それに、霊奈から変態確定の烙印を押されることも怖い。

「お、俺、出るから! 妖奈ちゃん、ごゆっくり!」

 俺は湯船から飛び出ると、妖奈ちゃんを残して脱衣場にダッシュした。

「妖奈ちゃん、ごめん!」

 そう言って後ろ手でドアを閉めると、とりあえず、パンツだけを履いて脱衣場を出て、二階に駆け上がった。

 自分の部屋の前まで来ると、脳裏に妖奈ちゃんの青い果実のような裸体が頭の上で乱舞しだした。

 タオルで隠していたから、全部は見えなかったけど、それでも刺激的すぎる。

 地界では、美咲が小学生低学年の頃までは一緒にお風呂に入っていたけど、さすがに小学五、六年頃になると少し胸が膨らんできたような気がして、その胸を興味深く見つめる俺の視線のキモさを感じ取ったのか、美咲は一緒に風呂に入ることを止めた。

 それ以来、女性の裸なんて見たことなかっただけに衝撃が大きい。エロゲではよくあるシチュエーションだが、実際にその場面に遭遇するとパニクってしまった。

 でも……、妖奈ちゃん、悲鳴も上げなかったし、むしろ、俺と一緒に風呂に入ろうとした。妖奈ちゃんも中学生。女子と言えども性的なことに興味があるお年頃。ひょっとして男の兄弟がいない妖奈ちゃんもそんなことに興味があったのだろうか?

 い、いかん!

 そんなことを考えていたら、全然、息が収まらない。

 ガチャとドアが開く音がした。

 隣の霊奈の部屋から霊奈が半身ほど出ているところでフリーズしていた。

「……真生!」

 俺の命の存続に赤信号が灯った。

「あんた! 何、廊下で、パンツ一丁でハアハア荒い息してるのよ?」

 霊奈さん、とりあえず、その拳骨を降ろそうか?

 話せば分かるから!

 って、妖奈ちゃんの裸を見たって話せる訳ねえ!

 

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