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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第三章
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閉ざされた帰り道(6)

 霊奈れいなと牙さん、そして爪さんの跡について、俺も倉庫に入った。

 建物には窓がなく、また照明も点いていなかった。

 霊奈が、無理矢理、シャッターを切り取った入口付近だけが差し込む光で明るかったが、そこから奥は暗く、何も見えなかった。

 微かに見える範囲には、何に使うのか分からない、古びた機械があちこちに置いてあって、倉庫というよりは、工場跡という雰囲気だった。

「出て来なさい! ここにいるのは分かっているのよ!」

 倉庫の奥をじっと見つめながら言った霊奈の声が倉庫内で木霊こだました。

 しかし、物音一つしなかった。

 牙さんが、どこからか懐中電灯を取り出すと、奥に向けて照射した。小さいにもかかわらず、けっこう奥まで光りを照らしていた。

「二人は、この辺りにいてください」

 霊奈が牙さんの懐中電灯を奪い取るようにして左手で持つと、右手に剣を握ったまま、一人で倉庫の奥に向かって、ゆっくりと歩き出した。

 俺は、倉庫の天井付近まで飛んで下を見下ろした。

 やはり奥は真っ暗で何も見えなかったが、霊奈が歩いているすぐ先にある機械の裏に何かの影が見えた。

「霊奈! 左側前にある機械の裏にいるぞ!」

 ソウルハンターでないと聞こえない霊魂の俺の叫びを聞いた霊奈が、その機械に懐中電灯の光りを照らすと、その裏に向けて突進した。

 一体の影が霊奈に飛び掛かったのが見えた。

 霊奈に助太刀できないことがもどかしい。しかし、霊奈なら心配はいらないだろう。

 そんな俺の考えどおり、霊奈は、敵が打ちこんできた剣を、左手に懐中電灯を持ったまま、右手一本で持った剣で軽々と跳ね返していた。

 霊奈に剣を打ち込んだのは、こちら側と同じ、黒服、黒ネクタイ、サングラスという闇の騎士の定番コーディネイトを身にまとったガタイの良い男だった。

 霊奈が懐中電灯を真正面から照らすと、男は眩しそうに顔をそむけながらも、霊奈から視線をはずすことはなかった。

真生まおの肉体はどこ? 死にたくなかったら正直に話しなさい!」

 鬼気迫る雰囲気で言った霊奈は、剣を突き付けながら男に近づこうとしたが、その男の背後からドスが効いた声が響いた。

「止まれ! それ以上、暴れると、この肉体から生体反応を消すぞ!」

 影の奥から、俺の肉体を乗せた車椅子を押しながら、同じ格好の男が出て来た。

 その男が持つナイフは、俺の頸動脈に当てられていた。

 俺の肉体は霊魂が抜けているとはいえ生きている。最低限の生命維持機能が働いており、言うなれば眠っている状態に近い。だから、頸動脈を切られると、俺の肉体は大量出血で、本当に死んでしまうだろう。

 さすがの霊奈も為す術なく立ち尽くすことしかできなかった。

 だが、一つ、大きな幸いがあった。

 こいつらは、ソウルハンターではなくて、霊魂の俺の存在を認識していないようだということだ。

 俺は急降下して自分の肉体に飛び込んだ。

 俺は幽体が合体したことを悟られないように、体を動かさずに、薄目を開けて、チャンスをうかがった。

「分かったわ。その肉体を傷付けないでちょうだい」

 霊奈は、俺の霊魂が肉体に戻ったのが見えている。俺の考えもすぐに分かってくれたはずだ。

「だったら、武器を捨てろ!」

「その前に教えて。どうして、この肉体を拉致したの? 何が目的?」

「俺達は命じられたことをするまで。その質問には答えられないな」

「そう。それじゃ仕方ないわね。みんな、武器を捨ててください」

 霊奈が後ろに控えていた牙さんと爪さんに振り向いて言った。

 牙さんと爪さんが、一瞬だけポカンとした顔をしたのは、きっと、霊奈がウィンクか何かをして、これが作戦であることを示唆したからだろう。

 霊奈と牙さん、爪さんがそれぞれの武器を床に放り投げた。

 それで俺にナイフを突き付けていた男に油断が生じたことを、俺は見逃さなかった。

 首筋に触れていたナイフが少し離れたのを感じて、俺は、車椅子に座ったまま、ナイフを持っていた奴の脇腹に肘鉄をお見舞いした。

 脇腹を押さえて体を揺らした男を横目で見ながら、車椅子からジャンプして、着地するまでの間に素早く右手を振り下ろした。そして、その右手に握られた大鎌を振りかぶり、前にいた、もう一人の闇の騎士が振り向く隙も与えずに、その背中から斬り降ろした。

 その男の断末魔を、身を翻しながら聞いた俺は、脇腹を押さえたままの男の首に大鎌の刃を突き付けた。

 俺は、後ろから誰かが突っ込んでくる気配を感じて、咄嗟に横に飛び退くと、牙さんと爪さんが、俺を素通りして、敵の闇の騎士に突進して行った。

 敵が手に持っていたナイフを牙さんが叩き落とすと、爪さんがハンカチのような布を素早く敵の口に詰め込んだ。

 そして、牙さんが敵の腕に何かを押しつけると、敵は、すぐに体中から力が抜けたように崩れ落ちて、床に倒れた。

「真生! 大丈夫?」

 霊奈が心配そうな顔をして、俺に近づいて来た。

「ああ、大丈夫だ。体のどこにも傷はない」

「良かったあ」

 大きく息を吐いた霊奈が、険しい顔に戻り、牙さんと爪さんに顔を向けた。

「この男は?」

「眠っているだけです」

 牙さんが小さな注射器を手にして答えた。牙さんが敵の腕に押しつけたのは、これだったのか。

 口を塞いだのも、舌を噛んで自害をさせないためだろう。

 その素早く動きに俺も感心をしてしまった。さすがは、龍岳さんが指揮を執っているプライベートアーミーの闇の騎士達だ。



 生け捕りにした敵の闇の騎士を連れて、俺達は「獄門の番人」の本部に戻った。

 まずは、俺の肉体を取り戻しすために尽力してくれた筑木つづきさんとスタッフの皆さんにお礼を述べた。今まで霊魂だけだったので、筑木さんにとっては俺は初対面のようなものだ。

「相手がちょろくて拍子抜けだったね。せめてタイムリミットぎりぎりまで真生君の肉体が見つからなくて、もっと冷や冷やする展開だと面白かったんだけどねえ」

 ――筑木さん、言ってることが本気っぽいんですけど?

「筑木さん、あいつはどうするんですか?」

 マジックミラーで丸見えの隣室に、椅子に縛られて眠っている男を見ながら、霊奈が訊いた。

「自白剤を投与してみるよ。まあ、話を聞く限り、ベテランの闇の騎士ではないみたいだから、ペラペラとしゃべってくれると思うけどね」

 闇の騎士は、どこのプライベートアーミーに属しているのかさえ明らかにすることは許されていない。敵に捕らえられ、自白を強要されても自害をするように教育をされている。

 今回、俺の肉体を持ち逃げするなどという理解不能な行動を取った犯人の意図を追及する必要があったことから、筑木さんは、追っ手の闇の騎士達に敵を生きて捕らえるように厳命していたのだ。



 俺と霊奈が「獄門の番人」の本部がある薫風ビルから外に出ると、大きく西に傾いた太陽が赤く街を照らしていた。

 霊奈は、朝、学校に行くと言って出てきていたから、学校の制服姿だったが、俺は昨日着ていた、ソウルハンターの制服のままだった。

「支部にあんたのエア・スクーターを置きっぱなしだったでしょ? 送ってあげる」

「えっ、れ、霊奈が……」

「何よ、その顔は?」

「あっ、いや、気持ちは嬉しいけどさ。そ、その、安全運転で行ってくれよな」

「いつも、そうでしょ。さあ、乗った乗った」

 ――これも修行だと思って、諦めよう。

 予想どおり、後部座席から振り落とされそうになりながら、何とか、霊魂管理庁第三百三十三支部に着いた。

「どうしたの、真生? 顔が青いけど?」

 誰かさんのお陰で、エア・スクーター酔いをしたんだよ!

 しかし、今回のことでは、霊奈にもすごく世話になったことを思い出して、文句は飲み込んだ。

「何でもないよ。それより、霊奈」

「何?」

「ありがとうな。俺の肉体が戻ったのは、霊奈のお陰だよ」

 霊奈の顔が途端に真っ赤になった。

「えっ、ち、違うよ。筑木さんとか、『獄門の番人』の皆さんのお陰だよ。私なんか、何にもできなかったし」

「そんなことねえよ。慰めてくれたし、励ましてもくれた。本当に助かったよ」

「う、うん。と、とりあえず、元に戻って良かったね」

「おう! さあ、家に帰るか?」

「そうだね。幽奈には、私達二人は学校に行ってることになってるから」

「ってことは、俺、着替えた方が良いのか?」

「学校の制服を持って来てるよ。支部で着替えてらっしゃいよ」

「何から何まですまねえな」

 俺が霊奈から学校の制服を受け取ると同時に、霊奈の携帯が鳴った。

 携帯の発信先を見た霊奈は、すぐに電話に出た。

「もしもし! はい、霊奈です!」

 俺は話を聞いてはいけないと思って、制服を持って、支部に行こうとしたが、霊奈が無言のまま手を挙げて、俺を止めた。

 その後、少しの間、電話の相手の話を聞いていた霊奈が「分かりました。ありがとうございました」と言って、電話を切った。

「どうした、霊奈?」

 霊奈は戸惑った顔をしていた。

「さっき捕まえた闇の騎士が自白したらしいの。奴は、やっぱり『紅雲べにぐもいかずち』の闇の騎士で間違いなかったそうよ」

 コードネーム「自宅警備員」にロック解除を依頼したのが、「紅雲の雷」の闇の騎士らしいとの情報はあったが、実際にそうだと確認されたのだ。

 「紅雲の雷」は、輝星会のプライベートアーミーだ。そして、そのトップには、国会議員は辞しているが、まだ、東堂とうどう了堅りょうけん先生が立っているはずだ。

 了堅先生は、いったい、どんな了見をしてんだ?

 なんて冗談を言ってる場合じゃねえ!

 

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